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似てないふたりの、同じ香り

    ただの物語


    彼と私は、正反対の性格だった。

    彼は朝が強くて、早起きして散歩するのが日課。私はギリギリまで寝て、よく遅刻しかける。
    彼は計画的で、細かいところまできっちりしている。私は思いつきで動いて、あとで慌てることが多い。

    なのに、趣味は一緒だった。

    本が好き。
    映画も好き。
    休日は無印良品や文房具屋をのんびり歩くのが好き。

    それに、同じ音楽を聴いて、同じ味が好きで、同じ匂いに惹かれる。

    ある日、彼の部屋でコーヒーを淹れていたとき。
    ふわっと立ちのぼる香りに、自然と笑みがこぼれた。

    『この匂い、好きだな』
    そう言った私に、彼はカップを手にして頷いた。

    「俺も。落ち着くよね」

    『同じ匂い、好きなんだね』

    「うん。なんか、それだけで十分って思える時ある」

    彼の言葉に、私は少しだけ胸が熱くなった。
    性格も考え方も違うのに、不思議とこういう瞬間がぴったり重なる。

    一緒に映画を観ていても、私はすぐに泣いてしまうのに、彼は無言で最後まで見届けて、あとから感想を丁寧に言葉にする。
    感じ方は違うのに、同じシーンで心が動いていたとわかると、少しうれしくなる。

    『なんでかな。こんなに違うのに、一緒にいたいって思うんだよね』

    「違うから、じゃない?」

    彼は、そう静かに言った。

    『似てた方が楽なんじゃない?』

    「似てると、ぶつからないけど、広がらない気がする」

    彼の言葉に、私はまたうなずいた。
    自分にないものを、彼が持っていて
    彼にないものを、私が持っている。

    そんな関係が、心地よいのかもしれない。

    『似てないふたりだけど、同じ香りに落ち着けるって、いいね』

    「うん。俺は、けっこう好きだよ。こういうの」

    私は照れ隠しに、そっとカップに口をつけた。
    熱いコーヒーの香りが、ふたりの間に、やさしく漂っていた。

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    静かな午後に、ことばをこぼしています。 すれ違う気配や、言えなかったひとこと。 誰かの胸の奥に、そっと残るような物語を ゆっくりと書いています。 物語は、日々のすきまに落ちているもの。 拾い集めて、少しずつ、ここに置いていきます。 気の向いたときに、覗いてみてください。

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