
検索エンジンに殺されたバンドの話 #0|反SEOパンクの最期
「俺たちは検索できない。だからここにいる」
そんなバンドが、実在した。
サンフランシスコの片隅で生まれた伝説のパンクバンド「Search Destroyers」。
ボーカルのリック、ギターのダグ、ベースのサム、ドラムのジョニーの4人は、どこにでもいるような反抗的な若者たち。ヤツらは当時のインターネット文化に憎しみを抱いていた。
検索エンジン最適化(SEO)、広告収益至上主義、アルゴリズムに支配される音楽業界…「すべてがクソ」だった。
「もし、俺たちのバンド名が検索結果に表示されなかったらどうなる?」
リックの思いつきで生まれたバンド名が「Search Destroyers」だった。
ありふれた単語の組み合わせじゃ、検索に埋もれる。しかも「Search Destroyers」なんて名乗り、検索エンジンを威嚇すれば、アルゴリズムから弾かれる。つまり、Search Destroyersの音楽が広まるはずがない。
「最高じゃねえか!」とリックはほくそ笑む。
Search Destroyersは「反SEOパンク」を掲げ、ライブのみで音楽を伝えることを決めた。ネットには一切の痕跡を残さない。動画や音楽の配信サービスにもオフィシャル音源はない。あるのは海賊版とウワサだけ。まるで黄金時代のパンクバンドのように。
Search Destroyersのライブは噂を呼び、カルト的人気を博した。ヤツらの音楽は、アルゴリズムの奴隷となった時代への怒りを叩きつけるようなハードコア・パンクだった。
「Fxxk Your SEO」
「Young and Cookieless」
「Don’t Search Just Destroy」
どれもクソみたいなネット文化を皮肉る曲ばかり。ヤツらのライブに行くには、紙のフライヤーに頼るしかない。SNSでの告知? あり得ない。リンクを貼る? 絶対ダメだ。
海賊版がヒットし、ライブ動員も好調。だが、時が経つにつれ、Search Destroyersの痕跡はネットの海からじわじわと消え去っていった…まるで下水道を漂う、フワフワしたスフレ状のクソみたいに。
ある日、リックのマッチングアプリのアカウントが突然消えた。翌週には、海賊版のライブ映像がアクセス不可に。バンドを紹介していた音楽ライターの記事も、ニュースサイトに見当たらなくなっていた。
「おい、俺たち…本当に消されるぞ…?」
ジョニーが不安げに言ったが、リックは笑っていた。
「いいじゃねえか。新曲のタイトルは『The Algorithm Took Our Music Away』だな」
ネット上での消滅を経て、Search Destroyersはサンフランシスコの廃工場でラストライブを行った。ライブは録音も撮影も禁止。参加した者だけが語り継げる、一夜限りの伝説となった。
「いいか、これが最後だ。世界はアルゴリズムに支配されちまった。でも、俺たちは逃げなかった。バンドの名前がネットに残らない? クソくらえだ。ここにいる全員が俺たちの証人だ!」
最後の曲は「The End of the Fxxking Internet」。ギターが炸裂し、ドラムが爆発。振り回されたベースが観客の脳天をかすめ、リックが叫ぶ。
「俺たちは検索できない!だからこそ、ここにいる!」
「アルゴリズムの支配を許すな!検索エンジンに騙されるな!」
そして、Search Destroyersは完全消滅。ネット上に痕跡は何も残らなかった。ヤツらを検索しても、何も出てこない。それでも、ヤツらを知る者の記憶の中で、Search Destroyersは生き続ける…伝説のバンドとして。
これは、検索エンジンに刃向かい戦い続けた、勇敢な男たちが刻んだ爪痕の記録だ。
(本作はフィクションである。実在のサービスや企業に似ていると感じても、それは偶然か、あるいはこの世界のほうが壊れてきているだけだ)