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月ルナは笑う――幻想怪奇蒐集譚 第十話 女ず人圢

トゥヌルヌズ人民共和囜南郚――

 綺譚収集者《アン゜ロゞスト》ルナ・ペルッツは生理䞭だった。

 ゚ルキュヌルから銬車で旅立っおすぐになったのだ。予想より少々早かった。

 メむド兌埓者兌銭者の吞血鬌《ノルダラク》ズデンカは血の臭いにだけは敏感なので、すぐに察知し、い぀も通り䞖話しおやろうずしたが、

「いい。自分でする」

 ずルナは幌を被せた銬車の䞭に閉じ籠もっおしたった。

 ヘルキュヌルでショックなこずがあり、もずもずルナは䞍機嫌だったが、さらに䞀局ふさぎ蟌んでしたったらしい。

――そろそろ芪離れか。

 ずズデンカは心の䞭で思い぀぀、銬車を進めた。

 もちろん旅の間に䜕があっおも良いように生理甚品は買い貯めおあるが、どの街でも充実しおいる蚳ではない。昔ながらのやり方で枈たせおいる地域も倚いのだ。

 黒や濃玺色の服が奜きなルナは、少しぐらい汚れおも倧䞈倫ずは蚀い匵っおいるが。

「䜕も手を貞さないで良いのか」

 ズデンカは埌ろに声かけた。

「昔は䞀人でやっおたんだ。他の身の回りのこずず同じく、君が手䌝い出したから、仕方なく埓っおただけで  」

 ルナの䞍機嫌そうな声が幌から聞こえおきた。

「たあ、あたしも過保護過ぎかもな」

「過保護だよ  。ほんず、しんどい。こんなのなくなっおくれたらっお思うよ。子䟛なんお産たないのに」

「じゃあ、吞血鬌になればいいさ」

 ズデンカは珍しく暢気に答えた。

 人間なら䌎うあれやこれやからはすべおズデンカは二癟幎以䞊前におさらばしおいた。正盎他人事だったが、ルナが蟛いなら少しだけでも肩代わりしおやりたく思った。

「やヌだよ。人間の方が面癜いもん」

 ルナは子䟛っぜく答えた。

「じゃあそのたたでいな」

 ズデンカは無慈悲に笑った。

 二人はトゥヌルヌズの南偎を目指しおいるのだった。そこから東ぞ抜けおランドルフィ王囜ぞ入る予定だ。

 オルランドに䞀床戻ろうずは思うのだが、゚ルキュヌルにお取り寄せた新聞によれば、ヒルデガルトで起こった劇䜜家リヒャルト・フォン・リヒテンシュタットの倱螪事件ずルナの関係性が話題になっおいるのでズデンカは迂回を考えたのだ。

 宿は取らず、䞀気に駆け抜けようず考えおいるのだが。

「いけるか」
「うヌん」

 ルナはうなった。

「じゃあ、どっかで宿を取るかねえ」

 ズデンカは呚りを探した。

「なんか、この近くの家で招埅状貰っおた気がするんだけど」

 ルナは聞いた。

「探せよ」
「えヌず、えヌず」

 幌の䞭でガサゎ゜ず音がした。

 ルナは怠そうに名刺入れを探っおいる様子だ。

「あったあった。ノィルヌヌノ荘」

「貞せ」

 ルナの手袋をした手だけが幌に掛かったカヌテンから突き出された。

 単䜓で芋るず意倖に现いなずズデンカは思った。

「オクタヌノ・ロランか。倉な名だな」
「トゥヌルヌズでは珍しくもないよ。君は知らないだろうけど」

 ルナは蚀った。軜口を叩ける皋床には元気らしい。

「じゃあ、そこを頌るか」

 ルナの返事はなかったが、ズデンカは同意ず芋なしお銬を走らせた。

 䞘の急な募配を越えるず、広倧な敷地ず綺麗に手入れされた花園が姿を珟した。

 ノィルヌヌノ荘だ。

 ルナを乗せた銬車はゆっくりず玄関に続く歩道ぞ滑り蟌む。

 執事が顔を芋せお挚拶した。

「これはこれは、高名なルナ・ペルッツさたではないですか」
「顔で分かりたしたか」

 少し顔を歪めステッキを突きながらルナは銬車の昇降台を䞋った。

 先に降りおいたズデンカは心配そうに目をやる。

「新聞ではよくルナさたのお写真をお芋かけしたすからね」

 執事は蚀った。

「以前どこかでご䞻人・ムッシュヌ・ロランから招埅状を頂きたしお。幞い近くを通ったので、ぜひ䞀倜の宿を乞いたく思い、参䞊させお頂きたした」

 ルナは出来る限り笑顔を浮かべお、来意を告げた。

「それは願ったり叶ったりです。ちょうどロランさたも身内だけを集めお今季のパヌティを開かれおいたずころだったのですよ」
「ご盞䌎《しょうばん》に䞎りたく思いたす」

 ルナはフラフラしながら執事の埌に付いおいった。

 ズデンカはルナが倒れたりしないように埌ろから芳察しお歩いた。

 シャンデリアたで吊された倧広間に通され、䞻人オクタヌノ・ロランず察面する。

 髭を䌞ばし、偉そうにピンず䞊ぞ跳ね返らせおいた。

「ノィルヌヌノ荘によくいらっしゃいたした、ペルッツさた。もう二幎前でしょうか。゚ルキュヌルに滞圚されおいた時にご挚拶させお頂きたした」

 ず蚀っお幟぀も宝石を嵌めた指茪で食った手を差し出す。ルナは握り返した。

「芚えおおりたす。それにしおもご立掟なお姿ですね。近頃流行りのダンディずいうや぀ですか」

 ルナはお䞖蟞を蚀った。もちろん、芚えおいないのだろうず黙っお傍に控えるズデンカは思った。

「頜廃の限りを尜くしおおりたすからな。この屋敷は私の『悊楜の園』ずでもいったずころで」
「よほどお楜しみなようですね。ぜひ拝芋したいなあ」

 ルナは笑った。

「ペルッツさたにはぜひ気に入っお頂けるかず思いたすよ」

「もしや、䜕か綺譚《おはなし》をお持ちなのですか」

 濁っおいたルナの瞳が突然茝き始めた。

「最近、私も䜜家の真䌌事を始めたしおね。地䞋出版ずいうかたちで本を出しおいるのです」

 ロランはニダリず笑った。

「それは面癜い」
「実は今日はその朗読䌚を行いたいず考えおいるのです。奜事家連䞭を集めおね」

「なるほど、それが執事さんの仰っおいた『今季のパヌティ』ずいうや぀ですね」

「そうです。ぜひ参加しお頂けたせんか」

「メむドも䞀緒で良いですか」

「もちろん。ですがメむドさんにはいささか刺激が匷すぎるかも知れたせんけどね」

 奜色そうな芖線を向けられおズデンカは思わずにらみ返した。

「ずいぶんお気の匷い嚘さんのようだ」

 ロランはただニダニダ笑いを続けおいた。

「うちのメむドも刺激の匷いものに慣れおいたすので倧䞈倫ですよ」

 ルナはあっさり答えた。

「なるほど。ではこちらぞ」

 ルナずズデンカは図曞宀ぞ案内された。

 さたざたな蚀語で曞かれた本が取り揃えられおある。もちろんルナの『綺譚集』も党巻䞊べられおいた。

 だが、ロランはそこには目もくれず、郚屋の隅の方ぞず歩いおいった。

 やがお、䞀぀の可動匏の曞棚を暪ぞ退けた。

 するずそこには棚はなく、地面に倧きく矩圢の穎が開いおいお、地䞋ぞ繋がる階段が続いおいた。

「よくある仕掛けですね」

 ルナは埮笑んだ。

「叀い家ならどこでもありたすよ」

 ロランが応じた。

 薄暗い。ルナはラむタヌを、ロランは蝋燭を灯しながら進んだ。ズデンカもルナぞの配慮から来る習慣でカンテラを灯すこずはあるが、暗闇には慣れおいるので、なくおもそのたた歩ける。

 意倖ず段数があった。転げ萜ちたりしないよう䞀段䞀段確かめながら闇の奥ぞ進んでいく。

 鎖が地面を匕きずる音、あえぎ声のような声が聞こえお来た。

 现い扉から光が芋えおいる。

 䞉人はそこを通り抜けた。

 想像以䞊に広いホヌルだった。倧理石で䜜られた叀兞颚な座垭に幟人もの先客が座り、䞭倮にある舞台を凝芖しおいた。

 そこには鎖に繋がれた女がいた。幎霢はルナより十歳は若いだろう。

 半裞に近い栌奜をしおいる。化粧をしお、卑猥な衣装を着厩し、胞を芋せおいた。

 曞芋台がその前に眮かれおいお、新しく刷られたず思われる䞀冊の本が茉っおいた。

「あれが私の新䜜でしおね」

 女には目もくれず、ロランは蚀った。

「ははあ、仰っおいた地䞋出版ですね」
「意倖に読たれおいるのですよ。もう䜕千郚も刷っおおりたしお」

「どんな内容か気になりたすね」
「いた朗読しおいるでしょう」

 ルナは耳を傟けた。
 
 
「陳孝子は䞉青の××ぞ×を差し入れた。

 それだけで女は甘い××を×らし、身䜓を××らせ始めた。

 ××が糞を匕き、×り×ちる。

 陳は䞉青を抌し倒した。

『ずっず、ものにしたかった』

 耳元で囁くず、䞉青は×え、××たった叫びを䞊げるのだった。

 陳は䞉青の××を眺めやった。薄桃色で×も䞀切×えおいないそこは、すっかり××きっおいた。

「本圓に××な女なのだな、お前は」

「はい、功《わたくし》は心よりあなたさたず×××こずを願っおおりたしたのです」

 陳は物も蚀わず䞉青の䞊ぞ××かかった。その××は××しお、×××××が×き×おいた。

 たるで鍵を差すようにすんなりず××は䞉青の××ぞず×たった」

「ポルノグラフィですね。しかも少しばかり䞭華趣味《シノワズリ》な」

 ルナは嫌そうな顔で蚀った。

「衚では流通出来ない異端の文孊なのですよ」

 満足げにロランは笑った。

「たあ、確かに皆さん感動しおいらっしゃいたすね」

 ルナは呆れながらホヌルを芋回した。

 垭に坐るのは男ばかりだった。皆興奮したように錻息荒く、手をどこぞぞず突っ蟌みながら芋぀めおいた。

「そりゃそうでしょう。日頃より勝手気たたに振る舞う身の回りの女どもぞ鬱憀を溜め蟌んでいる私たち男は、せめお創䜜の䞭でだけ女を人圢にしお匄んでやろうずするんですよ。たあ、この話には人品骚栌卑しからん陳が女で堕萜しおいく、ずいう筋もあるのですけどな」

「なるほど、勝手気たたに思われおいるずは。これからわたしも態床を改めねばなりたせん」

 そう蚀っお、ルナは優雅に䞀揖した。

「ルナさたがそうだず蚀っおいる蚳ではありたせんよ。抂しおのお話です」

 ロランは埮笑んだ。

「読んでいらっしゃる女性はどなたですか」

「死んだ埌劻の連れ子でしおね。名前はメリザンドです。ああ蚀う栌奜で読たせれば少しは華になるでしょう」

「ご本人は望たれおいるので」

 ルナは蚊いた。

「もちろん心から望んでおりたすよ。ただ幌い頃からずっずああやっお私のポルノグラフィを読たせおいるのですから」

「ぜひ、お話を聞きたいな」

 ルナはモノクルを光らせた。䜓調が少し良くなったのかずズデンカは思った。

「読み終わった埌で呌びたしょう」

「では、お願いしたす。わたしはちょっずお手掗いぞ」

 ルナはそう蚀っお䞀人で階段ぞず向かった。

 ズデンカはそれを心配そうに芋぀め、付いおいこうずしたがロランに呌び止められた。

「おい、君、この小説を読め」

 ず蚀っお薄っぺらい冊子を手枡された。

 たた別の本らしい。

「ここの地䞋曞庫にはね。䞖界各地から集めたポルノグラフィが倧量に眠っおるんだよ。たあ私の自慢のコレクションず蚀ったや぀さ」

 ズデンカは䜕も蚀わずに受け取りペヌゞを開いた。

「たわわなたでの××を×みしだき、ダニ゚ルは接吻《くちづけ》た。

『先生、止めおください、私  』アンは吐息した。だが、その蚀葉ずは裏腹に、瞳は最みを垯びおダニ゚ルを芋぀めおいた。

『䜕をしお欲しいか、蚀いなさい』

 い぀もの授業のように、ダニ゚ルはアンに問いかけた。

『先生の×××××を』

『それだけじゃ足りないよ』

『先生の×××××を私の  ××、××××の䞭に入れおください』

『もっず蚀葉を費やしお』

 ダニ゚ルは笑いながら蚀った。

『先生の×く××した×××××を私の×れ×れで××××××になった××な××××に突っ蟌んでください』

『よし』

 ダニ゚ルはアンを抌し倒し  」

 
 ずここたで読んだずころで、ズデンカはロランが自分の胞ぞ手を䌞ばしおくるのを目の端で捉えた。

 ズデンカにずっおはずおもゆっくりずした動きに芋えたが、瞬時に起こったこずなのだ。

 ズデンカはその手をひょいず軜く掎んで、ロランの身䜓ごず背䞭に抱え、前ぞず投げ萜ずした。

「ぎゃあ   いでででっ」

 床でのたうち回りながらロランは呻いた。

「いきなり䜕しやがるんだ」

 ズデンカは䞡手を打ち合わせおパンパンず払った。

「召䜿いの女はだいたいこうすれば䜕もしおこないものなのだが  恥じらう様子すら」

「あのな、それはお前が怖くお䜕も出来ないだけだろ。䞻人ずいう立堎を笠に着やがっお。たさか興奮しおいるずでも思っおんのか」

 ズデンカは腰に手を圓おお呆れながら蚀った。

「口答えしおくる女も良いものだな」

 ロランはゆっくり立ち䞊がった。

「お埅たせしたした。もう朗読も終わりですかね」

 ルナが埮笑みながらこちらに歩いおきた。

 確かに、䞭倮で鎖に瞛られながら立っおいたメリザンドはもう声を䞊げおいなかった。

 代わりにその呚りには座垭から歩いおきた男どもが矀れをなしおおり、メリザンドの身䜓を觊りたくっおいた。

「あのたたにしおおいおも良いんですか」

「いいですよ。実際に裞の女に觊れお頂いお、楜しんで貰おうっお趣向です。実際ペンチやラむタヌなども眮いお䜕でもやっおくださいずお願いしたこずもありたしたよ」

「そしたら、どうなったんです」

 ルナは興味深そうに蚊いた。

「皆さん矜目を倖し過ぎたしおね。メリザンドが血だらけになりそうだったので止めさせたした。流石に愛嚘を倱いたくないですからな。ハッハッハ」

 偉そうにロランは笑った。 

「なるほど、たるで人圢なんですね。しかし、その所業。創䜜の䞭だけに収たっおいたせんね」

 ルナはロランを芋぀めた。

「創䜜を出来る限り珟実に近づける方法なのですよ。実際、高額なカメラを買っお、映画にしようずも考えおおりたす。将来的に映像の技術が進めば、安い倀段で皆が手軜にポルノグラフィを楜しむこずが出来るような瀟䌚になるず考えおいたす」

「そうなるずもう地䞋出版で枈む垂堎じゃなくなりたすね」

「最終的にポルノは商業ずしおなり立぀ず思いたすよ。私のような少人数だけで楜しみたい者からすれば内心忞怩たるものはありたすけどね。でも、どんな凄い官胜䜜品が䜜られるかず楜しみでなりたせん。異端を愛する者からすればね」

「たあ、その時代にはわたしもあなたも生きおないでしょうけど」

 ルナは笑った。

「仕方ないですよ。次の時代を担う若者たちに任せたしょう」

 そういっおロランはメリザンドぞ歩いおいき、鍵を倖しおルナずズデンカの元ぞ連れおきた。

「『綺譚集』を出されたペルッツさただ。挚拶せよ」

「初めたしお、メリザンド・ゞョンキヌナです。母の倫の姓を名乗らせお頂いおいたす。よろしくお願いしたす。ペルッツさたのたずめられたものを朗読したこずがありたすよ」

 メリザンドはにっこり笑っお䞀瀌した。

「ぞえ、そうなんですか。そんな綺譚《おはなし》たずめたかな 艶笑譚颚のものは幟぀かありたすけどね」

「なかなか奜評でしたよ」

「ありがたいですね わたし自身は朗読䌚ずかさっぱり行かないもので。人が読むのを聞いたこずもないし、聞く気もない」

「お読みしたしょうか」

 メリザンドは埮笑みを厩さず蚀った。

「いえ、遠慮しおおきたす。それより新しい綺譚《おはなし》が集めたくおうずうずしおるんです。最近曞く機䌚がなくっおね」

 ず蚀っおルナは懐から手垳を取り出した。

「ペルッツさたらしいですね。いえ、本からうかがい知るお姿のみですが」

 メリザンドは埮笑んだ。

「あなたも綺譚《おはなし》をお持ちなら、ぜひ教えお頂きたいです」

「あるこずはあるのですが  お話ししおもよろしいでしょうか、お父さた」

 メリザンドは少しぎこちなく、ロランの方ぞ顔を向けた。

「たあ、いいだろう。話しおおあげ」

「ルナさたずお二人だけでお話ししたいのですが  」

「ふむ」

 ロランの顔に䞀瞬嫌そうな衚情が浮かんだが、

「よろしい。䞊の階に案内しお差し䞊げなさい」

 ず応じた。

「ぜひ䌺いたいですね。ただし、メむドも同䌎です」

 ルナは条件を付けた。

「えっ  」

 メリザンドは䞍安そうにしたが、

「うちのメむドは口が硬いので」

 ずルナは念抌しした。

「では  」

 ず蚀いながらメリザンドは先に立っおルナずズデンカを案内した。

 慎重にあたりを芋回しながら。

「探したんだろ」

 階段を䞊がり終えた埌、ズデンカは小声になっおルナの耳元に囁いた。

「うん。でも芋぀からなかった。絶察あるず思うんだけどなあ、『鐘楌の悪魔』が。もちろんお手掗いも䜿ったけどね」

「嫌な予感がするぜ」
「同じ思いだ」

 埌は二人ずも黙っお歩いた。

 䞀階に蟿り着くず、図曞宀を抜け玄関たで移動しお、たた二階ぞ䞊がる。

 吹き抜けになっおおり、手摺りから階段を芋おろせば、䞀階の様子が手に取るごずく芋えるようになっおいた。

 メリザンドは自宀に案内した。ルナずズデンカが䞭に入るが早いかメリザンドは奇劙なこずをした。
「こちらです」

 本棚を凄い勢いで閉たった扉に眮き、さらに被せるように衣装棚を持っおいったのだ。

 どちらも重いものに思われたが、メリザンドは顔を赀くしお匕きずっおいった。 

「いきなりどうしたんだ」

 最初はビックリしおいたズデンカも手を貞しおやる。

「こうやれば少しは声が挏れなくなるず思いたしお。父や忙しい時は執事たちが蚊き耳を立おおいるんです」

「知られたらたずいこずなのか」

「あたり、良いこずではありたせんね」
「面癜そうですね。ぜひ話しおください」

 ずルナは手垳を開き、鎉の矜ペンを手に取った。

「あくたで私の話、ずいうこずになりたすが  」
「みんなそうですよ。あなたの物語が䞀番面癜い」

 ルナはにっこりず笑った。

「では最初に蚊きたすが、私の栌奜を芋お、ルナさたはどう思われたでしょうか」

「扇情的だなあ、ず思いたしたよ。そしお、それはムッシュヌ・ロランに呜じられたものではないか、ずも」

 ルナはペンを動かしおいった。

「ご賢察の通りです。私は父――いえ、オクタヌノ・ロランから、この栌奜をするように匷制されおいたす。でも衚向きは喜んでいるようにみせないず怒られるのです」

「あの調子じゃなあ」

 ズデンカはため息を吐いた。

「この家は異垞です」

 吐き捚おるようにメリザンドは蚀った。

「矩父ずは蚀え、嚘にこんな服を着せる芪はおかしいですね」

 ルナは文字を曞き進めながら蚀った。

「出おいきたいです。でも、私には生掻する力がありたせん」

「あなた以倖にもいらっしゃるのでしょう この家に囚われおいる女性が」

「どうしおお分かりになったのですか」

「鎖の音は耇数聞こえお来たした」

「はい、ロランは身寄りのない嚘たちを連れおきお地䞋に閉じ蟌めおいたす。私は蟛うじお郚屋を䞎えられおいたすが、圌女たちはただ芋䞖物ずしお  すみたせん、私のこずばかり。本来ならその嚘たちを䜕ずかしおくれず頌むべきですよね」

「たあたあ、わたしは綺譚《おはなし》を集めたいだけで人助けをしたい蚳ではありたせんからね。もっずも」

 ずルナはモノクルを光らせお、

「あなたが蒐集に倀する話をしおくれるなら、願いを䞀぀だけ叶えお差し䞊げたすけど」

 メリザンドは唟を飲み蟌み、ルナを芋぀めお、

「それではお話ししたすね」

 ず語り始めた。

 朗読する圹目を負っおいたのはもずもず母でした。

 私は幌い頃からその姿を芋お育ちたした。

 物心぀いたのが母ずロランが結婚しおからだったんですね。実の父芪の顔も知りたせん。

 ただ、黄氎仙《ゞョンキヌナ》ずいう姓だけが䞀族を偲ぶよすがです。

 初めのうちは朗読䌚が性的なものだず理解するのに時間がかかりたした。

 でも、あの地䞋宀で座っおいる男たち――いずれも良く知られた人で、新聞などで姿を目にする方ばかりでした――の様子から䜕ずなくそう思ったんです。

 ご芧になったずおり、物凄い衚情になっお母を食い入るように芋぀めおいたす。

 私はあたり面癜くなかったので、郚屋の隅で遊んでいたした。

 するずロランが近付いおきお䞀枚の絵を芋せたした。

「これはな、東掋の『春画』ずいうものだぞ」

 絡み合う男女の姿が描かれおいたした。しかし、幌い私ではよく分かりたせんでした。

「男ず女はな、みなこんな姿態で結び、ほぐれ合うものだ  悊びを知るものだ。そうでない者は片茪だけだ」

 力匷い口調でロランは蚀いたした。

 でも、わたしは正盎今でもその意味がよく分かっおいたせん。

 その『春画』ずやらで描かれる行為が奜たしいものだずは思えないのです。もちろん、頭では子䟛を䜜る行為だし、重芁なものだずは分かっおいたす。

 でも、でも悊びは理解できたせんでした。わたしは片茪なのでしょうか
 少し倧人になった埌、母に質問しおみるこずもありたした。

「母さんはなぜ、こんな家にいるの」

 心なしか、違和感を芚え始めおいたのでしょうね。

「仕方ないの。いれる堎所を探しおいたらここになったっおだけ」

 返事はい぀もこうでしたっけ。結局私も䌌たような運呜でしたね。

 今から考えるず戊争が関係しおいたのかも知れたせん。母はスワスティカに占領された゚ルキュヌルからここぞ疎開しおきお、仕事もなく路頭に迷っおいたようですから。

 先祖代々ノィルヌヌノ荘を匕き継ぐ地䞻のロランからの誘いはありがたかったでしょう。

 殿方に気に入られるよう声を高めおよがり、あえぎ、母の挔技は䞊手いものでした。

 端から芋お充実しおいるように芋えたものです。

 あの頃は毎日のように朗読䌚が開かれおいたしたね。知らない顔が入れ代わり立ち代わり蚪れおきたした。

 その皆から母は拍手を受けるのです。

 でも、私は退屈でした。庭の倖に出お月を眺めおいる方が良かったんです。

 庭にはサルスベリの朚が生えおいたした。花が萜ちおしたっお、月は少し捩れた枝の間から芗いお、満月の時でも半ば欠けたかのように芋えるんです。

 今床芗いおみおください。この屋敷の庭にはたくさんの怍物がありたすが、䞀番鮮やかな花を咲かせたす。

 月《ルナ》は  ああ、そうでした。ペルッツさたのお名前ず同じでしたね  今も昔も倉わらず、私を芋おくれおいたす。

 色んな角床から眺めたしたよ。

 欠けおたた満ちる。その繰り返し、でもい぀かは元に戻るのですから、安心出来たすよね。

 蟛い時もいずれ過ぎ去る。

 母もそういう颚に安心できれば良かったのに。

 はい、そうです。

 母は自ら呜を絶ちたした。

 あのサルスベリの枝に瞄を掛けお銖を吊っおいたんです。

 理由ははっきりわかりたせん。

 その日も私は月の昇るのを芋に、庭に出おいたした。するずぶらぶらず黒い圱が揺れおいるのです。

 朗読䌚は終わっおいたした。もう私は参加するこずすらしおいなかったのですけれど。

 月光に照らされお䞀局癜く芋える足を芋たのです。

「母さん」

 私は母の膝にすがり぀いお泣きたした。その頬はこけおいたした。

 今では苊悩しおいたずわかりたす。でも、圓時は幌くおそんなこず理解できたせんでした。

 私がそれを知るのは自分にその番が回っおきおからでした。

 母が死ぬずロランは涙すら芋せず、私に代わりをするように蚀いたした。

「お前がやるのだ。母芪ず同じようによがり、あえぐのだ」

 初めはなぜそんなこずをやらないずいけないのかがわかりたせんでした。

「この家で女は俺の人圢だ。蚀うこずを聞かないず、どうなるかわかるな」

 ず脅されもしたした。

 ベッドに呌ばれお、ロランに抱かれたした。身䜓のいろいろな堎所を匄られたすが、私は痛いだけで䜕が面癜いのか分かりたせんでした。

「䞀人前の女になったな」

 汚れたシヌツを指差しおロランは笑いたしたが、私は嫌な思いがしただけでした。

 掟手な栌奜をさせられお、ホヌルに立たされる生掻が始たりたした。

 䜕床も぀っかえお文字を間違えながら、本を読み進めたす。

「母芪ずは党然違う」

「無理もない。子䟛だもの」

「いや、子䟛の方がそそるぞ」

 そう蚀っおお客たちは読んでいる私の肌を撫で擊るのです。

 幌過ぎたのですね。䜕をされおいるのかよく分かりたせんでした。

 ロランもそれを蚱しおいたしたし、正しいこずなんだなず思った。

 でも、䜕の感情もわき䞊がっおこないのです。

 倉な喩えですが、果おのない砂挠の䞭を䞀人で歩いお行くような感じで、いくら蚀葉を尜くした小説を読んでも、極圩色の秘図を眺めおも䞀向に気持ちが昂ぶりたせん。

 でもお客さたを喜ばすため、衚向きだけは母のようにあえぎ、悶えるこずを芚えたした。そういう挔技は幟らでも出来たすから。

 慣れっお怖いです。倖の䞖界を知らない私は、他の家でもそれが圓たり前なんだず考えおいたした。

 おかしいなず気付けたのは図らずも本を読んだからです。ロランは朗読のためにたくさんのポルノグラフィを読たせたしたし、私もうたくなるよう色々な本で緎習したした。

 䞭には、普通の生掻に぀いお曞かれた本もあったんです。

 ロランは読みもしないようでした。圌は人ず掛け離れた突飛な劄想を奜み、過激な䜜品を愛奜しおいたした。その䞭で描かれおいるこずが、圓たり前であるかのように信じお暮らしおいたのです。

 お客たちに犯され、嬲られるのは普通のこずになっおいきたしたね。

 裞のたた、テヌブルの䞊に暪たわっお、いろんな角床から眺められたこずもありたす。

 蟛い時もい぀か過ぎ去るのだず、私は念じ続けたした。

 いろいろなずころから女の子を匕き取っおきお、わたしに同じようなこずをさせおいたした。

 でもその子たちず話すこずによっお、私はもっず具䜓的に倖の䞖界を知るこずができたした。

「街に色んな人が䜏んでるんだよ。奜きな時に奜きなずころに行けたし、ここずは倧違い」

 はっきり教えおくれる嚘もいたした。ペルッツさたにずったら、なんだそんなこずかず思われるかも知れたせんが、私は街を歩いたこずがないんです。

「い぀か䞀緒にいこう」

 私は手を握り合いたした。

 話す盞手が出来るず、想像はもっず広がっおいくものです。

 私が他の嚘ず話す様子を芋たのか、ロランは圌女たちを匕き離すようにしたした。

 ここ䞀月ほどは、郚屋のどこかから鎖が匕きずられる音しか聞こえおきたせん。

 どうしたのでしょうか。

 ロランは女を個ずしおみないのです。類ずしお語り、皆同じであるかのように扱いたす。

 「女が男を人圢ずしお支配するか、男が女を人圢ずしお所有するか、その二぀しかこの䞖にはありえないのだ」

 正しいこずなのか、間違っおいるのか、私ではちゃんず答えを出せたせん。

 ですが、䞀぀だけ、盎感で蚀わせお頂けばただただおぞたしいずいうしかないのです。 私は他の子たちに教えお貰った倖の䞖界に焊がれるだけです。

 叶わぬこずだず知っおいおも。

 い぀かは出たい。

 倖の景色を芋たい。そればっかり願っおいたしたね。

「芋せおあげおもいいですよ。あなたがこの綺譚《おはなし》を語り終えるなら」

 ルナは手垳を閉じお倖套の内ポケットに入れた。

 手袋をした指先を組み合わせお、その䞊に顎を眮く。

「語り終えるずは」
 びっくりしおメリザンドはルナを芋぀めた。

「決着を付ける、ずいうこずですよ。あなたず、あなたの母芪ず、ロランの、ね」
「私には䜕もできたせん」 

 メリザンドは困惑しおいた。

「できないや぀はずっずそのたただ、仕方ねえな」

 ズデンカは冷たく蚀った。

「ちょっず埅っお。ズデンカ。今たでずっず閉じ蟌められおきた人がいきなり䜕か出来るず思うかい」

 ルナはむタズラっぜく埮笑んだ。

「どう蚀う意味だ」

 ズデンカは睚んだ。

「反抗したり、声をあげたりするのにも助走がいるっおこずさ。ただそうではない段階に留たっおる人に察しお自立しろ、できないならそのたたでいろっお蚀うこずは残酷だろう」

「䜕問いかけおるんだよ、あたしは知らねえ」

 ズデンカはそっぜを向いた。

「ふふ。たあずりあえず、メリザンドさん䞀緒に䞋に降りたしょう。あ、そうだ。その前に独りで寄りたいずころがあるんで」

 ルナは立ち䞊がった。

「たた䟿所かよ」

 ズデンカは嘲りず心配が入り混じった耇雑な衚情で蚀った。

「今床はそうじゃないさ」

 ルナはりむンクした。
 

 䞉人が地䞋に再び降りた時、ロランは䞀人坐っお玙巻き煙草を吹かしおいた。

 他の客たちは官胜的な画集などを開きクスクスず笑い合っおいた。

 ズデンカは二人から離れ、闇の䞭ぞ姿を隠した。

「メリザンドから、面癜いお話は蚊けたしたか」

 ロランは蚊いた。

「ええ、蚊けそうです」

 ルナは笑った。

「おや、蚊けそうずはどういうこずです。既に二階でお話されたのではないですか その蚀い方だず、これから先があるかのようだ」

 やはり、執事に監芖させおいたらしい。

「あるのですよ」

「なら、どんな颚に終わるのですかな。いえ、私も物曞きの端くれ、ぜひ䌺っおみたく思いたしお」 

「それは、メリザンドさんご自身が決めるこずですよね」

 ルナは暪に立っおいるメリザンドを芋た。

「えっ  」

 しばらくは戞惑っおいたメリザンドだったが、やがお怖ず怖ずず、

「私  倖の䞖界が芋たい  」

 呟いた。

「ならん」

 いきなり激昂しおロランは叫んだ。

「お前が独りでやっおいけるず思うのか 䜕も知らん女が。そんなこず出来る蚳がなかろう」

「異端の䜜家がずいぶん叀颚なこずを仰られるのですね。メリザンドさんの人生はメリザンドさん自身がお望みのように決めさせおあげたらいいではありたせんか」

 ルナはパむプを取り出しお煙草を詰めた。

「ペルッツさた。倉なこずを吹き蟌たれおは困りたす。嚘にはこの屋敷にいお貰わないずだめなのです」

「ここには他にも女性がたくさんいらっしゃるじゃありたせんか。その方たちはどうなされたした」

 ロランは県を泳がせた。

「ルナ」

 ズデンカが郚屋の向こうからやっおきた。しかし、その顔は匷匵ったように硬くなっおいた。

「こっちぞこい」

 じゃらじゃらずたくさんの鎖の音がズデンカがやっおきた方から響いおくる。

 郚屋の奥の、誰も人がいない堎所からだ。

 ルナはパむプを吹かしながら぀いおいった。

「なるほど、人圢ずはよく蚀ったものですね」

 煙が倧きく吐き出される。

 そこには壁から吊された倧きなひずがたが幟぀も䞊んでいた。

 しかし、それは朚で䜜られたひずがたではなかった。もちろん、石や粘土などでもない。

 材料は人の肉だった。頭に腕、足や胎䜓をバラバラにしお、他人の肉䜓の䞀郚ず繋ぎ合わせたものだった。肌の色が違うこずからよく分かった。

 血抜きされおいるようで、死埌䜕日かは経っおいるものず思われた。

 銖茪に腕茪に脚茪がはめられ、そこから䌞びる鎖で壁に繋ぎ止められおいるようだった。

 いずれも腹の郚分が倧きくくり抜かれ、糞で新しく皮を匵り盎された箇所があった。

「これはどういうこずでしょうか」

 ルナはしゃがんでその郚分を指でなぞりながら蚀った。

「女の噚官をくり抜いたのですよ。冷凍宀の䞭に入れおありたす。倧切に保存しお眮くためにね」

 ロランは煙草を吹かした。

「なぜそんなものを 女から――いえ、わたしからしたら持ち重りするもの、でしかないですよ」

 ルナは嘲るように唇を歪めた。

「所有しおおくこずで、優越感に浞れるからです。完党に女を手に入れたずいう感じがするのですよ。そうなるず完党に人圢になるでしょう」

「ゲスが」

 ズデンカは蚀った。

 遠くからメリザンドは震えおいた。芪しかった者たちがこのような姿に倉えられおいるこずに耐えられなかったのだろう。顔を芆った。 

 い぀の間にか執事たちが珟れ、無蚀で壁から鎖を倖しおいった。

 肉で䜜られた人圢たちは、がたりず壁を背にしお床に厩れ萜ちる。

「たあ芋おいおください」

 ロランが目を茝かせお蚀った。

 たた鎖の音の鳎る音が䞀斉に聞こえた。

 人圢たちが立ち䞊がり、う぀ろな目でルナずズデンカをみたのだ。

「危ない」

 突然ズデンカが叫び、ルナに芆い被さるように床に䌏せた。

 物凄い勢いで鎖が匕っ匵られ、談笑しおいた客の頭蓋骚を貫き通した。

 幟぀もの鎖が歊噚ずなっお、客たちぞず襲いかかった。

「ひええっ」

 ある者は鎖で足の骚を砕かれ、地面に転がっお呻いた。

 ある者は銖を絞められ、ゞタバタず藻掻いおいた。

 助かったものは皆魂切る叫びを䞊げながら地䞊ぞ登る階段ぞ詰め寄せ、抌し合いぞし合いしおいる。

 ロザリンドは遠く離れおいたため、鎖の打撃をたぬがれたようだ。

 ズデンカは立ち䞊がっおルナを脇に寄せるず、匵り巡らされた鎖を避けお歩いた。

 人圢たちは続々ず立ち䞊がった。䞡脚を震わせながら。

 う぀ろな目でズデンカを芋぀め、驚くべき早さで手を䌞ばしおきた。

 ズデンカは払いのける。

「適材適所ずいうや぀だよ。脚の速い女の脚は頭の良い女の胎䜓に結び付けるずいう具合にね」

 ロランはうそぶいた。

 ズデンカは鎖を掎んで、人圢を近くに匕き寄せ、頭を抌さえ぀けた。

「糞が。女は人圢じゃねえ」

 匷い力で頭を叩き぀ぶした。

「女は人間だ」

 ズデンカに睚み付けられおロランは少し狌狜えたが、苛立たしく煙草を吞った。

「人圢たち、やっおしたえ」

 頭を朰したはずの人圢がなお、ズデンカに瞋り付いおくる。

 鎖がたた幟぀も飛んできお、ズデンカの䞡腕ず䞡脚に巻き付いた、

「ちっ」

 ズデンカは舌打ちした。

「ペルッツさた、あなたも知っおしたった以䞊、ただでノィルヌヌノ荘を出られるず思われおは困りたすよ」

 ロランは煙草を床に攟り、脚ですり朰した。

「どこかに『鐘楌の悪魔』が隠れおいるはずですね」

 ルナは人圢の腹を指差しながら、ニダリず埮笑んでいた。

「だからどうだずいうのです あなたのメむドは䞡脚の動きを封じられおいるのですよ」

 そう焊りを抌し隠すような様子で居䞈だけに蚀うロラン。

 バリバリず骚の砕ける音がした。

 ズデンカは身䜓を雑巟のように螺旋状に匕き絞っお、䞡腕ず䞡脚を自ら砕き、皮膚を匕きちぎったのだ。

「銬鹿なぁ」

 思わずロランは叫んでいた。

 皮ばかりになった腕ず脚から、しゃなりず滑り萜ちる鎖。

 砕けた身䜓は瞬時に元の圢ぞ戻っおいく。

 ズデンカは䞀息に跳躍しお、人圢の腹ぞ腕を突っ蟌んだ。

「ねえな」

 もう䞀䜓ぞも腕を突っ蟌んだ。

「あった」

 血たみれになりながら、ズデンカは金色の文字が茝く『鐘楌の悪魔』を匕きずり出した。

 人圢たちは突然動きを止めた。

「止めろっ その本はぁ」

 息せき切っお走っおくるロランの喉元にズデンカは噛み぀いた。

 血を瞬く間に吞い尜くされ、ロランの頬は窪み県窩から目玉が飛び出した。

 皮が匵り付いた骚のみずなった手がだらんず垂れ、ロランだったものは床に厩れ萜ちた。

「䞍味い血だ」

 ズデンカは口を拭った。

「しけた幻想に報いあれっお、こずですよ。ムッシュヌ・ロラン」

 ルナは静かに蚀った。

 執事たちがズデンカを囲もうずしたが、

「お前らもこうなりたいか」

 ずズデンカに䞀喝されるず、蜘蛛の子を散らすように逃げおいった。

 残りの客たちは逃げ去ったようでホヌルの䞭はがらんずしおいた。屍䜓が幟぀か残されただけだった。

「メリザンドさん。これからあなたは自由の身だ」

 ルナは煙を吐きだした。

「手始めに䜕をしたす」

 目の前で起こったこずをがんやりず芋぀めおいたメリザンドは、ルナの声でハッず気が぀いお歩き出した。

 ホヌルに蚭眮された本棚から、沢山の官胜小説や春画などを座垭の䞊に積み䞊げおいく。

 ルナは䜕も蚀わずラむタヌを差し出した。

 メリザンドは火を点けた。

 瞬く間に炎が広がる。

 あられもない栌奜の女たちの屍䜓を描いた絵が黒く焊げおめくれ䞊がっおいく。

「やはり、それを望むのですね。この䞭には皀芯本なども倚く含たれおいるようでしたが」

 ルナは静かに蚀った。

「飜き飜きしたしたので」

 メリザンドはせいせいしたかのように蚀った。

 ズデンカは『鐘楌の悪魔』を燃えさかる火の䞭に投じた。

 「さあ、出たしょう。火は広がりたすよ」

 ルナは先に歩きだした。

 ズデンカはすかさずその傍に寄り添った。

 玄関に぀いた時にはもう図曞宀が凄い勢いで燃えおいた。

 曞棚から吹き出す炎の尟が頬を掠めすぎるほどだ。

 黒い煙も流れ出しおいた。

「たた、本が焌けおいる」

 口を塞いで、急ぎながらもルナは振り返り、うっずりずそれを眺めた。

「悪趣味だぞ。あの䞭にはお前の本もあるのに」

 口を隠す必芁もないズデンカはルナの額を小突いた。

「手塩に掛けた䜜品が燃えるのもたたいいものさ」

「理解できん心境だな」

 ズデンカはやれやれず呆れるポヌズをした。

「颚流さの欠片もないんだね」

 軜口を叩き合いながら二人はメリザンドを屋敷の倖ぞ逃がした。 

 だが、その足どりは重かった。

「みんないなくなっおしたった  」

 少し離れお小高い䞘のずころたで来た時、ぜ぀んずメリザンドは呟いた。

「これやら、どうやっお生きおいけばいいか」

「おかしなこずを仰いたすね。あなたは、ここから出たいず願った。今、叶ったのに。なのに䞍安なんですか」

 ルナはきょずんずしお、蚊いた。

「確かに願いたした。でも、そうなっおみるず䜕をすればいいか」

「わたしには分かりたせんが、䜕もないからこそ、かえっおせいせいするっおこずもありたすよ。それにあなたはロランの財産の唯䞀の盞続者なのだから。それに、保険も利きそうだ」

 そう蚀っおルナは埌ろを振り返っお指差した。

 倩ぞ逆巻く劫火にくるたれお、ノィルヌヌノ荘は燃え続けおいる。炎は開いた窓から屋根の䞊にも這い䞊っおいく。

「実に爜快じゃないですか」

 ルナは笑った。

「そうですね、ふふふ」

 ルナに぀られおメリザンドも笑った。

「芋お。サルスベリの枝が茝いおいたすよ」

 満月だった。その光を受けお、サルスベリの葉が萜ちた枝は薄く癜い茪郭を埗お茝いおいた。

 月ず同じぐらい䞞顔なルナはそれを指差しお蚀った。

 ズデンカは近くの繁華な街たで送り届けた。ルナはなぜか、メリザンドの個人を蚌明するものやロランの資産関係にた぀わる曞類を事前にくすねおいたらしい。

 いきなり封筒から出しおポンず手枡したのでズデンカもメリザンドも驚いおいた。

「執事たちがみんな地䞋に降りおいたからね。メリザンドさんの防音察策のお陰だ」

「䞖間知らずのお前らしくもない」

「最近、ちゃんずしなきゃなっお぀くづく思い知らされる出来事があったからだよ。これがあれば、圓座は凌《しの》げるでしょう」

ず蚀っお気前よく札束を手枡した。

 ズデンカは枋い顔をする。ルナがこう蚀うこずをやるのは今回が初めおでないず知っおいたからだ。

「こんなに 受け取れたせん」

 メリザンドは銖を振るが、ルナは匷く札束を抌し付けた。

 「これも含めおお願いを叶えたっおこずで」

 ルナはそう蚀っおマントを翻し、すたすたず歩み去った。

 ズデンカはしっかり぀いおいく。

「これで䜕人目だ お前が人生を倉えたのは」

「さあね。よっこいしょっず」

 ルナは銬車ぞよじ登った。幌はもう䞊げられおいる。

「口先じゃ構わないでいおあげる優しさずかかっこ぀けやがっお」

 ず蚀い぀぀銭者台に䞊がるズデンカ。

「メリザンドさんは教育もちゃんず受けおいる。䜕の心配もないさ」

「頭で考えるの実際にやるのは違うだろう」

「たた気難しいこず蚀っちゃっお。それより  ぷぷぷ。君が女は人間なんお蚀い出したのには埌から思い出しおも笑えおくるよ」

「䜕がおかしいんだ」

 ズデンカは無衚情のたた手綱を握った。

 銬車は走り出す。

「お元気で」

 メリザンドは倧きく手を振っお二人を送った。

 ルナは片手を軜く䞊げおにこやかに埮笑むだけだった。

 冬枯れの季候ずは蚀え、道脇の針葉暹は立掟な葉䞊を芋せおいた。雪の蚪れがないせいだろう。

「自然に浮かんできたんでな」

 匁解するようにズデンカは付け加えた。

「人間じゃなく、吞血鬌の君がか」

 ルナは远撃した。

「じゃなくおも共感するこずはある」

 ズデンカはどこずなく恥ずかしそうに蚀った。

「たあ、わかるけどね」

 しばらく間を眮いおからルナは静かに蚀った。

「お前にわかっおもらおうずは思っおいない」

「分からなければこうやっお䞀緒に旅はしおないよ。ぶっちゃけた話、人は自分ず違う意芋を持぀盞手ずは共存しおいけないものなんだ。察話を重ねおわかり合おうなんお幻想だね」

 ルナは立お板に氎のように元気よく話した。䜓調は戻り぀぀あるらしい。

「䞖間で正しいずいわれおいるこずの逆ばかり蚀うなお前は」

「だいたい、この䞖の䞭にいったいどれぐらい人がいるず思っおいるのさ。知り合える量なんお限られおるし、芪しくなれるずも限らない、むしろ関わらないほうがいいや぀ばっかりだよ」

「ひねくれた芋解だな。だからお前は友達がいないんだ」

 ちょっずグサッずきたのかルナは身を乗り出しお、

「でも、関わらない方がいい奎もいるっおこずは君も同意するだろ」

 ず勢い蟌んで蚊いた。

「たあ、それは分かる」

 ズデンカは頷いおやった。

「だろ 君ずわたしはたあ䜕ずなく話は通じる。でも、通じ合えない者どうしなら䌚話するのは苊痛だ。わざわざ関わりを持぀必芁はない」

「そこたで人間関係にこだわるお前があたしにはわからん。自然ず続いお行くや぀は続いお行くし、それっきりのや぀はそれっきりでいいだろうがよ」

「君ず同じこずをわたしは蚀葉を倉えお蚀っおいるのさ」

 ルナは錻息荒く腰に手をやった。

「そう蚀うこずにしずいおやるよ」

 䌚話はしばらく途切れた。

「幌を倖したのは間違いだったな。寒すぎる」

 ルナは毛垃を匕きずり出した。

「じゃあ戻しおやるよ」

 銬車が止たった。

 ズデンカはわざずゆっくりず幌を぀けおやり、寒さに瞮こたるルナの顔を芋぀めおいた。

いいなず思ったら応揎しよう