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月ルナは笑う――幻想怪奇蒐集譚 第九話 人魚の沈黙

トゥヌルヌズ人民共和囜西郚――

 スワスティカ猟人《ハンタヌ》フランツ・シュルツぱルキュヌル発の倜汜車に揺られおいた。

 車茌には他に人圱がない。車掌が来たのはもう䞉時間も前だ。

 時折、車茪が枕朚を軋らせる音がしお、震えが䌝わっおくる。

「ルナ・ペルッツは昔、知らない堎所ぞ旅するこずを『倜汜車に乗る』ず呌んでいた」

「それは圌女が、移動によく倜汜車を䜿っおいたずいうだけの話じゃないでしょうか」

 女ずも男ずも぀かない、高めの声がどこかから答えた。

 だが、少なくずもフランツの前にも埌ろにも誰も坐っおいない。

「いや、人生を旅に喩えおいたんだろうさ、や぀は」
「そういう喩え方ですか。なら人生ずいう旅には終着駅があるでしょうね、あなたにも」

「陰気くさいこずを蚀うな」

 フランツは冷たく蚀った。

「あなたの顔が陰気くさいからです」

 顔の芋えない盞手は答えた。

「生たれ぀きこう蚀う顔だ」

 フランツは腰に差した倧きな鞘から柄を抜き攟った。

 䞍思議なこずに刀身がない。

 代わりに现い、幟本かが寄り合わされた糞が柄から䌞びおいた。

 フランツが無蚀で糞を匕くず、䞭から星圢をした糞巻きのようなものが出おきた。星圢の真ん䞭には棒が䞀本通っおいお、この棒から盎角にたたもう䞀本棒が突き出おいる。

 劙なかたちだった。だが、その劙なかたちをしたものが喋っおいるのだ。

「黙っおろ、オドラデク」

 フランツはそのオドラデクず呌ばれた物䜓を摘たみあげようずしたが、するりず指をすり抜けられた。

 オドラデクはクルクルずフランツのたわりを浮遊しおいく。

「人生ずいう倜汜車に盞乗りの盞手がいなくおも、あなたにはいるでしょう。がくずいう盞手がね」
「お前はただの歊噚だ」

「歊噚 ああおかしい」

 オドラデクは笑った。肺がなくおも出せるような笑いだ。萜ち葉がかさりずなるように響いた。

「がくがいなくおも、あなたは勝おるでしょう」

 フランツは黙った。これ以䞊䌚話を続けおも無駄だずいうように。

 倜汜車はトゥヌルヌズ西郚の村ノェルハヌレンぞ向かっおいた。

 フランツの目的はただ䞀぀――スワスティカの残党を狩るこず。

 フランツは曞類入れを鞄から取り出しお、無蚀で読み始めた。オドラデクが埌ろから浮遊しおきた。

「ぞヌ、この人が次の暙的っお蚳ですね」

 叀びた写真には筋骚隆々ずした四十ばかりの倧男が映されおいた。

 名前は「ゎットフリヌト・フォン・グルムバッハ」ず曞かれおいる。

 旧スワスティカ芪衛郚特殊工䜜郚隊『火葬人』垭次䞉。

 『火葬人』は倚くのシ゚ラフィヌタ族の殺害に手を染めた、フランツにずっお絶察に蚱されざる存圚だった。

 リストに挙げられた五名のうち䞉人は死亡したずされおいる。

 グルムバッハはもずもずオルランド公囜領内の䜍の䜎い貎族だったが、スワスティカに早くから同調し、幹郚にたで成り䞊がった。

 幟぀かの収容所では実際殺戮に手を染めたずいう話も聞いおいる。

 そのグルムバッハが生き延びお、トゥヌルヌズ人民共和囜に朜䌏しおいる。

 猟人仲間の䞀郚の筋からもたらされた確実な情報だった。

 フランツは目を぀ぶっお過去のこずを思い返しおいた。

 フランツは十才の時、カザック自治領のムルナり収容所に入れられた。

 ろくに食べ物も䞎えられず、寒い䞭を凍えお過ごさなければならなかった。

 昌過ぎになるず収容所䞭に響き枡る、鈍い鉄の響きを忘れられない。

 鎖に繋がれた幟人ものシ゚ラフィヌタ族が歩かされおいる。
 重い材朚を運ばされおいるのだ。

 䜕か目的があっお劎働させられおいる蚳ではなかった。

 ただ䞀人の遊びのために無駄に歩かされおおいた。

 フランツは震えながら物陰でそれをみおいた。

 父のペヌれフが䞭にいたのだ。

「助け  おください 呌吞《いき》が  出来  ないんです  」 

 その背䞭ぞ無情に鞭が振るわれた。

「話せるっおこずは出来るんだろう」

 赀毛で小柄な、芪衛郚の黒服に身を包んだ少女が埮笑んだ。 

 『火葬人』垭次五、ビビッシェ・ベヌハむム。

 ペヌれフは、そのたた地面に倒れた。

 ベヌハむムはペヌれフの頭をギリギリず抌し付ける。

「起きるんだよ」

 たるでパン屑をテヌブルになすり぀けでもしおいるかのように、ベヌハむムは平気な顔をしおいた。

 父は絶息しおいた。

 フランツはただ恐怖に囚われおそのさたを芋おいた。

――ずおも、抵抗出来るなんお、その時は思えなかった。

 病気になる前は責任感あるリヌダヌだった父は皆から愛されおいた。

 鎖に繋がれおいた他の人々が䞀斉にベヌハむムの呚りを囲み始めた。盎接手が届きそうな皋近くにいたからだ。

「瞛られおるのに抵抗するんだ」

 ベヌハむムは笑った。
 怒りが皆の間に挲った。

 ベヌハむムが小柄で華奢だず芋たからだろう、飛びかかっお抌さえ぀けようずした。

「銬鹿だねえ」

 ベヌハむムの指ず爪の隙間を瞫うように血が现く、ポタポタず地面に萜ちた。

 即座に血は盛り䞊がり、宙に浮き、ベヌハむムの呚りに现長い玡錘圢の棒が幟぀も浮かび䞊がった。

 「幻想展開《ファンタゞヌ・゚シャむン》『刺絡』」

 棒は䞀斉に皆の方を向く。

 逃げ出す隙もなかった。

 匟䞞のような早さで、その棒が射出されたのだ。

 皆の心臓を狙っお。

 あやたたず胞に突き刺された。

 ドサドサず血に倒れ䌏すシ゚ラフィヌタ族たち。

「ははははははっ」

 血を济びながら䞡手を空ぞず突き䞊げお笑うベヌハむム。

 『火葬人』の五人は皆、特殊な胜力『幻想』をこの䞖に具珟化させるこずが出来た。

 なすすべもなく、フランツは芋おいた。

 その姿が瞳の奥に焌き付いおいる。

 憎い。

 絶察に殺しおやるず誓ったのは、収容所から解攟されおかなり時間が経っおからだった。

 憎しみずいう感情は時を経お醞造されるらしい。

 だが、スワスティカの厩壊ず共にあっけなくベヌハむムは呜を萜ずした。

 その遺䜓は杉の柩に入れられお、オルランド公囜のどこかぞ葬られたず䌝えられおいる。

 戊埌、倧きくなったフランツは苊しい思いを秘めお生きなければならなかった。

 怒りをどこにぶ぀ければ良いかが分からなかったのだ。

 偶然知り合いになったルナ・ペルッツも䌌た䜓隓をしおいるず蚊き、初めお䌚ったずきに意気投合したものだ。

 䞍安が軜くなる思いがした。

 収容所から逃れた者は、あたりそのこずを話さない。自分たちが物のように扱われた蚘憶をずおも思い出したくないからだろう。

 ルナはフランツより䜕歳か幎䞊だが、気さくに話しおくれた。過去の蚘憶ず向かい合わざるを埗ないフランツにずっおはそれはありがたいこずだった。

 垫匠ず匟子ず蚀える関係ではないが、ルナからはこっそり倚くを孊んだずフランツは思っおいる。 

「月䞊みな蚀い方だけど、過去は倉えられないからね」

 ルナはパむプを片手にい぀も語っおいた。フランツも同意するずころだ。

――いや、そう蚀う颚に前向きに考えないずずおも耐えられないのだ。

「わたしは綺譚《おはなし》がずおも奜きでね」

 ルナの前向きな態床にはどこか悲しさが芋えたから。

「わたしが欲しいのはそれだけなんだ」

 フランツはルナずは違い、スワスティカの残党を刈り尜くすこずに身を捧げる決心をした。

――グルムバッハ、絶察に仕留めおやる。

 生け捕りにしお裁刀に掛けるのが望たしいのだが、䞍可胜な堎合、シ゚ラレオヌネ政府から殺すこずも認可されおいた。

 もちろんトゥヌルヌズ共和囜の蚱しを埗るこずは䞍可胜なので、秘密裡に行わないずいけない。

――俺は出来る。

 殺しは䜕床も行っおきおいた。だが、ここたでの倧物を仕留めたこずはない。

「この、『歊噚』が圹に立おば」

 そう、鋭い目をオドラデクに向けた。

「だから、がくに頌るのやめおくれたせん がくはひ匱な生き物なんですよ」

 たた、オドラデクが笑い声を䞊げた。

「お前で䜕人殺しおきたず思っおいる」

「党郚匱い盞手ですよね。がくなんお䜿わなくおも殺せる。あなたも刀が䜿えないずいう蚳じゃない。なのに空の刀身なんお提げお  ああ、おかしい」

 フランツは芋る芋る顔を曇らせた。

 たた、䌚話が途切れる。

「汜車が着くたで退屈ですよね」

「  」
「埅っおいる時間が長いあたり、確かに倜汜車に乗るこずず人生は䌌おいるかも知れないですね」

「ただ、坐しお埅っおるや぀にずっおはな」
「あなたはそうじゃないず」

 オドラデクはふざけた調子で蚀った。

「そうだ。俺は自分から動いお来た。自分で勝ち取っおきた人生だった」  

「倧局な自信ですね。もっずも、あなたのすべおをがくは知っおるわけじゃないから䜕ずも蚀いかねたすけどね」
「知らないなら黙っずけ」

 フランツは怒り混じりに叫んだ。

「ははぁ」

 オドラデクは䜕も蚀わなくなった。

 深倜の静けさの䞭、車茪の音だけがした。

「眠らないのですかね」

 だいぶ経っおオドラデクはたた告げた。

「眠らない」

 フランツは静かに蚀った。

「明日たでただ時間はありたすよ」
「どう仕留めるか蚈画を緎らなくおはいけないからな」

「勉匷熱心ですね」

 フランツは答えない。

「あなたず䌚話しおいお楜しいっお思える女性はいたせんね」

 オドラデクはからかった。

 フランツは黙っおいたが、少し顔を赀らめたようだった。

 ノェルハヌレンは連なる山々から颚がそのたた吹き付けおくるため、ずおも寒い村だった。

 フランツは降りる前に食堂車でコヌヒヌ䞉杯を飲み、眠気を払っおいた。

 しかし、その県の呚りには既に隈が出来おいる。

 あくびすらも抌し殺しながらフランツは歩き続けた。

 オドラデクは再び鞘の䞭に収たっおいた。

「正盎蚀っお譊戒されるでしょうね。あなたが䞀人でこんな村に入っおも」
 くぐもった声ではある。だが滑舌はよくなめらかに聞こえた。

「䞀気に仕留めお垰る」

「でもグルムバッハっおや぀、名前倉えおるんでしょう」

 オドラデクは昚日の曞類に曞いおあった情報をちゃんず読んでいるらしい。
 グルムバッハはラファ゚ル・ケッセルず倉名し、生粋のトゥヌルヌズ人になりすたしおいる。

 䜕でも私塟を開き、えらく繁盛しおいるそうだ。

 シ゚ラレオヌネの猟人本郚が掟遣した朜入者の調査力にはフランツも呆れた。ならば圓人が殺せばいいではないかず思ったりする。

 ずは蚀うものの、フランツの実力でなければ確実に仕留められないず刀断したのだろう。ある意味では誇らしかった。

「家を䞀軒䞀軒圓たっおいく蚳にもいかないでしょうし、どうしたす」
「子䟛に聞いおみる」

 フランツは眠そうに蚀った。

「グルムバッハは私塟で子䟛たちを教えおいる蚳ですから、そういう手もありたすよね。でも、どうやっお接觊するんです」
「昌になれば連䞭も遊ぶだろ」

「なるほど、頭が回りたすね」

 オドラデクの耒め蚀葉など意に介さず、フランツは村の近くの林の䞭に身を朜めお埅った。

 鳥の鳎き声がたたに聞こえおくる他はずおも静かな空間だ。

 䜕も蚀わず立ち尜くすフランツ。

 䌚話する気すら感じられなかったせいか、オドラデクの声は聞こえなくなった。

 昌近くなるず、子䟛たちの姿が珟れた。

 皆元気よく、野原を駆け回っおいた。

 そのうちに瞄跳びをしお遊び始めた。

「よっ、お前ら」

 フランツは気さくな幎長の友達ずでも蚀ったように声を掛けた。

「よっ」

 䜕人かは芋知らぬフランツに尻蟌みしお恐がり、話し掛けるのを躊躇っおいたが、ガキ倧将ず芋える掻発な子が答えた。

「俺は旅の者だ。ある人を蚪ねおきたんだ。ラファ゚ル・ケッセルずいう先生でね」
「ケッセル先生は村䞀番の先生だぜ」

 ガキ倧将が叫んだ。

「ぞえ、そんなに評刀が良いのか」

 フランツは驚いた。

「俺らはみヌんな教えお貰っおいるからなあ」
「ケッセル先生に教えお貰っお字も曞けるようになったし」

 舌足らずな話をたずめみるず、ケッセルこずグルムバッハは芪のいない村の浮浪児たちにも無償で文字を教えおいるずいう。

 それだけではなく、村䌚議などにも進んで参加しお発蚀を倚くしおいるずいうこずだ。もっずも子䟛の蚀うこずなので「むらのだいじなあ぀たり」皋床の蚀葉から意味を斟酌したのだが。

 ケッセルが孊校兌䜏宅ずしお䜿っおいる叀い屋敷の堎所を聞き出すこずが出来た。

「倧した先生じゃあないですか」

 子䟛に別れを告げた埌、オドラデクは小さな声で聞いた。

「話すなず蚀ったろう。誰かに芋られたらそれこそ怪したれるぞ」

 オドラデクは黙った。
 フランツは無蚀のたた村䞭を探した。

 行き亀う倧人たちが䜕人か、譊戒した芖線を向けおきたが、フランツは無芖しお逃げもせず堂々ず歩いた。

「やり過ごせたすかねえ」
「黙っずけ。こう蚀う時はむしろ臆病に振る舞うこずが猜疑心を増す」

 フランツなりの今たでの人生で埗た凊䞖蚓だった。

 目指す屋敷は村の奥の方、村長の屋敷の近くにあった。ずおも豪壮な建築だった。

「ずいぶん認められおいるんですね」

 オドラデクが笑った。

 普通、村の䞭心に家を構えられるのは認められた人間だけだ。䞀昔前なら魔女呌ばわりされたような地域瀟䌚のはぐれ者は村の隅っこで暮らさなければいけないのはどこでも同じこずだった。

「いくら認められようがスワスティカはスワスティカだ。虐殺に手を染めた者を蚱すこずはできん」

 泚意深く呚囲を眺め誰も居ないこずを確認しお、フランツは答えた。

「なるほど」

 オドラデクは感心したように答えた。

 グルムバッハはスワスティカ厩壊時、珟ヒルデガルト共和囜領内の炭鉱で劎働させおいたシ゚ラフィヌタ族の連行が無理ず分かるず䞀列に䞊べさせ銃殺した疑いがある。被害者は数癟人に及んだ。

「裁きは受けさせる」

 家に近づいお、普通より遙かに倧きく感じられるドアをノックした。

「はい」

 女の声が響いた。少し緊匵しおいるように聞こえた。

「ラファ゚ル・ケッセルさたは圚宅しおいらっしゃいたすでしょうか」
「䞻人は今、出かけおおりたす」

 ずすれば、今の女はグルムバッハの劻らしい。それにしおは幟分か若いようだが。

「私ぱルンスト・ノァルドマヌルずいう者です。オルランド公囜からの移民で、昔先生の教えを受けたものでしお」

 フランツは顔色䞀぀倉えず嘘を吐いた。これも蚓緎によっお習埗したものだった。

「ああ、なんお偶然でしょう」

 女は突然明るい声になっおドアを開けた。明るい色をしたブランドの髪が昌の光に照らされた。

「  」

 驚くばかりの肌の癜さにフランツは少し毒を抜かれた。幎霢はフランツよりも䜕歳か若いず思われたからだ。

「私はケヌトヒェンず申したす。元は孀児だったのですが、名前だけは芚えおいたした。蚘憶こそありたせんが、あなたず同じオルランドから来たんじゃないかず思っおいるんです」

「それは奇遇ですね。マダム・ケッセル、どうかよろしくお願い臎したす。もしや、あなたも先生に教えを受けたのですか」

「はい、元生埒だったのです。あなたのこずはお芋かけしたこずがありたせんが、ラファ゚ルずはどのような関わりで」

 ケヌトヒェンは顔を赀らめお答えた。

「䞀幎ばかりの短い間でしたが、トゥヌルヌズ語を教えお頂いたこずには感謝しおいたす」

 フランツはしれっず嘘を重ねた。

「今でも䞻人は蚀葉の分からない子䟛たちにトゥヌルヌズ語を教えおいるんですよ。芪のいない子も倚いので」

 ケヌトヒェンは目を茝かせながら語った。

「それでは先生がいらっしゃるたでお埅ちしおも倧䞈倫ですか」

 フランツは少し疲れたかのように聞いた。

「もちろん ぜひお䞊がりください」

 絚毯が敷かれた食卓ぞ坐り、フランツはケヌトヒェンに入れお貰ったお茶を飲んだ。

 オドラデクが䞀切話さないので静かだ。

「少し、わたしのこずを話させお頂いおも宜しいですか」

 ケヌトヒェンが怅子に腰を䞋ろしお聞いた。

「もちろん」

 フランツは玠っ気なく蚀った。

「わたしがここに来たのは六幎前です」

「ああなるほど、こちらが知らないわけです。わたしは䞃幎前にここを去りたしたから」

 もちろん、ただ話を合わせただけだ。

「そうだったんですね 最初は文字もよく読んだり曞いたりできなくっお、ずおも性栌の良くない  子䟛だったんです」
「意倖ですね。今のあなたからはずおもそう芋えたせんが」

 フランツは埮笑んだ。

「ほんずうにお恥ずかしくっお。䜕も教えお貰っおいない状態だったんで、仕方ないですけど。泥だらけで野山を転げ回っおいたんですよ」

「お転婆っおや぀ですね」

 フランツは皮肉った。こう蚀うテクニックも盞手の懐に入る際は䜿わざるを埗ない。

「ふふふ。そうなんですよ。すごくお転婆だったんです。先生――倫のこずですが、いろいろ教えおくれなかったら、今でもそのたただったこずでしょう」
「ケッセル先生は偉倧な方ですからね」

 フランツはずりあえず話を合わせた。

「はい。かけがえのない存圚です。ラファ゚ルがいなければ今の私はありたせんから」

 フランツは答えず、少し目を瞑っお考えた。

――䜕か違和感がある。

 フランツは、昔ルナ・ペルッツず話したこずを思い出した。

「結婚は察等な䞡性の合意だ、ずいう話を良く聞くね」
「いきなりどうした」

 フランツは怪蚝に思っお問い返したものだ。

「ふず、思ったのさ。察等だずしたら二人の幎霢も釣り合わなけりゃおかしくないかっお。でも、二十歳以䞊ぐらい幎が若い劻を貰う成功者の男もいるだろ」
「別におかしなずころはない。䞡性が合意しおればそれでいいじゃないか」 

 フランツはただ玍埗できなかった。

「おかしいず思わず、みんなが受け入れおるこずの方がおかしいっお堎合もあるさ」

 ルナらしい持っお回った蚀い方だった。

「お前のような茩にずったらおかしいかもしれない。だが、子䟛の頃からの知り合いで結婚したずか、そんな話はしょっちゅう聞くぞ。矎談のように語られるこずもあったな」
「問題はそこさ」

 ルナのモノクルが光った。

「男があえお女を幌い頃から飌い慣らしおるのかも知れない。すごく蚀い方は悪いけどね」

 フランツはルナの匟子ではないし、そう呌ばれたくもない。だが、時折ルナの頭の䞭に蚀葉が甊っおくるこずがあるのだ。

 今目の前にいる自分より若いケヌトヒェンの六幎前ず蚀えば少女だろう。

 そう考えるずあたり良い思いはしなかった。

 グルムバッハずは䞉十歳近くの開きがある。

「ケッセル先生ず結婚されたのはなぜでしょう」

 するずケヌトヒェンは顔を赀らめお、

「自然ず、教えお頂いおいるうちに  」

 字も読めない少女を先生が救い出しお読み曞きを教え、その埌に結婚した。

 確かに傍目から芋れば矎談だろう。しかし、その先生は虐殺者なのだ。

 フランツの心の䞭にたた怒りが湧き䞊がった。

「先生は村では評刀なんですか。圓時は私もあたりに幌かったので、どう評䟡されおいたたでは芚えおいなくお」

 フランツは鎌を掛けた。

「ラファ゚ルはこの村で䞀番偉い人です。私が蚀えば倉ですけど でも、䞀人が奜きな人でもあっおたたに家を空けるこずがありたすね」

 子䟛たちの評刀に誀りはないらしい。誰からも愛される人間――それがグルムバッハのノェルハヌレンでの評䟡だ。

「いえいえ、先生は倧したお方ですよ」

 飜くたで柔《にこ》やかな態床を厩さないよう努めた。

――家を空けるずは、たた䜕か良からぬこずを䌁おおいるのだろうか。

 フランツは䞍審に思った。

 結局、ケヌトヒェンに昌食たで䜜っお貰い、そのたた長居した。

 ケヌトヒェンず話を続けながらも、時間を確認した。

 既に十六時近くなっおいる。

 ドアがノックされる音が聞こえおきた。

「倫です」

 他の者は誰も蚪れおこないかのような口振りでケヌトヒェンは立ち䞊がり、ドアの鍵を開けに行った。

 ラファ゚ル・ケッセル――グルムバッハは静かに入っおきた。ドアが倧きかったのはこの身長のためだろう。

 フランツも高い方だず自負しおいたが、その頭を遙かに芋䞋ろせるほどだった。

 今は五十代のはずだ。写真より癜髪が亀じり、皺もよっおきおいるが、腕の筋骚は隆起しおおり、ただ鍛え続けおいる様子が窺われた。本人で間違いないずフランツは思った。

「ケッセル先生、お久しぶりです。゚ルンスト・ノァルドマヌルです。芚えおおいででしょうか」

 冷ややかな笑いを浮かべお、フランツは手を差し出した。

 グルムバッハの顔は䞀瞬の曇りも芋せず、埮笑んで手を握り返した。

「゚ルンストくん。本圓にお久しぶりだね」

「芚えおおいでですか。それはよかった」 
「積もる話もあるこずだ。少し散歩したせんか」

「えっ」

 ビックリしおケヌトヒェンは二人を芋比べた。

「男同士、語り合いたいこずもあるのだよ」

 そう穏やかにケヌトヒェンを説き聞かせお、グルムバッハは歩み始めた。

 フランツもそれに぀いおいく。

 二人は屋敷の倖ぞ出た。

 向こうがすぐ攻撃しおくるなら、すぐ応戊出来るだけの準備をフランツはしおいた。

 だがグルムバッハは肩幅の広い背をフランツに芋せながらも、殺意を毛ほども芗かせなかった。

 行き先も話し合っおいないのに、自ずず二人は村から離れた先ほどの林に向かっお歩いおいく。
 もう子䟛たちも家に垰った埌だ。

 半熟卵のような赀光が朚々の間を透かしお溢れおいる。

「もういいだろ。ゎットフリヌト・フォン・グルムバッハ。俺が誰だか分かるな」

 フランツが静かに蚀うず、グルムバッハは歩みを止めお振り返った。

「スワスティカ猟人《ハンタヌ》」

 グルムバッハは穏やかに蚀った。

「そうだ。お前は俺たちシ゚ラフィヌタ族を問答無甚で虐殺した。報いを受けなければならない。玠盎に瞛に付くか、それずも  」

 前者は期埅しおいなかった。フランツが望んでいるのは――。

「私にはここの生掻がある。突然出お行っおは村のみんなが困るのでね」

 思いを汲んだようにグルムバッハは静かに蚀った。

「お前がここで集めた尊敬は停りのものだ。お前の過去はどこたでも血に汚れおいる。それを自ら拭い去るこずもせず、のうのうず生き延びおいる」

 フランツはグルムバッハを睚み付けた。

「そうだな。私はずっくに過去を拭い去った぀もりでいた」

 グルムバッハは動じるこずがなかった。

「停善者め お前らのような醜いや぀が」

 フランツは収容所で、各地で死んでいったシ゚ラフィヌタ族の姿を自然ず心に思い浮かべた。

 自分で芋た光景、埌から写真で捉え盎した颚景。

 焌华炉で人䜓が燃やされた灰。

 収容所の倖では、屍䜓が山のように積み重なっおいた。

 ベヌハむムの高笑いが耳鳎りのように䜕床も繰り返される。

 暎力の痕跡をひたすらに凝芖した。

 涙は䞍思議ず滲たない。涙を流せる皋床の悲しみは深くない。そう思えおしたうほど鈍い痛みを感じた。

 目の前の男は、その加担者だ。

「出来る限り、穏䟿に玍められないかね。君がどうしおもず蚀うなら、私も盞手をせざるえなくなるがね」

 グルムバッハは静かに蚀った。

「お前に倚くを語らせる぀もりはない」

 フランツは鞘から剣をゆっくり匕き抜いた。 ず、蚀っおもそこに刀身はない。糞が䌞びおいくだけだ。

「やれやれ、仕方ない。幻想展開《ファンタゞヌ・゚シャむン》『鉛の倜』」

 グルムバッハは地面を殎り぀けた。倧きな穎が開き、倧地がひび割れた。

 自分の立っおいるずころたで割れそうになったので、思わずフランツは身を匕いた。

「なんだ、その皋床か」

 フランツは嘲笑った。

「小现工を匄する必芁が私にはなかったのだ。この身の力を、最倧限たで高められればそれでいい」

 グルムバッハはそう蚀いながらフランツに殎り掛かった。

 フランツは軜やかに躱《かわ》した。

――間合いを詰められおはいけない。

 端から芋れば䞍思議な光景だった。空の刀身を握った青幎が、初老の男の打撃を避けながら、倕暮れ迫る林の䞭を走り回っおいるのだから。

 フランツの耳元で颚が倧きく唞った。

 グルムバッハの拳を避けた時、背広ずシャツが倧きく砎れたのだ。

 肌が芗いお芋えおいた。

「興味深い」

 それを芋お、グルムバッハは埮笑んだ。

「ちょうどいい。いい加枛暑いず思っおいたずころだ」

 フランツはやはりただ倧きく間合いを取りながら、背広を片手で匕き裂いた。

 半裞の姿が珟れる。

 酷く痩せおはいたが鍛錬の甲斐あっおか筋肉が぀いおいた。

 だが、䞍思議なのはその背䞭に肌理现かく描かれた人魚《セむレン》の刺青だ。

 物語の䞭も人魚は歌を唄うものだが、描かれた人魚は歌を唄わず、口を閉ざしおいた。

「唄わない人魚がいるずはね」

 グルムバッハは笑った。

「唄わない人魚は俺だ。俺は蚀葉を残さない。俺は歎史を語らない」
「じゃあ、䞀䜓䜕を」

 グルムバッハは物凄い勢いで間合いを詰め、フランツを抌し朰そうずした。
 しかし。

 その身䜓を無数の糞がからめずっおいた。

「俺は䜕も残さない。ただ、消しおいくだけだ。この『沈黙』ずいう歊噚で、お前らスワスティカの痕跡を」

 フランツは空の刀身を瞛られお動けなくなったグルムバッハぞ向けた。

「オドラデク」
「はいはい、わかりたしたよ」

 すぜんずオドラデクはその星圢の尖端を柄の先から突き出した。やがお耇数の絡たり合う糞がそこに集たっおいき、鋭い刃のかたちになった。

「剣  」

 そう蚀ったグルムバッハの胞が倉型したオドラデクに貫かれおいた。

「がはっ」

 口から血を流し、しかし穏やかにフランツを芋぀めるグルムバッハ。

「良かった  ようやく  」
「恥じお、死ね」

 フランツは盞手の膝に足を掛けよじ登りながら、力匷くオドラデクを深く差し入れた。

 グルムバッハは絶息した。

「意倖ずあっけなかったですね」

 オドラデクはたた䟋の笑い声を䞊げた。

 フランツは黙っおいた。

「これからどうするんです」

 それには答えずフランツは曞類入れを鞄から出し、䞭の玙を取り出しおマッチで火を付けた。

 フランツは倧の嫌煙家でルナのパむプを枋い顔で芋぀めるこずが倚かったが、火を付けおやる機䌚も倚く、自然ず携垯するようになったのだ。

 結果ずしお喫煙者のお偉いさんずの䌚談の時には䜿える道具になったが。

 黒焊げになった曞類に残る火を足で抌さえ぀けお鎮める。

「もったいない。面癜い情報がたくさん茉っおいたのに」

 少しもそう思っおいなそうな声でオドラデクは蚀った。

 フランツは飜くたで沈黙を守った。

 ず、いきなりオドラデクが動いた。剣の先に集たっおいた糞が䞀本、ピンず広がったのだ。

 フランツを狙っお攟たれた匟䞞を真っ二぀にしおはじき飛ばしおいた。

 ケヌトヒェンだった。煙を䞊げる猟銃を手に震える顔で立っおいた。

 䜕か予感を芚えたのか倫が心配になっお付けおきたのだろう。䞭は近くの小屋に攟眮されおいるものを急いで持っおきたのか、いささか錆びおいるようだった。

「なかなかしっかりした撃ち方ですね。さすが、野山を駆けたわっおいたのは䌊達じゃない」

 オドラデクは笑った。そう蚀いながら、ケヌトヒェンの手から猟銃を糞で絡め奪い取った。

「䜕で倫を 眪のないあの人を」

 フランツは黙ったたただ。

「眪がないっおね、奥さん。あの人は本名ゎットフリヌト・フォン・グルムバッハっお蚀っおケッセルなんお名前は停りなんですよ。経歎だっお党郚嘘で塗り固めたもの。旧スワスティカ芪衛郚特殊郚隊『火葬人』の䞀人ず蚀やあ少しはお分かりでしょう。あなたも子䟛の時に戊争を経隓しおいるはずですからね」

 オドラデクはかえっお饒舌に喋り立おた。

 ケヌトヒェンは䜕か思い圓たる節があったのか呆然ずした顔をしおいたが、じきに、

「それが  本圓だったずしおもこの村に、来おからはずおも偉い人でした いえ、私にずっお倧事な人だったんです」

 フランツは䜕か蚀おうず口を開き掛けた、しかし、それを遮るように、

「あなた、グルムバッハずはだいぶ歳が離れおいるでしょ 単に子䟛の頃奜きだったおじさんぞの延長線䞊で結婚したんじゃあないですかね それずも向こうから色々されちゃったんですかね」

 オドラデクは銬鹿にしたように蚀った。

 ケヌトヒェンの青ざめた顔に急激に血の気が昇った。

「私はあの人を奜きだったんだ 他人からどうこう蚀われる筋合いはない」

 フランツの顔にふいに物憂い圱が走った。そのたたケヌトヒェンの懐に飛び蟌み、頭を匷く殎った。

 たちたち気絶しおどさりず厩れ萜ちるケヌトヒェン。

「結局最埌たで䌚話せずに枈たしたしたね。なるほど、倧した『沈黙』だ」

「お前は喋りすぎだ」

 鞄から出した捕瞛甚の瞄でケヌトヒェンを朚の幹に瞛り付けながらフランツは蚀った。

「いいでしょう さっきたでずっず黙らされおいたんですから喋りたくもなりたすよ」

 ただ目芚める様子のないケヌトヒェンを眺めながらフランツは歩き出した。

「殺さなくおいいんですか。目撃者ですよ」

 糞を鞘の䞭にスルスルず治めながらオドラデクが蚀った。

「無駄な殺しはしない。俺が殺すのはスワスティカだけだ。名前も倉えおるしな」

 やっず長めに話すフランツ。

「顔を芚えられおいるでしょう」

「もうこんな村来るこずはない。俺は西ぞ行く」

「゚ルキュヌルの譊察庁に届けられるかも知れたせんよ」

「この囜にそこたでの譊察力はない。出発盎前に起こった某倧孊の襲撃事件も結局うやむやのたただからな」

 フランツはそれだけ蚀いきるず埌は喋りかけおくるオドラデクを無芖しお歩き続けた。

 たたも倜汜車だった。

 フランツは䜕も蚀わず乗っおいた。

 やはり、枕朚に車茪が軋む音しかしない。車窓には街の灯りすらほずんどみられない。しばらくずっずこんな眺めだろう。

 だが、䜕時間もそうしおいるうちに、

「俺が蚀いたいこずは」

 自然ず蚀葉が口から挏れる。

「ケヌトヒェンさんに぀いお、ですよね」

 鞘の䞭に収たったオドラデクはフランツの蚀いたいこずを理解しおいるらしい。

「ルナ・ペルッツは昔蚀った。かなり幎の離れた劻を嚶る男は、女を飌い慣らしおいるのだず」

「ルナ、ルナっお圌女はあなたの先生かなんかですか 蚀ったこずが倖れる堎合だっおあるでしょう」

「少なくずもケヌトヒェンは自分はグルムバッハのこずが奜きで、他人から指図されたくないず蚀った」

 フランツは膝䞊で䞡の指を合わせた。

「䞀理あるでしょうね。本人が蚀っおいるんだから、正しいず考えた方がいい」
「だから、俺は悩む」

「悩たなくお良いでしょう。どうせグルムバッハは眪人なので。本人も死を望んでいたようですよ」

「ケヌトヒェンは眪人ではない」

「かもしれたせん。でも、圌女の意志ではなく、グルムバッハにそう思わされおいただけ、ず蚀う可胜性だっおあるでしょう。ずにかく、圌女は広い䞖界を芋おいない。われわれず違っおね」

 フランツは黙った。

「ちょっず、鞘抜いおくれたせん」

 フランツは蚀葉を返さずに埓った。

 フランツの呚りをくるくるず呚りながらオドラデクは宙を浮いた。

 それが勢いよく糞をフランツの前の垭ぞ集めお、人のかたちになった。

 青い瞳の青幎がフランツを芋おいた。髪の色はオドラデクを織りなす様々な糞ず同じだった。

「わざわざその姿にならなくお良いぞ」

 さんざん芋飜きおいるフランツは目を閉じた。オドラデクは女にも少幎にも䜕でも望むものに姿を倉えるこずが出来る。

――こい぀だけでグルムバッハを始末させおもよかったかもな。

 そんなこずをフランツは考えた。

「寂しそうなんで盞乗りの盞手になっおあげようず思ったんですよ」

「いらん」

 フランツは短く蚀った。

「あなたもずいぶん玠盎じゃない人ですからね」

「寂しいずしおお前に埋め合わせが出来るずは思わん」

「あ、やっぱり寂しいんですね。分かっおたすよ。もう長い付き合いですから」

 ニダニダず笑いながらフランツの肩を叩くオドラデク。

「  」

 盞倉わらず黙りこくるフランツ。

「こうやっお人間の姿で汜車に乗るのもいいなぁ。車掌さんが入っお来ちゃったらどうしたしょう。がく切笊持っおないんですけど。殺したす」

「隒ぎを起こすな。さっきも蚀ったぞ」

 フランツは少し厳しく蚀った。

「冗談ですっおば。それに車掌さんもう行っちゃいたしたよ。芚えおないんですか」

 フランツは答えなかった。

「話が䞀方通行ですよ。ほんずヌに頑固な人ですね」

 オドラデクはフランツの傍に坐っお肩を回した。フランツは嫌そうにそれをはねのけた。

「だから友達少ないんですよ、フランツさんは」

 オドラデクはカラカラず笑った。糞巻きのような姿をしおいる時ず党く倉わらない笑い方だった。

「だいたい人ですらないだろお前は」

 フランツはうるさそうだった。

「友達は人間である必芁っおないじゃないですか。犬や猫だけ仲が良い人もいる」

「人間の友達ずは別だ」
「なるほどね。じゃあこれならどうです」

 ずオドラデクは䞡手を顔を隠し、たたさっず手を退けた。

 女に倉わっおいた。

「やめずけ」

 フランツは口に少し苊笑いが浮かんでいた。

「異性の友達が倚い方ですね。フランツさんには」

「そんな話したか」

「したしたよ。ルナさんずかね」

「䜕が知りたいんだ」

 フランツはため息を吐いた。

「男ず女の間で友情は成り立぀のか、的な凡庞な問いですよ」

 ニダリず満面の笑みを浮かべおオドラデクは蚀った。

「いい加枛にしろ」

 フランツは空の刀身を向けお䞭に入るよう促した。

「ただ戻りたせん」

 オドラデクは真っ暗な車窓を芋぀めおいた。


いいなず思ったら応揎しよう