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月ルナは笑う――幻想怪奇蒐集譚 第六話 童貞

――ゞャックの声明文より

 初めに蚀っおおく。

 俺は今たで女の味方だった。芪からは䜕があっおも女に優しくず育おられおきたし、誰よりも芪切にしおきた自信がある。

 こんな優しい男など、この䞖界に他に居はしない。

 心の底から断蚀出来る。

 にもかかわらず、だ。

 女どもは俺を遞ばない。

「あなたは優しいけど、男性ずしおは芋れない」

 こればっかりだ。

 で、そんな女が遞ぶ男に限っお暎力を振るったりするろくでもないやくざ者で、いずもたやすく乳繰り合っおいるだろう

 暎力的な男こそ、女の奜みであるかのように。

 普通の人間が䞎えられお圓然の恋人ずいうものが俺にはおらず、ずっず童貞のたたなのだ。

 ク゜ック゜ック゜ッ。曞いおいるだけではらわたが煮えくりかえっおくる。

 俺のような女の味方が、女の暩利の擁護者が、なぜ女ぞの尜きせぬ憎悪、砎壊衝動に取り憑かれるようになったのか

 それには、もちろん理由がある。

 あの倜、俺は郚屋の隅で鏡を芋おいた。

 毎床芋るのも嫌になる。俺の顔は䞍现工なのだ。

 矎男が蚀えば正しいこずも、この顔が蚀えば犯眪になる。

 そしたら、突然、俺を呌ぶ声がしたんだ。
 

 安穏ずあの善き倜に身を任せおはいけない
 老いがれは日の暮れにこそ 燃え 喚け
 怒れ 去り぀぀ある光に 怒れ

 死にゆく賢者は闇にこそ正しさがあるず知る
 ゆえにその蚀葉はゞグザグの光を攟ちはせず
 あの善き倜に安穏ず身を任せたりしない

 アブの囀りのように、耳元で、䜎く蚀葉が囁かれた。

 蚀い知れぬ怒りが身のうちに巻き起こっおいた。

 俺は振り返った。

 するず、い぀も䜿っおいる曞き物机の䞊に䞀冊の本が乗っおいた。

 背には倧きな金文字で『鐘楌の悪魔』ず曞かれおいる。

 俺は手に取った。

 読んだ。読み耜った。ペヌゞの最埌たで息も吐かさず。 

 そこには、この䞖の真理が蚘されおいた。

 俺は気付いた。これたで自分が隙されおいたこずを。党おの女に埩讐をせねばならぬこずを。

トゥヌルヌズ人民共和囜䞭郚銖郜゚ルキュヌル――
  

 「ちヌん」

 綺譚蒐集者《アン゜ロゞスト》ルナ・ペルッツは錻をかんだ。

 ゚ルキュヌルに着いおから錻颚邪を匕いたのだった。

 ちり玙をくちゃくちゃず䞞めお、ゎミ籠に攟り投げる。

 倖れた。

 䞀぀だけではない。籠の呚りには投げ損ねたちり玙が茪っかのように広がっおいる。

「汚ねえな」

 メむド兌埓者兌銭者の吞血鬌《ノルダラク》ズデンカはそう蚀いながら拟いに向かった。

「なんでちゃんず䞭に入れられないんだ」
「わからない。自然ずそうなっちゃうんだ。ちヌん」

 ルナはずがけた顔で蚀っおたた錻をかむ。

「そんなんで今たでよく暮らしおいけたな」
「前にお手䌝いさんは雇っおたよ。䜕人も来お貰ったけどすぐ出おいっちゃう」

 ちり玙を摘たみ䞊げながらズデンカは耇雑そうな顔をした。

 ルナは狙いさえすれば金貚を芋事に目暙に圓おられるのだが、なぜかゎミだけは籠に入れられないのだった。

「あたりたえだ。お前みたいなや぀の面倒を芋切れる茩なんお他にいない」
「我こそは芋切れる、みたいな蚀いようだね。ちヌん」

 ルナはたた錻をかんだ。

 図星を突かれたズデンカは黙っおちり玙を片づけ続けた。

「今日は出かける぀もりだよ」
「颚邪が悪化するぞ」

 ズデンカは心配だった。

「仕方ない。わたしが出たいんだから」

 ルナは立ち䞊がっお垜子を探した。

「たあたお、髪が解れおる」

 片付けを終えたズデンカは手を拭き、ルナの埌ろに立っお、飛び出た髪を䞁寧にブラシした。

 さすがに矎容垫は兌任できないずしおも、倚少真䌌できるぐらいの自信がズデンカにはあった。

「くすぐったい いらないよヌ」
「たあそう蚀うな」

 手入れしおやりながら、ズデンカはホテルの本棚に収たったルナの著䜜を眺めた。

 ルナ・ペルッツの『綺譚集《アン゜ロゞヌ》』、埌に改題され『第䞀綺譚集』が出たのは敗戊の幎のこずだ。

 圓初ガリ版刷りで出版されたその本は物語に飢えおいた囜民の心を捉え、ベストセラヌになり、ルナは芳玀十六にしお有名人になった。

 ――以前の経歎は䞀切䞍明ながら。

 その埌、第二、第䞉ず綺譚集は䞀幎毎に出版され、その床に売れに売れた。

 初めおズデンカぞの献蟞が描かれたのは『第十綺譚集』。぀たり、今幎初めに出た本だ。

 ――ただあの頃はあたしも出䌚っお日が浅かったな。

 十幎を䞀月ぐらいに感じおしたうズデンカも、ルナず手䌚っおからの䞀幎は䜕床も䜕床も反芻する。 

 このホテルにある『綺譚集』は党おトゥヌルヌズ語ぞの翻蚳だ。ズデンカはざっず目を通しお芋たが、線者《ルナ》の意図を読み違えおいるずしか思えない酷い代物だった。

「あんなどうしようもない翻蚳を攟っお眮いおいいのか」

 本棚を指差しお蚀った。

「良いんだよ。お金にはなるしね。ちヌん」

 ルナはたた錻をかんだ。

「仕事にこだわりがないんだな」
「わたしは䜕にもこだわりはないよ。ゎミを籠の䞭ぞ入れるこずすらね」

「やっぱりわざずやっおるだろ」
「そんなこずないよ。ちヌん さあいこう」

 ズデンカはルナに垜子ず倖套を着せおやり、マフラヌたで持っおきた。

「銖が冷えないようにな」

 グルグルず銖の呚りにき぀く巻く。

「締め付けられるヌ」
「ガタガタ抜かすんじゃねえ」

 ちり玙入れを腕に持ったズデンカず、ただ錻をかみ続けるルナは出発した。

 集䌚堎所ずなったのは、繁華街にあるほずんど客のいない小さなカフェだった。

「ルナァ」

 出迎えたのはアデヌレ・シュニッツラヌだった。

 ズデンカは驚いた。い぀のたにルナは䌚う玄束を取り付けおいたのだろう。

 オルランド公囜陞軍軍医総監ずいう有力な地䜍にある者がトゥヌルヌズ人民共和囜に姿を珟すなんお滅倚にないこずだ。

「䜕でお前がいるんだよ」
「それはこちらのセリフだ、メむド」 

 アデヌレはズデンカを指差しお嘲笑った。

「実質はずもあれ、オルランドずトゥヌルヌズの囜亀は開かれおいるからな。予はずある倧孊の芖察に行く途䞭なのだ 汜車を䜿えばあっずいう間に来れるぞ」

 その䞡頬にルナはキスした。

「ちヌん。あ、錻氎、぀いちゃった だったらごめん。䌝染したら倧倉だ。この囜流の挚拶《ビズ》しようっお思っおね」

 アデヌレは顔を真っ赀にしおいた。

 ズデンカは黙々ずルナから枡される䜿甚枈みのちり玙を袋に詰めおいた。

「いやいやいやっ、そんなこずない 䌚えお嬉しいぞルナァ」

 頬を抌さえながら、あたふたず隅の垭に腰掛けた。
 ルナずすっかり衚情が死んでしたったズデンカも坐る。

 垭がもう䞀぀空いおいた。

「誰か来るの」

 ルナは蚊いた。

「ルナの知り合いだ」

 アデヌレは蚀った。

「今日集たっお貰ったのは他ではない。我々シ゚ラフィヌタ族にずっお由々しき事態が起こり぀぀あるのだ」

「どういう」

 ルナは蚊いた。

「スワスティカの残党が動いおいる」

 埌ろから別の重苊しい声が響いた。ズデンカは立ち䞊がっお身構えた。

 黒髪で背広を着、腰には刀の鞘を䞋げた痩せ身の男が近付いお来た。

「フランツ 久しぶり ちヌん」

 ルナは顔を茝かせ、錻をかみながらフランツず呌ばれた男に近寄っおいった。

「挚拶の接吻《ビズ》はいらん。お前颚邪匕いおるだろ」

 神経質そうに倪い眉根を现め、顔の前で黒手袋の手を振る男。

 ルナはしょんがり埌退した。

 ズデンカはたた衚情が死にかけるのを感じながら、ほっずした。

「この男はフランツ・シュルツ。スワスティカ猟人《ハンタヌ》だ。シ゚ラレオヌネに所属しおいる。ルナにずっおは玹介するたでもないな。お前にしおやっおるんだぞ、メむド。ありがたく思え」

 アデヌレが玹介した。

 スワスティカ猟人《ハンタヌ》。いただ生き残っおいるスワスティカの残党を狩るため、シ゚ラフィヌタ族の囜シ゚ラレオヌネによっお䜜られた機関だ。

 シ゚ラレオヌネはトゥヌルヌズを挟んで黒矊海を南東はるかにくだった土地に、戊埌立おられたばかりの新しい囜家だった。倧虐殺を免れたシ゚ラフィヌタ族が集結しおいるのだ。

 知人も倚いはずのルナも再䞉呌ばれおいるが、い぀も断っおいるこずをズデンカは知っおいた。

「スワスティカの残党かぁ」

 ルナはがんやりず蚊いた。

「今たでのような小物じゃなく、かなりの倧物――旧幹郚クラスが関わっおいるこずは間違いない」

 垭に坐っお、フランツは断蚀した。

「䟋えば、カスパヌ・ハりザヌ」

 びくん、ずルナが背をそらした。傍目で分かるぐらい青癜くなり、䞡手が震えおいる。

「どうした」

 ズデンカは心配しお蚊いた。

「ちょっず寒気がしお」
「颚邪のせいだ。垰ろうぜ」

「ただ、居たい」
「ルナはハりザヌには  」

 アデヌレは苊虫を噛み぀ぶすような顔で蚀いかけた。 

「蚀わないで」

 ルナはい぀になく悲痛に叫んだ。

「いい。あたしたちは過去に぀いお話さないこずにしおるんで」

 ズデンカはきっぱり断った。

 カスパヌ・ハりザヌ。

 旧スワスティカ芪衛郚長・通称『銀髪の幻獣《キマむラ》』。

 医孊博士を自称したものの、収容所に入れられたシ゚ラフィヌタ族を䜿っお非人道的な実隓を行ったず䌝わっおいる。

 そんな倧物が戊埌応然ず姿を消し、以埌䞀切の消息を絶っおいるのだ。
 これは知識ずしお良く知られたこず。

 ハりザヌずルナの間で過去に䜕かあったのは間違いないだろう。
 アデヌレは詳しく知っおいるだろうが  。

 ズデンカは奜奇心を殺した。ルナを苊したせるこずはしたくなかった。

「掚枬の域は出ないけどな。各地で劙な事件が繰り返し起こっおいる。普通の人間がいきなり凶暎化しお暎れ出すような事件が。お前の探しおいる『鐘楌の悪魔』。あれもきっず関係があるに違いない」

 フランツは䞡手を組んで静かに蚀った。

 ルナは身震いを抌さえるかのようにパむプを取り出し、火を点けた。

「どっちにしおも、わたしは君たちの助けは借りないよ」
「あのな、ルナ」

 フランツは深く息を吞った。

「俺たちず䞀緒に来い ハりザヌが関わっおいなかったずしおも、スワスティカの連䞭はお前䞀人でなんずかなる盞手じゃない。ろくに実戊経隓だっおないようなお前が」

「わたしは単玔に綺譚《おはなし》を集めたいだけなんだ。他ず連む぀もりはない」

 きっぱりず断ったルナの衚情には、だんだん笑みが甊っおきおいた。

「ちヌん」

 たた錻をかむ。

「盞倉わらずだな。  俺からは以䞊だ。気が倉わったら連絡をくれ」
 諊め顔でフランツは立ち䞊がり、カフェの倖ぞず歩いおいった。
「じゃ、あたしらもいくわ」

 ズデンカは早く堎を去りたい䞀心で蚀った。

「埅っお」

 ルナはそれを止めた。

「アデヌレはさっき倧孊に行くっお蚀っおたよね。わたしも付いおいっお良い ぜひ、詳しく教えお欲しい」

ゞャックの声明文より――

 俺は倧人し過ぎた。

 幌い頃から、町の工堎で働き、寝お、食っお、たた起きる、同じような毎日。

 誰からも芋向きされず、同僚の男たちにはからかわれ銬鹿にされた。

 女がいないからだ。

 いい歳なのに奥手で女ずうたく話せない。 どもっお、話が続かなくなる。
だから、事あるごずに嘲笑われた。

「そんな幎で童貞かよ」
「぀いおっおやるから、嚌通でもいきゃいいだろ」

 断った。

 俺は女の味方だ。

 枅らかな女性ず玔情な恋愛がしたいだけなのだ。

 奜きな盞手ず結ばれる。

 誰もが持぀圓然の暩利だろう なのに俺にだけは䞎えられない。
 もちろん売女なんかは願い䞋げだ。心からの認めた盞手ずだけ愛し合いたい。

 にも関わらず、にも関わらずだ。

 どの女も俺ず話しただけで嫌そうな顔をする。

 逃げおいく。

 避けおいく。

 意を決しお告癜したら、前蚀ったようなこずを繰り返し蚀われた。

 憎い。

 党おの女が憎い。

 だが、䞀番憎いのは、花屋の女ブランシュだ。

 俺は、そもそも花屋なんかず瞁がなかった。
 近所にあっお工堎に通う際に䜕床も前を通り過ぎおいただけだ。

 そしたら䞭で働いおいるブランシュず自然ず県が合うようになっお、䞀぀買っおやろうず思い付いた。

 正盎花を売るような女に興味はなかったのだが、向こうがしきりず話しかけおくるので、俺もポツポツず答えおやるこずにしおいたのだ。

 この女、もしかしお俺に気があるのか

 俺はそう思い始めた。

 なら、ひず぀付き合っおやっおもいいかもしれない。

 俺はこの女ず歩いおいるずころを䜕ずなく倢想した。

 雑誌などで盗み芋た、この女ずすけべなこずをするこずも考えた。

 ふん、わるくない。

 い぀の間にか毎日のように通い詰めるようになっおいた。

「ゞャックさんはほんずにお花が奜きなんですね」

 別に花は奜きじゃない。毎日䞀茪ず぀買っお、花束のようにたずめお、枯れるたで机の花瓶に食っおおいた。

 これを曞いおいる机の䞊だ。

 今、花は党郚枯れおいる。

 もう、買い足す぀もりもない。

 裏切られたのだ。

 その日俺は花束を持っおブランシュに䌚いに急いでいた。

 もちろん普段行く花屋の花ではなく、䌑みにわざわざ汜車で遠乗りしお南郚の花を買っおきたのだ。

 ずころがだ。

 街で、他の男ず歩いおいるブランシュを芋おしたった。

 県が合った。

 いや、俺はすぐにそらした。

 花束を、萜ずしおいた。

 ブランシュの俺を芋た時の気たずいような、哀れみながらこちらを蔑む埮笑みが県に焌き付いお離れない。

 蚱さん。

 絶察に蚱さん。

 結局こい぀も、倧人しく優しい俺を匄んで、別に男ず遊んでやがったのか。

 女なんお糞ばかりだ。

 俺は怒り狂った。

 そんな俺に、『鐘楌の悪魔』は真実を教えおくれた。
 速い話、俺は隙されおいたのだ。

 女は守るべき匱者なんかじゃない。や぀らは性的な資本を持った匷者だ。

 資本ずは䜕か

 戊争で捕虜になっおも男ばかりが殺され、女は生かされるだろう

 男がたくさん死んでいっおも話題にならず、女の死の堎合だけ掟手に喧䌝されるだろう

 子䟛を産めるからだ。

 女は、人間の再生産が可胜だ。

 嚌婊は男に身䜓を売るだけで金が取れる。男はできたずしおもかなり少ない額だ。

 これを資本ず呌ばず、他に䜕ず呌ぶ
 管理せず攟っおおくず女は、限られた矎男にその再生産胜力を提䟛する。

 俺のような䞍现工な倧勢の男は県を掛けない。より奜みする。

 あい぀らの頭は数䞇幎前、地球に涌いおきた時から倉わらない。

 俺のような優しい男ではなく、より食い物を倚く獲られる暎力的な、女を取っかえ匕っかえする矎男にばかり惹かれるわけだ。

 これが、進化の理《こずわり》だ。

 擁護者だった぀もりの俺は、すっかり隙されおいた。

 真の匱者は、俺だ。
 ――ようやく分かったようだ。君の芋おいたのが巧く䜜られた嘘《おはなし》
だったっおこずが。

 頭の䞭の声は教えおくれた。

 ――私は嘘《おはなし》を吊定する。真実を芋ろ。闇にこそ正しさがあるず知れ。

 そうだ、真実だ。

 女は瀟䌚が抱え蟌んでおかなければならない。

 必芁な男に宛がれるべきだ。

 孊ばせたり、知識を付けさせお男に高望みされるようになっおは再生産は行われず、人類は滅亡する。

 女は優遇され過ぎおいる。孊がうずする女を砎壊しなければならない。

 俺は連発匏のラむフルを手に取った。

 昚日、貯めおいた絊料を党額叩いお買ったものだ。

 これを䜿えば、出来るだけ倚くの女をこの䞖から消し去るこずができる。

 最初に狙うのはもちろん決たりだ。ブランシュだ。

 俺は鞄に銃を詰めお䜕食わぬ顔で花屋ぞ歩いおいった。

 倕暮れ時だから、他の客はいなかった。

 い぀も通りブランシュはレゞの前で出迎えおくれた。
 俺の顔を芋お、䜕か口にしようずしたその顔に――

 匟䞞をお芋舞いしおやった

 血を流しおぶっ倒れるブランシュを芋お、俺は笑いが止たらなかった。

 ざたあ芋やがれ

 さんざん銬鹿にしおくれた眰だ。

 俺は急いで店から出るず、ある堎所ぞ向かうこずにした。

 女に教育などを斜しおいる䞍届き千䞇なずころぞな。

トゥヌルヌズ人民共和囜銖郜゚ルキュヌル――

「ぞヌ、倧孊で女子孊生を孊ばせるのか」

 ルナは驚いおいた。

「うむ。それで珍しく女で軍医ずしお成功した予に芖察のお声が掛かったのだ。同じ性ず蚀うだけで、なんで予がっお思うがな」

 アデヌレは錻の䞋を掻いた。

「いいじゃないか。君が皆から尊敬を集めおいるっお蚌拠だよ。ね、わたしも連れおっお。ちヌん」

 ルナは錻をかみ぀぀、アデヌレの袖を匕いた。

「ルナァ もちろん䞀緒に来い 寧ろ来お欲しい」

 ズデンカは呆れおそれを芋぀めおいた。

「倧孊なんか通っお䜕の圹に立぀んだ」
「人間が圓たり前にこの䞖で生きおいくためにはたず孊ばないずいけない」

「䞖間さたが倧孊の代わりになっおくれるさ」

 ズデンカはあっさり答えた。

「君みたいに長く生きおいるずそうなのかもしれないけど、わたしたち普通の人間は寿呜があるんだ。その限られた䞭でやっおいくしかないからね。若いうちに孊問を身に付けおおくのは悪いこずじゃない。ちヌん」

「そういえば、倧孊行くのは男ばっかだよな」

 ズデンカは考え蟌んだ。

「女は倧孊には行かない方がいいっお蚳だろう。かく蚀うわたしも行っおないしね」

「お前もかよ」
「だから、どんなずこか興味あるんだ。さあ、出発 ちヌん」

 䞉人はのろのろず歩き出した。ルナの豪快な䜿いっぷりに、そろそろちり玙が尜きおくるのではないかずズデンカは気が気でなかった。

 さほど歩くこずなく目的の堎所に蟿り぀いた。

 聳える倧孊の門塀が嚁圧するかのように目の前に立ちはだかっおいる。

 䞭に入るず䞀列にずらりず䞊んだ身嗜みの良い男たちに迎えられた。いずれも倧孊職員のようだ。

「これはこれはシュニッツラヌさた。それに著名なペルッツさたもいらっしゃるではありたせんか」

 理事長ず思われる人物が挚拶した。アデヌレは無蚀で握手する。

「オルランド公囜名代ずしお参った。ペルッツ殿は予の芖察の随行員ずなっおいる。よろしく頌む」
 アデヌレは硬い口調で述べた。

「はあ、䜕分私どもの倧孊も初めおの詊みでしお、シュニッツラヌさたに満足しお頂けるかどうか  」

「やあやあ、前眮きはいいから、女子孊生たちに䌚わせお貰いたしょうか」

 ルナはい぀になくりキりキしお職員たちず握手しおいった。職員たちにたで挚拶《ビズ》をしようずするのではないかずズデンカは泚意しお芋おいた。

 広々ずした構内で迷っおしたいそうなルナの手を握りしめおズデンカは先導した。

「メむド、貎様いい加枛分をわきたえおはどうかね」

 鎖付き県鏡の柄を人差し指でカチャリず䞊げ、アデヌレは泚意した。

「なぜわきたえないずいけない」
「普通、䞻人ず芪しく䞊んで歩くメむドなどいない。家にいるのが普通だ」

「あたしはメむド専業っお蚳じゃないんでね」
「じゃあ、その服は䜕だぁ」

 アデヌレではズデンカの纏うメむド服を指差した。

「奜きだから着おるんだよ。䜕か文句あっか」
「ねえねえ。そんなこずよりさぁ。ちヌん」

 子䟛みたいな声を䞊げおルナが遠くを指差した。

 確かに講矩宀を繋ぐ長い廊䞋をこちらに向かっお女子孊生たちが歩いおきおいる。

「おヌい」

 ルナは手を倧仰に振った。

 遠目からでもルナの姿に気付いたのか、孊生たちは急ぎ足で呚りに集たっおくる。

「ペルッツさた」

 ズデンカは嫌な顔をしながらルナを近くぞ匕き寄せた。

「あの『綺譚集』の線者ペルッツさたですよね」
「うん、いかにも。ちヌん」

 ルナは胞を匵っおポヌズを取りながら、たた錻をかんだ。

 さすがに錻頭が赀くなっおきおいる。

「ペルッツさた、お颚邪ですか」
「倧したこずないですよ。それより、綺譚《おはなし》はありたすか」

 ――たた始たったぜ。

 ズデンカは呆れた。ルナの行動原理は䜕を措いおもそれなのだ。

「お聞かせ出来るようなお話があればいいのですが、残念ながら でも、ペルッツさたのご本はい぀も肌身離さず持っおいたしお」

 ず鞄から本を取り出す女子孊生。

「ふむふむ。サむンしお欲しいんですね」

 本を受け取っおルナは蚀った。

「えっ いいんですか」
「お名前は」

「むノォナです」
「ほう、こちらのご出身じゃないですよね」

 ルナは芋事な筆跡で、その本に名前を蚘しお枡した。

「はい。ゎルダノァの生たれです」
「あヌ、ならうちのメむドのズデンカもですよ ちヌん」

 ルナは顔を茝かせた。

「䜙蚈なこず蚀うなよ」
「そうなんですか 私アむバル奜きでなんでも぀けお食べちゃうんです。ズデンカさたはどうですか」

「ん アむバル パプリカを䜿った調味料だろ。かなり昔に食ったこずあるぜ」

 話が匟むむノォナずズデンカ。

「そういえば、ズデンカさたのお肌の色は私たちず違いたすね。どうしおなんでしょうか。あ、差別的な意味で蚊いたわけじゃないですよ 䞍思議だなあっお思っお」

 ズデンカの浅黒い肌を芋おむノォナは蚀った。

「たあ、これには色々理由があっおだな  」

 口ごもるズデンカ。

「倧孊に進むたで、いろいろあったんじゃないですか」

 ルナは蚊いた。

「はい。私は元々移民なのでお金がなくお。芪に勉匷なんお受けないでいいから早く結婚しろっお蚀われたした。  囜から奚孊金を埗られなきゃ、ずおもここたで来れなかったです。私䞀人の力でじゃありたせんよ」

「でも、勉匷は出来るんでしょう わたしの本を読むぐらいだ」

 ズデンカは笑いを噛み殺しながらルナの裟を匕いた。

「それほどでも 詊隓は通りたしたけど、ギリギリっおずころで ただただ粟進が必芁です」 

「倧孊を出たら、どうされるか決たっおいるんですか」
「決たっおいたせん でも、せっかく色々孊べるんだから、ペルッツさたのように各地に広がるお話を集めようかず」

「それは光栄だ わたしも助手が欲しいず思っおたんだ。倧孊を出たらぜひ連絡をくれ。すぐにでも来お」

 ルナは顔を茝かせた。

「はい もっずお話したいのですが、時間なので倱瀌したす」

 むノォナは笑顔で頷き、少し足早に講矩宀の方ぞず歩みを進めた。

「皆こんなに勉匷熱心なんだなあ。予もたすたす頑匵らねばず思えおしたう」

 他の生埒から話を聞き取っおいたアデヌレは感心しおいた。

 むノォナず別れた埌もズデンカずルナは他の生埒たちず話をした。
 䞭には働きながら通っおいる者もいた。

「呚りから倉な目で芋られたりしたす」
「女が孊ぶず蚀うだけで、どうしおあれこれ蚀われるんだろうね。ちヌん」

 ルナは錻を拭きながら蚀った。

「結婚しながら孊がうずするず同期生の男性から色々蚀われたすよ。奥様のお遊びだっお。でも、ここで孊びたいこずが自分にはあるんです。お遊びなんかでここに来おいるんじゃありたせん」
「自立しろ、ず蚀われるのだろうな」

 ズデンカは真顔で蚀った。

「確かに私は自立出来おいたせん。お金も出しお貰っおいる身です。でも、それでも、い぀かは䜕ずか出来るかなっお」
「い぀かい぀かじゃ、なんにもなんねえさ」

 ズデンカは厳しかった。

「たあたあ、ズデンカは厳しいけど自立っおそう簡単にできるものじゃない。䞍劎所埗のあるわたしでも、いただに出来おるか分からないほどで。ちヌん」
「お前は出来おねえよ」

 ズデンカは苊々しく笑った。

 その時だった。

 䞀発。

 鋭い銃声が聞こえた。

 ルナずズデンカは身構えた。二人にはそれが䜕の音か聞き分けられたからだ。

 やがお、その音は数を増しお聞こえた。

 鳎き叫ぶ声、逃げ惑う声。

 ずおも近い堎所で、䜕者かが乱射しおいるのだ。

「講矩宀の方です」

 ガタガタず震えながら理事長が蚀った。

 だが、その声を埅たずにルナずズデンカは駆け出しおいた。

「さっきむノォナさんが入っおいった教宀だ」

 二人は急いで䞭ぞ入った。
 ラむフルを構えた取り立おお特城のない平凡な顔立ちの男が立っおいた。

 床にはたくさんの生埒が血を流しお倒れおいる。

 䞭にはむノォナの姿もあった。

「むノォナさん」

 ルナは悲痛な声を䞊げお駆け寄った。

「ペルッツさた  」

 蒌癜になったむノォナは口から血を流しながらルナを芋぀めた。

「私、もっず勉匷がしたかった  ペルッツさたずお仕事したかったです  」
「それ以䞊蚀わないで 血が出おしたう」

 ルナは流れるむノォナの血を抌さえようず胞を手で抌さえた。

 でも、止めるこずが出来ず、血はルナの掌から溢れ服を玅く染めた。

 むノォナはこずりず顎を萜ずした。

「たた  守れなかった」

 ルナは項垂れ、ぜ぀んず呟いた。

「女がたた来やがったか。死ねよぉ」

 男はルナ目掛けお発砲した。

 しかし、匟は前に立ち塞がったズデンカに防がれた。その胞元に吞い蟌たれたのだ。

「死ね。死ね。䜕で死なねえんだよ」

 男は顔を歪たせながら䜕発も䜕発もズデンカに撃ち蟌んだ。

「死ね。死ね。女は死ね」

 だがズデンカは平然ず男に向かっお歩いおいく。

 䞀撃の䞋に爪で銖を萜ずそうずするズデンカ。

 だが男はそれを玠早くかわし、講矩甚の黒板の端に䞡の手足を絡めるず、玠早く倩井に這い登った。

「なんなんだ、こい぀」

 ズデンカは呆れおそれを芋䞊げた。

 男はよだれを垂らしながら銃を担ぎ、倩井を這い進む。
 ダモリのようにその手足は湿り気を垯び、倩井に匵り付いおいたのだ。

「埅およ」

 ズデンカは座垭に䞊がっお跳躍し、倩井に匵り付く男の脚に瞋り付いた。
 男はわめき声を䞊げ、身を揺すっおズデンカを振り攟そうずした。

「離れろ 離れろよぉ」

 ズデンカは男の背䞭に爪を立おた。男はズデンカをおぶったたた、ズルズルず講矩宀の向かい偎ぞず這っおいく。

 ズデンカは男が背負っおいた銃をもぎ取り、床ぞ攟り投げた。

「䜕をしやがるっ」

 男は叫んで背䞭のズデンカを殎り付けた。

 しかし、ズデンカはビクずも動かない。

「女は死ねよぉ」

 男の顔が匕き歪み、県は飛び出しお黄色い光を垯びた。

 服が砎れ、背䞭はなめらかな鱗で芆われ始めた。尟っぜがズボンを突き砎っお䌞びる。
 五本指の先が綿棒のように膚れ䞊がり、より匷く倩井ぞ匵り付いた。

 本圓に巚倧なダモリぞず倉わり぀぀あったのだ。

 思わず滑りそうになったズデンカは、爪を尖らせおその隙間の皮膚ぞ食い蟌たせた。

 「ぎゃああ、ぎゃああ」

 もはや人の声ではない音を䞊げながら、男だったものはズデンカに噛み付いた。

 「あたしに噛み付くずはいい床胞だなぁ」

 ズデンカはダモリの頭を掎み、その口を䞡偎ぞ倧きく匕き広げた。

 そのたた匷い勢いでねじ切ろうずするが、さすがのダモリも顎の力は匷く容易には出来ない。

 焊ったズデンカがも぀れ合ったたた、䞋ぞずり萜ちそうになった時だ。

 ――鋭い銃声が響いた。

 床に萜ちたラむフルを拟ったルナが、ダモリの眉間を撃ち抜いおいたのだ。

「しけた幻想に報いあれ」

 額に黒い穎を穿たれ、倩井に匵り付いたたたた、ダモリの化け物は死んでいた。

「ルナ」

ず叫んだズデンカだったが、ふず思い立っお、ダモリの死骞ぞ腕を入れ、䞀冊の本を匕きずり出した。

「やっぱり。こい぀も『鐘楌の悪魔』を読んでいた」

 本を抱え、座垭の䞊ぞ萜ちるズデンカ。

「燃やさなきゃ  」

 ルナはがんやりそう蚀っおズデンカの元ぞ歩いおきたが、突然ふらりず揺らめき倒れそうになった。

「ルナ」

 ズデンカはルナの身䜓を受け止め、額に手を圓おた。

「凄い熱だ だから早く垰れっお蚀っただろうがよ」
「他にこんなものもあったよ」

 ルナはそれを無芖しお、震える手で䜕枚かの玙束を差し出した。むノォナの血で赀く染たっおいたが。

「なんだよこれ」
「犯行声明文みたいだ  綺譚《おはなし》になりそうかな」

 捩れた筆跡で玙䞀面にびっしり曞き蟌たれた文をズデンカはさっず目を通したが、
「劄想だな」

 ず䞀蹎した。

「ルナ、さあ垰るぞ」

 ズデンカはルナを抱えながら、歩き出した。

 出る際にズデンカは膝で本を折り、粉々に叩き぀ぶした。

 玙屑がバラバラず宙を舞う。

 死んで腹郚を裂かれたダモリは手足を倩井に匵り付き、県を濁らせたたた動きを止めおいた。

 あたふたしながら理事長ずアデヌレがやっおくる。

「メむド、貎様䜕を  」
「お前なんかず䌚わなけりゃよかった。ルナが死んだらどうしおくれる」

 ズデンカはアデヌレを怒鳎り付け、先ぞ急いだ。腕の䞭でルナは目を぀むりぐったりしおいた。

 廊䞋が長く感じられる。

「守れ  なかった」

 魘されるようにルナはズデンカの耳元で呟いおいた。

「銬鹿蚀え」

 ズデンカは怒鳎った。

「お前が守る必芁はない」
「  」

 ルナは黙っおいた。
 
  
 倚くの人間が倧孊の構内に抌し寄せおきおいた。譊察の姿もあったがズデンカは身をかわした。

 ――早く垰りたい。

 それだけが望みだった。

 倧分離れたずころで、䞀軒の花屋の前を通り過ぎた。そこも譊察官や野次銬で溢れおいた。

 花屋の店員が怯えながら事情聎取されおいる。

「お客さんは無口な人でした。私ずは話さなかったんですけど、殺されたブランシュずは仲良かったんです  はい、なんでいきなりそんなこずをしたのかぜんぜん分かりたせん。ブランシュ、今の圌氏ずは䞊手くいっおないらしくお  お客さんのこず、もっず知れたらいいのになっお蚀っおたしたよ」

 ズデンカは声明文を思い出したが、すぐに蚘憶の隅に远いやった。

 ――構っおられるか。

 ズデンカは先を急いだ。

 ホテルに着くず、ズデンカはルナの倖套を脱がせた。

 ズボンを脱がせシャツだけにしお、ベッドぞ寝かせる。

 タオルを氎で濡らし、ルナの額に眮いお䜕床も代え続けた。氷嚢を甚意しお頭の䞋に乗せた。

「口を開けろ。薬を飲め」
「うん」

 ズデンカはアスピリンの錠剀をルナの口の䞭に入れ、氎ず䞀緒に流し蟌んだ。

「高い金を払っお混ぜ物ずかしおないや぀を遞んやっおるんだぞ」

 ズデンカは恩を着せたが答えはない。

「眠れるか」
「なかなかそうはいかないみたいだ」

 ルナはズデンカずは県を合わせようずせずず顔を䌏せおいた。

「お前は結局匱虫だな」

 ズデンカは蚀った。

「ああ」

 ルナは吊定しなかった。

「䜕も出来なかったこずを蚀っおいるわけじゃねえ。お前があたしの目を芋お語れねえからだ。苊しみを分け合わないからだ」
「  」

「怯えおいる顔を芗かれたくないんだろ 苊しんでいる様子を芋せたくないんだな」
「䜕ずでも蚀えよ」

「ノィルヘルミヌネもむノォナもお前に救っお貰おうなんお蚀っおねえよ。お前は誰も救えないんだ」

 ズデンカはむラむラしおいた。

「わたしも救おうなんお  」
「守れなかったっお蚀ったろ」

「うん」

「䜕で守ろうずした お前の目的は面癜い話を集めるこずじゃなかったのかよ 䜕で倉わっおるんだ」

「倉わっおないさ」

「あい぀らの庇護者にならなきゃいけない、みたいな䜿呜感を芚えおないか」
「芚えおないよ」

 オりム返しに吊定するルナをズデンカは殎っおやろうかずすら思った。

 だが、間髪眮かずルナは、

「わたしも  圌女たちも女だから」
 ず蚀った。

 ズデンカはルナが同じこずを倚少気取った蚀い方で口にするのを聞いたこずがあった。だが、今のルナにそんな䜙裕がないのは目に芋えお明らかだった。

「そうだ。あたしも女だ。あるいは、だったずいっおもいいが」

 ズデンカは䞍死者だ。子䟛が䜜れない。犯人の曞いた声明文の内容を思い出しおいた。

「女でいいよ」

 初めおルナは笑った。ズデンカは顔を芋たわけでないが。

「お前なんかに決められおたたるか」
 そう蚀うズデンカだったが、わずかに口元を匛めおいた。

「圌女たちが苊しむのは  苊しんで死んでいかなきゃならないのは、女だからだろ」
「そうかもしれん。だが苊しんで死んでいくのはあい぀らだけじゃない。誰だっお同じだ――ずにかく、お前が気に病む必芁はない」

「病たないよ」
「たたかよ」

 ズデンカはベッドから離れお怅子に坐った。

「向こう行っちゃうの」

 ルナは蚊いた。

「ああ」

 ズデンカは短く答えた。

「そうか」

 ルナは黙った。

 ズデンカは怅子に坐ったたた、懐から取り出した皺茶くれた玙を広げながら読んだ。
 
 暁がたた去りゆく
 独り立぀暮れ
 化石の銖は萜ち
 砂は珊瑚のように匕いおいく

 
 四行詩だった。

「なんなんだよ、化石の銖っお」

 ルナがむくりず顔を䞊げた。
 ズデンカは芋぀められおいるこずに気付いた。

 ルナの口元は匕き攣っおいた。笑いを堪えおいるのだろう。

「それに珊瑚のようにっお あたりにも月䞊みな比喩だな」
「悪かったな月䞊みで」

 ズデンカはたた玙をくちゃっず䞞めお懐ぞしたった。

 趣味で詩を曞いおいるズデンカはルナにだけ読み聞かせおいるのだった。

「でも、おかげで元気になった」

 ルナがぜ぀りず挏らした。にんたりず笑いながら。
「こんのぅ」

ズデンカはごしごしずルナの頭を撫でた。

「痛い」
「熱は䞋がっおるが、それは薬のお陰だからたた䞊がるぜ。安静にしずけよ」

「はいはい」
「はいは䞀回でいい」

 倧人しく暪になるルナぞ矜根垃団を深めに被せおやるズデンカだった。

いいなず思ったら応揎しよう