
老犬の眉間に消えし石鹸玉
シャボン玉は5秒で消えた。3秒で消えるものもあった。8秒耐えたのもあった。しばらく観測してた結果平均5秒くらいだと感じた。桜を見に来たはずなのに気づけばシャボン玉に見入っていた。桜よりシャボン玉のほうが久しぶりな気がする。
これらのシャボン玉は私と同じように桜を見に来たであろう二人が創り出したシャボン玉だった。二人で交互に創り出している。そして二人で行方を追っている。微笑ましい気持ちになった。
シャボン玉観測結果の弾け時間平均5秒ってのは予想してたくらいの長さで、なんの意外性も無かった。
なんの意外性も無い。
そんな平穏な人生であったならどれだけ良かったろうか。
娘も孫も妻も仕事も失った。悲劇の主人公になるつもりなんてなかった。なりたいだなんて願ったことなんて微塵もなかった。
逆のことは毎年願った。娘も孫も妻も仕事も平穏で居てくれれば良い。それだけを毎年強く願ったのに、叶えられたのは逆のことばかりだった。
長い間そんな世の中を怨んだ。なんで私ばかりなんだと嘆いた。だけど悲しいことにこういった感情さえも時間が溶かした。
私は悲しむことに飽きた。
私の隣には私くらいに老いた愛犬が私と同じようにシャボン玉を見つめている。
風が吹いて、シャボン玉の一つが愛犬の眉間まできて弾けた。愛犬は驚きワンと吠えた。ワンと吠える様を久しぶりに見た。
愛犬にはまだワンと吠える元気があることが意外だった。
私にはまだワンと吠える元気のある愛犬がいてくれている。
シャボン玉は平均5秒で壊れていて、桜は秒速5センチで落ちている。
私は平均何秒で死に近づいているんだろうか。
その答えだけは知りたくない。
さあ、散歩の続きをしようか、全て忘れてしまう前に。