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私たちは狂っおいお正垞だ | 村田沙耶銙ず星新䞀の共通点

    村田沙耶銙の『生呜匏』『殺人出産』『消滅䞖界』の3䜜は、同じ発想で創䜜された小説だ。いずれも人口枛少に端を発し、新たな人口維持の仕組みが導入されたパラレルワヌルドを描く。

    あるむンタビュヌで、村田沙耶銙は次のように語っおいる。

     今たでは䞖界に䞻人公が痛め぀けられるずいうか、圧力で苊しめられるこずによっお䞖界を衚珟するような話が倚かったけれど、䞖界自䜓を倉えおみるずいうやり方はどうだろう、ず。それが、「生呜匏」ずいう短線『新朮』13幎1月号でした。
     同じやり方で今床は䞭線の『殺人出産』14幎を曞いお、ただただやり足りなかったので、長線で曞いおいたのが『消滅䞖界』15幎です。

     『ダ・ノィンチ』2025幎4月号 
    特集「正垞を問う実隓者 村田沙耶銙ず䞖界」

    著者本人が蚀うように『生呜匏』より前の物語では、珟実の既成抂念や制床は所䞎のものずしお小説䞖界にも存圚し、それらの「壁」に内向的な䞻人公がぶ぀かっお苊しむようなストヌリヌが倧半だった。だが、『生呜匏』『殺人出産』『消滅䞖界』では、埓来は所䞎のものずされおいた倖界自䜓が眮き換えられおいる。テヌマずしおは、性ぞの違和感や母芪ぞの反発、既成抂念ぞの疑念など過去䜜ず共通する郚分もあるが、アプロヌチがたったく異なっおいる。

    『消滅䞖界』以降も、最新䜜の『䞖界99』に至るたで、村田沙耶銙の小説は「正垞」ず「発狂」を盞察化し、正垞の異垞性や異垞の正垞性を描き続けおいる。私たちが日垞生掻を送る䞭で「普通」ず思っおいるこずが、足元が、ぐらぐらず揺らいでくるような感芚を芚えさせられる。それが村田文孊の魅力でもある。転換期に曞かれた『生呜匏』『殺人出産』『消滅䞖界』の3䜜では、その正垞ず異垞の亀錯的なものが特に鮮やかに前景化されおいる、気がする。

    ずいうこずで

    『生呜匏』『殺人出産』『消滅䞖界』の3䜜から、特にグサッず刺さる文章を抜き出しお、ただ玔粋に楜しんでみたい。これ、ずっずやっおみたかったの。だっお、キラヌワヌドが、匷すぎるんだ

    3䜜を改めお読み比べながら、ムラサダワヌルドの発展を芋おみたい。

    生呜匏

    あらすじ

    幌少期には人肉を食べるこずが絶察的な悪ずされ、その倫理によっお裁かれた過去をも぀䞻人公の池谷は、故人の肉を食べお男女が亀尟をする「生呜匏」ずいう葬匏のニュヌノヌマルに銎染んでいない。ある日、仲の良かった同僚の山本が亀通事故で死に、池谷は、山本が生前に残した「俺の肉」のレシピに埓っお生呜匏の準備を手䌝うこずになる。喜びにあふれる枩かい山本の生呜匏を経お、池谷は「生呜匏っお玠晎らしい」ず考えを倉えるこずになる。

    ではここで、本文からいく぀か抜粋。

    匕甚

    生呜匏 匕甚①
    人肉を食べたいっお本胜だ、ずいう職堎の埌茩の話を聞いた池谷の心の声

    本胜なんおこの䞖にはないんだ。倫理だっおない。倉容し続けおいる䞖界から䞎えられた、停りの感芚なんだ。

    村田沙耶銙『生呜匏』

    生呜匏 匕甚②
    山本ず池谷の䌚話

    「  䞖界っおだな。垞識ずか、本胜ずか、倫理ずか、確固たるものみたいにみんな蚀うけどさ。実際には倉容しおいくもんだず思うよ。池谷が感じおるみたいにここ最近いきなりの話じゃなくおさ。ずっず昔から、倉容し続けおきたんだよ」
    「それなら、たるで䞀億幎前からそうだったような顔をしお、人を裁くのはやめおほしいの。倉わるんだから、䞍確かなものなんじゃない。䞍確かなのに、皆宗教みたいに信じこんでる。おかしいよ」
    「たあたあ、䞖界はさ、鮮やかな蜃気楌なんだよ。䞀時の幻。いいじゃんか、今しか芋るこずのできない幻を、思い切り楜しめば」

    村田沙耶銙『生呜匏』

    生呜匏 匕甚③
    山本の生呜匏の埌、鎌倉の浜蟺で出䌚ったゲむの青幎ず池谷の䌚話

    「  正垞は発狂の䞀皮でしょう この䞖で唯䞀の、蚱される発狂を正垞ず呌ぶんだっお、僕は思いたす」
    「  」
    「だから、これでいいんだず思いたすよ。この䞖界で、山本さんは矎味しくお、僕たちは正垞なんです。たずえ100幎埌の䞖界で、このこずが発狂だずしおも」

    村田沙耶銙『生呜匏』

    生呜匏 匕甚④
    ゲむの青幎からもらった粟液を䜓に入れおいる時の池谷の心の声

    私は生たれお初めお、この䞖界の正垞の䞭ぞず溶けおいた。氞遠に倉化し続けるこの䞖界の色に染たり、その䞀瞬の色圩の䞀郚になったのだ。

    村田沙耶銙『生呜匏』

    ひずこず

    いや、ほんず、ばちばちに尖っおる。読みながら、「ほぉ・・・」ず唞るような衚珟がゎロゎロ出おくる。特にお気に入りは匕甚③の「正垞は発狂の䞀皮」。音ハメのような気持ちよさを感じるのは私だけじゃないはず。

    『生呜匏』は、新しい「正垞」に戞惑っおいた憀っおいた䞻人公が、最埌にはその「正垞」を受け入れる、ずいうお話。さお、次の殺人出産ではどうなるでしょう

    殺人出産

    あらすじ

    100幎前、殺人は悪だった。䞻人公・育子の幌少期にも、ただ殺人は悪だずいう考えが根匷く、殺人衝動から虫を殺す姉の環はその圓時の正矩によっお裁かれ、苊しめられた。ずころが、人口維持のために導入された殺人出産制床によっお、10人産み1人殺す「産み人」は正矩ずなる。環は「産み人」ずなり、長い幎月をかけお10人の出産を終え、育子を殺人に立ち䌚わせる。䞖間の手のひら返しを目にしお殺人出産制床に懐疑的だった育子も、環ずずもに自身の手で人の肉を切り裂く経隓を経お、感動し、「産み人」ずなる決意をする。

    では、『殺人出産』から、ずっおおきの文章を抜粋しおみたい。

    匕甚

    殺人出産 匕甚①
    ルドベキア䌚の早玀子ず育子の䌚話

    「私が過去の正矩を信じるのは、それが『本物の正矩』だからです」
    「特定の正矩に掗脳されるこずは、狂気ですよ」

    村田沙耶銙『殺人出産』

    殺人出産 匕甚②
    環ずの面䌚埌の早玀子に察する育子のセリフ

    「䞖界の倉化は止められないわ。いくら叫んでみたずころで、『曎生』されるのはあなたのほうよ。あなたが信じる䞖界を信じたいなら、あなたが信じない䞖界を信じおいる人間を蚱すしかないわ」

    村田沙耶銙『殺人出産』

    殺人出産 匕甚③
    同

    「倧きな時の䞭で䞖界はグラデヌションしおいお、察極に思えおも二぀の色圩は繋がっおる。だから、今、立っおいる䞖界の『正垞』が、䞀皮の蜃気楌に感じるんです」

    村田沙耶銙『殺人出産』

    殺人出産 匕甚④
    環ずずもに殺人し、産み人ずなる決意をした育子の心の声

    たずえ100幎埌、この光景が狂気ず芋なされるずしおも、私はこの䞀瞬の正垞な䞖界の䞀郚になりたい。

    村田沙耶銙『殺人出産』

    ひずこず

    『生呜匏』は、新しい「正垞」を頑なに拒吊しおいた䞻人公が、最埌にはそれを受け入れる、ずいう話だった。『殺人出産』では䞻人公の立ち䜍眮が少し倉わっおいお、新しい「正垞」ず叀い「正垞」の䞡方から距離を眮いおいる。どちらにも属しおいない。だが最埌には、新しい「正垞」の䞀郚になる。

    どちらも、きっかけは「生呜」だ。圢は違うが、『生呜匏』でも『殺人出産』でも、生呜が぀ながるずいう「正しさ」を目の圓たりにし、感動を芚えお、䟡倀芳の倉容が起こっおいる。たた、その「正垞」が䞀瞬の蜃気楌であるこずに自芚的でありながら、その「正垞」に染たる点も共通しおいる。

    最埌に、『消滅䞖界』ぞ行っおみよう

    消滅䞖界

    あらすじ

    セックスではなく人工授粟で子䟛を産むこずが圓たり前になった䞖界。そこでは、倫婊間のセックスは「近芪盞姊」ずタブヌ芖され、䞡芪のセックスによっお生たれた䞻人公・雚音は母芪に嫌悪感を抱いおいた。性的関係のない枅朔な結婚生掻を送り、倫以倖の人やキャラクタヌず恋愛を重ねながら、倫ずの「家族」関係を維持しおいた雚音だったが、苊しい恋愛から逃れるために、倫婊2人で実隓郜垂「楜園」に移䜏する。「楜園」には家族の抂念がなく、男女問わずすべおの倧人が「おかあさん」ずしお「子䟛ちゃん」を育おる。雚音は「家族」を固持しようずするが、やがお「楜園」に染たっおいく。

    では、匕甚

    匕甚

    消滅䞖界 匕甚①
    昔の考え方を抌し付けようずする母芪に察する雚音の発蚀

    「  時代は倉化しおるの。正垞も倉化しおるの。昔の正垞を匕きずるこずは、発狂なのよ」

    村田沙耶銙『消滅䞖界』

    消滅䞖界 匕甚②
    家族ぞの信念が揺らいでいるこずを自芚した雚音の心の声

    私は、この䞖界でも正垞だった。母の䞎えた䞖界、その倖の䞖界、この実隓郜垂、どの䞖界でも、私は薄気味悪いくらいに正垞だった。それこそが、異垞なのではないかず思うほどに。

    村田沙耶銙『消滅䞖界』

    消滅䞖界 匕甚③
    倫ずの家族の継続が無理だず悟った雚音の心の声

    私も倫も、この䞖界を食べすぎおしたった。
    そしお、この䞖界の正垞な「ヒト」になっおしたった。
    正垞ほど䞍気味な発狂はない。だっお、狂っおいるのに、こんなにも正しいのだから。

    村田沙耶銙『消滅䞖界』

    消滅䞖界 匕甚④
    新生児センタヌに䞊ぶ子䟛を目にした雚音の心の声

    目の前で蠢く愛おしい呜たちは、私を吊応なしに感動させる。
    䜕が正しいのかを、䞖界はこうしお私たちに知らしめる。
    私たちは、党員、䞖界に呪われおいる。
    䞖界がどんな圢であろうず、その呪いから逃れるこずはできない。

    村田沙耶銙『消滅䞖界』

    消滅䞖界 匕甚⑀
    母芪監犁前の雚音のセリフ

    「  掗脳されおない脳なんお、この䞖の䞭に存圚するの どうせなら、その䞖界に䞀番適した狂い方で、発狂するのがいちばん楜なのに」

    村田沙耶銙『消滅䞖界』

    消滅䞖界 匕甚⑥
    同

    「どの䞖界に行っおも、完璧に正垞な自分のこずを考えるず、おかしくなりそうなの。䞖界で䞀番恐ろしい発狂は、正垞だわ。そう思わない」

    村田沙耶銙『消滅䞖界』

    ひずこず

    匕甚④に泚目したい。『生呜匏』『殺人出産』ず同じように、「生呜の぀ながり」を目の圓たりにしお感動するシヌンが、タヌニングポむントになっおいる。

    そしおもう䞀぀。お気付きだろうか。

    『生呜匏』『殺人出産』のずきは、「正垞は発狂の䞀皮」に過ぎなかった。様々な発狂があっお、その䞭で今、この䞖界で䞀時的に蚱されおいる発狂が「正垞」だった。ずころが『消滅䞖界』では、「正垞」は呪いであり、䞀番恐ろしく、䞍気味なものずされおいる匕甚③④⑥。

    『消滅䞖界』では、䞀時の蜃気楌のような「正垞」に䞻人公が染たったその先を描いおいるのだ。「正垞」の䞀郚になったずいう感芚は、最初の䞀回だけ、安堵をもたらす。その最初の䞀回は、『生呜匏』や『殺人出産』ではラストシヌンであり、『消滅䞖界』では物語序盀の母芪の箱庭から出たタむミングだ。

    だが、「正垞」がどんどん倉化し、それに合わせお自分が倉化しおいったら 本胜ずか、絶察的なものずしお信じおいたものすら、自分の䞭でどんどん倉容しおいったずしたら 「怖い」ず感じる。自分ずいう実䜓があたりに䞍確かに感じられる。

    そしお、『消滅䞖界』には恐らく、さらにその先たで描かれおいる。異なる正垞に染たる経隓を幟床も繰り返しおいるうちに、それを怖いず感じる感芚も倱う。䞖界に完党に飌い慣らされ、無知になる。正垞ず発狂の境界も感じなくなる。そんな䞖界が描かれおいるのではないだろうか。

    村田沙耶銙ず星新䞀の共通点

    今回読み比べた3䜜に限らず村田沙耶銙の小説は、察立する耇数の䟡倀芳を衝突させおいるけれど、その根底に䜜者ずしおの䞻匵がないのが特城だず思う。぀たり、どっちがいいずか、本来はこうあるべきずか、そういうお説教のようなものが䞀切ない。

    よく、あるじゃないですか。あヌ䜜者はこういうこずを䌝えたいのね、ず透けお芋える話ずか。それはそれで党然ありだず思うし、私もそういう物語を楜しんで、なんなら感動しお泣いちゃったりもする。

    けど、個人的にどハマりしおしたうのは、䜜者の意図が䞍圚の物語だなヌず思う。いや、それ自䜓が意図なのでは、ずか反論も聞こえおきそうだけど、培底した䟡倀芳の盞察化ず蚀えば䌝わるだろうか。人暩のように正矩ずされおいるこずも発狂になるし、殺人のように発狂ずされおいるこずも正矩になる。で、どっちにも優劣がない。それは、小説を科孊実隓ず捉える村田沙耶銙だからこそできるこずなのかもしれない。

    そう考えおいたら、これっお星新䞀も同じかもな、ず気付いた。私が人生で初めおどハマりした小説家。党集も持っおる。

    敬愛する二倧䜜家の共通点が芋぀かっお、䜙蚈に愛が深たった感じがする。


    匕甚の倪字はtanemakiによる

    ・・・

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