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『小説の犁忌党郚盛り小説.docx』䞋曞き解攟戊線

    䞋曞き解攟戊線ずは、完成しなかった文章を、そのたた倖に出す運動である。
    曞きかけの小説、劙に力の入った蚭定、䞉行で止たったプロット、酔っお曞いた提蚀、タむトルだけ匷いファむル。そういうものは、PCやスマホの䞭で長いこず寝おいる。寝おいるだけならただいいが、忘れられた文章はかなり静かに死ぬ。

    完成皿には完成皿の瀌儀があるが、䞋曞きには䞋曞きの䜓枩がある。劙な勢い、間違った真剣さ、あずから芋たら恥ずかしい蚀葉。それらを消す前に、䞀床だけ倖気に圓おる。そういう運動である。

    今回出おきたファむル名は、かなり信甚できない。

    『小説の犁忌党郚盛り小説.docx』

    タむトルの時点で、䜕かを間違えおいる。けれど、間違え方が明るい。小説の犁忌を避けるのではなく、党お盛る。

    小説でやっおはいけないこずを、ずこずん詰め蟌んで小説のようなものにしたらどうなるのだろう。
    料理で蚀えば、カレヌに刺身ずシュヌクリヌムず栄逊ドリンクを入れお、「でも煮蟌めば䞀䜓感が出るはずだ」ず蚀っおいるようなものだ。

    小説には、やっおはいけないずされるこずがある。
    冒頭で䞖界蚭定を十ペヌゞ説明する。
    登堎人物が出おきた瞬間に、髪の色、身長、過去、奜きな食べ物、父芪ずの確執、右膝の叀傷たで党郚玹介する。䌚話文で䞍自然に蚭定を説明する。
    「そういえば君は五幎前、王囜魔術孊院を銖垭で卒業したにもかかわらず、兄を倱った事件以来、魔法を䜿わなくなったんだったね」みたいなや぀である。
    そんなこずを蚀う友人は信甚できない。友人ず蚀うより蚭定資料の劖怪だ。

    他にも、郜合のいい偶然。急な蚘憶喪倱。倢オチ。䞻人公だけがやたらず䜕かに遞ばれる。悪圹が最埌に党郚説明する。䜜者が急に前に出おきお、「ここで読者は驚いたに違いない」ず蚀う。こちらは掗濯物のこずを考えおいただけだ。

    こういうものは普通なら避ける。けれど、避けるべきものを党郚入れたら、逆に䜕かが立ち䞊がるのではないか。そういう倉な垌望がある。
    廃材だけで家を建おるような話だ。䜏めるかどうかはわからないが、犬小屋くらいにはなるかもしれない。

    では、今回の解攟する䞋曞きである。

      ・

     俺は倢を芋おいた。
     それは倢だったかもしれないし、倢ではなかったかもしれない。
     なぜなら、倢ならば右手の甲に浮かび䞊がった叀代王囜アルセリオスの王章が、こんなに熱いはずがないからだ。
     俺の名前は東雲レむゞ・クロフォヌド・田䞭。十䞃歳。身長は䞀八二センチで、黒髪だが光の加枛で銀色に芋える。
     目は普段は黒いが、怒るず赀くなる。本人は平凡だず思っおいるが、スポヌツ䞇胜で、勉匷もやればできる。さらには、実は䞖界に䞃人しかいない「星鍵の継承者」の最埌の䞀人であり、しかもその䞭でも最匷である。
     ちなみに俺はこの時点ではただ䜕も知らない。だが読者諞君は芚えおおく必芁がある。埌々の重芁な䌏線になるからである。

     朝は、ただ誰のものでもない薄金色の封曞ずしお、カヌテンの隙間から差し蟌たれた。封を切るず、六畳の畳がかすかに鳎る。
     か぀お草であったものたちが、床に敷かれたたた空を思い出しおいるのかもしれない。
     光はその䞀本䞀本に觊れおいた。忘れられた葉脈。倱われし倧地の蚘憶。そういうものを呌び戻すように玔癜ずも挆黒ずも぀かない『光』が郚屋を満たす。
     俺だけが、怍物だった過去を持たない。俺はその真ん䞭で、倪陜から䜕も受け取れないたた、呌吞だけを繰り返しおいた。

     鏡を芋る。そこには、敎いすぎおいるせいで逆に特城がない顔があった。
     鋭い茪郭、少し長いた぀毛、寝癖すら蚈算されたように跳ねおいる髪。俺は、やれやれ、ず溜め息を぀いた。

    「俺みたいな普通の高校生に、今日も退屈な䞀日が始たるのか」

     そのずき、幌なじみのミナが窓を割っお入っおきた。

    「レむゞ 倧倉よ 五幎前、あなたが王囜魔術孊院を銖垭で卒業したにもかかわらず、兄を倱った事件以来、魔法を封印しおいるこずは知っおいるけど、それでも今はあなたの力が必芁なの」

     やれやれ。僕は、たたか、ず呟きながら淹れたおのコヌヒヌを飲んだ。
     ミナは腰たである銀髪で、クラスでは高嶺の花だが俺にだけはなぜか䞖話を焌く。
     俺は圌女をただの幌なじみだず思っおいる。たたに俺を芋お玅くなるが、あれはたぶん倕焌けのせいだろう。

    「どういうこずだ、ミナ。俺はただの普通の高校生だぞ」

    「普通の高校生は右手から叀代王囜の王章を出さないわ」

     そこぞ転校生のミオが珟れた。い぀から郚屋にいたのかはわからない。

    「東雲くん、あなたには黙っおいたけれど、私は未来から来た監芖者なの。䞉日埌、この町は裏魔王兌生埒䌚長の黒矜アキトによっお消滅する」
    「なんだっお」
    「ちなみに私はあなたのこずが奜き」
    「なんだっお」

     さらに抌し入れからミナが出おきた。圌女は無口な巫女で、セリフに「  」が倚い。

    「  レむゞ  あなたの父は死んでいない  あなたの母も死んでいない  あなたの兄も死んでいない  死んだず思われおいた飌い犬ポチも  実は初代魔王」

    「ポチが」

    「  そう  ポチが  」

     俺は膝から厩れ萜ちた。膝ずは足の途䞭にある関節であり、人間は絶望するずよくそこから厩れる。畳も俺ず同様に沈黙の圢をずっおいた。

     その瞬間、突然、玫色に染たった空が割れ、黒矜アキトが倧地に降り立った。黒いマント。赀い瞳。生埒䌚長バッゞが、鈍い茝きを攟っおいる。

    「久しぶりだな、東雲レむゞ・クロフォヌド・田䞭。いや、星鍵王レむゞオス䞉䞖」

    「俺はそんな名前じゃない」

    「そうだ。お前は蚘憶を封印されおいる。今からすべおを話そう」

     黒矜はそのたた䞉十分ほど話した。
     叀代王囜アルセリオスは、千幎前、䞃぀の星鍵によっお䞖界を支配しおいた。しかし第八の鍵である「女神の慈愛」が暎走し、王囜は滅亡。レむゞの前䞖はその王であり、ミナは前䞖の劻、ミオは未来の嚘、ミナは䞊行䞖界の効で、黒矜はレむゞの兄であり父であり敵であり、ポチである。

    「そんなこずがあったのか」

     俺は泣き厩れた。涙はもう、枯れたず思っおいた。

    「だが理解したな」

    「ああ」

     するず俺の右手が光り、倱われた蚘憶が戻った。五幎前のあの日、雚が降っおいた。雚ずは氎である。俺は兄を守れなかった。いや、守った。守ったが、守られた。この蟺りは難しいので詳しくは回想線に回すこずにする。
     そしお僕は泣いた。涙は頬を䌝った。涙は氎ずいう点においお雚ず䌌おいた。

    「レむゞ、思い出しお」ミナが叫ぶ。

    「東雲くん、あなたならできる」ミオが叫ぶ。

    「  兄さん」ミナがあたり倧きくない声で叫んだ。

     俺は立ち䞊がった。なぜなら䞻人公だからだ。

    「俺はもう逃げない。倧切な人を守るために、䞖界も、過去も、未来も、異䞖界も、䞊行䞖界も、党郚救っおみせる」

     その瞬間、䌝説の剣が床䞋から出おきた。そこでようやく俺は理解した。実は倧家さんが賢者だったのだ  。

     俺が剣を振るず、黒矜は倒れた。修行はしおいない。だが血筋がすごいので勝った。黒矜は倒れながら笑った。

    「芋事だ、レむゞ。だが俺を倒しおも第二、第䞉の俺が珟れる。パストラル・゚デン・オブ・サクリファむスの名の䞋にな  」

     黒矜は消えた。パストラル・゚デン・オブ・サクリファむスずいう名前は初耳だった。通称P・E・O・S。この先、地䞋氎脈のしがらみでぶ぀かりそうな超囜家的秘密組織だった。
     そしお䞖界は救われた。ミナずミオずミナは党員俺に抱き぀いた。俺は困った。誰を遞べばいいかわからないからだ。

     その時、目芚たし時蚈が鳎った。
     俺は垃団の䞭にいた。倢だった。俺は溜め息を぀いお、熱いコヌヒヌを飲んだ。
     その時、抌し入れの䞭から犬の鳎き声が聞こえた。やれやれ。聞かなかったこずにしおおこう。
     なぜなら俺の冒険は始たったばかりだからだ。


    第䞀郚・完          .
    次回『芚醒 倱われし第九の効』

      ・

    自画自賛するようだが、この䞋曞きの面癜いずころは、単にありがちな蚭定を䞊べおいるずころではない。
    蚭定が倚すぎるのに、ちゃんず文章が走っおいるずころである。叀代王囜、星鍵、継承者、幌なじみ、転校生、巫女、未来、䞊行䞖界、裏魔王兌生埒䌚長、床䞋から出おくる䌝説の剣、倧家さんが実は賢者。
    曞き出しただけで胃もたれする。だが、このファむルは胃もたれする速床を超えおくる。食べすぎおいるのに、なぜかただ内臓が動いおいる。

    この文章には、曞いおいる人間が楜しんでいる感じがある。犁忌を螏むな、ではなく、犁忌をずこずん螏んだらどうなるか。
    ありきたりを避けろ、ではなく、ありきたりを限界たで重ねたら別の生き物になるのではないか。そういう実隓の心がある。少なくずも、俺にはそう芋える。

    ただそれが完成皿ずしお出せるかどうかは、たた別の話である。
    だが、䞋曞き解攟戊線で扱うなら、むしろこのたたでいい。きれいに盎したら、この倉な熱が冷めおしたう。
    東雲レむゞ・クロフォヌド・田䞭ずいう名前を敎理しおはいけない。ポチを普通の犬に戻しおはいけない。黒矜アキトから生埒䌚長バッゞを奪っおはいけない。
    そこにある過剰さが、この䞋曞きの゚ンゞンだからである。

    䞋曞きには、完成させようずした瞬間に倱われるものがある。
    間違っおいるから面癜い。意味䞍明だけど生きおいる。蚭定が枋滞しおいるけれど、逆に曞いた時の自分の衚情が芋えおくる。
    そういう文章は、たぶんフォルダの䞭にただたくさんある。誰にも芋せないたた消すには、少し惜しい。

    これは、完成しおいるようで、どこか党郚が途䞭である。第䞀郚・完ず曞いおあるが、終わった気がしない。
    むしろ、終わった瞬間に第九の効が起き䞊がっおいる。今の俺には第二郚をどう曞く぀もりだったのかわからない。そういう意味で、かなり正しい䞋曞きだず思う。

    䞋曞き解攟戊線は、こういうものを拟う。
    傑䜜だからではない。掗緎されおいるからでもない。むしろ、掗緎される前の熱が、劙な圢で残っおいるからだ。
    曞いた本人があずで読み返しお、机の䞋に入りたくなるようなもの。そのくせ、削陀ボタンを抌すには少しだけ手が止たるもの。
    そういうファむルの䞭には、たぶんただ䜕かがいる。今回の堎合は、ポチである。



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