AIは人間より創造的か?10万人規模の研究が明らかにした「創造性の真実」【自作Webアプリ公開(Claude製)】
「AIは人間の創造性を超えた」——そんな見出しを見かけることが増えました。実際、GPT-5やClaudeといった大規模言語モデルは、詩を書き、物語を紡ぎ、ときには人間の専門家を驚かせるようなアイデアを生み出します。では、AIは本当に人間より創造的になったのでしょうか?
2026年1月、この問いに正面から挑んだ大規模研究が発表されました。モントリオール大学のKarim Jerbi教授らによる研究で、なんと10万人の人間と複数のAIモデルを比較したのです。共著者にはディープラーニングの父と呼ばれるYoshua Bengio氏も名を連ねています。その結論は、AIの可能性と限界の両方を浮き彫りにする、非常に興味深いものでした。
1. 創造性をどう測るか——拡散連想課題(DAT)

創造性を科学的に測定するのは難しい課題です。「美しい絵を描けるか」「感動する物語を書けるか」といった評価は、どうしても主観が入ります。
この研究で使われたのは「拡散連想課題」(Divergent Association Task、DAT)と呼ばれる手法です。ルールは驚くほどシンプルで、「できるだけ意味的に離れた10個の単語を挙げてください」というものです。たとえば「犬」と「猫」は意味が近いのでスコアが低くなり、「顕微鏡」と「郷愁」のように全く異なるカテゴリの単語を組み合わせると高スコアになります。
単語間の「意味的距離」は、GloVeという単語埋め込みモデルを使って自動計算されます。人間の主観を排除し、大規模に実施できるのがこの手法の強みです。過去の研究で、DATのスコアは従来の創造性テスト(代替用途課題など)と高い相関があることが確認されており、創造的思考の指標として信頼性があります。
🔗Divergent Association Task - 公式サイト
2. GPT-4は「平均的な人間」を超えた

研究チームはGPT-4、Claude、Gemini、GPT-3.5など複数のAIモデルと、10万人以上の人間参加者を比較しました。
結果、GPT-4のDATスコアは人間の平均を統計的に有意に上回りました。つまり、ランダムに選んだ人間よりも、GPT-4の方が「意味的に離れた単語」を生成する傾向があるということです。
この結果だけを見れば、「AIは人間より創造的」という結論になりそうです。しかし、データを詳しく分析すると、全く異なる様子が見えてきます。
3. 上位層の人間はAIを圧倒する
研究の核心的な発見は、人間の「上位層」とAIを比較したときに現れました。
人間参加者の上位50%と比較すると、すべてのAIモデルのスコアは下回りました。上位25%、上位10%と絞り込むほど、この差は広がっていきます。つまり、AIが超えているのは「平均的な創造性」であって、「優れた創造性」ではないのです。
これは何を意味するのでしょうか。創造的な仕事——作家、アーティスト、研究者、発明家——で求められるのは、まさにこの「上位層」の創造性です。平均を超えることと、トップクラスに到達することの間には、大きな溝があるということです。
4. AIの「創造性」には致命的な弱点がある

なぜAIは上位層の人間に及ばないのでしょうか。研究チームは興味深いパターンを発見しました。
GPT-4は「microscope」(顕微鏡)という単語を約70%の回答で使用し、「elephant」(象)を約60%で使用していました。GPT-4-turboに至っては「ocean」(海)を90%以上の回答に含めていました。
対照的に、人間で最も多く使われた単語は「car」(1.4%)、「dog」(1.2%)、「tree」(1.0%)でした。つまり、10万人の人間の回答は驚くほど多様で、AIの回答は驚くほど画一的だったのです。
この「繰り返しパターン」は、AIの創造性の本質的な限界を示しています。AIは学習データから「高スコアが出そうな単語」を効率的に見つけ出しますが、その結果として同じパターンに収束してしまう。創造性の核心である「予測不可能性」や「独自性」が欠けているのです。
5. パラメータ調整で創造性は変わるか
研究チームは「temperature」と呼ばれるパラメータの影響も調査しました。temperatureを上げると、AIの出力はよりランダムになります。
結果、temperatureを上げるとDATスコアは向上し、繰り返しパターンも減少しました。しかし、高いtemperatureでも上位層の人間には届きませんでした。また、GPT-4からGPT-4-turboへのバージョンアップでスコアが低下した点も興味深い発見です。処理速度やコスト効率を最適化する過程で、創造的な多様性が犠牲になった可能性があります。
6. 物語創作でも同じパターン
研究チームはDATだけでなく、より実践的な創造性も検証しました。俳句、映画のあらすじ、フラッシュフィクション(超短編小説)を生成させ、「拡散的意味統合」(Divergent Semantic Integration、DSI)という指標で評価したのです。
結果は同様でした。GPT-4はGPT-3.5を上回りましたが、人間の創作物は両方のAIを大きく上回りました。特にフラッシュフィクションのような長い形式では、人間とAIの差が顕著でした。
さらに興味深いのは、主成分分析(PCA)による可視化です。人間の創作物とAIの創作物は、明確に異なるクラスターを形成していました。つまり、AIの創作には「AIらしさ」があり、人間の創作には「人間らしさ」がある。この違いは、単なるスコアの差以上に本質的なものかもしれません。
7. 別の研究が示す「集団的創造性」のジレンマ

AIと創造性の関係について、もう一つ重要な研究を紹介します。2024年にScience Advancesで発表されたDoshiとHauserの研究です。
この研究では、AIアシスタントを使って短編小説を書くグループと、使わないグループを比較しました。結果、AIを使った個人の創造性スコアは向上しました。しかし、AIを使ったグループの作品全体を見ると、互いに似通った作品が多くなり、集団としての多様性は低下していたのです。
研究者たちはこれを「平準化効果」(equalizing effect)と呼んでいます。AIは創造性が低い人を引き上げる効果がありますが、創造性が高い人にはほとんど効果がありません。そして、全員が同じAIを使うことで、出力が均質化していく。これは一種の「社会的ジレンマ」です。個人にとっては便利でも、社会全体の創造的多様性は失われていく可能性があるのです。
8. 自分の創造性を測ってみよう
ここまで読んで、「自分のDATスコアはどれくらいだろう?」と気になった方もいるかもしれません。
本家のDATテストは英語版が公式サイト(https://www.datcreativity.com/)で無料公開されています。4分程度で完了し、即座にスコアが表示されます。平均スコアは約78点、最高記録は109.6点だそうです。
ただ、日本語でテストしたい方も多いでしょう。そこで今回、Claude APIを使った「DAT簡易版」をアーティファクトとして作成してみました。
Claude版DAT簡易テスト
https://claude.ai/public/artifacts/ff82c567-7ccb-4764-9bc1-98d5938d2143
本家がGloVe埋め込みを使うのに対し、この簡易版ではClaude(Sonnet 4)に各単語ペアの「意味的距離」を0〜100で評価させています。計算方法が異なるためスコアは参考値ですが、日本語でそのまま試せるのがメリットです。どの単語ペアが「遠い」と評価されたかも確認できるので、創造的な単語選びの傾向を分析するのにも使えます。
ぜひ試してみてください。高スコアを狙うコツは、異なるカテゴリ(動物、抽象概念、道具、感情、自然現象など)からバラバラに選ぶことです。「銀河」「フォーク」「郷愁」「藻類」「契約」「虹」「摩擦」——こんな感じで、普段は同じ文脈で使わないような単語を組み合わせてみましょう。
まとめ——厳しい現実と、それでも残る希望
今回の研究が示す結論は、多くの人にとって厳しいものです。
確かに「上位層の人間はAIを圧倒する」という結果は出ました。しかし、よく考えてみてください。それは裏を返せば、上位層以外の人間の創造性は、すでにAIで代替可能になりつつあるということです。
Doshi & Hauserの研究が示した「平準化効果」も、見方を変えると残酷です。AIは創造性が低い人を「平均レベル」に引き上げてくれます。しかし、それは「人間の創造性が発揮された」のではなく、「AIの力で底上げされた」だけです。そして、その底上げされた創造性は、みんな似たような出力に収束していく。
つまり、本当の意味で「人間にしかできない創造性」を持つ人は、実は少数派なのです。多くの人にとって、「自分の創造性」だと思っていたものは、AIによって容易に再現できる——あるいは、AIの助けを借りないと到達できないレベルだったのかもしれません。
では、希望はないのでしょうか?
そうは思いません。ただし、それは「人間は創造的だから大丈夫」という楽観論ではありません。
一つの道は、自分が「上位層」に入る努力をすることです。AIが平均を超えたということは、「平均的な創造性」はもはや競争優位にならないということ。差別化するには、AIにはまだ到達できない領域——予測不可能な飛躍、深い文脈理解、人間的な経験に根ざした独自の視点——を磨くしかありません。
もう一つの道は、AIを「自分の創造性の一部」として受け入れることです。底上げされた創造性であっても、最終的なアウトプットの質が上がるなら、それはそれで価値があります。ただし、その場合は「集団的な均質化」という代償を意識しておく必要があります。全員が同じAIを使えば、全員が似たような出力になる。その中でどう差別化するかは、また別の課題です。
いずれにせよ、「AIと人間、どちらが創造的か」という問いは、もはや意味をなさなくなりつつあります。問うべきは、「AIがこれだけ創造的になった世界で、自分はどうするか」です。
その答えは、一人ひとりが見つけるしかありません。

