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scene -心地よい記憶- #1 Fields of Gold

浮世離れと称してイギリスにしばらく滞在したことがあった。

ロンドンから電車で1時間半くらいの市街地から
さらに1時間近く歩いた丘の中腹のようなところで過ごした。

朝起きて窓を開けると遠くの草原で放牧された牛が啼いているような、
何とものどかな環境にとても満足した。

道の途中でポニーを曳いた女の子に出くわしたことがある。
丘の中腹とはいえ、ふつうの住宅街に突如馬が現れたことに
ただただ驚いて目を瞠ったら、女の子がはにかんだ表情をした。
丘の上に馬場があるらしかった。
馬も女の子もかわいい・・・などと、ぼんやり歩いていると、危うく
馬糞を踏んづけてしまいそうになった。

アップダウンの激しい道のりを1時間歩くと、湿気がなくても
さすがに汗ばむ。
市街地までのバスもあったけれど、毎日ほとんど歩いて過ごした。

イギリスにはPublic Foot Pathという、歩くことを楽しむためのコースがある。
日本だったら、アスファルトで舗装されているとまではいかないにしても、
丸太で作った柵なんかで道を外れないよう、要所要所にも道しるべがあって、公共の散歩道のコースであることがわかるように作られるだろう。

イギリスのそれは、渡された地図からしてラフな手書きで、すでに心もとない。
いざ歩き始めるとその不安は何倍にも膨れ上がる。
たぶんこの道でいいはずなんだけど・・・と思いながら進んで行くと
これ、どうみても人の家の敷地内だよね?というようなところや、
高速なんじゃないの?と思うような道路を横切ったり、
壊れて開かない木戸をよじのぼったり、パブリックな感じではない。

これで無事にゴールまでたどり着けるんだろうか…

と、坂道を上り切った刹那、

目の前に一面の麦畑が広がった。
上り坂の先の光景だから、劇的な現れ方だった。

どのくらい見とれていただろう。

写真も撮ったのだが、韓国人のルームメイトのフィルムを預かった時に
自分のフィルムと入れ違いになってしまった。

帰国後、現像してからそのことに気づいた。
ネガとプリントした写真を入れて、そちらの手元にあるフィルムを送ってほしいという手紙を出したが、それっきりだった。

スティングの"Fields of Gold"を聴いたのは、
それから何年もずっとあとになってからだ。
聴いた途端、忘れかけていたあの時の光景が、
あの時の現れ方と同じ、突然蘇った。

しばらくして我に返って金色の中をぬって歩いたのを思い出す。
写真がないから音楽で再生したまぶしい記憶。


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