物視点短編小説 平熱
私が意識があるのは、年に数回くらいだ。
大抵、リビングの隅の棚の引き出しに仕舞われヘロヘロになった人間が私を入れている平べったい透明の筒から出す。
そうしてもらって初めて仕事が始まる。
仕事と言っても人間の脇に挟まれその脇の温度を人間に教えるだけだ。
私は熱をすぐに正確には把握できず5分くらいかけてようやく温度が分かる。
温度が分かったなと思ったら高らかにピピピピピーと測れたことを教えてあげる。
ただこの家の大人の男だけは大体測れただろうくらいの時に私を脇から外す。
大人の男は「そろそろもっと早く測れるやつ買おうよ」と言うが、毎回「まだ使えるんだからいいじゃない」と大人の女の人が言ってくれるのでここに、10年ほど居れている。
そう言う大人の女性は私を使ってるところをここに来てから見たことはない。
まだ小さな男の子は、その子よりは大きな女の子が私を使うときは大抵元気なのだが、本人が使う時は大抵38度から39度くらいでヨタヨタと元気がない。私がピピピピピーと言ってその子が私を見ると大抵泣き叫ぶ。
「遠足行きたかったー」などと言ってるのを何度か聞いた。
この子が私を使い出すと2日後くらいから大人の男も女の子も私を使いだし高い数値を叩き出していく。
ただ、最近私をよく使うようになったのは女の子だ。
制服を着るようになってから週に3〜4回は測るようになり、女の子は毎回リビングではなく自分の部屋であろう場所で測る。
毎回36.4℃から高くて36.8℃だ。
その度にがっかりした顔で私を筒にしまったり、再度測り直したり、脇ではなく手で擦ったり電気ストーブの熱に当てられたりもした。
その時の女の子の手は震えていて、私も緊張する。
高い数値を何とかして出せたときだけ目がキラキラと輝き、その後しんどそうな顔をして筒に戻す。
女の子が私を使うペースが更に多くなってきた。