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そしお空ぞ第䞃話 岐路ず垰路

    「そんじゃ、母さん。行っおくるよ」
    「行っおらっしゃい。気を぀けるのよ」
    「お、おい、すごい緊匵しおきたぞ」
    「ペヌゞ、あんたはラむトの護衛なんだから、しっかりしおよね」
     ノァむサむが海に萜ちおから、十五幎の月日が流れおいた。
     ノァむサむから飛び立぀スむずレンの姿を芋た埌、ラむトは浜に䞊がっおいた小さな朚補ボヌトでノァむサむぞ移動した。枯れおひび割れた地に、リヌゎの倧暹の焌跡、そしおトリンず瓊瀫が点圚する、だだっ広いもの悲しい景色があった。
     そこぞアヌゞ村の人々が移䜏し、ラむトの魔法で守られながら囜を再建しおきた。珟圚は、田畑や緑に囲たれ、元のノァむサむず遜色ないほど豊かになっおいた。
     
     王ずしおノァむサむを統治するラむトは、初めお隣囜であるピック倧陞のマヌゞ街を蚪れようずしおいた。十八歳のラむトは、癟八十センチメヌトルずいう高身長で筋骚隆々、ガントレットにゎム手袋をした巊手がトレヌドマヌクの屈匷な青幎になっおいた。
    「ラむト、あんたは海に近づかないこず いいわね」
    「分かっおるよ」
     ラむトの巊手は、海にさらわれおしたったのだ。移䜏しお間もない頃、ラむトは興味本䜍で海に觊れた。するず、巊手銖から先が煙のように消えおしたったのだ。それ以来ホテむは、ラむトが海に近づこうずするず、えらい剣幕で怒った。
     アオむを倱った蚘憶が蘇るずいう理由で、ホテむは海を奜きにはなれなかった。アヌゞ村にいた頃は、りサギや鹿などの肉が食事の䞭心だったが、それらのいないノァむサむぞ移䜏しおからは、魚が食事の䞭心ずなり、海ず無瞁ずはいかなくなったのだ。もちろんホテむは、ラむトに持獲犁止什を出した。狩猟で胜力を遺憟なく発揮しおいたラむトは少し退屈に感じたが、『王』ずいう、胜力以䞊に重芁な職務がそれを晎らしたのだった。
     ただ䞀぀、ホテむには匕っかかる点があった。海は人間界ずノァむサむを繋ぐ鍵だ。
     では、人間界にノァむサむがある今、ラむトの巊手はどこぞ消えたのだろうか。

     マヌゞ街に初めお足を螏み入れたラむトは、耇雑な心情だった。ここは、埓兄匟の呜を危険に晒した者たちが䜏む街であり、埓兄匟に家族の呜を奪われた者たちが䜏む街だ。
     ペヌゞは、ラむトのその胞䞭を察しおいた。
    「䜕も気にするなラむト。ただ、お前のやるべきこずをやれ」
     かく蚀うペヌゞだが、着慣れおいないスヌツの襟ずネクタむを䜕床も盎しおいた。ラむトは、自分より緊匵するペヌゞに思わず吹き出し、改めお背筋を正した。安堵から、やっずのこず街をじっくり芋られる皋床の䜙裕さず王の嚁厳が出たのだった。
     王宮ぞの長い階段を登りながら、ラむトは心の䞭で自分の意思を確認しおいた。この決断は正しいのか、みんなにずっおいいこずだろうか。ここぞくるたでに䜕床も確認しおきたはずのこずが、湯氎のように湧いおきた。
     王ずいうのは、責任感ずいう芋えない盞手ず戊い続ける仕事であり、今たでりサギや鹿ずいった獣ずだけ戊っおきたラむトにずっおは難しい仕事だった。この時ほど、王を匕き受けおしたったこずを埌悔したこずはないだろう。そんなラむトの頭や尻を匕っ叩いおくれるペヌゞずホテむの存圚は倧きかった。二人が偎にいるから、王ずしおやっおこられたず蚀っおも過蚀ではない。それにラむトは、二人がいるから王ずしおの自芚を持おおいるのだ。
    「ラむト、ただ迷っおんだろう」
    「分かる」
    「気づいおないず思うがお前、考え事で頭がいっぱいになるず、髪の毛に静電気がたたるみたいだぞ」
     ペヌゞはラむトに金属板を枡した。そこに映ったラむトの頭は、実隓に倱敗した博士のような倧爆発を起こしおいた。
    「ちょっず埅っおくれよ せっかく敎えおきたのによぉ」
     ラむトは右手で電気を吞いずり、手櫛で敎えた。
     ペヌゞは、ため息を吐いた。
    「瞁起でもねぇ頭しやがっお  。いいか アヌゞ村のみんながラむトの遞択を支持しおここたでやっおきたんだ。それを今曎悩んでどうする それに、せっかく支えおきたっおのに、それを吊定されおいるようで気分が悪りぃ」
     ラむトは申し蚳なさそうに頭を掻いた。
    「シャキッずしろよ ホテむの息子だろ」
     ペヌゞはラむトの尻を匕っ叩いた。叩かれた尻がキュッず締たった。そしおゞンゞンず熱を垯びた尻が、ラむトの気を匕き締めた。

    「お埅ちしおおりたした。ラむト様ずペヌゞ様でいらっしゃいたすね」
     王宮入口の近衛兵は、ラむトずペヌゞを倧広間たで案内した。倧広間には、すでにマヌゞ街の王ずその偎近二名が揃っおいた。だだっ広い郚屋の䞭倮に、長いテヌブルず倧きな怅子。ペヌゞは、いかにも金持ちが奜みそうな萜ち着かない郚屋だず心の䞭で野次った。
     二人が垭に着くず、䞀息぀く暇もなく本題に入った。
    「マヌゞ街ぞようこそ。あなた方にお䌚いできたこず、倧倉嬉しく思っおおりたす」
    「こちらこそ。以前からお誘いいただいおいたにも関わらず、お時間がかかっおしたいたしお、申し蚳ございたせん」
     人間であるペヌゞよりも、ラむトの敬語はしっかりしおいた。シュピれは敬語ずいうものを知らないず、スむずレンから聞いおいたこずもあり、敬語でハキハキず話すラむトにペヌゞは目を䞞くした。恐らく、ホテむから鍛えられたのだろうず感心した。
     マヌゞ街の王は歎代の王の䞭では若い方らしく、ペヌゞず同い幎くらいだった。十五幎前の王は、あの隒動から二幎埌に老衰で亡くなり、息子が跡を継いだのだずか。
    「お声がけしたのは他でもありたせん。囜亀に関しおです。荒地だったあの堎所を、十五幎で囜家にしおしたうずは、さぞ玠晎らしい手腕をお持ちなのでしょう。是非、我が囜ず良奜な関係を築いおはいただけたせんか」
     ラむトずペヌゞは、やはりず思っおいた。ペヌゞは、マヌゞ街を蚪れるこずを、招埅された圓初から反察しおいた。囜亀の件だず分かりきっおいた䞊に、ノァむサむにずっおメリットが䜕もないからだ。粟々、マヌゞ街の颚倉わりなサヌビスを受けられるこずくらいだろう。それではあたりにも釣り合っおいない。
     ラむトもペヌゞの意芋には䞀理あるず思っおいた。
     マヌゞ街の狙いは他でもない、ノァむサむにのみ存圚する垌少金属『トリン』だ。硬床は充分、䞔぀研磚によっおガラスのような透明性を発珟する金属は、人間界に存圚しない。マヌゞの今埌の発展にずっお、これほど枇望するものは他にないだろう。圓たっおほしくはない予想ではあったが、その範囲内におさたった䌚話が展開されおいるこずに、二人は安堵した。なぜなら、答えをすでに甚意しおいるからだった。

    「倧倉申し蚳ございたせんが、遠慮させおいただきたす」
     マヌゞ街の王にずっお、その蚀葉は予想の範囲内になかったのだろう。驚きの衚情を党くず蚀っおいいほど隠せおいなかった。
    「ひず぀お聞きしたいのですが、あの囜はどこからきたか、ご存知でしょうか」
    「確か、䞊空から降りおきたのですよね」
    「ええ、そうです。なので䞊空ぞ還したす」
     マヌゞ街の王は、目の前にトリンずいう金脈をちら぀かされお、やはり匕き䞋がろうずはしなかった。しかし、蚀葉巧みに口説こうにも、ラむトに蚀葉巧みに断られた。この抌し問答を、ペヌゞは黙っお聞いおいた。結局、互いに䞍䟵略を誓い、ラむトは屈匷な巊手で握手を亀わしおから、王宮を埌にした。
     その時のラむトの巊手は、い぀もよりも軋んでいるようだった。

    「長かったなぁ。眠たくなったぜ」
    「やっぱり、自囜の利益の話ばかりだったね」
    「た、そんなもんよ、人間なんお。それがお前の兄貎たちをあんな目に遭わせたんだよ」
     ペヌゞは、ネクタむを雑に倖しながら蚀った。
    「でも、ごめんね」
    「䜕がだ」
    「もしあの話を受けおたら、みんなで裕犏な暮らしができたかもしれないからさ」
    「お前、たた尻を叩かれたいのか」
     ペヌゞはラむトの頭をがっしりず掎んで蚀った。
    「そんなのどうでもいいんだよ。たたみんなでアヌゞ村で楜しくやろうぜ」
     ペヌゞのその蚀葉は、ラむトの背䞭を抌した。心にあった靄が完党に晎れた気がした。

     ノァむサむに垰っおきたラむトずペヌゞは、みんなぞの報告を枈たせた。拍手喝采に包たれたラむトは、やっず肩の荷を䞋ろせた気がした。そんなラむトを、ホテむは匷く抱きしめた。
     気持ちのいい倜を迎え、ラむトずペヌゞずホテむの䞉人はノァむサむを歩いた。もちろん海から離れた堎所を。
    「さお、どうやっお䞊空ぞ還そうかね」
    「母さん、それなら時間が解決しおくれるず思うよ」
    「どういう意味だ」
    「ペヌゞ、あれを芋お」
     ラむトが指差す先に、リヌゎの倧暹の焌跡があった。真っ黒い切り株で、ただ埮かに焊げた匂いを挂わせおいた。スむやレンを思い出させるこの戊跡に近寄るこずがなかったため、誰も気が぀かなかったのだが、ある倉化があった。
    「お、なんだこりゃ」
     目を凝らすず、小さな䜕かが切り株を突き砎っおいるのが分かった。ラむトは指先に灯りを点け、それを芋せた。
     新芜だった。リヌゎの新芜が顔を出しおいた。ホテむずペヌゞは、玍埗した衚情を浮かべおいた。スむずレンの話から、ラむトもホテむもペヌゞも、それがノァむサむの魔力の根源であるずいうこずを理解しおいた。
     ぀たりこれが成長すれば、ノァむサむは元の䜍眮に還るのだろう。
    「倧きくなるたで守るよ」
    「時間がかかりそうだが、頌むぜ、王様」
     ラむトは蚀葉通り、数幎の間、あらゆる障害からリヌゎを守る日々を送ったのだった。

    「よし  そろそろか  」
     リヌゎは、元の䞉分の䞀ほどの倧きさではあったが、芋䞊げるほど立掟に成長しおいた。光沢のある硬葉が窮屈そうに身を寄せ合い、颚に吹かれるず、䜎朚ながら荘厳さを感じさせるような葉擊れを響かせた。そんな荘厳さに可憐さを䞎えるように、小さな癜い花がポツポツず咲き始めた。ラむトは花から魔力を感じ、浮動の準備をしおいるこずに気が぀いた。

     ゎゎゎゎゎ──。
     閑散ずした自然豊かな地が、たるで意志を持぀かのように揺れ始めた。それは海にも䌝播し、芋送りの手振りのように波を荒げおいた。
     ラむトはリヌゎの朚の偎で仰向けになり、虚空を芋぀めおいた。
    「あヌあ、随分ず倧倉な人生を歩たされたもんだ」
     顎髭を摩りながら呟いたラむトずは裏腹に、䞇䞖䞍易の青が䞀面に広がっおいた。

     数時間埌、ノァむサむは眠りに぀いたような静寂に包たれた。
     ラむトはゆっくりず起き䞊がり、呚囲を芋枡した。田畑が枯れおいる。他に倉化はなかった。ラむトは深呌吞をし、リヌゎの朚に䞀瀌した。豊かな景色をひず぀ひず぀脳に焌き぀けおいくように、ノァむサむの端たでしっかりず螏みしめお歩いた。

    「ねぇ、母さん。ずっず気になっおたんだけど、なんでがくずスむ兄ちゃんずレン兄ちゃんは、ひず぀の魔法しか䜿えないんだろう」
    「そういえば二人も、それが分からないたた、いっおしたったわね。分からないけど、あなたたち䞉人に共通点があるこずには気づいたわ」
    「  あれでしょう 人間の血が流れおいる」
    「正解 人間は、あれもこれもできない䞍噚甚な生物だから、その圱響なんじゃないかっお、ペヌゞず話したこずがあるわ。でもね、それだけじゃないの」
    「他に䜕かあるっけ」
    「ええ。あなたたち䞉人は、愛を知るシュピれよ」
     
     結局、䞉人がひず぀の魔法しか䜿えない、䞔぀人間界で魔法を䜿うこずができた理由は分からない。ホテむの考察も、真停のほどが定かではない。
     ノァむサむ返還前倜に、ホテむず䜕気なく亀わした䌚話だった。しかしラむトにずっお、これは心からの疑問ではなかった。
     なぜなら、それを解明したずころで、これからのこずに䜕も圱響がないからだ。
     ノァむサむのシュピれではないラむトにずっお、䜿うこずのできる魔法の倚さ、魔力の倧きさは、生きる䞊で関係がない。誰かの圹に立぀のなら、少なくたっお小さくたっお構わない。そう思えた。

    「じゃ、行っおきたす」
     ラむトはそう蚀い残し、ノァむサむを飛び立った。

     
     
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