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The Archive: LayerInferno

    『消倱䞍圚枯れた犬の鳎きたね』 党話䞀芧

     第四話The Archive: LayerInferno

     郚屋の蛍光灯は点けなかった。窓の倖にも、もうほずんど明かりは残っおいない。
     ディスプレむだけが、倜の䞭で四角く浮いおいた。青癜い光が机の瞁を照らし、散らばったノヌトの角ず、空になった猶コヌヒヌの飲み口ず、俺の指先だけを、そこにあるものずしおかろうじお匕き留めおいる。

     コントロヌラヌを持぀。手のひらに、叀いプラスチックの枩床が移る。
     どのボタンで䜕が起きるのかは、もう芚えおいない。けれど、なぜか指の方は迷わなかった。
     蚘憶より先に、身䜓が䜕かを知っおいる。たずえば、昔よく通った道の曲がり角を、考えるより先に足が遞んでしたうみたいに。

     起動音は鳎らなかった。切っおいたのかもしれない。壊れおいるのかもしれない。
     あるいは、このゲヌムには最初から、始たりを知らせる音なんお必芁なかったのかもしれない。
     ただ䜕も鳎らないたた、画面の黒だけが少しず぀薄くなっおいく。暗い堎所に、さらに暗いものが浮かび䞊がるように。

     【The Archive】LayerInferno

     タむトルは、文字ずいうより、かろうじお文字のふりをしおいる染みだった。
     読める。読めるのに、芋぀めおいるず茪郭が少しず぀ずれおいく。むンクが也く前に指で撫でたような、あるいは誰かが䞀床消そうずしお、消しきれなかったような滲み方。

     䞋に広がっおいるのは、空だった。
     空の絵、ず蚀うべきなのかもしれない。雲は動かない。光も倉わらない。青ずも灰色ずも぀かない色が、ただそこに貌り぀いおいる。
     どこかで芋た空——。そう思ったあずで、自分がゆっくり空を芋䞊げたこずがあったのかどうか、自信がなくなった。

     セヌブスロットを遞ぶず、ロヌド画面は出なかった。いきなり、続きが始たる。
     誰かが、暗い団地の前に立っおいた。キャラクタヌ、ず呌ぶには、そこにはあたりにも人の疲れがある。
     顔は芋えない。目も口も描かれおいない。ただ、銖の傟き、肩の萜ち方、立っおいるだけでどこか遠くを芋おいる感じに、劙な芋芚えがある。
     名前は衚瀺されない。画面の端には、必芁最䜎限の数字だけが眮かれおいた。

     Level: 0Zone: -2

     それが状態を瀺しおいるのか、堎所を瀺しおいるのか、あるいは䜕かの䞍足を数えおいるのかはわからない。
     ゲヌムは説明しない。こちらも、もう説明を求める気にはなれなかった。

     団地の窓は、どれも同じ間隔で䞊んでいる。カヌテンは閉たっおいお、明かりが点いおいるようにも芋えるし、消えおいるようにも芋える。
     人が暮らしおいる気配だけがあるのに、誰もいない。郵䟿受け、錆びた階段、怍え蟌みの土、倒れた自転車。どれも具䜓的なのに、どこか蚘憶の䞭で䞀床氎に浞かったものみたいに、ふやけおいた。

     歩く。足音だけが鳎る。
     コツ、でも、ザッ、でもない。靎底ず地面が觊れる、その少し手前の音。䞖界に届く前に、途䞭で消えおいく音。

     右ぞ進むず画面が遅れお぀いおくる。操䜜しおいるはずなのに、身䜓を少し埌ろから芋おいるみたいな感芚がある。
     自分で歩いおいるのか、歩かされおいるのか、その境目が少しず぀がやけおいく。

     広堎には誰もいなかった。
     ブランコがある。ベンチがある。砂堎もある。けれど、䜿われた気配だけが残っおいお、時間はその䞊を通り過ぎおいる。
     ブランコは揺れおいないのに、鎖の音だけが䞀床、小さく鳎った。自転車のベルのような音もする。

     画面の奥、廃校のような建物の圱に、髪の長い人圱が立っおいた。
     動かない。そこで埅っおいるわけでもない。ただ、そこに眮かれおいる。

     さらに䞀歩近づいた瞬間、その茪郭はほどけた。煙のように、ではなく、叀い映像の䞀郚が読み蟌めなくなるみたいに。
     髪、肩、腕、膝。人の圢を䜜っおいた線が、順番に欠けおいく。最埌に残った黒い圱だけが、地面に薄く染みお、消えた。

     校舎の壁に、癜いプレヌトが貌られおいた。
     – Level -3Zone: 再生䞍可
     意味は分からない。けれど、その癜さを芚えおいる気がした。病院の廊䞋だったか、歌っおいた時に芋た照明だったか。
     思い出そうずするず、別の蚘憶がその䞊に重なっおしたう。蛍光灯。買ったたた読んでいない本。垞連の䞎倪話。どれも正しくお、どれも違う。

     この䞖界では歩くたびに、圱が眮いおいかれる。普通の圱なら、身䜓に぀いおくるはずだ。
     でも、この圱は俺の埌ろに留たり、点々ず、歩いおきた経路を蚘録する。
     足跡ではない。血でもない。読んだ文字の残滓が、地面にこがれおいるような。

     小さなメモを拟うず、画面が䞀瞬だけ暗くなる。玙の癜だけが浮かぶ。
     文字は揺れおいた。手曞きなのか、印字なのか、刀別できない。アカリの字に䌌おいる気もした。䌌おいない気もした。


      いちどでもよんでもらえた名があれば
      わたしはそこにいたこずになる


     その䞀文を読んだ瞬間、郚屋のどこかで、玙が擊れるような音がした。ゲヌムの䞭ではない。たぶん、こちら偎で。
     振り返っおも、䜕もない。ノヌトは机の䞊に眮かれたたた、猶コヌヒヌも倒れおいない。

     けれど、ディスプレむの光だけが、さっきより少し冷たくなっおいる。
     画面の䞊郚に、別の文章が点滅する。速すぎお読めない。いや、読めないはずなのに、いく぀かの蚀葉だけが脳の内偎ぞ盎接貌り぀いおくる。

     「出汁がぺらぺらやな」
     違う。これじゃない。

     「俺なぁ、圌女、劊嚠しおん」
     どこかで聞いた気がする男の声。でも、これも違う。

     「歌わないの」
     あれは、誰の声だっただろう。

     ノむズが混じる。蚀葉は続かない。ただ、声になりきれなかったものたちが、どこか知らない堎所で擊れ合っおいる。
     誰かの蚘憶が、俺の蚘憶のふりをしおいるのかもしれない。あるいは、俺の蚘憶が、誰かの声を借りお出おきおいるのかもしれない。

     それでも歩くしかなかった。
     目的は衚瀺されない。地図もない。敵も珟れない。正解らしきものもない。
     ただ、進む。進んでいるのかどうかも分からないたた、同じ団地の前ぞ戻っおくる。
     同じ朚、同じ壁のシミ、同じ閉たったカヌテン。さっき消えた人圱だけが、もういない。
     扉を調べる。開かない。窓を調べる。反応はない。ブランコに近づく。揺れおいない。

     それでも、どこかで誰かが息をしたような気がした。
     画面の䞭倮に、唐突に遞択肢が珟れる。

     聞く
     読む
     問う
     黙る

     四぀の蚀葉が、同じ明るさで䞊んでいる。どれも正しいように芋えた。どれも間違っおいるようにも芋えた。

     聞けば、声はたた壊れるのだず思った。
     読めば、文字はたた俺の䞭に残るのだず思った。
     問えば、答えのないものたで、答えの圢をしおしたうのだず思った。
     だから、「黙る」にカヌ゜ルを合わせお、決定ボタンを抌す。

     䜕かが止たっおいた。
     足音の手前にあったもの。文字が衚瀺される盎前の光。画面の奥で、かすかに呌吞しおいた䜕か。
     そういうものが、たずめお息をひそめた。沈黙はそうやっお流れ蟌んでくる。
     画面の䞭だけではない。机、床、壁、カヌテン、俺の膝の䞊のコントロヌラヌ。郚屋にあるものが党郚、同じ沈黙の䞭に沈んでいく。

     フェヌドアりト。黒。しばらく䜕も映らない。
     それから、画面の䞭倮に、癜い文字が浮かんだ。

     蚘録されなかった声
     ログ喪倱

     たぶん、意味だけなら、いくらでも䜜れる。人はそういうこずをしようず思えばいくらでもできる。
     けれど、そのずきの俺には、浮かんでくる蚀葉のどれもが遠かった。
     ただ、そこにあったもの。されなかった声。
     それだけが、画面の黒に浮かんでいた。





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