
【小説】闇牢の光 ⑱
終章
淡路島に行ったことがあるだろうか。
淡路島から神戸が一望できる。
MISSIONのファイナルツアー中、福岡から大阪に移動する途中で、僕だけ一行から離れて別行動を取った。
母と徹兄ちゃんの墓参りに行ったのだ。
その時、淡路島から神戸を見た。
その瞬間、ぞっとした。
「良かった、ここから出れて」
心の底からそう思った。
僕にはそこがでっかい監獄のように見えた。
僕はずっとあの中にいたのだ。
あの頃、ずっと意味のない世界を生きていたと思っていた。
だけどそうじゃなかった。
そこには意味があった。
意味なく生きる人たちも、無意味に過ぎていく日々も、意味がないことに意味があった。
普通の人も平凡な日常も僕には窮屈で退屈でしかなかった。つまらない毎日だった。
だけどそう思うことが大事だった。
そう思わせてくれる友人や日々が必要だった。
そうでなければ、今、僕はここにいないだろう。
もしそうでなかったとしたら……、
きっとこの神戸で普通に生きていただろう。
百歩譲って音楽に目覚めていたとしても、大切な人たちを置いてまで、東京を目指したりはしなかっただろう。神戸や関西でまったりと音楽活動をしていたかもしれない。もしかしたら、音楽講師になっていたかもしれない。
それも悪くはない。
もちろん、この神戸は素晴らしい街で、この神戸で生まれ育ったからこそ、僕は僕であることができている。
僕はこの故郷を今でも大切に想っている。
でも今、僕がこの東京の空の下にいるのは、今ここで生きているのは、そこが無意味な世界だと思ったからだ。
そこではないと気づいたから。
真っ暗闇の意味のない世界にいたからこそ、僕は外の世界へ行きたくなったのだ。
何度引っ越しても、どんなに住む街が変わっても、この神戸に僕の居場所はなかった。
どんなにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが僕を愛してくれても、「E.T.」という心の友と出会っても、居心地の悪い日々に楽しさなんて見つけられるはずなかった。
僕にとって僕の家族が住む家が僕の家だ。
この家が僕の全てだった。
この家を守りたかった。この家を守ることが僕の全てだった。
ほんの少しの笑顔のために、わずかな幸せのために僕は必死だった。
それなのに僕の家は壊れた。
僕にはどうすることもできなくて。
子供の僕にどうにかできるはずもないのに。
僕は暗闇に閉ざされ、闇の中でうずくまっていた。
だけど闇牢の窓から見えた外の世界は本当にあった。
何度もそこへ行くチャンスはあったのに、闇牢に差し込む光を掴んだのに、それを手繰り寄せる方法が分からなかった。
それでも見失っていた光は心の奥底に在った。
細く薄い蜘蛛の糸のようにずっとそこに在った。
光は僕にたどり着くと、やがて形作っていった。
その光で小さな羽根が少しずつ作られ、その内その羽根は音という翼になった。
その翼が大きいのか小さいのかは分からない。
羽ばたきを知った翼はやがて音楽という大空を見つけた。
僕は自分の世界を見つけた。
そして飛んでみたくなったのだ。
巣立ちの時が来た。
翼を得た僕は、両手を広げてあの大空へと飛び立った。
(終)