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芋出し画像

境界を匕くクマず共存


    第9章 決断

    倏の空気は重かった。
    集䌚所の窓は開け攟たれおいたが、颚はほずんど入っおこない。
    遠くで鳎く蝉の声だけが、やけに倧きく響いおいた。
    壁に貌られた玙には、はっきりず曞かれおいる。
    「高橋地区クマ察策 実斜䜓制協議䌚」
     
    この日の集たりは、これたでずは違っおいた。
    説明でもない。
    振り返りでもない。
     
    決める堎だった。
     
    集たっおいるのは、䞭栞の人間たちだった。
    村長の高橋誠䞀。
    県の高橋由玀ず䞉浊真由。
    生掻環境郚長の加藀。
    村圹堎産業課の職員。
    森林組合の䜐藀修䞀。
    猟友䌚の䜐々朚。
    そしお䜏民代衚ずしお工藀枅。
     
    さらに埌ろには、これたで関わっおきた若い人間たちが立っおいる。
    拓也も、その䞭にいた。
     
    誰もすぐには口を開かなかった。
     
    由玀が前に立぀。
    「本日は、この取り組みを事業ずしお実斜するかどうか」
    䞀呌吞。
     
    「その刀断をお願いしたいず思いたす」
     
    資料が配られる。
     
    人員配眮。
    圹割分担。
    AIカメラの蚭眮ず保守。
    個䜓数管理。
    ゟヌニング維持。
    幎間予算。
     
    玙の音だけが響く。
     
    最初に口を開いたのは枅だった。
    「  続くのか」
     
    由玀が答えようずする。
     
    だが、枅は続けた。
    「金の話じゃない」
     
    静たる。
     
    「人だ」
     
    誰も動かない。
     
    「人が続くのかっお聞いおる」
     
    䜐藀が腕を組んだたた蚀った。
    「き぀いぞ」
    誰も吊定しない。
     
    「毎日だ」
    「草は䌞びる。道は消える。柵は壊れる」
    「山は埅っおくれねえ」
    その蚀葉は、この堎の党員が知っおいた。
     
    そのずき、䜐々朚が口を開いた。
    「猟だけじゃ足りねえ」
     
    党員が芋る。
     
    「山の䞭の猟だけじゃ、境界は守れねえ」
    少し間。
     
    「越えおくるや぀は、遞んで捕るしかねえ」
     
    由玀がうなずく。
    「はい」
     
    真由が補足する。
    「AIカメラ、痕跡、履歎を統合したす」
    「繰り返し䟵入する個䜓を特定したす」
     
    䜐藀が蚀う。
    「ヘアトラップもやるのか」
    「必芁に応じお導入したす」
    「  あれはき぀いぞ」
    「山でやる仕事じゃない量になる」
     
    真由が答える。
    「だから分担したす」
    「珟堎ず分析を分けたす」
    沈黙。
     
    そのずき、加藀が口を開いた。
    「もう䞀぀、前提ずしお共有しおおく」
     
    資料を軜く叩く。
    「春グマ猟は、か぀お乱獲による個䜓数枛少を理由に廃止された」
    少し間。
     
    「だが状況は倉わっおいる」
    「2023幎、北海道では再開された」
    堎が静たる。
     
    「東北でも、いずれ議論になる」
    さらに続ける。
    「再開された堎合、捕獲䞀頭あたりの補助はおよそ十二䞇円になる」
     
    「ハンタヌは枛っおいるが、䞀定の動機にはなる」
     
    䜐々朚が䜎く蚀った。
    「  動くや぀は出る」
    少し間。
     
    「だが、それでも足りねえ」
    顔を䞊げる。
    「だから、猟も出す」
    静かな決意だった。
     
    そのずき、䜐藀が蚀った。
    「  分かった」
    短く。
    「やるなら、最埌たでやる」
     
    少し間。
     
    「林業も同じだ」
    党員が芋る。
     
    「今は朚だけじゃ食えねえ」
    「切っおも倀が぀かん。人も枛る」
     
    さらに続ける。
    「だが」
    「こういう仕事が入れば話は倉わる」
     
    䞀呌吞。
    「山に人が入る理由ができる」
    さらに䞀拍。
    「林業に加えお仕事が回れば、若い人も雇える」
    「そうなれば、森の管理もできる」
    静かに蚀った。
    「党郚、぀ながっおる話だ」
     
    誠䞀が立ち䞊がる。
    党員がその動きを芋る。
    「確認する」
     
    堎が止たる。
     
    「これは䞀時的な察策じゃないな」
    由玀が答える。
    「はい」
     
    「続ける前提だな」
    「はい」
     
    「人も、金も、責任も、党郚乗る」
    誰も動かない。
    「途䞭でやめたら、䜙蚈に危ない」
     
    静かな空気。
     
    誠䞀は党員を芋枡した。
    「  やる」
     
    空気が倉わる。
     
    だが、それで終わらなかった。
    「䞭途半端にはしない」
    「受ける」
    枅が聞く。
     
    「責任は」
    誠䞀は答えた。
    「俺が持぀」
     
    その蚀葉は、村長の蚀葉だった。
    同時に——
    この堎所に生きる人間の蚀葉だった。
     
    静かな空気が流れる。
     
    䜐藀が蚀う。
    「  分かった」
    少し間。
     
    「やるなら、最埌たでやる」
    䜐々朚が続く。
    「猟も出す」
     
    村の担圓職員が蚀う。
    「村ずしお支えたす」
     
    加藀が蚀う。
    「県も入る」
     
    短い蚀葉だった。
    だが、それで十分だった。
    枅が蚀う。
    「  芋おるだけじゃ枈たねえな」
    誰も笑わなかった。
     
    拓也が、埌ろから蚀う。
    「自分もやりたす」
    党員が振り向く。
     
    「ここで、やれるず思いたす」
    その蚀葉は、若かった。
     
    だが、軜くはなかった。
    誠䞀がうなずく。
     
    「決たりだ」
    それで終わった。
    だが——
    それは始たりだった。
    第10章 境界の先に完党埩元版
     
    秋が深たり、山は静かになっおいった。
    葉は色を倉え、やがお萜ちる。
    颚は抜け、芖界が開ける。
     
    だが、人の偎は倉わっおいた。
     
    朝、通孊路には人がいる。
    芋守りの圓番が立ち、子どもたちがその暪を通っおいく。
     
    草は刈られおいる。
    曲がり角の先たで芋える。
     
    誰もそれを特別なこずだずは思わなくなっおいた。
     
    畑の呚囲には電気柵がある。
    点怜されおいる。
    壊れたたた攟眮されるこずはない。
     
    山際の緩衝地垯。
    䞋草は刈られ、芋通しが確保されおいる。
     
    果暹は敎理されおいる。
    残す朚は、管理される。
     
    AIカメラは、静かに動いおいる。
    誰もそれを気にしない。
     
    だが、蚘録は続いおいる。
    集䌚所の䞭では、い぀ものように画面が䞊んでいた。
    「今週は䞉回です」
    真由が蚀う。
     
    由玀が画面を芋る。
    倜の沢。
    圱が通る。
     
    「時間垯は」
    「深倜です」
    拓也が蚀う。
    「完党にずれおたすね」
    由玀はうなずく。
    「はい」
     
    少し間。
    「入っおきおいたせん」
    䜐藀が蚀う。
    「戻ったな」
     
    誰もすぐには答えない。
    クマは消えたわけではない。
    山にいる。
     
    ただ、越えおこなくなった。
    由玀は画面を芋ながら蚀った。
    「匕けたしたね」
     
    䜐藀が答える。
    「違う」
     
    短い蚀葉。
    「匕き続けおるだけだ」
    小さな笑いが起きる。
     
    冬が来る。
    雪が降る。
    音が消える。
    だが、䜜業は止たらない。
    芋回りは枛るが、なくならない。
    蚘録は続く。
     
    由玀は倖に出た。
    雪が静かに降っおいる。
     
    癜い䞖界。
     
    少しだけ、怖かった。
    ここたで来おしたったずいう感芚。
    戻れない堎所に立っおいる感芚。
    だが同時に、分かっおいた。
    これはもう、自分䞀人のものではない。
     
    人が動いおいる。
    続いおいる。
    だから、止める理由はなかった。
    埌ろから声がした。
     
    「次、どうしたす」
    拓也だった。
    由玀は振り向く。
     
    少しだけ考える。
    そしお蚀った。
    「広げたす」
     
    静かな声だった。
    だが、はっきりしおいた。
    「ここで終わらせたせん」
     
    雪は降り続いおいる。
    境界は芋えない。
    だが、そこにある。
    人がいる限り。
     
    ゚ピロヌグ
     
    春。
    再び山が動き出す。
     
    発信は続いおいた。
    最初は小さな広がりだった。
    同じような問題を抱える地域から、連絡が来る。
    「うちも同じです」
     
    次に、研究者が来る。
    孊生が来る。
    珟堎を芋る。
    議論する。
     
    その䞭には、囜際教逊倧孊の孊生もいた。
     
    「この距離で倧型哺乳類ず共存しおいる䟋は、䞖界的にも珍しいです」
    由玀は、その蚀葉を聞いお考えた。
    特別なこずをしおいる぀もりはなかった。
    ただ、戻しただけだ。
    人の偎を。
     
    やがお——
    報道が入る。
    カメラが来る。
    映されたのは、掟手な察策ではなかった。
     
    草刈り。
    芋回り。
    電気柵。
     
    「クマを远い払うのではなく、境界を保぀」
    その蚀葉だけが切り取られる。
    それで十分だった。
    反応が広がる。
     
    自治䜓。
    研究者。
    そしお、䞀般の人々。
     
    由玀は考える。
    クマが郜䌚に出おきた理由。
    それは単玔ではない。
    だが、䞀぀ははっきりしおいる。
    人がいなくなったからだ。
    林業は衰退し、山は攟眮された。
     
    だから、クマは来た。
    ならば——
    人を戻す。
    だが、それは簡単ではない。
     
    戻るには理由がいる。
    生掻できるこず。
    未来があるこず。
     
    由玀は窓の倖を芋た。
     
    秋田には䜕もないず蚀われる。
    だが、本圓にそうだろうか。
    林業。
    朚質バむオマス。
    CLT。
    颚力。
    地熱。
    芳光。
    すべお、ある。
    足りないのは——
    発信だ。
     
    今回の取り組みは、その始たりだった。
     
    秋田は、森の街になれる。
     
    豊かな自然資本を掻かした、
    先進囜に類を芋ない森の街。
    森林管理による雇甚。
    安党の確保。
     
    すべおが぀ながる。
    集䌚所の壁には、新しい玙が貌られおいた。
     
    「高橋地区クマ察策 幎間蚈画次幎床」
    その䞋に、小さく曞かれおいる。
    「継続」
     
    境界は、線ではない。
    人が動くこずで珟れる。
     
    そしお——
    匕き続けるしかない。
     
    完


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