
『直子の事情』
直子はいつになく「意味がわからない」という気持ちに苛まれていた
直子は一般的な家庭に育ち、一般的な進学をし、一般的な企業に就職した
可もなければ、不可もない
いわゆる、『普通』というやつだ
親には”普通”がいいと教えられ、
言われの通りにひかれたレールを、
なんの疑いもせず、
そのまま進んできた
『普通』だったはずなのに…
多少の疑いはあったものの、
周りのみんなも”普通”に憧れを持っているし、
直子自身、特別な夢も希望もなかったので、
時代の流れに流されるがまま、
歳だけ重ねてきた
それなりの恋愛もしてきたし、
それなりの幸せもあったし、
それなりの不幸もあった
『私の人生はコレでいいんだ』
そう自分に言い聞かせてた
言い聞かせていたというか、
本当にそれでいいと思っていたし、
それでなきゃいけないとも思ったし、
疑う余地もなかった
今年で私は40になる
なにをどこで間違ったのだろう?
特に相手に意見をすることはなかった
「人には優しくありなさい」と親に言われたし、
自分の意見を押し通すほど、自分は出来た人間ではないし、
なにより側から見ていてそういう人が嫌いだった
万人から好かれたいと思ったわけではない
でも、他人に厳しく、自分に甘い人に理解が出来ないのだ
私はいつの振られる側で、
自分の日頃の行いから考えると
相手を責めるなど、烏滸がましいと思ってしまう
元カレだって、浮気をしてきた上で、問い糺すと
「おまえといても、なんかつまらない」と言われ、
上司にも、大した案もしてないくせに
「おまえの企画はつまらない」と言われ、
後輩には、期日になっても書類をあげてこないくせに
「ここの部分はどうなってますか?」って詰めてくるし。
確かに私は面白くもないし、いいアイデアも出てこないし、抜けてる部分も多い
優秀でもないし、崇高でもないし、完璧でもない
誠実ってなんだろう?
普通ってなんだろう?
他者が、私たちを扱いやすくするために
”道徳”として教えられたんだろうか?
結局、優秀でもなくて、崇高でもなくて、完璧でもない
声がデカくて、語彙が強くて、自信家のヤツが強いのか…
そう考えるとなんだか、悲しくなる
それでも私の人生だから…
私だけは”私”を信じてあげられる私じゃないといけない
納得いかないこともたくさんあるけれど、
それが”私”なのだから
私が”私”を愛さなくてどうするの?
直子は目を瞑り、大きく息を吸った