
【直島】アートの島で一番熱心に見た作品は、湯船の底だった
本文中で、春画について触れます。直接的な性的表現は一切ありませんが、苦手な方はお気をつけください。
島に銭湯があると知って、ひとっぷろ浴びていこうと思った。
ある蒸し暑い日、高松から岡山へフェリーを乗り継ぐため、アートの島・直島に上陸した。
その日の夜に、岡山駅から寝台列車サンライズ号に乗る予定だった。直島を歩き回ってかいた汗を、乗車前に流してさっぱりしよう。
直島銭湯「I♥湯」

ただの銭湯ではない。直島らしく、入浴できるアート施設だ。フラッと入ると、番頭さんに「今なら女湯は独り占めですよ~」と声をかけていただいた。ラッキー。
当たり前だけど、銭湯なので中の写真は撮れない。でも、壁も、天井も、シャワーでお湯を出す押しボタンも、全部が作品だった。とてもかわいらしい雰囲気。でもよく見るとちょっとエロい。
「I♥湯」(読みはアイラブユーだよね)という名前の通り、愛をテーマにしているのかな。そこには性愛も含まれる。
誰もいないのをいいことに、裸のまま女湯をうろうろしてデザインを眺めた。
銭湯のメインといえば湯船。口コミ通りお湯はちょっと熱めだけど、それがいい。
湯船の底も作品になっていた。いろいろな絵や写真がスクラップみたくあしらわれていた。
お湯がゆらゆらしていてよく見えなかったから、しばらく身体を動かさないように気を付けて、水面が落ち着くのを待った。
そこにあったのは春画だった。
30年生きてきてこれが初見だったけど、一目でわかった。
高校時代の日本史の先生が、教科書には載っていない歴史の裏話、自身が津々浦々を歩いて目にしたこと、そんな話へ脱線しては授業進度を遅らせていた。
その先生が話していた。春画のことを。
思春期の男子と女子を前に満面の笑みで話していて、私は一人でヒヤヒヤしたものだ。
もっとちゃんと見たい。
そう思って前かがみになるも、水面が揺れてまた見えなくなる。
仕方なく、湯船の底に手をついて、四つん這いのままじっとしていた。
湯船にあしらわれた春画は1枚ではなかったから、四つん這いで絵を見ては一度上がり(お湯が熱いんだもの)、また湯船に戻って四つん這い。これを繰り返した。
「今も昔も、人間のやることって変わらないのね」
と思った。興味津々に「そういう絵」を眺める、私のような行為も含めて。
幸い、最後まで女湯は貸し切りだった。
直島では地中美術館にも行ったけれど、一番眺めた作品は、モネでもなく、安藤忠雄でもなく、銭湯の湯船の底だった。