
【掌篇小説】しょうらいのゆめ
小学生の頃、”将来の夢”というテーマの作文が理解できなかった。
スポーツ選手。
歌手。
役者。
宇宙飛行士。
堅実なことを書くやつもいる。会社員とか公務員とか。
──ほんとに決まってんの? すげえな。
単純にそう思っていた。
俺は特にその頃習い事もしてなかったし、宿題もろくにやらない劣等生だった。
家に帰ればテレビ。漫画。ゲーム。
でも、学校に行くとクラスの話題はだいたいそれだ。みんなやってる。
将来なりたい職業を熱心に研究してるやつなんて、いたのだろうか。
そうではなくて”なんとなく”言っているだけなら、そんな適当なことを言っていて楽しいのか?
クラスに一人だけ、すごいやつがいた。
女子だ。
学校が終わると校門前で母親が待っており、すぐに車に乗る。
行き先はスイミングスクールだった。
近所の習い事ではなく、クラスメートは彼女がどこのスクールに行っているのかも知らなかった。
だが、たまに全校集会でなんとかという大会で優勝したとか、そんな発表をされているのを見た。
拍手を受ける彼女は嬉しそうというよりもなぜこんなことで盛り上がっているのだろう、というような当たり前の顔をしていて、他の女子たちはそれが鼻についたようだ。
「水泳選手になるの?」
いつも一人でいる彼女に俺はそう声をかけた。
彼女はぼんやりと俺を見上げて、首をかしげた。
「さあ……わかんない」
「でも、めっちゃ頑張ってるじゃん。なんか大会とか出て」
「うん。まあ他にやることないしなぁ、みたいな」
夢を語るだけで何もしないやつがいる一方で、努力も前進もしているやつがそれを夢とも思っていない。
俺は、よりわからなくなった。
「ええと……作文まだできてない人は、居残りね!」
作文の〆切当日、居残りになったのは俺と彼女の二人だった。
彼女はしかし、かなり早い段階で母親が闖入してきてオリンピック選手になる夢を書かされて出ていった。
俺は先生に言われた通りの文章を書き、教師になることが将来の夢になった。
『しょうらいのゆめ』──終