
【朗報】普通の会社員、査読付き国際会議に論文が採択される
こんにちは、平野たいる(@tairu_mk)です。
久々の投稿になってしまいました。気がつけば今年も半分が過ぎようとしていますが、いかがお過ごしでしょうか。私のnote更新年間目標はビハインドもビハインドとなっております。
さて、表題の通り、数学とアートの国際会議であるBridgesに論文(Regular Paper)が採択されましたので、報告がてら振り返りたいと思います。
概要
今回の論文では、以前arXivに投稿したModulo Krinkle Tilingを改めて整理したうえで、既存研究との関連性を明らかにしています。とくに、Modulo Krinkle Tilingと内部構造を共有する3種のvariant(変種)を新たに示し、その特殊ケースとしてGailiunas’s Spiral Tiling が包含されることを示しました。
執筆〜採択までの流れを時系列順にまとめてみます。
2026/1/14 構成を考え始める
2026/1/26 初稿をシステムに送信する
2026/2/1 論文投稿〆切
2026/3/31 リバイス(改訂)を条件としたアクセプト通知
2026/4/5–13 リバイス
2026/4/14 アクセプト通知
査読付き論文を投稿するのは初めてだったのですが、今回はEasyChairというWebシステムにPDFを投げるだけ。なんならendorsementを求めて奔走したarXivへの投稿 よりもスムーズだったといえるかもしれません。
大変だったこと
まずこれは単なる大ポカなのですが、2/1〆切をなぜか3/1だと思い込んでいました。Short Paper の〆切が3/1なのでそれと混同してしまったのか、「2月」「実質月末」と断片的な覚え方をして「2月末まで」という幻覚が生じてしまったのか定かではないのですが、1月も半ばになって勘違いに気がついたときには本当に肝を冷やしました。なんとか間に合ってよかったです。
さて、BridgesのRegular Paperは6ページまたは8ページと規定されています。さらに公式のアドバイスとして、(最終ページも含めて)大きな余白が入らないこと、「教育を受けた非専門家」でも読めることなどが明示的に求められています 。私の構成には前提として参照できる既存研究がなかったため、基礎から解説することになり、どう削っても図だけで4ページ相当の紙面を要しました。図はスペースが溢れると次ページに回るなどして組版が大きく崩れてしまうので、今回は「図の配置を最初に固定して、残りのスペースに収まるように本文を書く」という、いささか曲芸的な進め方を採用しました。書くのが大変というよりは、(形を保ったまま)削るのが大変だった印象です。
何より、孤独な戦いでした。研究室に所属していれば「進捗どうですか」なんて言い合えたのかもしれませんが、こちらは咳をしても一人です。1月末の投稿から3月末の通知まで(当然ではありますが)何の音沙汰もなく、「PDFを投げたきり」の状態だったため、送ったものは本当に受け付けられて査読が進んでいるのか? と若干不安になっていました。
よかったこと
通ってよかったのはもちろんそうなのですが、最終的に通るまでの過程も好ましいものでした。最初の(条件付き)アクセプトの段階で査読者(2名)からのコメントが開示されたのですが、総じて建設的なものであり、最終稿をよりよい形にブラッシュアップすることができました。その後のフォローアップではチェアであるMartin Skrodzki氏とも直接やりとりをし、ひじょうに丁寧に扱っていただいていることが伝わってきました。なお、採否にかかわらず査読コメントでは教育的なフィードバックを与えることが方針として徹底されているようで、「競争の場ではなく教育の場である」というBridgesの理念を体現する素晴らしい取り組みだと感じます。
そして、論文と向き合っているうちに自分のやりたいことが明確になり、「適切な場に、適切な形で成果物を残せた」という実感を持つことができたことも、本当によかったと感じています。Bridgesは独自の評価軸を持った国際会議であり、数学と芸術を有意義な形で接続すること、そしてそれを非専門家にもわかる形で伝えることが重視されます。今回の私の結果は、数学としての高度さというよりは、むしろ初等的な道具を用いていながら、これまでにない視覚的な構成を生み出すものです。査読付き論文として数学的な品質は担保しつつ、多種多様なバックグラウンドをもったオーディエンスに見てもらえるBridgesという場は、まさにうってつけだったといえるでしょう。
これからのこと
今後の予定ですが、まずは8月の発表に向けた準備を頑張りたいと思います。Regular Paperには30分の時間枠が割り当てられ、20分発表+5分質疑が想定されています。英語での口頭発表は初めてなのですが、なんとかここで成功を報告できるようにしたいです。
そして研究活動についてですが──今後の見通しはとくに何も立っていません。論文化する価値のある結果が得られればもちろん書くとは思いますが、望めばおいそれとネタが湧いてくるようなものではないのでなんとも言い難いところです。
というわけで、バリバリ研究者としての実績を積むぞ、というよりは、アウトリーチ活動を通じて社会実装につなげていきたいなあ、と考えています。会議への参加によって生じるつながりもあるでしょうし、また「査読付き国際会議に通した」ということで、ある程度フォーマルな「お墨付き」が得られた状態になったので、それによって得られる機会というものもあるかもしれないと期待しています。
最後になりますが、私は学術機関に所属しない「普通の会社員」であり、今回の会議参加も個人の趣味活動として行うため、渡航費・宿泊費・参加費などはすべて自腹となっております 。noteのサポート機能を設定していますので、活動を応援してくださるという方は是非よろしくお願いいたします。
脚注
1)Spiral Tilings
https://archive.bridgesmathart.org/2000/bridges2000-133.html
2)普通の会社員が新しい図形を発見したのでハンガリーのポスドクの助けを借りてarXivに論文を投稿した話
https://note.com/tairu_mk/n/nbf238ec63c96
3)BridgesにはRegular PaperとShort Paperの他にも、Workshop Paper(ワークショップ)、Exhibition(作品の展示)、Fashion(ファッションショーへの出展)、Short Films(動画作品の投稿)など多種多様なカテゴリが存在します。
https://www.bridgesmathart.org/b2026/bridges-2026-call-for-submissions/
4)Advice for Writing Bridges Papers
https://www.bridgesmathart.org/for-authors-and-participants/advice-for-writing-bridges-papers/
5)行って帰ってくるだけで30万円以上かかっています。……今からでも円高になりませんか?