
【エッセイ】お母さんは、ビニール袋が開けられない
子どもの頃、母とスーパーへ行くと、袋詰めをする場所でいつも同じ光景があった。
母は、ビニール袋が開けられない。
指先を何度こすっても、袋の口はぴったり閉じたまま。
「貸して。」
私は、困ってる母の横から袋を受け取って、
あっという間に開ける。
隣で母は
「お!さっすが~」なんて言っている。
ちょっと照れる。
「なんで開けられないの?こんなにすぐ開くのに。」
怪訝そうに言ってみる私。
完全に照れ隠しだ。
そんな私を横目に、母はちょっと笑いながら
「手が乾燥してるとなかなか開かないんだよね。」
と言いながら、私が開けた袋に野菜やお肉を詰めていた。
何度かそんなことが続くうちに、私は言われる前に手を出すようになった。母が取ったビニール袋を受け取って、開いて、渡す。
母も、ときどき私に言った。
「袋、開けてちょうだい。」
私はこの一言が、実はちょっと嬉しかった。
母は、なんでもできる人だと思っていた。
ごはんを作って、
車を運転して、
知らない人とも話せて、
私が困ったときには、だいたいなんとかしてくれる。
そんな母にも、私がいないとちょっと困ることがある。
小学生くらいの小さな私でも、母の役に立てることがある。
ビニール袋を一枚開ける。
たったそれだけなのに、私にはちゃんと出番があった。
そして、大人になった今
スーパーでビニール袋を開けようとして、 何度も指先をこすることがある。
開かない。
あんなに簡単だったのに。
「なんで開けられないの?」
そう言っていた私はもういなくて、
今では私が娘に言っている。
「袋、開けてちょうだい」