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七歳の娘は、揚げパンをおかわりしない

    娘と給食の話をしていた時、

    娘の中には、七歳なりの戦略があることを知った。

    しかもそれは、

    こちらが思っているより、ずっと現実的で、したたかだった。

    「今日、給食で揚げパンだったんだ」

    娘が、少し誇らしげに言った。

    揚げパン。

    その響きだけで、私は一瞬、小学生に戻った。

    砂糖のついた、少し油っぽくて、

    でも、妙に幸せなパン。

    給食の中でも、揚げパンの日は特別だった。

    教室全体が、いつもより少しだけ浮き足立っていた気がする。

    「おいしかったでしょ?」

    思わず聞くと、娘は当然のようにうなずいた。

    「うん。最高だったよ。揚げパンは」

    七歳にして、

    揚げパンへの評価が、かなり完成している。

    まるで長年、

    各地の揚げパンを食べ歩いてきた評論家のような口ぶりだった。

    時代が変わっても、

    揚げパンは揚げパンである。

    親子で同じ給食メニューに心を動かされるというのは、

    少し不思議で、少しうれしい。

    私は何気なく聞いた。

    「おかわりしたの?」

    「私はおかわりしなかったんだけど、友達はおかわりしてたよ」

    「え、そうなの? 揚げパン、おかわりすればよかったのに」

    せっかくの揚げパンである。

    すると娘は、

    私の想定していなかった答えを返してきた。

    「私は、ポークビーンズをおかわりした」

    ポークビーンズ。

    そこで来るのか、ポークビーンズ。

    揚げパンというスター選手がいる日に、

    あえてポークビーンズ。

    「揚げパンじゃなくて?」

    「うん」

    娘は当然のように答えた。

    そして、さらに続けた。

    「一番人気は、おかわりしたい人がいっぱいいて、ジャンケンで負けるから、私は二番人気のものを選ぶことにしてる」

    私は、しばらく黙った。

    なるほど。

    これは、ただの好みの話ではなかった。

    戦略だった。

    揚げパンという激戦区を避け、

    ポークビーンズという、比較的取りやすい市場を狙う。

    七歳の給食に、

    市場分析が存在していたとは知らなかった。

    しかも、かなり堅実である。

    一番人気に突っ込んで玉砕するより、

    二番人気を確実に取りにいく。

    戦わずして、

    ちゃんとおかわりを得る。

    ポークビーンズの兵法である。

    もちろん、

    揚げパンを諦めたわけではないのだと思う。

    揚げパンは最高。

    それは認めている。

    でも、最高だからこそ、競争が激しい。

    だったら今日は、

    ポークビーンズでいく。

    七歳にして、

    なかなか現実的である。

    娘のポークビーンズは、

    たぶん少し多めだった。

    その分だけ、

    作戦はきちんと成功していた。


    ゆるっと診断士視点

    市場でも組織でも、

    一番人気の場所には、人が集まる。

    そこへ正面から挑むことも大切だけれど、

    競争が激しい場所で勝つことだけが、戦略ではない。

    娘は、揚げパンの価値をちゃんと分かっていた。

    分かったうえで、

    あえてポークビーンズを選んだ。

    それは妥協ではなく、

    自分が満足を得やすい場所へ、

    戦う場所を少しずらしたのだと思う。

    一番人気を取りにいく力も大切だ。

    でも、二番人気の中に、

    自分なりの勝ち筋を見つける力も、

    案外ばかにできない。

    七歳の給食には、

    思っていたより、ちゃんとした勝ち筋があった。

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    会社と家族の「人間図鑑」を書いています。 少しズレていて、でも憎めない人たち。 人間のズレを、悪口にも美談にもせず、少し笑って眺めています。 大人になってから読む、ちびまる子ちゃん的な日常を会社と家庭のすみっこから。 ネットワークエンジニア|中小企業診断士

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