
Doがつくり、Willが育つ ~意識を変えるな、行動を変えろ。~ 第1回(全10回)
【連載マガジン:Doがつくり、Willが育つ】
▼ シリーズの3行要約
組織は「意識」ではなく、日々繰り返される「行動(Do)」によって形づくられる。
人の考え方(Will)は、意識改革ではなく、設計されたDoの積み重ねから自然に育つ。
だからこそ、変えるべきは人ではなく仕事の形――Doを設計することが、組織風土を変える最初の一歩になる。
【Do→Will Model】
Do→Will Model(正式名称:Do-To-Will Model、略称:Do2Will)とは、
「人は考え方(Will)によって行動するだけでなく、行動(Do)を繰り返すことで考え方(Will)を獲得する」
という仮説に基づき、行動と意識の因果構造を体系化した概念モデルである。
本モデルでは、主体性・挑戦心・品質意識・改善意識・顧客志向といった Will(価値観・判断基準・行動原理)は、理念や精神論を語るだけでは定着しないと捉える。
人は、日々反復される Do(行動・業務プロセス)を通じて、自らの Will を徐々に形成していく。
また、Do は個人の意思のみで決まるものではなく、制度・ルール・評価・業務動線・環境などによって強く影響を受ける。本モデルでは、これらを Do を誘発・強化・抑制する要因として位置付ける。
したがって、望ましい Will を実現するためには、Will そのものを直接求めるのではなく、その Will を自然に生み出す Do を設計することが不可欠である。
また本モデルでは、組織風土を「空気のように曖昧で観測不可能なもの」ではなく、組織に所属する人々の Do の累積として観測可能な現象と定義する。
組織風土は人々の意識の集合ではなく、日常的に実践される Do の累積によって形成される。
ゆえに、組織風土を変えるためには、意識改革を求めるのではなく、Do(行動・業務プロセス)を生み出している制度・ルール・評価・業務動線・環境を設計し直す必要がある。
Do→Will Model は、この因果関係を説明し、望ましい Will と組織風土を再現性をもって実装するための概念モデルである。
本連載では、この『Do→Will Model』を軸に、明日から実践できる行動変容のヒントを全10回にわたって紐解いていきます。
▼ 連載目次(全10回)
第1回:なぜ「意識改革」はうまくいかないのか
第2回:人はなぜDoを繰り返すことで考え方が変わるのか
第3回:組織風土はどこから生まれるのか
第4回:「チャレンジ精神」「ボトムアップ」は美徳か罠か
第5回:Willは教えられるものでなく、仕込まれるもの
第6回:Doを設計する「プロセス・アーキテクト」という仕事
第7回:良いDo設計、悪いDo設計
第8回:文化の差を超える、Do設計という武器
第9回:人間賛歌の構造主義──人は誰でも素晴らしくなれる
最終回:静かに世界を変える──Doが未来をつくる
※2026年5月31日追記:
当初全8回としていましたが、連載を進めた結果、
2回を追加した全10回に変更いたしました。
はじめに
― Willから入るアプローチの限界 ―
「もっと主体性を持ってほしい」 「当事者意識が足りない」 「言われたことしかやらない」
多くの職場で、こうした言葉が日常的に使われている。そしてそのたびに、研修が行われ、スローガンが掲げられ、「意識を変えよう」というメッセージが繰り返される。
だが正直に言って、それで組織は変わっただろうか。
一時的に雰囲気が良くなることはある。アンケートの数値が少し上向くこともある。しかし数か月後、気づけばまた同じ言葉が口にされている。
この繰り返しに、どこかで違和感を覚えたことはないだろうか。
「本当に問題は“意識”なのだろうか?」 「みんな、そんなに考えていないのだろうか?」
この連載シリーズは、その違和感から始まっている。
人は、意識より先に「行動」によって形づくられる
私たちはしばしば、「考え方が変われば、行動が変わる」と思いがちだ。だが、現実はおそらく逆である。
決められたフォーマットに従って報告を書くうちに、物事の捉え方そのものがその枠組み通りになっていく。
与えられた役割や立場に応じた振る舞いを続けるうちに、それが自分の本当のスタンス(意識)に変わっていく。
周囲のやり方に合わせて動くうちに、それが自分にとっての仕事の「当たり前」になっていく。
人はまず行動(Do)をし、その積み重ねの中で、考え方(Will)を後から獲得していく。これは特別な理論ではない。私たち自身の日常経験そのものだ。
それならば、「意識を変えたい」と考える前に、別の問いを立てられるはずだ。
今、この職場ではどんな行動(Do)が、“普通”として繰り返されているのか?
組織を動かしているのは、理念ではなく「日常業務」である
企業には、理念がある。ビジョンがあり、行動指針がある。それらは重要だ。だが、人の思考と行動を本当に形づくっているのは、もっと身近なものではないだろうか。
会議は、どう進めれば評価されるのか
ミスをしたとき、どう扱われるのか
判断はどこまで任され、どこから責められるのか。
こうした日々の業務の形こそが、人の判断軸を静かにつくっている。
このnoteでは、この日常業務の形を「Do」と呼ぶ。そして、「Doの設計こそが、組織のWill(考え方・風土)をつくっている」という立場から、組織と仕事を捉え直す。
このnoteが扱うのは「人を変える話」ではない
誤解してほしくないことがある。この連載シリーズは、
人の気持ちをどう動かすか
モチベーションをどう高めるか
マインドセットをどう教え込むか
そういった話ではない。扱うのは、もっと地味なテーマだ。
どんな業務をやらせているか
どんな順番で判断させているか
やらないと先に進めない条件は何か
つまり、仕事の設計である。特別な権限や、大きな改革は必要ない。日々のDoを、ほんの少し意図して設計し直す。それだけで、人の考え方は後から、必ず変わっていく。
このnoteを、どんな人に読んでほしいか
部下の成長に悩んでいる管理職
指示や注意が空回りしていると感じているリーダー
組織を変えたいが、強い言葉を使いたくない人
「意識改革」にどこか限界を感じている人
特別なマインドや強い意志を持たずとも、「仕組みで、静かに組織を良くしたい」と考えているすべての人に、この内容を手渡したい。
Doを変えれば、Willは後からついてくる
このnoteのシリーズ連載を通して一貫して伝えたいメッセージは、ただ一つだ。
人は変えなくていい。 仕事の形を、少し変えればいい。
Doを変える。すると、他者との関わり方(会話の質)が変わる。関わり方が変わることで、組織的な意思決定(判断)の型が揃う。意識は、そのずっと後から、静かに形成される。
この連載シリーズが、その最初の一歩――「Doを設計する視点」を手にする助けになれば幸いである。

第1回 なぜ「意識改革」はうまくいかないのか
― ある定例会議から始めてみよう ―
月曜の朝。いつもの定例会議が始まる。
会議室に集まったのは、課長とメンバー数名。全員が資料を手元に持ち、進行自体は滞りなく進んでいる。一通り説明が終わったところで、課長が口を開く。
「じゃあ、この件について、誰か意見ある?」
数秒の沈黙。誰も視線を上げない。少し間を置いて、課長が続ける。
「前から言っているけど、もっと主体的に考えてほしいんだよね。言われたことだけやるんじゃなくてさ」
促されるように、メンバーの一人が慎重に口を開く。
「……特に大きな問題はないと思っていました」
課長は少し表情を曇らせる。
「そうじゃなくて。“考える姿勢”の話をしているんだよ。当事者意識を持ってくれないと困る」
そのまま会議は次の議題へ移り、重たい空気だけが残る。この場面に、見覚えはないだろうか。
誰もサボっていないのに、なぜこうなるのか
この会議に出ているメンバーは、決して怠けているわけではない。期限は守る。指示された仕事は、きちんとこなす。トラブルが起きれば対応もする。それでも「主体性が足りない」と言われる。
一方で、メンバーの側にも理由がある。
発言すると「じゃあ、詳しく調べて」と仕事が増えた経験
中途半端な意見を出したら、その後ずっと責任を持たされた経験
「結論は?」と即座に詰められ、黙った方が安全だと学んだ経験
こうした経験を通じて、「余計なことは言わない方がいい」という行動が、極めて合理的になっていく。重要なのは、ここに悪意を持った人は一人もいないという点だ。
それでも原因は「意識」にされてしまう
課長の視点に立てば、問題は明確に見える。「もっと主体的になってほしい」「考えて動いてほしい」。だから答えは「意識改革」になる。
だが、ここで立ち止まって考えてみよう。
仮にこのチームの面々が、意識を変える研修を受けたとしよう。その研修中や直後は、講師が語る非常にありがたい理念を聞いて感銘を受ける。「ぜひ自分もそのマインドで明日から仕事をしよう」と決意する。そこから数日はそのマインドを意識するが、1週間、2週間と経つ頃には、もはやあのとき感銘を受けたマインドが何であったか思い出せない状態になっている。そのような経験はないだろうか。
そうなのだ。自分に根付いていないWillは、日常のDo(業務)の圧倒的な繰り返しの前に、ただ流されて消えていく。
それにもかかわらず、次の定例会議が来れば、また同じ構造が繰り返される。
主体性の大切さは理解している
発言した方がいいとも思っている
しかし、どう振る舞えば“正解”なのかは分からない
その結果、再び様子を見る行動が選ばれる。数週間後、また同じ注意が飛ぶ。
人は「考えない」のではなく「考えなくても成立するDo」に従っている
ここで視点を変えてみる。
この定例会議では、発言しなくても会議が成立する。意見を言わなくても怒られない。言わなくても議事は進む。言わなければ余計なリスクを背負わずに済む。
つまりこの会議は、「考えなくても成立するDo(仕事の形)」として設計されている。そうである以上、「考えてほしい」という言葉は、構造的に無理がある。
人はサボっているのではない。与えられた仕事の形に、極めて忠実に反応しているだけなのだ。
なぜ組織はWillから入ってしまうのか
それでも、私たちはつい「意識が足りない」と言ってしまう。理由は単純だ。その方が楽だからである。
会議のやり方を変えなくていい
役割や評価を見直さなくていい
自分たちの設計を疑わなくて済む
意識は、議論を止めるのに都合の良い言葉でもある。だがその瞬間、改善の可能性は閉じてしまう。
Willは日々繰り返されるDoの積み重ねの結果
ここまでの話が示しているのは、はっきりとした限界だ。
Will(意識・考え方)を出発点にする限り、組織は変わらない。なぜなら、Willは結果だからだ。人の考え方は、日々繰り返されるDoの積み重ねによって後から形成されていく。
だから、意識を変える前にやるべきことがある。
このnoteの立ち位置
このnoteの連載シリーズは、意識改革を否定するものではない。ただし、順番を決定的に変える。
「意識を変えよう」ではなく、「仕事の形(Do)を変えよう」と提案する。
次回の「第2回 人はなぜDoを繰り返すことで考え方が変わるのか」では、その「Doを変えれば、Willは後からついてくる」という逆転の構造を、もう一段深く掘り下げていく。