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自伝的小説「夢のおわり」⑯芸人には段階がある

    第15話はこちらから

    2002年 冬
    今では当たり前のように使っているスマホのカメラだが、J-PHONEのカメラ付き携帯が爆発的にヒットし合言葉のように「写メール」送ってと言っては今では考えられないほど画像の悪い写真を送りあっていた頃。

    僕らは“解散の危機”以来、奮起したように好調なネタを発表していった。
    それは「3分でいいから面白い事やってくれよ」と出会った頃に僕らに言った ”あの” 演出家が「間も内容も構成も完璧や」と言い放つ程だった。

    それは結果にも表れ
    毎月、月末に行われる入れ替え戦でも上位に選ばれるようになり、
    遂には1位を獲得した。
    1位なんて響きはデビュー当時、梅田で行っていた駆け出しの芸人を集めたイベント以来、実に4年ぶりの事だった。

    あの頃は勝つ事が当たり前で、
    今はこれがプロの厳しさだと、勝つ事を諦めていた僕らだったが、
    勝てるんだと自信が貰えてすごくうれしかった。

    そして、1位になったご褒美として
    ずっとやってきたこのイベントで
    初めてMCもさせてもらえる事となった。

    “MC”



    それは、芸人を目指すものにとって誰もが憧れるポジション

    そんな大げさな、、、MCってただの司会者でしょ?そう思うかもしれないが、そうではない。

    その日のイベントの良し悪しはMCで決まるといっても過言ではない。
    なぜならMCはそのイベントのリーダー的存在で
    イベントというのはMCで始まり
    MCで終わる。というのが鉄則だからだ。
    また、良いイベントの条件というのは
    笑いで始まり笑いで終わること。

    すなわちMCはまず頭に登場し、
    お客さんをなごます為トークで必ず笑いを起こし
    イベントをスタートさせなければならない。

    そしてエンドトークでも一番大きな笑いが起こったタイミングのいいところでイベントを締めなければならない。
    それも時間通りに。

    途中のコーナーでも話題を振り、
    振った相手が落とせない場合は自分で落とす。
    振る順番も計算に入れなくてはならない。
    尻つぼみにならない為にも。

    ゆえにMCというのはとても難しい。

    「はいどうも~」

    「今回MC担当させてもらいます@@@です。よろしくお願いします」

    「(たくさんの拍手に対して)いや~ありがとうございます。お客さんいっぱい入ってますね~」


    そんな感じでイベントはMCのフリートークから始まる。
    時間にして約5分くらい。

    だけど、僕らは人前でフリートークなんかやったことがない。
    しかも舞台上二人っきりで、、、

    だから僕らは、そんなやりとりでさえもネタを合わせた。
    合わせなければ怖かった。


    「いや~いっぱい入ってますね~」

    もちろん想定での会話である。

    「聞いてくださいよ~この前ね、電車乗ろうと思って駅で待ってたら僕の目の前に立ってた人がミニスカートはいてたんですけど、ルーズソックスで。でなんかソワソワしてるんですよ。見えてしまうのが心配なのか、小さなカバンで一生懸命お尻の辺り隠してるというか…でもなんか変だなと思ってぱっと顔の方見たらハゲたおっさんやったんです。え~!って思って。もっと隠す所あるやろ~!!!まずハゲ隠せよ!!って」

    「パンツ気にせんとね」

    「クリント・イーストウッドみたいな顔して」

    「顔はどうでのええやろ」

    「かわいい白のパンツ履いてた」

    「見たんかい!」

    「それから映画でクリント・イーストウッド観るたびドキッとする」

    「うそつけ!」

    フリートーク “風” の会話。
    もちろん、こう言うからこういう風につっこんでとガチガチにネタを合わせたセリフたち。


    「…というわけで@@@LIVE。まずはネタを観てもらいましょう。5組続けて、どうぞ!」


    こんな練習を本番まで何度も繰り返し続けた。

    迎える本番。
    当たり前だが予想とは違うお客さんの反応。
    焦る
    焦る
    そして焦る
    吹き出るわき汗
    話す内容を変えようにもアドリブなど効かずそのまま練習通りの会話が続く…。
    結果は惨敗。

    演出家から激しいダメだし。

    そうやって失敗を重ね
    経験を積む事で
    だんだん慣れていき
    コンビでのお互いの息が合ってくるとだんだんとアドリブも入れる事が出来るようになる。
    多かれ少なかれ、みんなそうやって成長していく。

    芸人には段階がある。
    まず【ネタで確実に笑いが取れるようになる】までが第一段階。
    そして【コーナーでトーク力や瞬発力を鍛える】のが第二段階。
    それが出来るようになって初めて第三段階である【MC】へ挑戦できる。

    だからMCはその全てが出来る者しかする資格がない最も難しいポジションなのである。

    小さな、事務所にも所属をしてないような人たちのライブをたまに観に行くと、若い芸人の子たちがのうのうとMCをしている様子をよく見かける。

    彼らは、オチもなく面白くもない会話を永遠と続け、笑いもないままライブをスタートさせる。
    そんなひどい光景を見るといつも舞台から引きずり下ろしたくなる。

    「お前らにMCは百万年早い」
    そう言ってやりたい。

    そういう子たちに限ってテレビで活躍している芸人さんたちを面白くないと非難し、俺らは新しい笑いを作るなどと、ふざけたことを言っている。
    地獄に落ちなさい。

    テレビで活躍している人たちはみな第四段階。
    第五段階それ以上の段階の人たちなのだから。
    第一段階もクリアー出来ていない君たちに言う資格はない。

    そしてその冬、僕らはついに第四段階に進むことが許された。

    【単独ライブ】をやらせてもらえる事になったのだ。
    たった1時間の枠だったけど
    それは僕ら1組だけの
    まぎれもない単独ライブだった。


    それは、その年一番の寒さを記録した2月の事だった。
    (つづく)


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    マンスリーよしもと2003年6月号掲載

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