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空腹の苦しみ | つわりについて #1

    ある日突然、冷たいうどんしか受け付けなくなった。

    しかも妙なこだわりが、空から降ってきたとしか言えないくらい唐突に、私の中に発生した。

    うどんは細麺で少し硬めで、よく冷えてなければならない。
    めんつゆは地元九州のもので、よく冷えてなければならない。
    具は梅干しとしそだけ。梅干しはタネ抜きで柔らかいやつでなければならない。

    そんな料理、これまでの人生で好んで食べたことなど一度もなかったのに、突然、ほんとうに突然、そのレシピしか受け付けなくなった。

    ところが、そのほんの数日後。

    まず、梅干しが食べられなくなった。そしてあっという間にうどんが嫌になり、めんつゆは想像するだけで「うっ」と来るようになった。

    これが、これが噂の「つわり」なのか……?

    調べてみると、私は「食べつわり」に当てはまりそうだ。「においつわり」もちょっとありそう。「眠りつわり」も(もともとロングスリーパーだけど)ある気がする。

    「食べつわり」というのは、空腹になると気持ち悪くなるのが特徴らしい。

    気持ち悪さの種類や程度は人によるのだろうけど、私の場合は(妊娠6週目の今のところ)やたらとお腹が空いて、みぞおちのあたりを内側からグイッと引っ張られているような気持ち悪さがある。「死にそうなほど空腹」のときの感じに近い。

    その「やたらとお腹が空く」の「やたらと」度合いが異常で、ひどい時は満腹になったと思った10分後にはものすごい空腹を感じて苦しくなる。ひどくない時でも、食事の1時間後には何か食べないとやばいと思うレベルの空腹感に襲われる。特に夕方から早朝がひどい。

    そんな調子だから、ほぼ一日中食べ物のことを考えてしまう。考えたくなくても、頭に浮かんでくるのを阻止できない。でも、そんな時に頭に浮かんでくる食べ物はどれも想像するだけで気持ち悪くて、食べる気が失せてくる。でも、空腹で苦しいから何かお腹に入れたい。矛盾を抱える肉体が恨めしくて、どんどん気持ちが曇っていく。

    うどん同様、「これなら食べられる!」と思ったものが突然無理になるサイクルが2、3日で回るから、安心して買い溜めもできない。

    「あれなら食べられるかも」と思い付いたものが、家にない時は絶望する。空腹で苦しくて、スーパーやコンビニに行く体力も気力もない。

    深夜3時半のこと。

    苦しくて眠れなくて、どうしようもなく辛いカップ麺が食べたくて、でも家になくて苦しくて、封印していたUber Eatsを頼んだ。

    こんな時間に宅配してくれる人がいるのだろうか。案の定なかなか見つからないようで、配達予定時刻はどんどん後ろ倒しになる。

    苦しい。もう限界だ。食べたくないけど家にあるクラッカーを食べよう、と思った時、配達員が見つかった。

    寝ている夫を起こさないように、忍足でおふろの脱衣所に電気ポットと箸を持ち運び、脱衣所の扉を閉めて祈るような気持ちでうずくまって宅配を待った。

    宅配は、無事にやってきた。指示通り、チャイムを鳴らさずに玄関先に望みのものを届けてくれた。

    アプリの通知を受け取ると、音を立てないようにそっと脱衣所を出て、玄関のドアにすり寄り、ビニール袋のカサカサ音を抑えながらそれを抱えて脱衣所に戻り、また扉をそっと閉めた。

    「救世主、救世主」と呟きながら深夜に食べた辛いカップ麺は、全身にやさしく染み渡った。

    あと何回、こんなことを繰り返すのだろう。

    もっとひどい「つわり」が、明日には待ち受けているのだろうか。

    洗面所に籠ったまま、疲れているのに眠気が一向に訪れない鈍い脳みそで、ぼーっと考えている。

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