
第42話 ロンドンの朝は、グッドモーニングだけでは足りない(耳ビジnote部)
何が足りないのか。種明かしは、もう少し先で。
私のいたロンドンのオフィスはたまたまこぢんまりしていて、偶数階に女子トイレ、奇数階に男子トイレという配置でした。私たちのオフィスは4階だったため、3階や5階への行き帰りに、階段で同僚とよくすれ違いました。
Good morning, Mr Sato.
Alright, Tom?
日本人に敬意を表してMrで呼びかける人も多かったですが、特に親しい人は Good morning, Tom. でした。
そう言えばフランスでは、Bonjour, Tom.
友人でない場合は Monsieur. だけでもすれ違いの挨拶が成立しました。
フランス人は英語でおどけて、Is everything under control, Tom? などもよく言っていました。
さて、種明かしです。英語の挨拶は、最後に名前が付くのです。おはよう、トム、のように。
例えばJは取引先の社長でしたから、忘れようがありません。Good morning, J! と言えた朝は、名前が付くだけで英語が滑らかになり、相手にも受け入れられて、上手くなったように聞こえました。
ところが、これが誰にでもできるわけではありません。
階段ですれ違う一瞬で、相手がマイクかクリスか、脳から指令を出すなんて至難の業です。
マイクとクリス。まったく違う名前なのに、なぜか私の頭の中では、いつもごちゃ混ぜになる苦手コンビでした。
彼らは日頃から、人の名前を頭の中で諳んじているのでしょうか?
あわわわ、彼、どっちだっけ?
向こうははっきり私の名前を覚えているのに。
呼び名を間違えたらかえって失礼だ!
うーん、仕方ない。
「グッドモーニング!」
名前なしのグッドモーニング。J以外には、結局私は、毎朝これで押し通していました。