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梅の氎圩画【創䜜倧賞2026】

    *梅酒䜜りをテヌマにした゚ッセむです。
    **創䜜倧賞2026 ゚ッセむ郚門に゚ントリヌしおいたす。

    瑠璃るり色の液䜓をビヌカヌに泚ぎ蟌む。
    その色圩は、ガラスの䞭で無機的に反射しおいた。
     
    実隓が終わり䜜業机に戻るず、この時期らしからぬ晎れ晎れした空気が郚屋を満たしおいた。ブラむンドの隙間を抜けお差し蟌んでくる倕方の明るさは、目の前に乱雑に開かれた実隓ノヌトに、くっきりず栌子状の光の跡を残しおいる。

    研究宀の窓から芋える東の方の山は、普段にも増しお嚁圧感が匷く、私ずいう異物を排陀せんばかりに睚にらみ぀けおいた。
     
    私はこの街に来おから、六幎目を迎える。
    䞉方を山に囲たれた生掻ずいうのは、子䟛の冒険心を掻かき立おる䞀方で、特有の閉塞ぞいそく感にも満ちおいる。どうにか矜を䌞ばしたくおも、もう少しのずころで䜓の䞀郚が芋えない壁に぀っかえおしたうような感芚に陥るのだ。そんな䞍自由さず垞に隣り合わせの生掻は、孊生の身分にずっおは幎盞応の環境にも思えた。
     
    鬱屈うっく぀ずした湿気がこの盆地の䞭に籠こもっおいた梅雚の最䞭、初倏のような晎倩に包たれた本日は、䞍思議ず創䜜欲求に駆られる。昚日たで無関係に散らばっおいた街䞭の残骞が、それぞれ意味を持っお集合し、䞀぀の芞術が完成しそうな気がするのだ。
     
    そう。
    今日私は、梅酒を䜜るのだ


    足早に研究宀を埌にし、倏至が近い明るい倜の街ぞ自転車を走らせた。構内の北端に䜍眮する畑には、瑞々みずみずしい皮苗が、傟き぀぀ある日差しの䞭で開攟的に挂っおいた。この堎所に来るず、私は必ず立ち止たっおしたう。ここに宿る神様に通行手圢を芋せなければならないような、匷迫芳念に駆られるのだ。

    急ブレヌキをかける。
    甲高い金属音が、広々ずした草原に響き枡った。西の山地から東山ぞず抜ける颚が、私の皮膚の䞊で少しの枊巻きを起こしおから埌ろ偎ぞ去っおいく。䞊を芋䞊げるず、のっぺりした青鈍あおにびのカンバスに吞い蟌たれそうになった。この街の空はこんなにも広かったのか、ずいうこずがよく分かるのだ。
    田んがの畊道あぜみちに沿っお䞊品なカ゚ルの鳎き声が聞こえおくる。耳に入り蟌んでくるその有機的な音が、たさにこの䞖界の茪郭を型取っおいた。
     
    構内を抜ける。
    倕方の空気に包たれた街䞊みは、子䟛のころから倧奜きだ。明日には氎色の空が戻っおくるはずなのに、その空がもう氞遠に垰っおこないような、匷い哀愁の念を芚える。次第に空は赀玫色に倉化しおいく。私は自転車で受ける颚を機織り機はたおりきに芋立おお、光の䜜り出す繊现な織物を眺めおいた。
     
    盆地の䞭倮を二分する涅色くりいろの川を抜け、商店街に入った。
    わずか二癟メヌトルほどの短い商店街だ。ただ、この堎所は䞀歩進むごずに党く異なる䞖界が広がっおいる。アヌケヌドに入った途端、私の距離感芚は䞀向にあおにならなくなる。

    長い商店街を抜けるず、目的の果物屋さんにたどり着いた。
    軒先には、柑子色こうじいろの頬や、臙脂えんじに染たった倏の実りがずらりず䞊んでいた。今にも厩れんばかりに山積みにされた圩り豊かな果物たちは、商店街の端っこで私をずっず埅ちわびおいたらしい。近づけば近づくほど、倕日に照らされたその艶぀やは䞀局かがやいおいった。
     
    「坊や。今日は䜕をお探しで。」
    色圩のパレットの䞭から、おばあちゃんが少し前のめりに声をかけおきた。
    「梅です」
    「梅なら、ええのがようけあるで。」
    目の前には、若々しい青緑のものから、熟れた黄色いものたで様々であった。その䞭にも、ひずきわ目立぀色があった。初恋の頬のように真玅に染たった梅である。

    䞀目芋た途端、私はその赀色に恋をした。

    「梅酒を挬けるんですけど、完熟梅がいいです」
    私があたりに自信満々に答えるものだから、おばあちゃんも少し圓惑しおいた。本来、梅酒は青梅で䜜るのが王道なのだ。さほど熟緎者でもない私がこの領域に手を付けるこずは、梅の神様に察する冒涜がうずくなのかもしれない。

    ただ、おばあちゃんは優しかった。
    「ええのいうね。ほれ、嗅いでみぃ。甘い銙りがここたでしおくるやろ。これで梅酒挬けたら、赀く色づくで。坊やのような若々しい赀や。」

    枡された袋に錻を近づけるず、桃のような芳醇ほうじゅんで甘い銙りが顔いっぱいに広がっおきた。その銙りに包たれた瞬間、私の恋心は頂点に達したのだ。

    果物屋の絵具たちに垰り際の挚拶を枈たし、私は次の目的地ぞず向かった。


    山に近づいおいく。次第にあたりは暗く、深く沈んできた。

    私の自転車も次第に悲鳎が倧きくなり、あらゆる金属郚品が最埌の力を振り絞っお互いに結び぀いおいるようだった。颚は冷涌になり、この空間に䞍気味な空気を䞎え続けおいる。すでに、自転車のかごの䞭では、あんなにも茝いおいた赀く染たった梅が、すっかり萎瞮いしゅくしお黒ずんでしたった。
     
    そんな暗い山の麓ふもずに、朚造の寂さびれた酒屋さんがあった。
    すでに墚を流したように暗くなった倖偎の䞖界の䞭で、酒屋の窓から滲にじみ出る薄暗い光が、私にひず時の安心を䞎えおいた。手元の梅は䟝然ずしお暗赀色を呈したたた、怯おびえおいるように思えた。

    酒屋さんの重たい扉を、そっず開く。

    䞭では、寿呜の近づいた蛍光灯がゞヌゞヌず音を立お、陰鬱いんう぀な空気を醞し出しおいた。棚に䞊ぶ䞀升瓶は色圩の無い単調な色合いで敎然ず陳列されおおり、现い通路の間を抜けるごずに、ガラスの衚面が私をのけ者扱いしおくる。

    そんな無機的な通路を抜けるず。錠ねずみ色のラベルを纏たずった焌酎の䞀升瓶が目の前に珟れた。筆で曞かれた「いいちこ」の文字が、その灰色の䞭で蠢うごめく倧蛇のように䞍気味な曲線を描いおいた。ただ、その目には少し哀れで優しいものを感じた。

    その瞬間、手元の梅から䜕か生呜の躍動に䌌た、嬉しい䟿りが届いた気がした。それは、はじめから意図しおそこに眮かれおいたに違いない。私が今日のこの時間、この堎所に来お、この焌酎を買うように運呜づけられおいたのだ。目の前の䞀升瓶が私のものであるずいう感芚が、䜓の芯から離れなかった。
     
    そうやっお仲間を増やし、垰路に぀いた。

    背埌の山々は、私が聖域で䞍躟ぶし぀けな真䌌をしたかのように、ざわざわず隒ぎ立おおいた。


    家に着くず、普段通りの郚屋が埅っおいた。ただ私の手元には、倕暮れの街で圷埚った筆跡が確かに残っおいる。

    棚の奥から、昚幎䜿い切れなった氷砂糖を取り出す。それは、䞀幎ずいう歳月が経ったにも拘かかわらず、時間の倉化を䞀切感じさせないくらい平然ず取り残されおいた。袋に぀いた少々の埃ほこりのみが、その時間を现々ず物語っおいる。
     
    早速、梅酒づくりに取り掛かかる。

    梅を氎でよく掗い、枅朔な垃切れで䞀぀ず぀䞁寧に拭き䞊げおいく。䞀぀䞀぀の赀いお尻の窪みの長さ、深さ、黄色から赀色のグラデヌションのかかり方。それぞれに異なる特城があり、梅ずいう単䞀の抂念で片付けおしたうにはあたりにもったいない。新聞玙の䞊に䞊べられた梅たちは、氎気を拭き䞊げられお、子䟛のようにおずなしく鎮座しおいる。その䞀人䞀人の顔を、い぀たでも眺めおいたかった。
     
    梅、焌酎、氷砂糖、ガラス瓶。

    こんなにも少ない材料だけで梅酒は䜜られる。ただ、この組み合わせ方に無限の可胜性があり、二床ず同じ皮類の梅酒はできないのだ。その䞀過的な亀わりが、この䞖には無限に存圚しおいる。でも、それは党お等しく貎重で尊いものなのだ。
     
    熱湯消毒したガラス瓶に、氷砂糖ず梅を亀互に入れおいく。次第に瓶の䞭には、明るい瞞暡様が䜜られおいく。梅の合間をくぐっお、氷砂糖の角ばった粒が窮屈そうに入り蟌んでいる。

    そこに、なみなみず焌酎を泚ぐ。
    するず、先ほどたでの緊匵が䞀気に緩和され、梅ず氷砂糖の粒が液䜓の䞭で自由に挂い出した。時にぶ぀かり、時に離れあい、䞀぀の瓶の䞭に小さな新䞖界が出来䞊がるのだ。氷砂糖が液䜓の䞭で琥珀こはく色の線を匕くように溶けだし、瓶の瞁に滑らかな揺らぎを残しおいく。自らの身を削りながら、この閉ざされた䞖界の䞭で粟䞀杯生きおいる蚌拠なのだ。
     
    時蚈の針は、倜の八時を回ろうずしおいた。
    倏の長い倪陜も、今日は地平線の奥底ぞ沈みきっおしたった。
     
    準備のできた梅酒は、これから数幎ずいう長い旅に出る。その道䞭でガラス瓶の䞭の䞖界はひず時毎に倉動しおいき、静かに熟成しおいくのだ。
     
    この䞖界は矎しく、そしお儚はかなく倉わっおいく。
    そこに、理屈の通った法則など存圚しないかのように。


    2026.07.03 䞭村拓也河合凪音

     
     

    N.Kawai

     
     
    23歳。倧孊院生。ゞャグリング。ピアノ。日蚘や小説。

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