
小説 「泥と草と夢」 7話
一年生の冬、転校生が来た。
名前は藤原翔。父親の仕事の関係で、東京から移ってきたという。背が高く、物怖じしない目をしていた。
翔はサッカー部に入って、最初の練習でいきなりヘディングシュートを決めた。部員が沸いた。翌日から翔は部の中心になった。
しかし翔は、勇樹に話しかけてきた。
「お前、足元うまいな。なんで前に出ないんだ」
勇樹は黙っていた。前に出る、という概念が、グラウンドの外でも自分に適用されるとは思っていなかった。
「前に出たら目立つだろ」と言った。
「目立てばいいじゃん」と翔は言った。「なんで隠れなきゃいけないんだよ」
その一言が、勇樹の中で何かを変えた。
翔はいじめを知らない子だった。東京育ちで、堂々としていて、誰にでも平気で話しかけた。その無邪気さが、勇樹の防衛本能を少しずつ溶かした。
二年生になるころには、いじめはほぼなくなっていた。翔という存在が、クラスの空気ごと変えたのだ。
勇樹は、初めて学校が嫌いじゃないと思った。
その冬の終わりに、一通のチラシを見た。県内有数のサッカー名門高校が、新入生を募集していた。スポーツ推薦の文字が目に入った。
勇樹は初めて、先のことを考えた。