
🔢なぜノーベルに数学賞がないのか 〜元高校数学教師が語る「数学と人類の距離」〜
はじめに:日本人ノーベル賞ラッシュの喜びと、ひとつの疑問
2025年10月。日本中が再び歓喜に包まれています。京都大学の北川進(きたがわ すすむ)特別教授が、二酸化炭素(CO₂)などの気体を自在に分離・貯蔵できる多孔性金属錯体(PCP)の開発で、ノーベル化学賞を受賞されました。また先日には、同じく京都大学名誉教授の坂口志文さんがノーベル生理学・医学賞を受賞したばかり。まさに、2025年は“日本の知の年”と言えるでしょう。
科学の偉業が世界から称えられるたびに、私は元数学教師として胸が熱くなります。しかし同時に、どうしても心に浮かぶ疑問があります。
——なぜ数学にはノーベル賞がないのか?
数学こそ、あらゆる科学の土台です。化学の分子構造も、医学のデータ解析も、数理の支えなくしては成り立ちません。それなのに、アルフレッド・ノーベルの遺言に「数学賞」の名は見当たらないのです。
この記事では、数学に長年携わってきた私・バッツが、この「数学賞が存在しない理由」について、歴史・逸話・そして“もしも”の話まで、わかりやすく語っていきます。
第一章:ノーベルの遺言に「数学」がなかった理由

1895年、ダイナマイトの発明で知られるノーベルは、遺産の大部分を「人類に最大の利益をもたらした者」に贈ると遺言しました。対象は——物理学、化学、生理学または医学、文学、平和の5分野。数学は、最初から除外されていました。
なぜか? 公式な説明は残っていません。そこで、研究者たちはいくつかの有力な説を唱えています。
実用主義説:「数学は人類の直接的な利益になりにくい」とノーベルが考えていた。
確執説:ノーベルと当時のスウェーデンの有名数学者、ゴスタ・ミッタグ=レフラーとの不仲。
重複回避説:当時すでにスウェーデン王立科学アカデミーに数学賞が存在していた。
この中で最も信頼されているのは、1番目の「実用主義説」です。ノーベルは理論よりも“社会に役立つ成果”を好んだ人物。ダイナマイトも、鉱山や交通の発展に寄与する実用的な発明でした。抽象的な数学より、現実を変える科学に報いる——そんな信念があったのかもしれません。
第二章:ミッタグ=レフラー説の真相
ノーベルとミッタグ=レフラーの確執には、ロマンチックな噂もつきまといます。「ノーベルの恋人と関係を持った数学者がいたため、彼に賞を渡したくなかった」——というものです。しかし、これは後世の作り話に近いとされています。
実際には、ミッタグ=レフラーがノーベルの事業を批判していたこと、また財界と学界の距離が広かったことが背景にあったと考えられます。個人的な嫉妬というより、学問と産業の価値観のズレが原因だったのでしょう。
第三章:数学者たちが生み出した「もうひとつのノーベル賞」
数学界は沈黙していませんでした。1936年、カナダの数学者ジョン・チャールズ・フィールズが、自らの遺産を使って「数学者のための国際賞」を設立します。これが——フィールズ賞です。
フィールズ賞は「40歳未満の若手数学者」に贈られるのが特徴。若い才能を奨励する精神があり、「数学のノーベル賞」とも呼ばれています。
そして21世紀に入り、ノルウェー政府が新たに創設したのがアーベル賞(Abel Prize)。こちらは年齢制限なしで、ノーベル賞に匹敵する権威を持つ賞です。
つまり、ノーベル賞に数学部門はないものの、数学者たちは自らの手で“ノーベルの空白”を埋めてきたのです。
第四章:もし「ノーベル数学賞」があったら——
もしノーベル賞に数学部門が存在したら、誰が受賞していたでしょうか。
まず挙げたいのは、岡潔(おか きよし)。戦後の日本で数論と多変数解析を発展させ、「情緒と論理の統合」を説いた独創的な数学者です。
次に、小平邦彦(こだいら くにひこ)。複素解析幾何学の基礎を築き、1970年に日本人初のフィールズ賞を受賞しました。もしノーベル数学賞があったなら、最有力候補の一人だったでしょう。
さらに現代では、代数幾何の第一人者森重文(もり しげふみ)、そして数理物理学の望月新一など、世界を驚かせた研究者たちが並びます。彼らの業績は、どれも「数学という抽象世界が、現実の理を照らす」証明そのものです。
第五章:数学は“静かに世界を動かしている”

ノーベルが生きた時代、数学は「役に立たない学問」と思われていたかもしれません。けれども現代の私たちは知っています。暗号通信、AI、金融、医療、宇宙探査——すべて数学が支えています。
数学は、派手な花火のような発明ではなく、静かに世界の構造を変えていく力です。ノーベル賞という舞台に立たずとも、数学はあらゆる科学賞の背後で、確かに輝いているのです。
おわりに:数学を“見えないノーベル賞”として讃えたい
北川進さん、坂口志文さん——お二人の受賞を心から祝福しながら、私は思います。人類の発見の根底には、いつも数学がある。
もしノーベルが現代に生きていたなら、きっと彼は言ったでしょう。
「人類に最大の利益をもたらしたのは、論理と思索そのものだ」と。
数学賞がなくてもいい。数学そのものが、人類共通の“見えないノーベル賞”なのだから。
【まとめ】
ノーベル賞に数学部門がないのは、ノーベルの実用主義的価値観が背景。
その空白を埋めたのがフィールズ賞とアーベル賞。
日本人数学者も世界的評価を受けており、仮に数学賞があったなら有力候補多数。
数学は今も、世界の仕組みを根底から支えている。
#ノーベル賞
#数学
#数学がすき
#フィールズ賞
#アーベル賞
#坂口志文
#北川進
#岡潔
#小平邦彦
#数学の力
#バッツ
#毎日note
#スキしてみて