【エッセイ】夏思う故に夏在り
陽に鋭さが増し、空気に粘り気が含まれる頃になると、いつも一回は「プールに行きたいなぁ」と口に出す。
行けばいいのだ。隣駅に大きなサウナとプールとスパとジムという、パフェ並みにてんこ盛りの施設があるのだから。
しかし、行かない。行きたくない。一体「行きたいなぁ」などと呟いたのは、どの口なのだろう。
だって、行くためには、まず気力がいる。
暑いなか駅まで行って、電車に乗って、プールで泳いで、また暑いなか電車に乗って帰ってくる。考えただけで重力が3倍は増したかのような気持ちになる。
次に、水着が必要だ。
水着売り場なんて、もう何十年と行っていない。今は通販なのだろうか。それともやはり、夏間近になるとデパートで開かれる、市場のような会場なのだろうか。
テレビや雑誌で見る素晴らしいプロポーションとは、遠く遠くかけ離れた、残酷な現実と己の体を試着室の鏡で見る苦行は、変わっていないのだろうか。
と、行きたくない理由ならいくらでも、主に怠惰な自分のせいであると分かっていながら述べることができる。
それでも夏が来ると、ビールが飲みたくなるように、新作のホラー映画が公開されるように、小学生が宿題を溜め込むように。私は「プールに行きたい」と、叶えるつもりのない願望を口にするのだ。