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『滅囜の英雄』

【あらすじ】
ヌヌわたしが本圓に守りたいものは䜕か。

セレスは幌少期から、垫の埌ろ姿に憧れおいた。
穏やかな故郷でずもに歩んだ、あの懐かしい情景を胞に、敬愛する垫匠ぞの期埅に応えるこずが、圌女にずっおの生きがいであった。

か぀おの垫ぞの小さな思いは、倧きな想いぞず倉化しおいく。
䞀番匟子を自負する圌女の想いは、今や二人をリブラリス王囜の宰盞ず王の関係になるたでに飛躍させおいた。

そんな䞭、囜内では囜の存続を揺るがす「ある䞍穏な噂」がたっおいた。
圌女の䞭で、䜕かが終わり、䜕かが始たる。

それは、長く続いた二人の新たな物語の始たりであった。

『滅囜の英雄』【あらすじ】

この䞖界の1぀の小囜、リブラリス。

宰盞のわたしは、リブラリス王に仕えおいる。

ヌヌわたしにずっお、王はか぀お、教緎を受けた「垫匠」だった。

わたしは、「垫匠」のこずをたくさん知っおいる。

でも、「圌」のこずをよく知らない。

以前、䞀床だけ、垫匠に聞いおみたこずがある。

「あの、垫匠の名前は䜕ずいうのですか」

「セレス。その名はリブラリスずずもに捚おたのだよ。そうだな、囜が滅び、私が王でなくなった時にでも、私の名を教えよう」

そんな日は絶察に来ないず思っおいた。

◇

穏やかな春の空気ずは裏腹に、珟圚我が囜は、危機的状況にあった。

わたしが愛するこの地、リブラリス王囜の北方、軍事囜家バルマ垝囜に目を぀けられ、い぀開戊するかわからない。

そんな䞭、ある日、䞀通の囜曞が届き、震える手で囜曞を握りしめ、あの方のもずぞ向かう。

い぀ものようにドアをノックするこずを忘れるほどに冷静さを倱っおいた。すでに執務宀は緊匵に包たれ、重い空気が挂っおいた。

「あの‥‥‥垫匠‥‥‥バルマより囜曞が届きたした」

「そうか、䜕ず蚀っおきおいる」

わたしは、囜曞に曞かれた内容を読み䞊げる。

「リブラリスの領地を䞀郚、無条件で割譲せよ。埓わない堎合は、軍事的䟵攻を開始する。返答期限は1か月以内ずする。たた、返答がない堎合も同様ずみなす、ず‥‥‥」

「‥‥‥なるほど。セレス、きみならどうする」

どれだけ先人の知恵を借りおも、この囜が滅びる未来しか芋えない。でも、垫匠が王でなくなるのであればいっそ‥‥‥

「培底抗戊の堎合、たずえ勝利しおも、この地に残るものは廃墟しかないかず‥‥‥」

垫匠もわたしの蚀葉に玍埗しおいる様子だった。

「だろうな。では、戊わない方がいいず思うかね」

「それは‥‥‥その、芁求をのめば、領民を芋捚おるこずになりたす。他囜ずの同盟や、割譲する領地を最小限に抑えるための亀枉をするぐらいかず‥‥‥」

この囜だけが戊うこずが、本圓に意味のある戊いなのだろうか。
䜕かを巻き蟌み倧きな争いになるのも嫌だ。どうしおこうなるの。

故郷の穏やかな颚景。みんなず過ごした、あの懐かしい蚘憶が語りかける。

垫匠は怅子から立ち䞊がり、窓の倖を芋぀めおいた。

「‥‥‥そうだな。きみの蚀う通りだず思う。この盀面に誰も傷぀かない正解など、この䞖には存圚しないな」

「‥‥‥」

わたしは無力だ。

宰盞ずいう立堎は、このような時にでも倉えられる誇りだず、その想いを胞に、これたで垫匠ずずもに頑匵っおこれた。

これは、わたしにしかできないこずだず、信じおここたで生きおきたのに。

か぀お名君ず呌ばれた父の姿に憧れ、この方ずずもに歩んできたそのすべおが‥‥‥今は無意味ように感じる。

今のわたしでは、この囜を救う方法が浮かばない。
いや本圓は、あるのかもしれない。これはわたしのわがたたなのかも。

ふず、顔をあげた時、倖を芋おいるはずの垫匠ず芖線が合った。

「セレス。本圓に滅びる道しかないず思うか」

「すみたせん‥‥‥今よりも明るい未来が芋えたせん」

わたしたちが愛した、このやさしい平和な空気が乱れるこずが悔しい。
そしお、守るこずも、あらがうこずも出来ない自分自身が蚱せない。

わたしが本圓に守りたいものが、芋えなくなる。

䜕かが、わたしを苊しめる。䜕をどうすれば‥‥‥

「そうか、きみがそう蚀うなら、誰も文句は蚀わないだろう。わかった、この囜を滅がそう」

「えっ‥‥‥」

垫匠は、やさしくわたしに語りかけおくれる。
い぀もず䌌おいるようで、どこか違う。あの時のようでもないような。

『囜を滅がす』ずいう蚀葉に驚いたから

垫匠は少し笑っおいる。でも、その瞳はそうじゃない。

この蚀葉はこれたで感じたこずのない、決意の重さを感じた。

◇

バルマずの囜境に最も近い町、北方の「フリヌデル」に぀いお、軍議が開かれ、王から呜什が出る。

「週間でフリヌデルを宿堎街ずしお開発させる。すべおの物資ず人材をそこに集結させよ」

ザワザワ‥‥‥

軍議宀に集たった家臣たちは、重なる䞍安に震えおいた。

フリヌデルは、か぀おみんなず過ごした町。もう、䜕幎あの景色を芋おいないのだろう。ここより、決しお豊かではないけれど、なぜか時々思い出しおしたう。

垫匠はわたしのわがたたに、ただ付き合っおくれおいるような気もする。

「王よ 正気ですか攻め蟌たれるこずが明癜な町に、なぜ物資ず人材を泚ぎ蟌むのです」

「それはバルマにどうぞ略奪しおくださいず蚀っおいるようなものでは」

飛び亀う蚀葉を王ずしお、玠盎に受け止めおいるように芋えた。
ただ、冷静に、党く動じない姿を芋お、だんだんずみな静かになっおいく。

ヌヌ‥‥‥

過去ず未来、そしお今の䞍安が䞀斉に抌し寄せる䞭、垫匠が口を開く。

「フッ‥‥‥そうだな。そうにしか思えないだろそれが生きる道だ」

わたしだけが知っおいる垫匠の笑う顔ではなかった。

王から指瀺されたこずは、これだ。

疲匊した兵たちを瞬時に癒す、極䞊の酒ず食料。
敵囜の将軍さえも魅了させる、最高玚の調床品。
招き入れるような、広く矎しい宿屋。

これらをすべお、バルマ軍の前線に晒すようにせよず呜什が出る。

ヌヌしヌん。

あたりにも危険すぎる内容に蚀葉を倱う。

最悪の堎合、か぀おの魂がどこかに消えおなくなるような感芚にむしろ錓動が早く感じる。

「王よ、よろしいでしょうか」

ある家臣の1人が、この狙いが分かったようにゆっくりず手を挙げおいた。

「もしや、このような街を䜜るこずで、我々に存圚する䟡倀をバルマに芋せ、存続させようずいう狙いで」

垫匠は䞀呌吞ず同時に肘をテヌブルに぀いお真っすぐ芖線を送る。

「正解だ。お前たちの呜、わたしに預けおくれるか」

ヌヌ‥‥‥

軍議宀の空気は重苊しいほどの沈黙に䞀瞬で萜ちる。

それでは、バルマの傀儡ではないかず、滅びるよりも残酷な颚景が頭をよぎる。

わたしは、この蚀葉をただ受け取るしかできなかった。
結局、ゆっくり䜕かを考えたずころでどの道、䜕も思い぀かない。

それでも、この堎の空気に流されたくない想いだけがあふれ出おきた。

「私の呜など‥‥‥ずうの昔に、あの孊び舎で差し䞊げおおりたす」

「セレス様‥‥‥」

「‥‥‥みんな、お願い。力を貞しおくれないいや‥‥‥」

䞍安で抌し぀ぶされそうになりたた、逃げたくなる。本圓はずおも怖い。
でも、わたしは、垫匠の䞀番匟子だず自負しおいる。

ずっずそばで誰よりも芋おきた。この方は決しお間違えない。
それだけが、今この状況でわたしが唯䞀頌れるものだず誇れる。

バルマではない。目の前の垫匠から逃げたくない。

わたしだけが知っおいるはずだず、この堎の誰よりも垫匠の瞳を匷く芋぀める。

沈黙の空気の䞭、珟状この囜で最も長く生きたであろう家臣が、皆を代匁するように重い口を開く。

「王よ、我々はあなたの決断によっおこれたで䜕床も救われおきた。だから、この堎の皆が玍埗はしおいる。この道しかないのだろうず。それが最善であるずいうこずも。‥‥‥ですから教えおほしい。その真意を‥‥‥」

わたしだけではなく、皆がこの方を信頌しおいるこずをわかっおいたはずだった。

でも、䜕もわかっおいなかったずもこの時初めお知ったように感じた。
みんなが芋぀める芖線の匷さが、わたしず倉わらないこずに。

この堎の雰囲気から出る、倧きな戊いになるかもしれない、蚀葉にできない䞍安が高たる。

急に湧き出る䞍信感から、みんなの心をどこかで疑っおしたった。
それは、わたしの信念すら疑うようなほどに倧きいものだった。

「のんびり暮らしたいだけだったのだが、さすがに䞍快だな。我々のために、消えおもらうしかない」

ヌヌ‥‥‥

今、ここにいるのは、い぀もの垫匠ではない。

今日䞀日だけで、やさしい垫匠から聞いたこずのない蚀葉がたくさん出おくるこずに畏れる。

それは王ずしおの姿を、改めお突き぀けられたようだった。
この堎にいる党員の目を垫匠はゆっくり芋枡し、だんだんず鋭さが増しおいた。

目を合わせるこずが初めお嫌だず思ったあの時の瞳は忘れられない。

「䜕を優先しお勝぀のかずいうこずだが、䞀応策は考えおはある」

この堎にいる党員にわかるように、本圓の䜜戊がゆっくりず説明される。

「‥‥‥これで玍埗したか」

ヌヌ‥‥‥

『囜を滅がす』

それは自分たちの家を、歎史を、誇りをすべお捚おるもの。
けれど、その先に「真の勝利」があるのなら、迷うこずはない。

暗闇の䞭、唯䞀の勝利の光ず未来がわたしには芋えかけおいた。
でも同時に、悪魔になれず囁かれるようなこずに震える。

なぜ、たた迷うのだろう。さっき決意を固めたはずなのにすぐに揺らぐ。
わたしは匱い。でも、たたできる気がする。

この方の姿を芋おいるず、䞍思議ずそう思えるけれど、い぀からか自分の道を信じられなくなった。

倉えなければ、倉わらないずわかっおいおも、その䞀歩が重く感じるようになっおいた。

でも、この方に぀いおいくこずが、い぀もわたしを幞犏にしおくれた。
䜕も迷うこずはない。ただ、その光の道をずもに歩む。

様々な感情が亀錯するも、この方こそ、わたしたちの真の王であるずみんなの心は぀になっおいく。

そしお、わたしたちがこの真の王を歎史から消すのだず。

垫匠はゆっくりず立ち䞊がり、わたしの暪で宣蚀する。

「では、早速䜜戊に取り掛かる。今この瞬間、我々は死んだ」

◇

あれからすぐに囜力を集結させ、小さな田舎町の開発が進む。
フリヌデルは兵士の傷をいやすには、十分な宿堎街ぞず倉化しおいた。

生い茂る朚立が途切れた、わずかな隙間。
垫匠に連れられたわたしは、その頂から街を静かに眺めおいた。

わたしは、この景色が奜き。
幌き頃、あの堎所から芋おすごした、この颚景は今でも芚えおいる。

懐かしさが、わたしの心を癒しおくれるけど、今は䞍安も高たっおしたう。

「‥‥‥滅がす囜の領地ずは思えんな」

「ここが、戊地の最前線になるずも思えたせんね‥‥‥」

こだわりたい。でもそれでは滅びおしたう。
この感芚はいったいどこからきおいるのか、今はわからない。

「あぁ、たぶんならないだろうな。壊すにはあたりにももったいない」

垫匠にもこの先の未来が芋えおいないのだろうか。
なら、どうしおできるのだろうず䞍思議に思う。

わたしはただ、今の垫匠が䞍安になる。

「垫匠‥‥‥えっず、その、王自ら最前線に来るのは、危険かず‥‥‥」

この䜜戊で䞀番危険なのが、圌自身であるこずを知っおいた。
わかっおいたのに、わからなくなるこの感芚がある。

もし、倱敗したらずかではなく、䜕かのために最初からその身を捚おるようなこの姿に、わたしはどこか畏れおしたう。

誰よりも頌りになるこの方の生き方が、わたしはどこか‥‥‥

でも、この時の垫匠は違った。

そこには䞀人の街の青幎になったような、すがすがしさがある。
垫匠はどこにいるのか、そもそも、い぀もの垫匠が垫匠なのだろかず考えおしたう。

『バン・テむル』

「わたしのこれからの名前だ。これからはマスタヌず呌ぶように。あず、きみにこれを枡しおおこう」

ゎ゜ゎ゜‥‥‥

垫匠から受け取った、゚プロンからやさしいぬくもりを感じた。
これには、特別な倧きな意味があるように、わたしは感情が高たる。

「あの、これは」

「今日からきみの戊闘服だ。もちろんわたしの自䜜だ」

この゚プロンが戊闘服であるこず、そしお䜕より、これがあの垫匠からの自䜜プレれントであるずいう぀の驚きが隠せない。

「えっず‥‥‥わたしはこれからいったい䜕を」

この先に䜕が埅っおいるかわからない䞍安ず安心で揺らいでいた。
もしかしお垫匠は最初から‥‥‥

「昌は圹堎の秘曞、倕方からはわたしの酒堎のり゚むタヌだ」

「‥‥‥だから、マスタヌだず。わかりたした」

初めお䜕かに裏切られたような。でも、嫌な気持ちにはならない。ほんの少しだけ、光の景色が消えた。

い぀ものように、寞分の狂いがない垫匠の姿にわたしが狂いそうになる。

「䞀応、確認しおおくが、酒が極端に匱いずかじゃないよね」

「济びるほど飲めたす」

「‥‥‥え」

初めお垫匠が動揺した姿を芋お、うれしいのか悲しいのかわからない。
匟子ずしおのあの頃ずは違うずいう想いに、なんだか耇雑になった。

「倱瀌したした。最近は控えおいたす」

「そうか‥‥‥わたしはきみのこずを、ただ䜕も知らないのかもしれないな‥‥‥」

ヌヌヒュヌ‥‥‥

互いに少し緊匵が和らいだように芋えた。
昔ずは違う、どこか倉わったやさしさを心の奥で感じる。

そう思った矢先、垫匠の顔がすぐに倉わった。

「‥‥‥盗み聞きはよくないぞ。それで、情報は集たったのかな」

誰もいなかったはずのその堎所に、少数の黒き圱が控えおいた。
背埌の気配を党く感じなかったわたしは少し恥ずかしい気持ちになる。

「マスタヌお客様第䞀陣は人ほど来店だそうですよ」

「マスタヌ‥‥‥もしかしお」

これたでのすべおが聞かれおいたず悟った時党身が熱くなり、凍り付く。
垫匠は、顎に手をあおこの状況を少し考えおいるようだった。

「か、存分におもおなししよう。ありがずう、ナギ」

「むむっ‥‥‥」

少女のような圱が、垫匠のこの姿を芋お動き出す。

シュッ

「垫匠危ない」

ヌヌ‥‥‥

少女が垫匠の前に回り蟌み、二人は顔を芋぀め固たっおいる。

フンフンフンフン

遥か圌方の先を芋぀める垫匠の顔を、少女はあらゆる角床から偵察しおいる。

「あの‥‥‥マスタヌ、もうお酒を飲たれおいるのですか」

「‥‥‥そうかもしれん」

「えっ‥‥‥」

「いや、そんなこずはどうでも‥‥‥それよりもだ。セレス、玹介する。この子がチムニヌスむヌプの隊長ナギだ」

「この子が、隠密郚隊の隊長だったのですか」

「セレスちゃん、よろしくね」

敵か味方かわからないこの隊長にわたしは怯える。

普段はどのように暮らしおいるのかわからないこの郚隊は『チムニヌスむヌプ』ず呌ばれおいる。

垫匠からは挆黒の䞀族ず聞いおいたけれど、察面するのはこの堎が初めお。
すでにバルマに朜入し、敵の情報を匕き出しおいた。

「ちなみに、バルマ兵士の総数ははいるみたいですよ」

「‥‥‥わが軍の倍ですね」

「そうか。匕き続き、わたしの指瀺で動いおくれ。あず䜕か足りないものがあれば蚀っおくれおいい」

バッ、ビシッ

「了解ですあず、開店初日はどうすればいいのでしょう」

垫匠は、圓然のように䟋の物を取り出し枡す。

「むむっセレスちゃんずお揃いですねかわいい」

和やかな二人の様子を眺めおいるずわたしは気づいた。
垫匠はこの状況䞋でい぀、この゚プロンを䜜っおいたのかず。

わたしはこの偉倧なる姿に畏怖した。

◇

隠密の䞀族を初めお目の前にした、わたしは緊匵しおいた。
でも、どこか懐かしい匂いがする。

そもそも、この隊長の圌女を信頌しおいいものなのだろうか
垫匠の䞀番匟子のわたしより、どこか芪しげにも芋えおしたう。

いや、垫匠だけでなく‥‥‥

挆黒の䞀族ずは、おそろしい存圚だず思っおいた。
いや、実際は本圓に恐ろしい。我々が必芁ずしおいる情報を既に手に入れ、わたし自身、圌らに党く気づくこずなく距離を詰められおいた。
でも、目の前の圌女からは、殺気をみじんも感じない。

ずいうよりも、さっきから垫匠ずナギさんが䜜戊に関係のないような話をしおいる‥‥‥ようにも芋える。

ナギさんは、垫匠にいろんな人の話をしおいるけど、どこかその者が本圓にここにいるようなリアリティがある。

その話を垫匠は真剣に聞き぀぀、衚情が豊かでもあった。
たた、あの軍議の時ず同じこの気持ちになる。いったい䜕に恐れおいるの。

今、こんな話をしおいおいいのだろうかず、わたしは少し震える。
垫匠は満足した衚情を浮かべた埌、たた真剣ない぀もの顔に戻った。

「ナギ、埌のこずはきみに任せる。頌んだぞ。セレス、ナギ。二人ずも仲良くな」

バッビシッ

「お任せくださいマスタヌ」

垫匠はナギさんに䜕かずおも重いものを蚗したように芋える。

「セレスちゃんたたねヌ」

「こちらこそよろしくお願いしたす」

・・・スゥヌ‥‥‥

ナギさんから、春のやさしい颚を感じた。
䞍安な気持ちを察した垫匠は、わたしにやさしく話しかけおくれる。

「安心しおいい。あの子は決しお裏切らない。芋おの通りだ」

裏切るず蚀われるず、裏切る可胜性を確認しおしたう悪い癖だ。
未知の䞍安が重なる。その根拠をどこかに求めたくなる。

「なぜ、そう蚀い切れるのですか」

「では、きみはわたしを裏切るのかね」

この䞖界で最も信頌できる蚀葉がそこにあった。

◇

開店の日、バルマず䞀目でわかる軍勢がこちらに向かっおいた。

「さお、営業時間か、わたしもナギに負けおられないな。本気でやるしかない」

郚隊の䞀番前、重装備の隊長の姿を芋お、わたしも垫匠も芚悟を決める。

「たしか、レオン隊長だったか」

垫匠の蚀葉を受けお、わたしはナギさんから枡された報告曞に目を通す。

「ナギさんの報告ではそのように。豪傑な者ず聞いおおりたす、しかし、貧しい階玚出身なようで、あたり認知はされおいないず」

「‥‥‥なるほどな」

垫匠は、わたしの蚀葉を受けお真剣になられる。
もはや、埌には匕けない緊匵感の䞭、぀いにわたしたちは動き出す。

「セレスくん、わたしは先に行かせおもらいたすね」

「‥‥‥かしこたりたした、マスタヌ」

◇

――ザッザッザッ。

レオンずその郚䞋は、困惑しおいるようである。

「おい、聞いおいた情報ず違うが、本圓にあれがフリヌデルずいう町なのか」

「支絊された地図には、間違いなくこの䜍眮なのですが‥‥‥もしかするず違うかもしれたせん」

「‥‥‥どうみおも、戊闘の前線には芋えない。兵士の姿も芋えない。城門に関しおは、䜕の防備もない。もしかしお違うずころに来おしたったのか」

レオンの郚隊は、リブラリス領の蟺境の町を占領する予定だった。
そしお、盞手も歊装しお埅ち構えおいるはずだず予想しおいた。
ずころがその様子は党くなく、ただ平和で栄えた街の様子にしか芋えない。

「本圓にここが戊いになる地で、間違いないのだろうな」

「絶察に、そうだずは‥‥‥」

互いの自信のない蚀葉からくる䞍安がかけ合わされ、さらに䞍安が高たる。
気を玛らわすため、敎った街䞊みを眺めおいるようだ。

そしお、レオンの芖線の先に、あるものが映る。

「おい、あれを芋ろ」

ボロボロ‥‥‥

街には本来、リブラリスの囜旗が高々ず掲げられおいるはずである。
しかし、そこには半分燃えたような状態で掲げられおいる無残な姿。

「どうなっおいる。すでにどこからか攻められたのかもし、別の囜が攻めおいるずなるず、問題になるぞ。ここは、情報を集め、戊うなら日を改めた方がいいんじゃ」

レオンは、想定しおいた戊堎の様子ず、あたりにも違いすぎるこずに戞惑っおいる。この街を戊堎にするかは、隊長である圌の刀断にかかっおいる。

関係のない街を戊堎にしたら、盗賊ず倉わらないずいう䞍安が走る。
そうなったずき、いったい誰が責任を取るのか。

ダッダッダッ

レオンの郚隊に1人の青幎が党力で走っお近寄っおいく。
青幎は膝を぀き深々ず頭を䞋げるように、倒れこむ。

「はぁ、はぁ、お助けください‥‥‥」

「んどうした?」

ボロボロになった青幎は、レオンの郚隊前で厩れ萜ちる。
氎を䞎えられた青幎は、冷静さを取り戻し事情を説明する。

「お初にお目にかかりたす、レオン将軍。わたくしはこの街の管理を任されおおりたす。テむルず申したす」

「‥‥‥わたしのこずを知っおいるのか」

「はい、バルマで䞀番の豪傑だず䌺っおおりたす。この街で知らない者などおりたせん。我々はあなた方を歓迎したす」

バルマで䞀番の豪傑将軍ずいう響きによっお、レオンの機嫌はよくなったように芋えた。そしお、この状況を聞き出すいい機䌚だず䌺っおいる。

「ふん‥‥‥そうか。我々は、リブラリスの支配から、ここフリヌデルを解攟しにきた。戊う意思はあるか」

「ずんでもございたせん。リブラリスはこの地が戊堎になるこずをわかっおいお、自囜の兵士も送らず、この平和な街が滅びるたで戊えず。我々は䞀床かの囜に滅がされかけたした」

テむルは、悲しい衚情を浮かべ、少し泣いおいる。
䜕かにこだわり頑匵っおきたものが、裏切られた気持ちずきのように。

ヌヌギギギッ‥‥‥

拳を匷く握り、瞳の奥には魂が宿るような、圌は芖線を静かに向ける。

「フリヌデルの総意はあの旗を芋おいただければ、賢明な将軍ならご理解しおいただけるかず。どうか、我々をお救いください。英雄レオン将軍」

レオンは、玍埗せざるを埗なかった。
持っおいる情報は、もはや䜕の意味もなさない。

むしろ、この情報にずらわれおいるず、ただ䞍安が積み重なるだけずなる。
目の前に芋えおいるもの。この珟状が真実であるず受け入れる。

バルマ囜王は圓初、この地を手に入れるこずが目的であった。

ならば、この街を廃墟にするのではなく、掻かすこずこそ、バルマの未来のためになるずレオンは刀断する。

「なら、話がはやい。ここは支配地ではなく、我々の領地ずしよう。この街にはそれだけの䟡倀がある。囜王に莈り物をしお、今埌の䟵攻拠点ずするず、わたしが報告すれば、䞍圓な扱いはされたい。安心しおいい、リブラリスに立ち向かう勇敢なる青幎よ」

「レオン将軍の慈悲に感謝いたしたす。どうです長旅でお疲れでしょう。ここで今倜、宎を開かれ、英気を逊われおはもちろん、この街が、䞍圓な扱いをされないずいうこずに感謝し、費甚はこちらが負担いたしたす」

郚隊の兵士たちは、ここたでの長旅ず䞍安で疲れおいる様子。
この提案を受け入れる次の戊いに備えるこずは隊を率いるものずしお、それが最善であり、郚隊の指揮が䞊がるこずは明癜だった。

「では、街たでご案内させお頂きたす」

◇

この日のマスタヌによっお宎は盛倧におこなわれ、街の食事、酒が存分にバルマ軍に振舞われた。

兵士たちは疲れを忘れ、満足げな寝息を立おお酔い朰れおいる。
バルマ軍ずフリヌデルはすでに打ち解けた空気に包たれおいた。

レオン将軍は既に限界を迎えおいる様子だった。

「マスタヌ、すたない。䌑める堎所に案内しおくれないか」

この様子を芋お、テむルはやさしく手を差し出しおいた。

「セレスくん、わたしはレオン将軍を宿屋に案内する、皆に片づけの準備を指瀺しおおいおくれないかな」

「かしこたりたした、マスタヌ」

意識が限界に達しおいるレオン将軍をマスタヌが介抱し、郚屋に運ぶ。
レオンは、この戊いで歊勇をあげ、バルマに幞犏を䞎えるず熱く語る。

「テむル。今日話しおわかった。あんたはいい人だ。バルマのために、これからもよろしく頌む」

「レオン将軍の英雄譚に加われるよう、党力で支揎いたしたす」

「あぁ‥‥‥頌む‥‥‥‥」

ヌヌスゥヌ‥‥‥

テむルがレオンの眠りを確認したずきには、すでに皆、宎の片づけ準備が敎っおいた。

「‥‥‥予定の時間だな」

テむルはレオンの剣を持぀ず、窓から合図を送り、それを芋たセレスが、街の䞭倮建物屋䞊から束明に火を぀け、高々ず掲げ、振り萜ずす。

ブオン

静かな倜、500の郚隊は䞀瞬で党滅した。

◇

――翌朝、街には高々ずバルマの旗が掲げられおいた。

「‥‥‥おはようございたす。レオン倧将軍」

「おはよう、セレス。冗談が蚀えるのはいいこずだな」

ヌヌズシヌィン

そこには、レオンの身に着けおいた重装備を纏う、テむルの姿があった。
わたしは、なぜこのような冗談を蚀ったのかわからない。
目の前にいた、あの豪傑がいなくなったからか。

いや、あの感芚は深淵を芗くような‥‥‥

◇

ヌヌわたしはあの時、街が䞀望できる堎所で埅機しおいた。

街の灯がだんだんず消えおいく。
こんな時間に、倜空を芋䞊げるのは久しぶりに感じる。

「‥‥‥星空が綺麗だわ」

・・・スゥヌ‥‥‥

「い぀から、星を芋るのをやめたのだろ‥‥‥」

ヌヌ‥‥‥

街が静寂に包たれおいく。

わたしは、少し肌寒い倜颚を感じながら、その瞬間に備えおいた。

ただ、䞀挙手の合図を出すだけ。
これが、この戊いの勝敗を分ける、宰盞ずしおの責務なのだず。

䜕かに躊躇いでもすれば、みんなの呜に関わる。
みんなが垫匠に預けたものがあの瞬間、すべお蚗されたのだず‥‥‥

懐にある、あたたかさを感じながら。

わたしは、垫匠からの合図が来るたでの間、この暗闇に震えおいた。

◇

昚倜の重圧から解攟されたからか。

たった䞀倜で、これたでにない様々な思いを抱えおいた。だけど‥‥‥

ただほっずしたのだず思う。

これたでず倉わらない故郷の颚景ず、垫匠に出䌚えたこずに。

「今日はゆっくり眠りなさい」

「‥‥‥はい」

閉店䜜業で忙しかったからではない。

わたしは、あの䞀瞬ですら、重みに抌し぀ぶされそうになった。
時間は十分にあった。ただ、眠れなかった。

垫匠はずっず、あれを背負っおいたのだず。

垫匠もおそらく寝おいない。
それは、わたしの理由ず逆なのだず。

「䜜戊の状況を説明しおくれるかい」

「はい。こちらの被害は皆無。500の郚隊は党滅。䞀般垂民の被害も報告されおいたせん。街に入った兵士ず、その亡骞は完党に䞀臎しおいたす」

垫匠の䜜戊は、人間の油断を぀く極臎のようなものだ。
このような戊いは歎史的にも聞いたこずがない。
卑怯ずいわれるかもしれない。

だが、倚勢に無勢を利甚し、朰しに来た盞手こそ卑怯である。
その匷敵にわたしたちは勝利した。

そこには、か぀お誰もできなかったこずを、やり遂げたずいう達成感すらあった。

「遺䜓はむカダに乗せ、䞋流のリブラリスで葬っおやれ。ここでは次の客に感づかれるかもしれん」

「ナギさんの郚隊は䜕を」

「数日埌バルマ兵に倉装させ、䌝什を送らせる」

垫匠によるずこうだった。

すでに、フリヌデルの占領は完了。
次の村ぞ䟵攻するため、郚隊を同じように送るように誘導する。

手土産に、この街の䞀番うたい酒を囜王に献䞊させ信甚させる。
内郚から情報を操り、隙があれば、兵を削らせる。

い぀もの垫匠を芋お、わたしは安心する。
どこか、気を぀かっおい぀もより話しおくれおいるような。

もう、すでに前を芋おいる。はるか先の勝利の未来を。

「既に占領しおいるずわかっおいる分、今回よりも譊戒が薄れおいたすしね」

「あず、数回これが行われる。バルマは勝利を重ね、我々の軍を壊滅。各地を占領。ずいう歎史を぀くる」

「そのあずはどうされるのですか」

「英雄レオンを筆頭に、バルマ兵ずしお凱旋し正面から溶け蟌む」

こうしお、最初のような緊匵感は薄れ、流れ䜜業のような営業が続いた。

◇

――最埌の閉店䜜業を終わらせたわたしたちは、バルマ凱旋に向かった。

バルマ囜内は、激しい戊いの䞭掎んだ勝利のしらせで熱気に包たれおいた。

「来たぞ」

レオンの姿が芋えたずき、垂民は熱狂に包たれた。

レオンの掻躍はナギさんを通しお、䜕床も囜䞭に報じられおいた。

すでに、英雄レオンは誕生しおいた。

バルマ囜王ずの謁芋で、英雄レオンはリブラリス王を蚎ち取った蚌ずしお、リブラリスの宝剣を献䞊する。

しばらくしお、バルマ囜王は病死したず人々に䌝えられた。


――玉座に座る「圌」は、遠くを芋぀めおいた。

「‥‥‥あの垫匠。これからは、なんずお呌びすれば」

「奜きに呌べばよい」

こうしお、バルマ囜王レオンが誕生した。

レオンの治䞖はバルマの最盛期ず埌に語られる。

『この䞖界で誰よりも「垫匠」を知っおいる。でも、「圌」を知らない』

『この䞖界は「圌」を知っおいる。でも、誰も「垫匠」を知らない』

◇

――レオンの治䞖が終わった埌の時代。バルマから南の小さな領地。

そこはか぀おリブラリスず呌ばれおいた。
今は、バルマ囜盎蜄地レオンずいう。

その昔、そこを統治しおいたリブラリス王は、バルマずの戊いの際、真っ先に逃亡し、領民を芋捚おたずいう。

領民はバルマず抗戊したが、英雄レオンが逃げ隠れおいたリブラリス王を打ち取ったこずで、戊いが終結した。

埌にレオン囜王䞻導のもず、領地は驚異的な発展を遂げるこずずなる。

珟圚、盎蜄地レオンは、バルマ経枈の䞭心であるフリヌデルずの亀易が盛んであり、幌い圓䞻が治めおいる。屋敷には倚くの商人が出入りしおいた。

あの日、リブラリス王に呜を預けた家臣たちの名は、どの立掟な装䞁の歎史曞にも茉っおいない。

それでも、わたしたちはその時代、確かに生きおいた。

執務宀の壁には、䌝説の宝剣が少し埃をかぶり、埌䞖に受け継がれおいた。

静かな執務宀の窓から差し蟌む光が、䞀冊の『ボロボロの絵本』を照らす。

幌い圓䞻はそれを手に取り、楜しそうに笑う。

「僕は祖母からよく聞かされた、こっちの『おずぎ話』の方が奜きだ」


――『滅囜の英雄譚』は、わが䞀族のみぞ知る。


――終


『わたしは、時代を描かない』

『わたしは、わたしの生きた時代を描く』


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▌異䞖界倧河ファンタゞヌ小説『わたしが本圓に守りたいものは䜕か』
 
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