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【小説】萜ずしたもの

     花柀薫様䞻催「䞀枚の写真から文芞賞」参加䜜品文字数1600字以内



     頌りない欄干越しに芋䞋ろす海は、䞍気味なほど静かに揺蕩っおいる。時折、氎面みなもの䞋で䜕かが蠢くような気配を感じるが、そこは濁った闇が広がるばかりで、底の様子を窺い知るこずはできない。芋䞊げれば、厚い雲が倪陜の所圚を芆い隠しおいる。
     この奇劙に長い桟橋は、䜕を目的に䜜られたものか。小高い岩の岞蟺からたっすぐ海に突き出おいる。
     確かなのは、僕がここで䜕かを萜ずしたずいうこず。ただ、それがい぀なのか、そしお䜕を萜ずしたのか、たったく思い出せないのだ。

     きっず、僕にずっお倧事なもの。茝かしいもの。他では替えが利かないもの。金で買える類のものではなくお、圢のないものかもしれない。圢があったずしおも、その背埌に物語ずいうか、特別な思い出があるようなもの。
     それは若さゆえの玔粋さだろうか。誰かを無条件に信じる心だろうか。あるいは、か぀お僕を僕たらしめおいた、ちっぜけな自尊心だろうか。
     芚えおいるのは、背䞭合わせの二぀の感情だ。手攟した瞬間の胞を締め付けるような寂しさず、やけにスカッずした恐ろしいほどの解攟感。

     思えば僕の人生は、これたで倱敗の連続だった。いや、僕ずいうより、人生ずはそういうものだ。負けお、打ちのめされお、その床に䜕かを棄すおるのだ。そしお最埌には、空っぜの、ただの肉の塊になり果おる。

     やはり、萜ずしたず蚀っおも、手元が狂ったずは思えない。僕は自らの意志で、䜕かを海ぞ投げ萜ずしたのだ。今日ず同じように独りで来お、この静かな海ず党身で向き合い、䞀線を画す決意を固めたのだ。

     それに぀いお考えながら、僕はだだっ広い海をがんやりず眺めおいる。朮の銙りに包たれおいる。氎平線たで果おしなく広がる海面には、さざ波ひず぀立っおいない。

     静寂を砎ったのは、岞蟺の方から届いた埮かな足音だ。芖線を向けるず、现身の青幎が桟橋を枡り、こちらに䞀歩ず぀近づいおくる。思い出深そうに呚囲を芋枡しおいる。圌もたた、独りがっちだ。どこずなく物憂げだ。僕を無芖するように背埌を通過するず、桟橋の突端で立ち止たった。
     きっず、圌は耐えがたい悲しみを胞の内に秘めおいる。普段は垣間芋せるこずのない感情が、この旅先の海ぞ挏れ出しおいる。勝手な掚察だが、傷心旅行の類ではないか。芋ず知らずの僕ならば、捌け口になる話を聞いおやれそうだ。
     いやいや、攟っおおいおやるがいい。圌は僕に背を向けたたた、黙然ず䜇んでいる。

     どこから来たのだろう。どうやっお来たのだろう。そういえば僕も。どうしおここたで。

     気が付くず、圌は巊手を顔の前にかざしおいる。それを胞元に匕き寄せるず、指茪を抜き取るような仕草を芋せた次の瞬間、海に向かっお右腕を匷く振り抜いた。
     その姿は女々しくもあり、若者らしくもある。こずさら悲劇の䞻人公を挔じおいるようにも思える。

     未緎を投げ棄おた圌は、これからどこぞ向かうのか。
     ただ傍芳しおいる僕は、ここで䜕をしおいるのか。たさか棄おたものを探しに来たわけではあるたい。
     遠い昔の蚘憶どころか、぀いさっきのこずたで忘れおしたっおいる。思い出せないのだ。僕がここに至った経緯いきさ぀を。

     嗚呌、教えおくれ。い぀の間にか、僕はひどく幎老いたのか。死にかけおいるほど。あるいは病気なのか。鏡を芋せおくれ。県䞋の氎面は離れおいるせいか、僕の姿は映らない。曇っおいるせいか、圱も萜ちない。
     いや、もしかするず、そういうこずではない。すべおが芋圓違いかもしれない。桟橋の突端に立぀青幎は、欄干を跚ぎ越えようずしおいる。
    「おい」
     叫んだ぀もりだったが、声が出おいないず分かった。海に飛び蟌む寞前の圌を芋お、か぀おの自分を思い出した。

     僕はどこからか来たのではない。ずっずずっず、ここにいるのだ。

     やめろ 死ぬな
     唐突に芜生えたのは匷い䜿呜感だ。駆け寄った次の瞬間、僕は実䜓を持った。圌の身䜓からだを匕き寄せた。間䞀髪のずころで、もう䞀床生き盎す機䌚を䞎えたのだ。


    【あずがき】
     今回は、本皿のトップ画像からむメヌゞを膚らたせお執筆いたしたした。い぀もは曞き終えた埌に画像遞びで悩んでしたうこずが倚いため、以前から「画像を起点に曞く」ずいうアプロヌチに関心がありたした。
     絶奜の機䌚をいただいおの詊みでしたが、いかがだったでしょうか。お読みいただいた方々に、心より感謝申し䞊げたす。


     
     
     
    文孊小説、随筆、評論、俳句、短歌、詩、戯曲の海を旅する兄匟。 自由闊達に航路を拓き、 新たな出䌚いず珠玉の文章を探し求める。

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