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『後継者への応援歌』8 崎陽軒のはなし ~伝統は「先人がやってきたことをなぞる」ものではなく、「先達が目指したものを目指す」もの~

    先日、FBAA(Family Business Advisory Association)というファミリー企業のアドバイザー育成を行っている団体のセミナーに参加し、崎陽軒の会長による講演を拝聴する機会がありました。

    講演を聞きながら、私が研究してきた「継続的に成長するファミリービジネス」の姿と重なる場面が何度もありました。

    100年以上続く企業というと、「伝統を守り続けた会社」というイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、崎陽軒のお話から伝わってきたのは、その逆とも言える姿でした。

    「伝統とは、先人がやってきたことをなぞることではない。先人が目指したものを目指すことだ。」 

    この言葉が印象でした。

    横浜駅は、西に向かう人は東京駅で駅弁を買い、東京に向かう人にとっては終着駅間際ということで、中途半端な位置にあり、なかなか駅弁を売るにはアゲインストの中での工夫の数々。

    中華街にちなんだシウマイ駅弁を考え、地域関係者を巻き込んでの話題化。

    冷めてもおいしいように、ホタテを入れたり、列車の中で食べやすい一口サイズにしたりという商品開発面での工夫。

    「シウマイ娘」というキャンペーンガールの展開、これが映画化されるなど、話題化を促し、一気に人気がでたという話。

    近年では、工場見学向けの設備投資による地域起こし・話題化の取組み。

    過去から現在までの様々な取組み・工夫の紹介がありました。
    大手と同じ土俵で競争するのではなく、自社ならではの価値を徹底して磨き上げるという理念の表れです。

    「真にローカルなものがインターナショナルになる」

    この言葉に現れるとおり、これまで一貫していたのは、ナショナルブランドを目指すのではなく、地域だからこそ生み出せる価値を磨き続ける。その積み重ねが、結果として100年以上愛されるブランドを育ててきたのでしょう。

    一方で、理念そのものは固定されたものではありません。講演では「次の100年宣言」にも触れられ、時代の変化に合わせて理念を見直し、新たな方向性を示していくことの重要性が語られました。

    「理念は受け継ぐ。しかし、理念の表現や実践は時代に合わせて進化させる。」

    この姿勢こそが、長く成長し続けるファミリービジネスに共通する特徴なのだと改めて感じました。

    もう一つ印象深かったのは、後継者へのメッセージでした。
    親子で多くを語らなくても、背中を見て学ぶことはある。一方で、親子だからこそ遠慮なく議論でき、その積み重ねが後継者自身が経営観を育てていく事に繋がるのではないかというご自身の経験談。

    さらに、「他人の飯を食う経験」やビジネススクールへの入学など、外の世界を経験させることの重要性も語られていました。自身が経験して良かったと思ったことを後継者にも経験をさせていると。

    経営者は「家業を継ぐ人」ではなく、「判断する専門職」である。
    だからこそ、経験を通じて判断力を磨かなければならないという言葉が非常に印象的でした。
     
    「理念は受け継ぐ。しかし、理念の表現や実践は時代に合わせて進化させる。」の考え方は、その後のFBAAメンバーによる「ファミリービジネス・アドバイザーの心得」の話にも通じていました。

    支援者は、目の前の課題だけを見るのではなく、その会社がどのような歴史を歩み、どのような理念を受け継いできたのかを理解することが欠かせません。だからこそ、ファミリーの歴史を知り、キーパーソンを見極め、「この人は今3サークルのどの立場の”帽子”をかぶって発言しているのか?」企業・家族・所有という三つの視点を行き来しながら対話を進めることが重要になります。

    また、「正しい答え」を示そうとするよりも、相手の立場や感情に寄り添い、その企業らしい答えを一緒に見つけていく姿勢が求められるという話も印象に残りました。

    経営者が理念を未来へつなぎ、アドバイザーがその歩みを支える。この二つは別々の話ではなく、一つのファミリービジネスを支える両輪なのだと感じます。

    私自身、研究では継続的に成長するファミリービジネスのメカニズムを探究してきました。今回のセミナーを通じて改めて実感したのは、成長し続ける企業は「伝統を守る会社」ではなく、「伝統の本質を守りながら進化し続ける会社」だということです。

    そして支援者もまた、その企業が本来持っている価値や理念を未来へつないでいく伴走者でありたいと、改めて感じた一日でした。
     

     

     
     
    事業承継を控えた経営者・後継者の伴走者 キリンで30年以上、改革プロジェクトやベトナム子会社再建に従事。 現在は中小企業診断士として、事業承継前の経営改善や事業計画の策定支援、海外販路開拓支援に取り組んでいます。 中小企業診断士/MBA/認定コーチ/ファミリービジネス学会員

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