メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bykonomiasahi

私が20年かけて学んだ,「敬意」を信頼に変える方法

    はじめに

    私は決して人脈が広いほうではありません。

    およそ20年,コミュニケーションコンサルタントとして,自分の名前で仕事の経験を積み,これまでに13冊の本を出版させていただきました。そんな私ですが,名刺の枚数を競うような交流会は得意ではありません。

    もちろん,多くの人と繋がることには大きな価値があると思います。しかし私自身は,人との繋がりの数よりも,「この人と関わりたい」と思える方との関係を大切にしてきました。

    ありがたいことに,自分が「この人と関わりたい」「この人から学びたい」と思った方々とは,ご縁をいただいてきたように思います。企業や組織のトップ,優秀な経営者,著名な方々から仕事をご依頼いただいたり,重要なご相談をしていただけたり,人生を大きく変える出会いにも恵まれました。

    ただ,それは私に特別な才能や能力があったからではありません。

    初対面で「私はこういう実績があって,こういうことができます」と積極的に自己アピールしている人を見かけると,今でも圧倒されてしまいます。私はどちらかといえば,人脈を広げることよりも,一人ひとりとの関係を掘り下げながら,丁寧に育てていきたいと考えるタイプです。

    そんな私が,「この人と関わりたい」「この人から学びたい」と思う方々とのご縁を育むために大切にしてきたことがあります。

    それは,相手への敬意を,相手に伝わる形で示すことです。

    私にとっての敬意とは,姿勢よくお辞儀をして,正しい言葉を遣うというような表面的な意味ではありません。

    敬意とは,相手を理解しようとする姿勢そのものだと思っています。そして,その敬意を示すためには,まず相手のことを知ることが前提となります。


    第1部 人は,賢さや正しさだけで人を選ぶのではない

    「相手には敬意を持って接する」

    普段からそう考えている方は多いのではないでしょうか。

    その心構えは素晴らしいことです。しかし,実際のコミュニケーションの場面では,敬意を心の中で思っているだけでは十分ではないと私は感じています。

    大切なのは,相手を知り,その敬意を相手に伝わる形に変えていくことです。人は,自分を大事に考えてくれていることや,自分を理解しようとしてくれていることが伝わって初めて,安心感や信頼感を抱くものです。

    ここで一つ,質問させてください。これまで,以下のようなことを誰かに感じたり,実際に経験されたことはありますか。

    「仕事はできるが,深い話ができない」
    「相手のニーズを引き出せないから,よい提案につながらない」
    「正しいことを言っているが,心が動かされない」

    これらは,企業や組織のトップ,人材の評価や雇用,投資などの判断を担う方々から,私が実際に伺ってきた人材に関する悩みの一部です。

    問題になっているのは,決して「能力がない」ということではありません。むしろ,知識もあり,経験もあり,成果を出す力もある。けれども,その能力が「相手のために使われている」という実感が伝わらないのです。

    そのために,大切な仕事を任せきれなかったり,深い相談をしにくかったり,次のチャンスを預けることにためらいが生まれたりします。

    どんなに能力が高く,話していることが正しくても,人が「この人に任せよう」「この人にはお願いする価値がある」と判断するとき,見ているのは能力だけではありません。

    社会的認知の研究では,人は相手を判断するとき,「有能か」という点だけでなく,「誠実か」「自分を大切に扱ってくれるか」という点も重視するとされています。

    つまり,人は賢さや正しさだけで人を選ぶわけではないということです。

    次の状況を想像してみてください。

    あなたは背中の強い痛みが続き,医師に診てもらうことになりました。検査の結果,手術が必要だとわかります。

    一人目の医師は,画像を見ながら淡々とこう言います。

    「検査の結果,手術が必要です。入院期間はおよそ一週間です。詳しい説明はこの資料を読んでおいてください」

    もちろん,言っていることは正しいのかもしれません。診察時間も限られていますし,説明も間違ってはいないのでしょう。

    一方で,別の医師は,同じように手術の必要性を説明したあとで,こう声をかけてくれます。

    「〇〇さんは営業のお仕事をされていると伺いました。長く座ることや移動も多いと思いますので,術後どのくらいで仕事に戻れるか,そこはご心配ですよね。復帰の時期や働き方についても,一緒に考えていきましょう。不安なことがあれば,遠慮なく聞いてください」

    二人の医師の専門的な能力が同じくらい高いとしたら,あなたはどちらの医師にお願いしたいと思いますか。

    おそらく,後者の医師を選ぶ人が多いのではないでしょうか。なぜなら,後者の医師は,病気だけを見ているのではなく,あなたの仕事や生活,不安まで理解しようとしているからです。

    ここに,敬意が伝わるかどうかの違いがあります。

    能力があり,正しいことを言う人であっても,そこに自分への敬意や誠実さが感じられなければ,相手は安心して任せることができません。

    だからこそ,信頼される人は,能力を示す前に,相手への敬意を伝わる形で示しているのだと思います。


    第2部 敬意は,伝わって初めて信頼になる

    以前,ベストセラー作家であり経営者でもある安達裕哉さんと対談をさせていただいたことがあります。

    そのとき私は,安達さんのご著書を読み,印象に残った点についてお話ししました。安達さんの本には,ロジックだけではなく,感情の扱い方や読者への配慮があり,そのバランスが素晴らしいと感じていました。

    一方で,安達さんも,私の本について,「書かれていることの本質は,私の本と全く同じだと思いました」と話してくださいました。また,目次が細かく,セクションごとに分解されている工夫にも触れてくださいました。

    その会話は,単なる本の感想の交換ではありませんでした。お互いに,相手が時間をかけて考え,書き,世に出してきたものを読んだうえで,文字や言葉の裏側まで伝え合う時間だったのです。

    私はそのとき,相手の仕事を知ったうえで会話をすることは,単なる準備ではないのだと思いました。それは,「あなたが大切にしてきたものを,私も大切に扱いたいと思っています」という敬意の表れなのだと。

    本を読むことは,相手の時間に敬意を払うことでもあります。その人が何年もかけて考え,言葉にしてきたものを受け取ったうえで会話をする。それだけで,会話の深さはまったく変わります。

    相手が大切にしてきたものを知ろうとすること。相手の背景に関心を向けること。相手の言葉を,自分の都合のよい情報として扱うのではなく,その人の人生や仕事の一部として受け取ること。

    そうした姿勢が会話の中に表れることで,こちらの敬意は相手に届き,「この人は私をきちんと見てくれている」という実感へと変わっていきます。そして,その実感の積み重ねが,信頼を育てていくのだと思います。


    第3部 敬意を信頼に変える3つの方法

    ここからは,私がこれまで大切にしてきた,敬意を信頼に変える3つの方法を順に紹介していきます。

    一つ目は,感謝しながら聴くこと。二つ目は,安心できる空気をつくること。三つ目は,丁寧で思いやりのある反応を返すことです。

    ① 感謝しながら聴く

    相手の話を聴いているとき,私たちはつい心の中で,「話が長いな」「結論は何だろう」と感じてしまうことがあります。

    私自身も,コンサルタントとして仕事をするうえでは,結論から端的に伝えることを大切にしています。しかし,それはあくまで自分が話すときに課す基準であり,相手の話を聴くときに押しつけるものではないと思っています。

    特に,相手が大切な相談をしてくださるときは,いつも「私を信用して,大切なお話を聞かせてくださり,ありがとうございます」という気持ちで聴くようにしています。

    なぜなら,相手はご自分の時間や経験,悩み,時にはまだ整理しきれていない感情までも,私に託してくださっているからです。

    話がまとまっていないように聞こえるときもあります。時系列が前後したり,感情が先に出たり,同じ話が繰り返されたりすることもあります。

    けれども,その背景には,「まずは聴いてほしい」「この人なら受け止めてくれるかもしれない」という思いや期待があるのかもしれません。

    そう考えると,話を聴かせていただくことは,とてもありがたいことなのです。

    画像
    コンサルティングの合間

    ですから私は,時間が許すかぎり,相手の話を途中で遮らず,真剣に聴くようにしています。そして,ひとしきり話し終えられたあとに,たとえばこう確認します。

    「そうでしたか。〇〇さんは,この一ヶ月ほど,ずっと悩まれていたのですね。それはお辛かったですね」

    相手の感情に寄り添いながら,自分の理解が合っているかを確かめるのです。すると,相手の表情がふっと和らいだり,さらに深い話をしてくださったり,「吉原さんだったら,どうしますか」と意見を求められることがあります。

    感謝しながら話を聴くことは,単に感じよく振る舞うことではありません。

    「話してくださっている」というありがたみを持つことで,聴く側の苛立ちは和らぎます。その結果,集中力が高まり,相手の言葉や表情,背景にある気持ちを,より正確に受け取ることができるようになります。

    話を聴くことへの意識が高い方の中には,「うなずきや相槌を大切にしている」「オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分けている」という方もいらっしゃるでしょう。もちろん,そうした技術は,使い方によっては効果的です。

    ただ私は,それらの言動の前に,まず「私に話してくださって,ありがとうございます」という気持ちを整えることのほうが,何倍も重要で,価値のあることだと実感しています。

    なぜなら,その気持ちがあるかどうかで,うなずきも,相槌も,質問も,まったく違うものとして相手に伝わるからです。感謝のあるうなずきは,相手を受け止めるものになります。感謝のある質問は,相手を理解しようとするものになります。

    まずは,相手の話が終わったら「〇〇さんのお話を聞かせてくださり,ありがとうございます」「大事なお話を打ち明けてくださり,ありがとうございます」と,声に出してみてはいかがでしょうか。

    ②安心できる空気をつくる 

    敬意を信頼に変えるために,二つ目に大切なのは,安心できる空気をつくることです。

    ここでいう「安心できる空気」とは,相手を甘やかすことでも,何でも肯定することでもありません。相手が,自分の考えや気持ちを,無理に整えなくても話せる状態をつくることです。

    組織心理学の分野では,「心理的安全性」という考え方があります。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授は,心理的安全性を,チームの中で対人関係上のリスクを取っても安全だと共有されている状態として説明しています。

    つまり,わからないことを質問したり,違和感を口にしたり,弱さや不安を見せたりしても,すぐに否定されたり,恥をかかされたりしない空気のことです。

    これは,組織だけでなく,一対一の会話にも通じるものがあると私は感じています。

    人は,話しながら考えていることがあります。最初から結論が整理されているわけではなく,話しているうちに,「ああ,私はここが引っかかっていたのか」「本当はこれが不安だったのか」と,自分でも気づいていくことがあります。

    だからこそ,こちらが早く結論を出そうとしたり,すぐに正解を示そうとしたりすると,相手の中で生まれかけていた言葉を止めてしまうことがあるのです。

    たとえば,相手がまだ迷いながら話しているときに,「つまり,こういうことですよね」と早い段階でまとめてしまう。あるいは,「それはこうすればいいと思います」と,すぐに解決策を出してしまう。

    こちらとしては,相手のためを思っているつもりかもしれません。しかし,相手にとっては,「まだ全部話していないのに,結論づけられてしまった」「私の気持ちより,早く答えを出すことを優先された」と感じられることがあります。

    安心できる空気をつくる人は,相手の話を急がせません。

    言葉に詰まったときも,すぐに埋めようとしません。

    沈黙があっても,焦って別の話題に変えたり,「要するに」とまとめたりせず,相手が自分の言葉を探す時間を待てるのです。

    私は,この「待つ」という姿勢に,大きな敬意が表れると思っています。待つことは,相手を信じることでもあります。

    「待つ」という姿勢といえば,個人的に好きな映画のひとつでもある,2015年公開の『マイ・インターン』には,安心できる空気をつくる人の姿が描かれています。

    若くしてファッション通販会社を立ち上げた女性CEOジュールズ(アン・ハサウェイ)と,70歳のシニアインターン,ベン(ロバート・デ・ニーロ)との交流を描いた作品です。

    経験値のあるベンは,ジュールズに対して自分の経験を押しつけたり,すぐに助言をしたりしません。必要な場面では静かに手を貸し,職場の空気が乱れていれば,誰に言われるでもなく整える。

    相手に恥をかかせず,急かさず,けれども無関心ではない。その控えめな距離感こそが,ジュールズの本音と能力を少しずつ引き出していきます。

    安心できる空気とは,特別な言葉で励ますことではなく,相手が自分らしく話せる余白を守ることなのだと思います。

    特に,立場のある方や,人前ではいつも判断する側にいる方ほど,自分の弱音や迷いを話す相手を慎重に選んでいます。そのような方が本音に近い話をしてくださるとき,こちらが急かしたり,評価したり,軽く扱ったりすれば,その扉はすぐに閉じてしまいます。

    反対に,「この人は,すぐに判断しない」「この人は,私の言葉を雑に扱わない」「この人は,私が話し終えるまで待ってくれる」と感じてもらえたとき,相手は少しずつ深い話をしてくださるようになります。

    まとめると,

    ・相手に余計な緊張を与えない
    ・自分の知識や経験を見せつけない
    ・自分の存在感を少し控えめに整える
    ・必要以上に踏み込まない
    ・無関心にはならない

    その距離感を大切にできる人に,私は本当の意味での品を感じます。

    安心できる空気は,特別な演出でつくるものではありません。相手の話を遮らない。急いで答えを出さない。決めつけない。一般論で片づけない。相手の表情や声の変化に気づく。そして,相手が話し終えるまで,敬意を持って待つ。

    こうした小さな態度の積み重ねが,「この人の前では,無理に立派に話さなくてもいい」「この人には,もう少し本当のことを話しても大丈夫かもしれない」という安心感につながっていきます。

    ③丁寧で思いやりのある反応を返す

    敬意を信頼に変えるために,三つ目に大切なのは,丁寧で思いやりのある反応を返すことです。

    どれほど真剣に相手の話を聴いていても,どれほど心の中で相手を大切に思っていても,それが相手に伝わらなければ,信頼にはつながりにくいものです。大切なのは,聴いたこと,理解したこと,感じたことを,相手にわかる形で返すことです。

    私が大切にしている反応の一つに,「4K」があります。

    4Kとは,感謝,感激,感動,共感のことです。これは私が作った造語です。初めての著書では,「感謝・感激・感動」の3Kについて書きました。今回は,そこに「共感」を加えました。

    相手を理解しようと努め,相手を通じて感じる感謝や感激,感動,共感を,言葉や態度にして伝えること。それを,私は4Kと呼んでいます。

    ただし,4Kは大げさに褒めることではありません。相手の話をきちんと受け取ったうえで,その人に向けた反応を返すことです。

    たとえば,相手が「帰りのフライトは長くて疲れました」と話したとします。そのとき,「夏休みは混んでいますものね」と返すこともできます。もちろん,それも会話として間違いではありません。

    けれども,もし相手が先々週もヨーロッパに出張されていたことを知っているなら,こう返すことができます。

    「先々週もヨーロッパでしたものね。時差もあって,移動が続いて,本当にお疲れですよね。そんな中,今日はお時間を作ってくださりありがとうございます」

    この一言には,「あなたの状況を覚えています」「あなたの話を,きちんと受け取っています」「あなた個人を気にかけています」という敬意が含まれています。

    共感とは,一般論を返すことではありません。相手の情報を受け取り,その人の状況に合わせて反応することです。

    「それは大変ですね」だけで終わるのではなく,何が,どのように,その人にとって大変だったのかを理解しようとする。「すごいですね」だけで終わるのではなく,どこに努力や工夫があったのかを見る。「ありがとうございます」だけで終わるのではなく,何がありがたかったのかを具体的に伝える。

    その小さな違いが,相手には大きく伝わります。

    以前,100年以上続く家業を継がれた方が,仕事について話してくださいました。そのお話を伺いながら,私は,目の前の方が単に「長く続く会社を経営している」のではなく,先代から受け継いだ時間や努力,責任を背負い,今の仕事に向き合っていらっしゃるのだと感じました。

    そのようなときに,「へえ,すごいですね」だけで終わらせてしまうと,相手とそのご家族が積み重ねてきたものの表面にしか触れられていないように思います。

    だから私はできるだけ,次のように,相手の背景や価値観に触れる反応を返すようにしています。

    「100年以上もの歴史を受け継いでこられたということは,守るものと変えていくものの両方を,ずっと考えてこられたということですよね」

    「お話を伺っていると,〇〇さんが,お客様や社員の方々をとても大切にされていることが伝わってきます」

    人は,自分の話をただ聞かれたいのではありません。自分が大切にしてきたものを,大切に扱ってほしいのです。自分の言葉の奥にある思いや努力を,できる範囲で理解してほしいのです。

    反応とは,会話の飾りではありません。相手に,「あなたの話は,私に届いています」と伝えるための大切な行動です。

    感謝も,感激も,感動も,共感も,心の中で思っているだけでは相手には伝わりません。丁寧に言葉にする。表情や態度に表す。必要であれば,後日の行動で返す。

    その積み重ねによって,敬意は相手に届き,やがて,あなたと相手との間に信頼が育まれていくのです。


    おわりに 

    信頼される人は,その後の行動で差がつく

    ここまで,相手の話を聴き,安心できる空気をつくり,丁寧に反応することについてお話ししてきました。

    けれども,その敬意が本当の信頼に変わるかどうかは,実は,その後の行動に表れます。

    たとえば,相手が話してくれたことを覚えていること。

    「前回お話しされていた新しいプロジェクトの件,その後いかがですか」
    「先月,ご実家の京都に行かれるとおっしゃっていましたよね」
    「お嬢様の転校先の学校生活は,少し落ち着かれましたか」

    こうした一言は,決して大げさなことではありません。

    けれども,相手にとっては,「私の話を,きちんと覚えていてくれた」「この人は,その場限りで聞いていたわけではなかった」という実感につながります。

    私自身も,その場で感心したり,お礼を伝えたりするだけで終わらせないことを大切にしてきました。

    ある方が影響を受けた本を教えてくださったら,できるだけ読んでみる。大切にしているお店や場所を教えてくださったら,機会を見つけて訪れてみる。仕事で大切にしている考え方を話してくださったら,その背景を自分なりに調べてみる。

    そして次にお会いしたときや,メールを差し上げるときに,こうお伝えします。

    「教えていただいた本を読みました。先日お話しされていたことと,この部分が重なり,大変勉強になりました」

    「おっしゃっていたお店に伺いました。空間の落ち着きが印象的で,素敵な場所を教えていただき感謝しています」

    「前回のお話が気になって少し調べてみたのですが,〇〇さんが大切にされている理由が少しわかった気がしました」

    これは,相手に気に入られるための行動ではありません。「あなたが大切にしているものを,私も大切に扱いたいと思っています」という敬意の表現なのです。

    もちろん,すべてに完璧に応えようとする必要はありません。大切なのは,相手の言葉を軽く流さないことです。

    覚えている。気にかける。試してみる。感謝を伝える。後日,もう一度話題にする。

    こうした小さな行動の積み重ねが,「この人は,私との関係を大切にしてくれている」という信頼へと変わっていきます。

    とはいえ,私自身も,うっかり相手の情報を忘れてしまうことがあります。

    だからこそ,大切だと感じたことは,日付とともにスマートフォンやスケジュール帳に残すようにしています。それは,相手を管理するためではなく,いただいたお話を雑に扱わないための,小さな工夫です。

    【おすすめ】記録することについてこちらの著書でも取り上げています。

    また,敬意を行動に移すことに,最初は少しハードルを感じる方もいるかもしれません。

    「緊張してうまく言えない」
    「わざとらしく思われたらどうしよう」
    「覚えていたことを伝えるのが照れくさい」

    そう感じるのは,自然なことだと思います。

    まずは,「先日のお話,心に残っています」「教えていただいたことを,少し調べてみました」「お話を聞かせていただけて,ありがたかったです」という小さな一言で十分です。

    大切なのは,うまく言うことではなく,相手の話をその場限りにしないこと。完璧に覚えていなくても,気の利いた言葉でなくても,「あなたの話を大切に受け取りました」という姿勢は,きっと相手に伝わります。

    人とのご縁は,名刺交換と,大きな自己アピールで突然深まるものではありません。

    小さな敬意を,言葉や行動で少しずつ届けていく。

    その小さな一歩が,あなたが本当に大切にしたいご縁へと,静かに動かしてくれるはずです。

    私自身,小さな一歩を,日々,丁寧に重ねながら,大切なご縁を育てていきたいと思います。

    さいごまでお読みいただき,本当にありがとうございました。

    【参考文献・参考作品】
    Fiske, S. T. (2018). Stereotype Content: Warmth and Competence Endure. Current Directions in Psychological Science, 27(2), 67–73.

    Schoorman, F. D., Mayer, R. C., & Davis, J. H. (2007). An Integrative Model of Organizational Trust: Past, Present, and Future. Academy of Management Review, 32(2), 344–354.

    Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.

    映画『マイ・インターン』(原題:The Intern),ナンシー・マイヤーズ監督,2015年。

    吉原珠央『「また会いたい」と思われる人の38のルール』幻冬舎,2009年。


     
     
    ◇コミュニケーションコンサルタント ◇著者(13冊・75万部) ◇医師監修ストレスケアトレーナー ◇修士(人間科学)|Waseda Univ. ◇日本認知科学会正会員 ◇国際学会(Persuasive 2026)発表 ☞dc@docommunicationjapan.com

    あなたへのおすすめ