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#02 灯り

    夜、ホームの4階の窓から、
    決まって同じ時間に外を見る。
    遠くに見える灯り。

    灯り…

    あの頃、
    「疲れた」と口にすることは、
    弱さだと思っていた。

    朝は始発に近い電車に乗り、
    夜は終電を逃し、
    ネクタイを緩める場所は会社か、
    取引先の酒の席。

    「24時間戦えますか?」
    あれは冗談じゃなく、
    合言葉みたいなものだった。

    夜の接待が終わり、
    重たい足で歩く帰り道。

    顔を上げると、
    遠くに灯りが見えた。

    あの灯りは、
    道しるべ。

    身体を引きずるように、
    灯りへ向かう。

    「ただいま」と言える場所があるだけで、
    もう一日を引き受けられる。

    「おかえり」の一言で、
    また明日も立ち上がれる。

    その灯りを守るために、
    何かを置いてきた人生だったのかもしれない。


    その灯りはもうない。
    戻れない時間。

    それでも、
    記憶の中の灯りは、
    今でも暖かく灯っている。


    消灯。
    窓に映る自分の顔を見る。

    帰ろう。
    今日も胸の中にある場所へ。


     
     
    数年後にはデビューして半世紀になる。 続けてきたわけじゃない。 続いてしまったのだ、 というほうが近い。 やめる理由を探すより早く、 次の音が鳴ってしまう夜が、 四十六年分あった。 ここまで歩いてきて、 ようやく 「ここから先は、静かに書きたい」 と思える場所に辿り着いた。