メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

倱螪した芪父

     人を乗せたタクシヌが、鎌倉の山間やたあいにある叀民家カフェの前に停車した。

    「創倪郎䌚蚈お願いね」
    「あいよ」
    「あっ、運転手さん、トランクいいかしら」
    「はい。今開けたす」

     母ちゃんず、姉ちゃんが、ドアから降りおタクシヌの埌ろに回った。

     俺は、二぀折りの財垃から千円札を枚抜き出し、「お釣りは結構です」ず䌝え運転手さんに手枡した。

     恵比須顔で「ありがずうございたす」ず頭を䞋げる運転手さんから領収曞を受け取るず、その領収曞を財垃の䞭にしたい、尻を暪にスラむドさせ開いおいるドアから降りた。

     母ちゃん、姉ちゃん、俺の人で、運転垭のタクシヌ運転手に頭を䞋げるず、すぐ近くの叀い竹垣ずブロック塀の間から石畳の玄関小埄ぞず立ち入った。

     䞡脇の枋い怍栜の歓迎を受け、炭色の「喫茶甚八」ず掘られた朚目の看板がぶら䞋がる庇に入る。

    「ゆっくり開けおください」ずいう泚意曞きに埓い、叀いガタ぀きのある匕き戞を慎重に開くず、姉ちゃん、俺、母ちゃんの順で敷居を超えお䞭に入った。

     靎を脱ぎ、消毒枈みの茶色のスリッパに履き替えるず、若干軋む板匵りの廊䞋を螏み進み、元居間だったであろう客垭に入る。

     平日の時過ぎずいう時間もあっおか、カりンタヌ垭に女性人、぀ある人掛けのテヌブルの぀に、楜しそうに䌚話をする老倫婊がいるだけだった。

     カりンタヌの向こうでは、甚八ず名乗るにはリチャヌド過ぎる、叀民家の雰囲気にはミスマッチな、黒のスヌツに蝶ネクタむを着けたマスタヌが食噚を片付けおいた。

    「どうも、こんにちは」
    「あ、いらっしゃい」

     母ちゃんが挚拶するず、ロマンスグレヌな髪型に敎った癜髭、でも肌だけやたら若々しく艶々なマスタヌが笑顔で迎えおくれた。

     母ちゃんがリュックから、「初穂料」に結び切りの熚斗袋を取り出し、こちらも艶々な指先でマスタヌに枡すず、マスタヌはマスタヌで、砂金でもすくうみたいに䞡手で恭しくそれを受け取った。

    「すいたせん、たたお䞖話になりたす」
    「いえいえ、今準備したすね」

    ◆

     䞊乃かみの神瀟に祈願に来る時は、毎回必ず喫茶甚八に寄る。

     母ちゃん曰く、真の祈願成就の為には、䞊乃かみの神瀟の瀟家䞀族の方に祈願前の儀匏をしおもらう必芁があるらしい。その䞀族の方こそが、喫茶甚八のマスタヌなのだが、儀匏を頌たれた方のマスタヌも最初は困惑しおいた。

     䜕しろ、マスタヌ自身は分家筋の人間で神職でも䜕でもない。小さい頃に少しだけ神瀟のお手䌝いをしたこずがある皋床で、幌少期の頃の朧気な蚘憶を頌りに儀匏の再珟を詊みたものの、残念ながら䞊手く再珟出来なかった。 

     本家筋の宮叞さんに蚊ねおくれたものの、肝心の本家が床の盞続争いで散り散りになり没萜。珟圚の宮叞さんは婿逊子で入った家の芪戚筋で、儀匏の存圚すら知らなかったそうだ。

     結局、内の母ちゃんが、どこぞの祈祷垫みたいな人に聞いおきお再珟した儀匏らしいのだが、これが合っおるのかどうかも分からない。

    ◆

     しばらくするず、マスタヌが癜朚のお盆に、和玙ず氎匕の食りが付いた日本酒の瓶ず、人分の小さな枡を茉せ、摺り足でやっおきた。この摺り足も儀匏の䞀環らしい。

    「では、人人どうぞ」
    「はい」

     小さな枡を受け取る。

    「枡を掌の䞊で右に床、巊に床、ゆっくり回しおください」
    「はい」

     蚀われた通りに掌おのひらの䞊で枡を回す。

    「続いお、枡を目線の高さたで䞊げおから、倖回りで胞の前ぞ」
    「はい」

     くるりず回しながら胞の前に匕き寄せる。これを䜕床か繰り返す。

    「はい、では、机の䞊に眮いおください」
    「はい」

     枡に日本酒をなみなみに泚ぐず、マスタヌの合図で人䞀斉に瀌。次に枡を右の掌の䞊に茉せ、巊手の掌で巊から包むようにしお枡を持぀ず、そのたた口に぀けた。

     床枡を傟け空にするず、癜朚のお盆の䞊に戻し合掌する。これが、䞀連の儀匏らしい。

     続けお母ちゃんが目を瞑り、䜕かを唱えはじめた。祝詞のようなものらしのだが、ぶ぀ぶ぀蚀うので、䜕を呟いおいるのかは分からない。分くらいぶ぀ぶ぀が続くず、母ちゃんが柏手かしわでを床打った。

    「じゃあ、そろそろ参りたしょう」
    「はい」

     机の傍らで、ぶ぀ぶ぀の間の暇朰しに困っおいたマスタヌが䌚釈した。

    「ありがずうございたした」
    「いえいえ、たたお越し䞋さい」

     酒恋しそうに、唟をゎクリずしおる姉ちゃんが、䞇札枚をマスタヌに枡すず、マスタヌが残った日本酒の瓶を豪華な癜い袋に入れた。俺がその袋を受け取り、喫茶店を出た。この日本酒は次の儀匏で䜿うのだ。

    ◆

     喫茶店を出るず、人力車幅くらいの砂利の现道を、奥に芋える森に向かっお歩いお行く。小さな鳥居の倖偎を䌚釈しながら通過し、砂利぀被っおない掃き掃陀の行き届いた石畳の道を進む。

     しばらくするず、小雚ず鳥の糞くらいだったら防ぎそうな密床の森のトンネルになり、その森のトンネルを朜り、段くらいある石段を昇り、倧きめの鳥居を朜るず䞊乃かみの神瀟の本境内になる。

     小さい頃、芪父ず母ちゃんによく連れおこられた神瀟だ。

     手氎舎の冷たい氎で手ず口を枅めるず、拝殿にお賜銭箱にお札を入れ、瀌拍手瀌の挚拶をした。

     ご挚拶埌、本殿の脇を通り、裏の现い山道を行く。山道が少しなだらかになったあたりで、道から逞れお茂みの䞭の斜面を降りお行く。斜面を降りきり、倧股歩で枡れるくらいの现い小川沿いを䞊流に少し進むず、しめ瞄に玙垂が巻かれた、キレむな楕円圢の倧きな岩が芋えおきた。

     こんな山間郚の蜘蛛の巣だらけの堎所に、突然ダむダモンドのオヌバルカットみたいな衚面をした岩が珟れたわけだが、母ちゃん曰く、これが䞊乃かみの神瀟の真のご神䜓【犏の岩】らしい。

    「じゃあ、みんな準備しお」
    「はい」
    「今日もすごいわ。犏の岩の名前に負けない立掟なお姿だわ。去幎はありがずうございたした。本圓にお䞖話になりたした。今幎もどうぞよろしくお願いしたす」

     俺も、手を合わせお、「い぀もお䞖話になりたす」ず呟いた。

     母ちゃんず姉ちゃんが祈願の準備に米、皗、粟に氎などを甚意する間、俺は先ほどの喫茶店で頂いた日本酒を【犏の岩】の呚囲に撒いおお枅めをする。

     準備が敎うず、母ちゃんに倣う圢で、頭を䞋げたり、手を叩いたり、お祈りしおから、人で巻玙に認したためた祈願文を読んだ。

    「お父さんの顔を浮かべお、この人を芋぀けおくださいっお、神様に祈るのよ」
    「はい」

     䞊乃かみの神瀟には、幎に回回、家族で祈願に来る。倱螪した芪父が芋぀かるようにず祈願文をしたため、この犏の岩の前で祈るのだ。

     芪父は東塔倧孊民俗孊郚教授をしおいた。党囜の民話・䌝承・信仰・胜力者などを調査するため、日本䞭のあちこちを飛び回っおいお、しょっちゅう家を留守にしおいた。

     ただ倧孊の仕事もよくサボっおいたので、結構遊んでもらっおいた蚘憶がある。俺からするず本圓に面癜い芪父だった。陜気な䞊に、遊んだり、巫山戯るのが倧奜きだから䞀芋するずいい加枛そうに芋えるのだけれど、真面目な郚分は真面目で芁所芁所は必ず締める人だった。母曰く、生掻もお財垃も、䞭々しっかりしおいたそうだ。

     そんな芪父が、幎半前の春、応然ず消えた。自らどこかに飛ぶような芪父では無い。譊察に捜玢願いを出しおいるものの、珟時点では有力な手掛かりは殆ど無い。

     祈願を終えるず、地鳎りみたいなゎォヌずいう音、突き䞊げるようなドンずいう揺れに続き、癜い鳥が数十矜、ピペピペ䞀斉に鳎きながら頭䞊を通過しおいった。

     【犏の岩】に向かっお先頭に立぀母ちゃんが祈りの手を解き、俺ず姉ちゃんの方に顔を向ける。

    「さあ、これでいいわよ」

     今日で回目の祈願。毎回同じ珟象が起こるが、どういう理屈で起こるのかは分からない。

    ◆

     行きに来た道をそのたた戻っおゆく。垰りの方が坂道が激しいはずだが、なぜか垰りは足取りも軜く呌吞も乱れない。きっず埡利益に違いないず俺は思い蟌むようにしおるけど、俺の前を進む姉ちゃんは、結構息が切れおるだけに、「い぀も垰りは楜だよね」っお共感トヌクが出来ないのが残念だ。 

     最埌に拝殿で退出の挚拶を枈たせるず境内の倖ぞ出る。

     姉ちゃんがアプリでタクシヌを呌ぶず分もしない内に迎えにやっおきた。タクシヌに乗るず、途䞭、スヌパヌに寄っおもらい、急ぎ買い物をするず北鎌倉にある実家ぞず戻った。

     北鎌倉駅から分の堎所に実家はある。

     階建おのマンションで䞭庭がある豪勢な䜜りをしおいる。郚屋は最䞊階で、間取りは。かなり広い玄関から廊䞋郚分にはりォヌクむンクロヌれット、トむレ、バスルヌム、玍戞が固たっお配眮され、磚りガラスの扉を開くず、カりンタヌキッチンのが連なっおいる。ずの間は、䞀応匕き戞で区切るこずは出来る䜜りになっおいるが、解攟感があった方が良いからず、匕き戞は党お倖され玍戞で埃を被っおる。

     東向きの広いバルコニヌが特城のリビングからは、盎接぀の畳畳の郚屋に入れるようになっおいお、角郚屋の利点で、党おの郚屋に腰高窓が付いおいる。

     母芪人で暮らすには広過ぎるず蚀いたいずころだが、以前䜏んでいた鎌倉の梶原にあった戞建おの家はもっず広かった。

     芪父が䞭叀で賌入した梶原にあった元実家は、実に、蔵付き、庭付き、車庫台の倧豪邞だった。俺ず姉ちゃんが実家に居る時ですら広すぎたのに、人が巣立った埌は、あたりに広すぎたのだ。

     珟圚はどこぞの飲食チェヌンの䌚瀟の䌚長が䜏んでいるらしい。

    ◆

     ここで、芪父ず母ちゃんに぀いお少し玹介しおおこう。

     芪父は長野県䞊田垂出身で、母ちゃんは神奈川県の葉山出身だ。芪父ず母ちゃんは、䞉田倧孊で䞀緒だった。サヌクルだか倶楜郚掻動で䞀緒になり、その合宿で意気投合し亀際に至る。芪父が倧孊院の頃に姉ちゃんを劊嚠したのをキッカケに結婚した。

     姉ちゃんが生たれおからは、人にずっおの想い出の堎所ずいう理由ず、母ちゃんの実家に行きやすいずいう利点から、鎌倉のアパヌトで人暮らしを始めた。

     博士課皋たで進んだ芪父の代わりに母ちゃんが探偵事務所で子連れで働きながら家蚈を支えおいたそうだ。圓時は、母ちゃんの実家の支揎も倚少あったので、貧しいずいう皋では無かったそうだが、それでも貯蓄なんおのはほが出来ず、銭掗匁倩様に毎月祈りに行くくらい、家蚈はギリギリだったず聞いおいる。

     だが、芪父が倧孊院時代に、ずある䌚瀟の株匏転換瀟債を賌入。そのずある䌚瀟が、その埌に倧化け 

     䞊堎埌に倀䞊がりした株匏を売华しお倧金を埗るこずになる。その資金で鎌倉の梶原にあった䞭叀の豪邞を賌入し、俺が歳の時に家族で匕っ越した。でも、今たでの貧乏暮らしの圱響もあっおか、しばらくの間、豪邞䜏たいの割に生掻は随分ず慎たしかったらしい。

     確かに俺の子䟛の頃の蚘憶でも、母ちゃんが随分ずティッシュずか、トむレットペヌパヌずか、氎道の氎ずか、暖房をケチっおたのを芚えおいるから、倚分、圓時は母ちゃんの生き方が豪邞生掻に適応出来おなかったんだず思う。

     実家に戻るず、母ちゃんがスヌパヌで賌入した寿叞に、予め䜜っおおいた豚汁を人で食べた。

     晩飯䞭は、むンフル゚ンサヌずかずか名乗っおる姉ちゃんが仕事の話をずっずしおいた。最近のは浅く広くよりも、深く狭くが倧事だずいう話、広告や案件頌みではなく自瀟商品を重芖した方が良いずいう話、バズるけど短期間で芖聎されなくなっおしたう動画よりも、長期間に枡っおゞワゞワ芖聎される動画が良いずいう話、ものすごい早口なのに䞀切淀みなく喋っおいた。

     姉ちゃんは、長幎人語りタむプのを運営しおいたこずもあっお喋りが䞊手なのだ。䜕しろカメラに向かっお、人で時間も時間もお喋りで時間を埋めるこずができるくらいだから、気楜に出来る䌚話だったら、時間でも時間でも続けられる。

     今日も時間以䞊にわたり、姉ちゃんの喋りが続き、姉ちゃんの旊那が嚘俺からしたら姪っ子ず䞀緒に、お迎えに来た段階で解散になった。


    話 了 

    目次ぞ


     
     
    代の限界フリヌランスです。耇業で皌ぎながら毎日物語を䜜っおたす。noteに加えおThreadsでも掌線小説を展開䞭なので是非フォロヌしおやっおください。他にもD2C型のファンベヌスマヌケティングを研究実践䞭絶賛苊戊䞭

    あなたぞのおすすめ