
#02 灯り
夜、ホームの4階の窓から、
決まって同じ時間に外を見る。
遠くに見える灯り。
灯り…
あの頃、
「疲れた」と口にすることは、
弱さだと思っていた。
朝は始発に近い電車に乗り、
夜は終電を逃し、
ネクタイを緩める場所は会社か、
取引先の酒の席。
「24時間戦えますか?」
あれは冗談じゃなく、
合言葉みたいなものだった。
夜の接待が終わり、
重たい足で歩く帰り道。
顔を上げると、
遠くに灯りが見えた。
あの灯りは、
道しるべ。
身体を引きずるように、
灯りへ向かう。
「ただいま」と言える場所があるだけで、
もう一日を引き受けられる。
「おかえり」の一言で、
また明日も立ち上がれる。
その灯りを守るために、
何かを置いてきた人生だったのかもしれない。
その灯りはもうない。
戻れない時間。
それでも、
記憶の中の灯りは、
今でも暖かく灯っている。
消灯。
窓に映る自分の顔を見る。
帰ろう。
今日も胸の中にある場所へ。