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[エッセイ]パラボラアンテナ

人間に作られたものには必ず、何らかの意味がある。
意味なくこの世に生み出されたものなどない。

トマソンという言葉がある。
より正確には「超芸術トマソン」。
建築物に敷設された、何の役にも立たないモノのこと。
例えば、登った先には踊り場があるだけの外階段。
2階の壁面に存在するが、開けた先に床はないドア。

その階段もドアも、どこにも繋がっていない。
どこにも行けない通路なのに現に存在している、その姿はむしろ芸術作品より芸術的だ、という発想だそう。

あまりにも無意味すぎる、これらのトマソンにだって、元々はそこに敷設された意味があったはずだ。
たまたまその存在意義の方が先に失われただけで。
老朽化であったり、建て替えであったり、文化や技術の進歩であったり、時間は無慈悲に彼らを置き去りにする。

だが、今や無用の長物と言われようとも、その生まれた意味は消えない。
いつか役に立つときが来るはずだと、その時を待ち続けているのかと思うと、いじらしさや愛おしさすら覚える。

自分は、小さい頃からパラボラアンテナが好きだった。
あのお椀型の特徴的なフォルムに、中心から伸びるアンテナ、もしくは副反射器は、宇宙SF的な造形で凄くカッコいい。
あれを見ると「絶対にビームが出る」と思うのは、間違いなくゴジラに立ち向かったメーサー殺獣光線車の影響だ。

意識してマンションや戸建てを観察してみると、パラボラアンテナがそこそこの割合で付いている。
ベランダに設置されているものと、意外に多いのが戸建ての屋根で、テレビの受信アンテナとセットになっている。
こころなしか新築や築浅の家ほど付いてないように見えるから、おそらく地デジの移行期にセットで付けたものが多いのだろう。

しかし、家庭用のBS放送受信用のパラボラアンテナは、ケーブルテレビやインターネット配信の普及によって、急速にその役割を終えつつあるという。
ベランダに付いているが、最近はBS放送を見ていない、という状態は容易に想像できる。

より便利なものに取って代わられ、存在意義を奪われたパラボラアンテナ。
けれど、生活スペースの外にあるので邪魔ではないし、撤去するのも面倒だ、くらいの理由でそのまま据え付けられ、今日も空を向いて、遥か彼方から降り注ぐ電波を受け続けている。
たとえ受け取った電波を、誰も受信していないとしても。

これを、いじらしさと言わずなんと言おう。
二階の壁についているドアが超芸術トマソンならば、廃屋のベランダにあるパラボラアンテナは、超情緒エモーショナルトマソンだ。

幸いにも、パラボラアンテナという機材そのものの価値はまだ失われていない。
気象などのレーダー施設や、衛星通信の分野ではまだバリバリの現役だし、携帯電話の中継局はパラボラアンテナがほぼ必須だ。

更にStarlinkみたいな民間の衛星インターネット通信でも、受信装置はパラボラアンテナなのだ。
衛星インターネットが普及していけば、家の屋根にはパラボラアンテナが当たり前、という光景も十分にあり得る。

しかし、その役目が完全に終わったものも存在する。
主に鉄道会社が設置した、無線通信用のパラボラアンテナだ。

電車の行き先には電話線が通っていないところもあったから、本社や他駅との業務連絡のために、パラボラアンテナを介した固定無線通信回線が作られた。

そうしたパラボラアンテナ通信網は、スマートフォンの基地局の増加や、光回線の普及によって、その多くが廃局ないし使用停止しているそう。
鉄道会社の本社ビルに据え付けられた巨大なパラボラアンテナは、今や電波を受けることすらない。

しかしあれだけ巨大な構築物、しかも企業によって作られたものが、撤去されることなく残されているからには、それ相応の意味があるはずだ。
我々が知らないということは、普段は意識する必要もない事なのであろう。

それは多くの場合、災害などの危急の事態への備えだ。
いち企業として、また鉄道という市民生活のインフラを守るものとしての使命が、巨大パラボラアンテナに存在意義を与えているとしたら。

考えられることはただ一つ。

日本に大怪獣が襲来した時の備えだ。

「南太平洋より大怪獣出現、日本へ上陸の兆しあり。
海岸線及び進行予測地域の住人へ、可及的速やかに避難指示をすべし」

この第一報と避難勧告は既存の通信網で伝えられるだろうが、大怪獣による破壊が始まれば、ケーブルで繋がっている通信網は寸断され、孤立化していく可能性が極めて高い。
しかし、通信衛星を介した無線通信においては、受信装置、すなわちパラボラアンテナが生きていれば通信は可能だ。

パラボラアンテナは中継局の役目もある。
大怪獣対策本部からの衛星通信を、もはや無用の長物、超芸術的トマソンと嘲られていた、地方鉄道会社の屋上にあった巨大パラボラアンテナが受信し、周囲の家庭用パラボラアンテナに中継していく。

「大怪獣接近、各機の奮闘に期待する」

地響きと共に現れる大怪獣。
各家庭のパラボラは、中継局から発信された迎撃信号を受け、一糸乱れぬ挙動でそのお椀型の胴体と、アンテナないし副反射器を怪獣に向ける。
もちろん、彼らはただの機械で、そこには何の感情もない。
ただ、生まれた時に与えられた存在意義を、全うする。
住人はよそに避難した後だろうし、数秒後には建物ごとなぎ倒され踏みつぶされるとしても、関係ない。

そして。
大怪獣に向けて、一斉に放たれる超情緒エモーショナル殺獣光線。

大怪獣の脅威が去り、崩れた街並みの中で、いったい何人がその事実を顧みるだろう。
自分たちの思惑で本来の役目を取り上げ、何の役にも立たないトマソンにしてしまったパラボラアンテナたちが、自分を守ってくれたのだと。

エンディングテーマにはぜひ、崩れた建物を片付ける人たちをバックに、BUMP OF CHICKENの「K」を流してほしい。
誰か一人くらいは、飼い主のために命をかけて走った黒猫になぞらえて、もう動かないパラボラアンテナに「聖なる騎士Holy Knight」の名前をつけてくれることを祈って。


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