第43話 クロワッサンには勝てない(耳ビジnote部) #今でも覚えている、あの一言
フランスに滞在された方なら皆さんお馴染みの、
「アン・カフェ・シルヴプレ」
カフェでの注文の仕方です。
このフランス語はパリ赴任後、真っ先に覚えました。
フランスのコーヒーはイタリア同様、エスプレッソがデフォルトですので、「カフェ」は小さなタスに入って出てきます。
2002年以前の通貨はまだフランス・フランでした。
カフェ一杯の料金は、カウンターで立ち飲みすると5フラン(当時約100円)、しかし同じものをテーブルで頼むと10フラン(当時約200円)。
ウェイターさんがカフェを運ぶ分、人件費が加算されるのですね。
一息ついてサッと喉を潤したいとき、私はよく立ち飲みしていました。
そして、パリのカフェといえば朝です。
あの独特の空気感、朝の匂い、
あぁ、それはクロワッサンの香りだったのかもしれません。
カフェでは自家製のパンもあったと思いますが、たいていは近所のパン屋さんから朝早く仕入れてくれていて、我々はこれをカフェで味わうことができました。
今日はやめておこう、のはずが

クロワッサンは週末のご褒美、というのが当時の私のマイルールでした。
「平日の朝からバターたっぷりのクロワッサンはやめておこう」と呟きながら、この日は椅子に腰掛けて10フランの気持ちでいました。
テーブルで静かに過ごそうと思ったわけです。
ところが実際のやり取りは、カウンターの向こうの主人とやや大声で交わす、楽しげなものとなりました。
「ムッスュー、ボンジュール」
「ボンジュール、ムッスュー。アン・カフェ・シルヴプレ」
するとカフェの主人が
「クロワッサンは?」
「今日はやめときます」
「本当にいいのかい?」
「ええ、今日は大丈夫」
と言った後、
「ん〜」と、ほぼ、たちまち後悔。
そして、
「やっぱり、クロワッサンも!」
「だから言っただろ? 絶対そうした方がいいよ!」
クロワッサンがテーブルに届く。
焼きたてでまだほんのり温かく、外はサクサク、中はふんわり。
一口頬張ると、
「あぁ、生き返る。こう来なくちゃ!」
「とても美味しいです!」
とマスターに目で合図。
カフェ一杯だけでもこんな嬉しいオマケのようなやり取りができるのが、パリの良いところと思っています。

