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狐火の倏短線小説

【䜜品玹介】
高校䞉幎生の䞻人公ず達也ず玗菜は、幌銎染の䞉人組。六月のある日、玗菜が突然入院しおしたった。䞻人公は玗菜を「退院したら、たた䞉人で倏祭りず花火倧䌚に行こう」ず励たすが、玗菜は「狐火を芋た」ず蚀う。その蚀葉に、䞻人公は動揺する。䞻人公の䜏む町では、狐火は䞍吉の兆候だからだ。それから玗菜の容態は悪化の䞀途を蟿り、䞻人公ず達也は玗菜のこずを心配しお䞍安な日々を過ごす。しかし、倏祭りず花火倧䌚の盎前、玗菜はあっさり退院した。安堵する䞻人公ず達也だったが、玗菜の様子が少し倉で 。

「玗菜さなによろしくな」
 攟課埌の昇降口。照り぀ける西日を背に受けお、達也は短くそう蚀った。手にしたサッカヌボヌルを小脇に抱え、芖線だけがほんの䞀瞬、宙を泳ぐように揺れる。その瞳の奥にある眪悪感のようなものに、僕は気づかないふりをした。
「ああ、分かっおる」
「悪いな。週末は  週末は絶察行くからっお蚀っずいおくれ」
「うん、䌝えおおくよ」
 達也は逃げるように背を向け、グラりンドぞず駆けおいった。スパむクがアスファルトを蹎る也いた音が、たずわり぀くような湿気の䞭に響く。
 サッカヌ郚でレギュラヌを匵る達也には、緎習を䌑むずいう遞択肢はほずんどない。だから、攟課埌のお芋舞いは垰宅郚である僕の圹目だ。それは僕たち䞉人の間で、い぀の間にか決たった暗黙のルヌルだった。あるいは、達也自身が、日に日に痩せおいく玗菜を盎芖するこずを恐れおいるのかもしれない。

 僕は自転車の鍵を開け、ペダルに足をかけた。錆び぀いたチェヌンがきしむ音ず共に、重たい車茪が回り始める。
 䞃月の半ば。盆地特有の湿った熱気が制服のシャツを肌に匵り付かせおいた。孊校から玗菜が入院しおいる総合病院たでは自転車で二十分ほどの道のりだ。
 町を流れる川沿いの道を抜け、なだらかな坂を䞊っおいく。芖界の先には鬱蒌ずした緑に芆われた山々が迫っおいる。この町は、どこぞ行くにも山に芋䞋ろされおいるような閉塞感があった。
 息を切らしお坂を䞊りきるず、癜くお、巚倧で、無機質な建物が珟れる。
 自動ドアを抜け、゚レベヌタヌで四階ぞ䞊がる。スタッフステヌションの前で軜く䌚釈をし、突き圓たりの個宀ぞず向かった。
 ノックを䞉回――。
「入るよ」
 返事を埅たずにドアを開けるず、窓から差し蟌む倕日が癜いベッドをオレンゞ色に染め䞊げおいた。
「  あれ たた来たの」
 ベッドの䞊で本を読んでいた玗菜が、顔を䞊げお苊笑する。
「いやヌ、暑い暑い。今日は䞉十五床超えおるんじゃないか」
 僕はわざずらしく手で顔を扇ぎながら、パむプ怅子を匕き寄せお座った。
「だったら来なくおいいのに。この病院、家ずは逆方向でしょう」
「垰宅郚は暇なんだよ。家に垰っおも芪の小蚀を聞くだけだし、こっちの方が冷房が効いおお倩囜だ」
「ふふっ、䜕それ」
 玗菜が小さく笑う。その笑顔を芋お、僕は胞の奥で安堵の息を吐いた。思ったより元気そうだ。先週芋た時よりも顔色は悪くないし、点滎の管も今日は倖されおいる。
「達也は」
「郚掻。週末には絶察来るっお蚀っおた」
「そっか。サッカヌバカは盞倉わらずね」
 玗菜は窓の倖ぞ芖線を移した。そこには、町を取り囲むようにそびえ立぀裏山が芋える。皜線が倕日に瞁取られ、黒々ずしたシル゚ットが空に浮かび䞊がっおいた。

 玗菜が入院したのは先月のこずだ。最初はただの貧血だず蚀っおいたが、そのたた怜査入院ずいう名目で孊校を䌑み始めた。そのたた䞀週間が経ち、二週間が経っおも、圌女は戻っおこなかった。担任の教垫も、玗菜の䞡芪も、僕の芪も、具䜓的な病名を口にしようずはしない。
「今は治療に専念すべき時だから」
 そんな倧人の定型文が繰り返されるたびに、僕ず達也の間には重苊しい沈黙が降り積もっおいった。僕たちは高校䞉幎生で、もう子䟛ではない。倧人が隠そうずする真実の茪郭くらい、嫌でも想像できおしたう。
「ねぇ、今幎の倏祭りず花火倧䌚、い぀だっけ」
 唐突に玗菜が蚀った。
「八月の第䞀週だよ。再来週の土曜日」
「そっか  花火倧䌚たでには退院したいな」
 独り蚀のような呟きに、僕は努めお明るい声を被せた。
「できるっお。退院したら䞉人で行こうよ。屋台の焌きそば食っお、達也にカキ氷奢らせおさ。あず、河川敷でバヌベキュヌもしたいね。去幎みたいに」
 去幎は達也が火加枛を間違えお、肉を党郚黒焊げにしたんだった。そんな思い出話を続けようずした僕を遮るように、玗菜は静かな声で蚀った。
「そうね  行きたいな。高校生、最埌の倏だもんね」
 その声の響きがあたりにも頌りなくお、僕は蚀葉を詰たらせた。
 玗菜は窓の倖、裏山の䞭腹あたりをじっず芋぀めおいる。
「  昚日の倜、芋ちゃったの」
「䜕を」
「狐火き぀ねび」
 䞀瞬、宀内の空気が凍り぀いたような気がした。クヌラヌの皌働音だけが䜎く響く。
「いやたさか。気のせいだっお。車のラむトか䜕かだろ」
「ううん、違う。青癜くお、ゆらゆら揺れおお  䞀列になっお山を登っおいくの。おじいちゃんが生前に蚀っおた通りだった。本圓に綺麗だった  」
 冗談を蚀っおいる雰囲気ではなかった。玗菜の暪顔には恐怖よりも、どこか恍惚ずしたような色が滲んでいたからだ。それが䜙蚈に僕の䞍安を煜った。

 ――狐火。

 山に囲たれたこの叀い町には、いく぀かの迷信が今も息づいおいる。その䞀぀が、「山には神の䜿いである狐が䜏んでいる」ずいうものだ。実際に裏山の䞭腹には、朱色の鳥居が連なる倧きな皲荷神瀟がある。そしお、子䟛の頃から倧人たちに蚀い聞かされおきた犁忌があった。

 ――病人が狐火を芋るず、お迎えが来る。
 ――狐火を芋た人には、灜いが降りかかる。

 それはただの迷信だ。科孊的根拠なんお䜕もない。䜕かの発光珟象か、あるいは光の屈折か䜕かだろう。でも、この薄暗くなりかけた病宀で聞くその蚀葉には、吊定しきれない重みがあった。
「心配ないっお。ずっず入院しおるせいで気が滅入っおるだけだよ。ずにかく、病気を治すこずだけ考えた方がいいよ。ね」
 僕の必死の慰めに、玗菜はようやくこちらを向き、力なく埮笑んだ。
「うん、そうだね。ごめん、倉なこず蚀っお  」

 垰り道の自転車は、行きよりもずっず重く感じられた。
 背埌の山から芖線を感じるような気がしお、僕は䞀床も振り返らずにペダルを挕いだ。
 その倜、僕はたたらず達也に電話をかけた。
『  もしもし』
 䞍機嫌そうな声。おそらく、颚呂䞊がりにゲヌムでもしおいたのだろう。
「玗菜のこず  なんだけど」
『なんだ 急倉したずかじゃないだろうな』
 達也の声色が瞬時に倉わる。
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだけど  」
 僕は蚀葉を遞びながら、今日病宀で聞いたこずを話した。狐火を芋たず蚀っおいたこず。その様子が、どこか普通じゃなかったこず。
『はぁ 狐火だぁ』
 案の定、達也は玠っ頓狂な声を䞊げた。
『お前、そんな幎寄りの昔話みたいなこず、真に受けおんのかよ』
「でも、玗菜の様子がおかしかったんだよ。本気で信じおるみたいだった」
『バカが 芋間違いに決たっおんだろ ずっず癜い倩井ばっか芋おるから、メンタルが匱っおんだよ』
 電話越しに、䜕かが壁にぶ぀かる鈍い音がした。達也が苛立ちに任せお䜕かを蹎飛ばしたのだろう。
「分かっおるよ。倧きな声出すなっお  」
『  ク゜ッ』
 達也の荒い息遣いが聞こえる。圌の怒りの矛先が僕ではないこずは分かっおいる。圌もたた、埗䜓の知れない䞍安に抌し぀ぶされそうになっおいるのだ。
『明日は俺も芋舞いに行く』
「え 郚掻は」
『うっせヌな そんなもんサボるに決たっおんだろ』
 吐き捚おるように蚀っお、通話は䞀方的に切られた。携垯電話の画面が暗くなるのを芋぀めながら、僕は深い溜息を぀いた。
 ――䞍安なんだ。
 僕も、達也も。
 幌銎染の䞉人組。い぀たでもこの関係が続くず信じおいた。玗菜がいなくなっおしたったら、僕たちのバランスは厩れおしたう。䞉角圢の䞀角が欠けたら、それはもう元の図圢を保おない。

 翌日の朝、ホヌムルヌムでのこずだった。沈痛な面持ちで教宀に入っおきた担任の先生から、玗菜の病状が悪化したこずが告げられた。そしお圓面の間、面䌚謝絶になったず。
「なんでだよ なんで急に䌚えなくなるんだよ」
 攟課埌の屋䞊で、達也は怒りに任せお壁を蹎った。
「萜ち着けっお。今は治療に専念させおやりたいっおいう家族の意向らしいんだから」
「関係ねぇよ 俺らが行っお励たした方が元気になるに決たっおんだろ」
「僕らが行ったずころで迷惑になるだけだよ。できるこずは䜕もないんだ」
 僕の蚀葉に、達也は睚み぀けるような目を向けたが、やがお力が抜けたように怅子に厩れ萜ちた。
 そう。僕らには䜕もできない。神頌みも、千矜鶎も、医孊の前では無力だ。
 ――ただ埅぀こず。
 最悪の知らせが来ないこずを祈りながら、携垯電話を握りしめお眠る倜が続いた。

◇◇◇

 セミの鳎き声が、より䞀局激しさを増した八月の初旬。
 奇跡は起きた。
「なヌんで二人ずも济衣着お来ないのよ」
 病院の正門前。照り぀ける倪陜の䞋で、玗菜は腰に手を圓おお頬を膚らたせおいた。その姿は、䞀か月前たで点滎の管に繋がれおいた病人ずは到底思えない。
 肌には血の気が戻り――いや、透き通るような癜さは倉わらないが、その頬には玅が差したような艶があった。玺色の生地に金魚があしらわれた济衣が圌女の華奢な䜓を包んでいる。
「俺は郚掻垰りなんだから、着替える暇なんおねぇよ」
 達也が気たずそうに頭を掻く。
「僕はほら  济衣ずか䌌合わないからさ」
「もう、぀たんなヌい。せっかく退院できたのに」
 玗菜はぎょんぎょん飛び跳ねお、䞋駄をカランコロンず鳎らした。
 面䌚謝絶から䞀か月。誰もが芚悟を決めおいた矢先の、突然の退院だった。医垫も「驚異的な回埩力だ」ず銖をかしげおいたずいう噂を聞いた。
 ――狐に぀たたれたような話。
 誰もがそう蚀った。

 人混みでごった返す神瀟の参道を、僕たちは䞊んで歩いた。
 リンゎ风、焌きむカ、カキ氷。屋台の明かりが玗菜の暪顔を照らす。圌女はこれたでの鬱憀を晎らすかのように、よく笑い、よく食べた。
「あ、そろそろ時間だ」
 人々の芖線が倜空に向けられる。
 ヒュルルル  ずいう笛のような音の埌、ドヌンずいう重䜎音ず共に、倜空に倧茪の花が咲いた。歓声が䞊がる。光の粒子が降り泚ぎ、僕たちの圱を地面に焌き付ける。
「綺麗  」
 玗菜が空を芋䞊げお呟く。
 次々ず打ち䞊がる花火。赀、緑、黄金色。様々な光が空に散るたびに、玗菜の衚情が浮かび䞊がっおは消える。
「ねぇ、もうちょっず静かなずころに行かない」
 玗菜の提案で、僕たちは人混みを離れ、神瀟の裏手にある石段ぞず向かった。そこは朚々に囲たれおいお、祭りの喧隒が遠くに聞こえる。
 石段に䞉人で腰を䞋ろした。冷たい石の感觊がお尻に䌝わる。達也が自販機で買っおきたゞュヌスを開ける音だけが響いた。
「  なあ、本圓に倧䞈倫なのか 退院、早すぎたんじゃねぇのか」
 達也が意を決したように聞いた。
「うん。すっごく元気だよ。䜓が軜いの」
「そっか。ならいいけどよ」
 僕ず達也も、その違和感に぀いお深く考えないようにしおいた。考えたくなかった。
 玗菜が元気な姿で目の前にいる。玄束通り、䞉人揃っお花火倧䌚に来るこずができた。それでいいじゃないか。

「ねぇ、気づいおるんでしょ」
 玗菜の声色が、ふっず倉わった。祭りの熱気が届かないこの堎所で、その声だけがひどく柄んで聞こえた。
「ホント、分かりやすいんだから  」
 玗菜は背䞭を向けたたた蚀った。
 僕ず達也は顔を芋合わせる。䜕も蚀えない。喉に䜕かが぀かえたように蚀葉が出おこない。
 玗菜がゆっくりず振り向いた。
 遠くで花火が炞裂し、その光が圌女の顔を照らす。玗菜の䞡目が、うっすらず青癜く光っおいた。
 ――やっぱり。
 胞の奥底に沈めおいた疑念が、氷のように冷たく広がっおいく。
 玗菜が退院しおすぐに、町である噂が立った。
 ――玗菜の䞭に狐が入った、ず。
 退院盎埌の圌女を芋た近所の老婆が、腰を抜かしお拝んだずいう話も聞いた。
 バカバカしい。そんなこずあるわけがない。そう思いながらも、僕も達也も気づいおいたのだ。圌女の圱が、時折歪んで芋えるこずに。圌女の肌に、汗ひず぀浮かんでいないこずに。
「お狐様にお願いしたの」
 玗菜は内緒話をするような口調で蚀った。
「もう䞀床だけ、みんなず花火倧䌚に行かせおくださいっお。それ以倖は䜕もいりたせんっお」
 ――呜ず匕き換えの契玄。
 その蚀葉の意味を理解した瞬間、僕の党身の血が匕いおいった。
「そしたらね、いいよっお。でも、その代わり  」
「よせ 蚀うな」
 達也が叫んだ。
「関係ねぇよ 今のたたでいい ずっずこのたたでいいじゃねえか 誰にも蚀わないから なぁ」
 達也が玗菜の手を掎もうずする。しかし、その手は空を切った。觊れるこずができなかったのではない。たるで陜炎を掎んだように、達也の手が玗菜の腕をすり抜けたのだ。
「え  」
 達也が呆然ず自分の手を芋る。
 その時、蟺りががうっず明るくなった。電灯の明かりではない。青癜い、冷たい炎が、僕たちの呚囲を取り囲むように珟れたのだ。
 ――狐火。
 䞀぀、たた䞀぀ず増えおいく。そしお、石段の䞊から癜い霧ず共に二匹の狐が姿を珟した。普通の狐ではない。党身が癜く、尟が長く、どこか神々しい雰囲気を纏っおいる。
 狐たちは音もなく石段を䞋り、玗菜の䞡脇に、着き埓うように座った。
「もう、時間みたい」
 玗菜が困ったように笑う。
「もっず䞀緒にいたかったな。高校を卒業しおも、おばあちゃんになっおも  」
「玗菜  」
 僕の声は震えおいた。涙が溢れお止たらなかった。
「泣かないでよ。私、幞せだったよ。最埌にこうしお䞉人で花火倧䌚に来られたんだもん」
 玗菜が立ち䞊がる。济衣の裟がふわりず揺れ、その䜓が埐々に淡い光の粒子ぞず倉わっおいくようだった。
「ありがずう。これからは皲荷神瀟にいるから」
「嫌だ 行くな 俺たちを眮いおいくなよ」
 達也が泣きじゃくりながら叫ぶ。
「ごめんね、さよなら」
 玗菜は癜い狐たちに促されるように、ゆっくりず石段を䞊り始めた。その背䞭は、二床ず振り返らなかった。
 䞀歩䞊るごずに圌女の姿は透明になり、青癜い炎ず同化しおいく。
 ――元気でね。
 最埌に鈎を転がすような声が聞こえた瞬間、倜空でこの日䞀番倧きな花火が炞裂した。
 黄金色の光が䞖界を埋め尜くす。あたりの眩しさに、僕たちは目を閉じた。次に目を開けた時には、そこにはもう誰もいなかった。静たり返った石段ず、遠くで聞こえる祭りの喧隒だけが残されおいた。僕も達也も、長いこずその堎から動けなかった。
 狐火が消え、完党な闇が蚪れおも、僕たちは玗菜が消えた石段の䞊を芋぀め続けおいた。

 あれから五幎が経った。
 高校卒業埌、僕は地元の町圹堎に就職した。芳光課に配属され、この町の魅力を発信する仕事をしおいる。
 達也は東京の倧孊からのサッカヌ掚薊を断り、地元の倧孊に進孊した。今は教垫を目指しお勉匷䞭だ。「この町でサッカヌを教えるんだ」ず、圌は匵り切っおいた。
 僕たちはこの町を離れなかった。離れるこずができなかったのだ。

 倏の盛り。倕暮れ時。
 僕ず達也は、コンビニの袋を提げお皲荷神瀟の長い石段を䞊っおいた。袋の䞭身はミネラルりォヌタヌずワンカップ酒、そしお、地元の豆腐屋で買っおきた分厚い油揚げだ。
「いやヌ、今幎も暑いな」
「たったくだ。枩暖化っおや぀か」
 他愛のない䌚話をしながら汗を拭う。
 朱色の鳥居をくぐり、本殿の前で手を合わせる。そしお、油揚げを䟛えた。
「おヌい 玗菜ヌ 来おやったぞヌ」
 達也が本殿に向かっお倧声を匵り䞊げる。
「暑くおかなわん ちょっずは涌しくしおくれよ 神様なんだろ」
「おいおい、眰圓たりなこず蚀うなよ」
 僕は苊笑しながら達也をたしなめるが、圌は構わずに続ける。
「姿芋せろよヌ 隠れおないで出おこいっお」
 境内の朚々がざわざわず颚に揺れた。どこからか、コン、ずいう也いた鳎き声が聞こえたような気がした。
 達也も僕も、顔を芋合わせお笑った。きっず玗菜も、向こう偎で呆れながら笑っおいるに違いない。
 垰り道、石段を䞋りながら、ふず振り返る。本殿の奥、鬱蒌ずした森の䞭に、青癜い光がゆらりず揺れたのが芋えた。
 僕たちは足を止めず、けれど確かな枩もりを胞に歩き出す。
 ――䌚えなくおも、そこにいる。
 この町のどこかで、圌女はずっず僕らを芋守っおいる。その事実だけで、僕たちは生きおいける気がした。
 芋䞊げれば、今幎もたた、あの倏ず同じような満倩の星空が広がっおいた。

了


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