
トランプは接戦予測だったのに圧勝した、というのは本当か?(1)
1.テレビや新聞の報道
2024年11月のアメリカ大統領選挙の報道では、「接戦が予測されていたのに、トランプが圧勝だった」という記事をたくさん見かけた。また、テレビでも、コメンテーターやアナウンサーによるそういったコメントをたくさん聞いた。例えば、NHKのネット記事では、「大接戦じゃなかったの?なぜトランプ氏“圧勝”に?」というタイトルのものもあり、他社も含め、同様のことが書いてある記事は多くあった。トランプの勝利についても、朝日新聞GLOBE「米大統領選でトランプ氏はなぜ圧勝したのか」、日テレ「トランプ前大統領が“圧勝”…ウラで何が起きていたのか」、TBS NEWS DIG「トランプ氏圧勝の要因」…、とトランプが圧勝と記している記事は非常に多い。
一般の人たちの中にも、「接戦が予測されていたのに、トランプが圧勝だった」という印象を受けている人は多いだろう。テレビでは、事前には、“歴史上稀に見る大接戦”と何度も報じていた。そして、トランプは、7つの接戦州(激戦州)全てで勝利した。
だが、「接戦が予測されていたのに、トランプが圧勝だった」は、2つの点で不正確だろう。
以下、この2つの点について考えていくことにする。
まず一つは、「トランプは本当に圧勝したのか?」
もう一つは、「トランプが7つの接戦州で勝利するのは予測されていなかったのか?」
である。
2.トランプは本当に圧勝したのか?
最初は、「トランプは本当に圧勝したのか?」から考えてみることにする。
こちらは、比較的、基本的なことで、勘のいい人ならわかっているだろうと思う。でも、データとしてきちんと見たことがない人が大半だと思うので、データを示しながら見ていくことにする(当たり前だと思う人はこちらは読み飛ばして、(3)を読んでもいいかもしれない。)。
まず、図1を見てみよう。図1の一番上にあるのが、今回の選挙の結果である。

獲得した選挙人の数では、トランプが312人、ハリスが226人である。これだけを見ると、トランプの獲得した選挙人の数が86人も多く、圧勝に見えなくもない。赤の長さの方が、青の長さよりかなり長くも見える。このグラフだけからは、接戦だと言われていたのに、圧勝じゃないか、と思う人もいるだろう。
しかし、2020年は、バイデンが306人でトランプは232人、2016年は、トランプが306人でヒラリー・クリントンが232人である。獲得した選挙人の数では、いずれも今回と大差ない。
これらの差は、過去3回共に、7つの接戦州(激戦州)の多くをどちらが取ったかで生み出されている。7つの接戦州(激戦州)の選挙人の数は、ウィスコンシン(10人)、ミシガン(15人)、ペンシルベニア(19人)、ネバダ(6人)、アリゾナ(11人)、ジョージア(16人)、ノースカロライナ(16人)で、合計93人である。
今回、この93人全てをトランプが獲得した。2020年は、バイデンがノースカロライナ以外のすべての州で勝利し、77人の選挙人を獲得した。2016年は、トランプがネバダ以外のすべての州で勝利し、88人の選挙人を獲得した。つまり、この93人(2016年は選挙人の割り当て人数が若干違って94人)をどちらが獲得するかで、選挙人の獲得数に大きな差が生まれることになる。図1で、2016年、2020年、2024年に、獲得した選挙人の数が大きく揺れ動いているように見えるのは、この7つの接戦州(激戦州)のほとんどをどちらが取ったかによって左右されているのである。
では、実際の票はどれくらい揺れ動いたのだろうか?
図2の、全米の得票率を見てみる。

2024年は、トランプが49.9%、ハリスが48.3%である。トランプは、1.6%多いに過ぎない。バイデンの獲得した選挙人がずっと多かった2020年はどうか?2020年は、全米の得票率は、バイデンが51.3%、トランプが46.8%である。こちらもバイデンは、4.5%多かったに過ぎない。2016年も含めて、過去3回の選挙共に、トランプと民主党候補者の得票率はかなり拮抗していて、ほんのわずかにどちらかが多く得票しているに過ぎない。図2を見ても、赤の棒の長さと青の棒の長さはほぼ同じで、わずかしか揺れ動いていないのがわかる。
図2が示しているのは全米の得票率で、(よく言われていることだが)特に2016年はヒラリーの方が得票が多いのに獲得選挙人の数はトランプの方が多いなどちょっとわかりにくいので、図3に7つの接戦州(激戦州)の得票率を載せた。

これを見ると、2024年はトランプが50.6%でハリスが48.0%でトランプが2.6%リード、2020年はバイデンが49.7%でトランプが48.7%でバイデンが1.0%リード、2016年はトランプが48.6%でクリントンが46.9%でトランプが1.7%のリードである。差はわずかである。
このように票の動きはわずかでも、7つの接戦州(激戦州)の各州でだいたい同じような票の動きをしていれば、2016年はトランプが、2020年はバイデンが、2024年は再びトランプが、接戦州(激戦州)のほとんどで勝利することになり、選挙人のほとんどを獲得してしまうことになる。よく知られているように、各州で1票でも多く取れば、その候補者がその州の選挙人の全てを獲得するため、このようなことが起こるのである。
この得票率の差というのは、わかりやすく言えば、100人の人がいて、ある年には49人がトランプに投票し、51人が民主党候補に投票していたのが、次の選挙では51人がトランプに投票し、49人が民主党候補に投票した、という程度のものである。これでも、民主党候補が2%リードしていたのが、トランプが2%リードになるように変わったことになる(この100人中たった2人の投票行動の変化は、両候補の差で見ると、2%の不利から2%リードになるので、変化は4%ということになる。)。各年の実際の選挙の票の動きはこれより小さい。つまり、100人中、2人が民主党候補からトランプに投票先を変えた、という程度の話なのである。
これは、圧勝だろうか?
いや、これは接戦だろう。2016年、2020年、2024年共に接戦と言っていいだろう。
(2)に続く
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