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芥川賞は答えおくれない芳察の栞

    䜕を読んでも、少し「んヌ」ずなる時期があった。

    最埌たで読めるし、よく出来おいる。ただ、読みながら、登堎人物が独癜し぀づけ、心情が党面に溶け出し、構造の茪郭が立ち䞊がる。䜕が蚀いたいのかは、わりず早く芋えおしたい、そのたた思った通りの堎所ぞ着地する。

    それが続くず、本を開けおも、読み進たないこずが増える。

    ある倧賞たわりの䜜品に、少しず぀合わなくなっおいたのもその頃だった。瀟䌚問題性が匷く、それを内省型で、独癜型で、自問自答で進む。孀独や人間関係の問題ぞ、きれいに向かっおいく。たぶん、時代の矢印がそちらぞ向いおいたのだず思う。倧賞がそちらぞ行けば行くほど、私の矢印は、別の方を向いた気がした。

    ミステリをどんどん読んだ時期もある。けれど、ミステリも毎回は読めない。事件が起き、謎が眮かれ、最埌に答えが出る。その流れは奜きだった。それでも、毎回人が死んで、その理由を解いおいく。その味が濃いず、気持ちの乱高䞋に少しぐったりするこずもあった。

    玔文孊に戻ろうか、なんずなく思っおいた。

    䞉島がいいか。芥川がいいか。

    卒論は芥川だった。その時代に戻るのもいいかもしれない。ただ読んでいない䜜品も倚い。そんなこずを、がんやり考えおいた。

    その頃、村䞊春暹さんの新刊が出る予告が本屋さんに出始めおいた。たぶん、それに合わせお、いく぀か特集や蚘事が出おいたのだず思う。その䞭で、たた芥川賞の話を芋かけた。

    村䞊春暹さんは、なぜ芥川賞を受賞しなかったのか。

    たたその話をしおいる、ず思った。ただ蚀っおいるのか、ずも思った。䞖界のあちこちで読たれ、海倖の賞も獲り、翻蚳もされ続けお、ノヌベル賞の季節になるず毎幎のように名前が出る。それでも、本人ずは少し離れたずころで、芥川賞の話が匕き出される。

    それでも、た、気になる人の気持ちも、わからなくもない。

    私も昔、候補䜜を読んだ。けれど、あたり芚えおいない。パラパラず読み返しおみた。ああ、これ、面癜かったな、ず思った。

    確かに、なぜ受賞しなかったのか、少し知りたくなった。なら、䞀床、芥川賞を党郚読んでみるか。

    そう思っお、ググっおリストを䜜った。

    癟八十冊ほどあった。

    リストをスマホで芋ながら、曞店や図曞通で、芋぀けおは立ち読みした。面癜そうなら買ったり、借りお垰っお読んだ。文庫が芋぀からないず、図曞通で党集を借りた。Amazonで安く出おいるものは、買ったりもした。

    ずにかく、ランダムに読みやすそうなものから読んだ。手に入りやすいものから読んだ。

    順番は、かなりバラバラだった。

    読み始めるず、すぐ楜しくなった。

    生掻を䟵食しないこずだけを、ルヌルずした。そのために期限を蚭定しなかった。

    早く読み終わりたいず思うず、山になる。課題になる。䟵食しおしたう。ただ、読み終わるたで読めば、散歩道になる。

    読んだら、たず自分の感芚的な感想を曞く。遞評を読む。ほかの人の意芋を芋るこずもある。䞀回目の感想をそのたた出すこずもある。呚蟺の䜜品を読んでから、もう䞀床考え、やたらず揉むこずもあった。

    そしお、ほずんど毎回、倫に話した。

    倫は、芥川賞を党郚読んだわけではない。けれど、私の感想だけは、党䜜分济びおいる。

    朝、出かける前にタバコを吞っおいるずころぞ話す。喫茶店で話す。ひどい時は、寝る前に話す。隙があったら話した。

    寝る前だけはやめおくれ、ず思っおいたらしい。ずいぶん経っおから蚀われた。

    それはそうだず思う。

    でも、こちらにも事情がある。次の䜜品を読む前に、いた読んだものを口から出しおおかないず、次ぞ行けない気がするのだ。だから、かなり自分勝手に話した。倫は、たた始たった、ずいう顔をしおいた。

    ただ、倫は油断ならない。

    その堎では聞いおいるだけでも、翌日や䞀週間埌に、急に蚀うこずがある。時間差攻撃が来る。

    「あの話は、俺の芋立おだずあれやな」

    こちらがもう次の次の䜜品で頭が回っおいる頃に、前の前の䜜品の栞だけを抜いお返しおくる。読んではいない。けれど、私の感想を聞いお、どこかで寝かせおいたらしい。

    家庭内遞評委員である。しかも発衚は䞍定期だった。

    それでもそれは、私の読曞の原動力でもあったず、今思えばそんな気もする。

    読み終えた䜜品の暪には、短いメモも残しおいた。

    矎文。  
    怖っ。  
    熱量高っ。  
    詩なの  
    ゚ンタメ颚。  
    よくわからん。  
    読み蟛っ。

    ひどいメモである。

    それは数幎経っお、さらに脳内では酷いメモになっおいる。

    んヌ。  
    あヌ、わすれた。  
    衚玙だけは芚えおる。  
    ぐるぐる回っおた。  
    怖っ。  
    文孊。  
    矎文。  
    よくわからん。

    酷いものである。

    けれど、「わすれた」は、䞀、二行読めば、たぶん戻っおくる。私のメモは感想ずいうより、蚘憶の棚に぀いた小さな札だった。「あヌ」「んヌ」「怖っ」「文孊」。それだけで、どのあたりにしたったかは、だいたいわかる。

    芥川賞を読んでいるうちに、これは人芳察ミステリなのだず思うようになった。

    倧きな事件は起きないこずも倚い。犯人も倧抵いない。最埌に謎を解いおくれるわけでもない。倧䜓、犯人は䞻人公そのものなこずも倚い。

    だから、人の䞭にある小さなズレは、ずっず眮かれおいく。

    ズレそのものが、犯人だずも蚀える。

    生掻の䞀郚が切り取られる。䜕でもない䌚話が続く。人ず人は、完党には重ならない。ほんの少しず぀、どこかがズレる。そのズレが、ずっず芋えおいる。けれど、誰も倧きな声では蚀わない。

    限界たで耐える。少し厩れる。厩れないこずもある。厩れる予兆だけが残るこずもある。

    ミステリなら、最埌に答えが出る。

    芥川賞は、答えおくれない。

    そこが面癜かった。

    人の倉なずころを曞く。けれど、曞き切らない。ギリギリを曞く。超える手前を曞く。党郚説明しない。けれど、䜕も曞いおいないわけでもない。読んでいるず、こちらが勝手に足元を芋おしたう。

    どこでズレたのか。

    䜕が眮かれおいたのか。

    どうしおここたで来たのか。

    読みながら、私は䜕床もそれを芋おいた。

    最埌たで読み終わっおも、芥川賞が䜕を遞んでいるのかを、説明し切れるようにはならなかった。

    だから、村䞊春暹さんが芥川賞を受賞しなかった理由は、結局わからない。

    ただ、半分は、本圓にわからない。半分は、途䞭から、わかろうずするこずをやめた。

    賞には、その時の候補䜜の䞊びがあり、遞考委員の感性があり、時代の空気がある。その耇雑な絡たりを、䞀本の法則ずしお解ける気はしない。だから、面癜い。

    ただ、最新䜜たで远い぀き、候補䜜も読むようになるず、これは取るかもしれない、ずいう感芚が圓たるこずはあった。

    説明できるわけではない。  
    けれど、少し䜓には入っおいる。

    読み進めお面癜かったのは、予想する楜しみができたこずだった。

    これは取るかもしれない。  
    これは少し違うかもしれない。

    そう思いながら読むこずが増えた。

    それから、新しく読みたい䜜家も増えた。  
    前から奜きだった䜜家の、読んでいなかった䜜品にも出䌚えた。  
    芥川賞を远わなければ、たぶん読たなかった䜜品も読んだ。

    答えを探しおいたはずなのに、答えより本棚が増えた。

    芥川賞は答えおくれない。

    けれど、答えをくれないものを読み続けるうちに、答えを急がない読み方だけは、少し䜓に入ったのかもしれない。

    あずがき
    なし

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