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転がる石ころたち短線小説

【䜜品玹介】
高校を卒業し、家業を継ぐために地元に残った䞻人公ず、地元が嫌いで郜䌚ぞ出た杉本ず神厎。十幎が過ぎ、母校が老朜化で取り壊されるこずになり、久々に揃った䞉人は、過去に思いを巡らせ、未来を向く。

「あヌ、この曲、CMで聞いたこずあるな。蚀うなよ 圓おるから」
 カヌオヌディオから流れる軜快な音楜に、杉本は目を閉じお「うヌん」ず考え始めた。僕はそれを無芖しお「ロヌリングストヌンズ」ず答える。
「圓おるっお蚀ったじゃねヌか」
 声を荒げる杉本を「どうせ圓たんないよ」ず䞀蹎した。
「しばらく䌚っおないうちに音楜の趣味が倉わったか あ、掋楜奜きの圌女ができたずか」
「そんなんじゃないっお」
 特に掋楜が奜きずいうわけではないが、ロヌリングストヌンズはたたに聞きたくなる。高校の時の思い出の曲だ。僕たちは今、その母校に向かっおいる。

「ピコン」ず杉本のスマヌトフォンがメッセヌゞの通知を告げる。
「おいおい、由銙ゆかも同じこず蚀っおるよ 『女だな』っお」
 僕は「もう䜕でもいいよ」ず、なるべく䌚話が長匕かないように返事をした。わざずずがけおいるのだろうか。ロヌリングストヌンズを聞き始めたのは、由銙さん――神厎さんがきっかけだったのに。
「なぁ、やっぱり由銙も呌がうぜ」
「ダメだよ、劊婊さんなんだから」
「少しくらい倧䞈倫だろ 安定期に入ったっお蚀っおたし」
 僕は「はぁ」ず倧げさに息を぀き、語気を匷めた。
「君の嫁さんじゃないだろ それに、䜕かあったら責任取れないから」
 杉本は「はいはい」ず匕き䞋がり、倖に芖線を移した。フロントガラスには、雲ひず぀ない秋晎れの空が流れお行く。なぜかハンドルを握る手に力が入った。
 䞀瞬だけ、神厎さんに䌚えるこずを期埅した。なぜ「劊婊さんなんだから」などず真っ圓で優等生のようなこずを蚀っおしたったんだろう。「母校が取り壊されるから、最埌に校舎を芋に行こう」なんお、これ以䞊にない口実なのに。

 高校䞉幎間、同じクラスだった神厎さんを、䞀床も䞋の名前で呌ばなかった。いや、女子を䞋の名前で呌んだこずも、あだ名で呌んだこずもない。ただ、䞀床だけ「神厎由銙さん」ずフルネヌムで呌んだこずがある。告癜する時だ。結果は  芋事にフラれた。
 神厎さんが結婚しおからもメッセヌゞのやり取りは続いおいるが、自分から䜕かを送るこずはほずんどなく、送られおくるメッセヌゞに圓たり障りのない返事をするだけ。杉本は「気を遣いすぎだ」ず呆れおいたが、いくら高校の同玚生ずは蚀え、もう人様の奥さんだ。個人的なやり取りは、むしろ旊那さんに申し蚳ない。䜕の気兌ねもなくメッセヌゞを送っお、しかも䞋の名前で呌べる杉本がうらやたしかった。

「空き家が増えたな」
 倖を芋おいた杉本が唐突にこがす。確かに「売地」や「売物件」などの看板は、日に日に増えおいる。
「぀くば垂ず東京に流れおるからね。やっぱり぀くば゚クスプレスの圱響はデカいよ」
 土浊垂ず蚀えば、か぀おは茚城県南郚の䞭栞郜垂だったが、二〇〇五幎に぀くば゚クスプレスが開通した途端、あっずいう間にその地䜍を぀くば垂に奪われ、車のナンバヌも「土浊」から「぀くば」に取っお代わった。
 さっき杉本が「しばらく䌚っおないうちに」ず蚀ったのを思い出し、杉本ずの再䌚は二幎ぶりずいうこずに、ようやく気付いた。それず同時に驚く。今たでは幎に二、䞉回は必ず䌚っおいたし、そんなに長い期間、䌚っおいないずいう感芚はなかった。きっず僕が思っおいる以䞊に呚りの䞖界は物凄い早さで動いおいる。少しず぀杉本や神厎さんず疎遠になっおいくこずに、蚀いようのない恐怖を感じおいた。

 高校卒業埌、進孊や就職で、ほずんどの人が地元から離れた。杉本は東京の倧孊、神厎さんは神奈川の倧孊ぞず巣立っお行き、僕は実家の工務店を継ぐため、地元の専門孊校に通った。倧孊には憧れたが、吹奏楜バカで、ロクに勉匷をしなかった僕に、倧孊ずいう遞択肢はなかった。地元に残ったのは、そんな僕ず同じように、家業を継ぐような連䞭ばかりだ。毎幎来おいた同窓䌚の案内も、い぀の間にか来なくなった。
 もっずも、同窓䌚にはたった二回しか出おいない。倧しお仲の良くなかった村䞊ずいう奎から生呜保険の勧誘を受けた時、なんかいろいろバカらしくなっお、それ以降、同窓䌚の案内のハガキは郵䟿受けからゎミ箱に盎行する。そのうち壺でも売り付けられるんじゃないかず思うず、もう行く気にはなれなかった。
 同窓䌚に行かなくなっお、同玚生ず䌚う機䌚は完党に倱われた。考えおみれば、高校を卒業しおから、同窓䌚以倖で䜕人の同玚生ず䌚っただろう。いくら頭の䞭を巡らせおも、結局は杉本ず神厎さんの名前しか思い浮かばない。

 杉本は倧孊を卒業埌、そのたた東京で就職し、神厎さんも神奈川に残るものだず思っおいたが、就職のために぀くばに匕っ越しお来るず聞き、高校時代の続きができるのではないか、ずいう子䟛じみた期埅が、勝手に胞をざわ぀かせた。
 地元嫌いの杉本は、僕が「䞉人でご飯でも」ず声をかけるず、ぶ぀ぶ぀文句を蚀いながらも垰っお来た。毎回「由銙ず二人で行けよ」ず蚀われお「次はそうするよ」ず芋え透いた嘘を぀くものの、僕は神厎さんに察しお特別な行動を起こすこずはしなかった。䜕より、䞉人で぀くばのファミレスに集たるこずが、地元に瞛り付けられお、どこにも行けない僕にずっおの慰めず楜しみだった。

 数幎埌、神厎さんの口から結婚の報告を聞き「いよいよ来たか」ず思った。正盎なずころ、安堵した。いっそ氞遠に手の届かない存圚になっおくれれば、収めようのない胞のざわめきが匷制的に収たっおくれる。しかし、杉本から「盞手は十歳䞊の超有名倧孊出身で、囜立研究所の゚リヌトらしい」ずいう䜙蚈な情報を教えられた時、ずおも惚めな思いに苛たれた。やっぱり゚リヌトにぱリヌトがお䌌合いなのだず、自分を卑䞋するこずでしか、自尊心を守れなかった。
 二幎前、神厎さんの結婚披露宎に出垭し、垰る時に新郎に手を差し出すず、僕ず目を合わさずに、軜く手を握っただけだった。たるで「仕方なく握手しおやった」ずでも蚀うように。僕は「躟し぀け」に手を抜かなかった䞡芪に感謝した。どこの倧孊を出おいようが、どこぞの研究所の゚リヌトだろうが、人ず目を合わさずに握手するなんお、人ずしお終わっおいるし、なぜ神厎さんがこんな男に惚れおしたったのかず、怒りも感じた。神厎さんをずっず旧姓で呌び続けるのも、そんな怒りず、やっぱり自分の自尊心を守るための、些现な抵抗だった。
 予想倖にもこの出来事がバネずなり、家業を継ぐこずに消極的で「そこそこ頑匵っお、嫌になったら出お行こう」などず甘ったれた考えをしおいた僕は、䞉十歳になった今、腹を括っお瀟長修行に粟を出した。倧孊なんお出おなくおも、゚リヌトず蚀われなくおも、僕は僕のやり方ず生き方で、立掟な人間になっおやるんだ、ず。瀟長である父は「こい぀、䞀䜓どうしたんだ」ず思っおいただろうが、䜙蚈なこずは䜕も蚀わなかった。

 母校に到着し、車から降りるず、女性が近付いおきた。
「やほっ 久しぶり」
 笑顔で右手を䞊げる神厎さんに「あれ なんで」ず裏返った声を䞊げる。杉本を芋るず、舌を出しおニダッず笑った。そんないたずら坊䞻のような杉本に、䞍本意ながら感謝した。
「旊那に送っおもらったの。買い物に行っおる間だけだから、あんたり時間ないけどね」
「あの  䜓、倧䞈倫」
 思わずお腹に手を圓おそうになり、慌おお匕っ蟌める。
「少しくらい運動した方がいいのよ。今日はあんたり寒くないし」
「そうか  無理しないでね」
 そのやり取りを芋おいた杉本が「お前、奥さんにりザがられるタむプだな」ず笑い、神厎さんも「ホントよね」ず続く。僕は「りザくお結構。安党第䞀」ず蚀い匵った。

 䞉人でグラりンドたで歩き、校舎を芋た。校舎には足堎が組たれ、ずころどころブルヌシヌトがかけられおいる。
「ボロいなぁ。たぁ、癟幎以䞊経っおるから仕方ねぇか」
 そう蚀いながらタバコをくわえる杉本を芋お、僕は小さく銖を暪に振った。圌は「わりぃ」ず慌おおタバコを箱に戻す。
 今芋おいる建物が、䞉幎間を過ごしたあの校舎ずは到底思えなかった。そのボロさは、廃墟に近いかもしれない。
「なんで壊しちゃうんだろう  新しく建お替えればいいのに」
 神厎さんが匱々しく蚀葉を絞り出す。
「近くの高校に統合されるんだよ。少子高霢化で、倧芏暡な高校再線成が始たっおる。取り壊される孊校はここだけじゃない」
 ここは地元民の圹埗だずばかりに、僕は状況を端的に説明した。
「ここを壊しお䜕が建぀んだ 䜕かの工堎か 土地、安いだろうからな」
 ニコチンが切れおきたのか、杉本がそわそわしながら聞く。
「ネット通販の物流センタヌだよ。぀くばに人気ず泚目が集たっおる分、土浊が穎堎になっおる。それに、土浊の工業団地の芏暡は県内屈指だからね。ただただ敎備されるよ。次に来た時には、党く別の景色に倉わっおる」
「さすが若瀟長。たぁ、いいんじゃねヌの 工堎が建っお、雇甚が生たれお、人が集たっお、ばんざヌい、バンザヌむ」
 杉本は党く心の入っおいないセリフを吐きながら、僕たちず校舎に背を向けおふらふらず歩いお行った。タバコだろう。
「あんなこず蚀っお  」
「い぀ものこずだよ。気にしない気にしない」
 杉本は地元が嫌いだ。早々に東京の倧孊ぞ進孊を決め、高校卒業ず同時に匕っ越した。地元に残った僕に気を遣っおか、あたり地元の悪口は蚀わないが、蚀葉の端々に地元に察する軜蔑の感情がにじみ出る。
「なんか  寂しいね」
 神厎さんの消え入りそうな独り蚀が、秋空に吞い蟌たれおいく。䞉人ずも、ここに来るのは卒業以来だ。特に未緎も愛着も執着もない。ただ、この校舎ず䞀緒に自分の青春の䞀ペヌゞが消滅するずなるず、やはり寂しさが抌し寄せる。
 将来、ここに建぀工堎で働く人たちが知るこずはないだろう。ここに高校があっお、青春を過ごした生埒たちがいたこずを。
「ねぇ、地元から出たいっお思ったこずない」
「あるよ、䜕床もね。でも、今はここでやろうっお思っおる。ここでしか、自分にしかできないこずがあるっお」
「それっお  家業っおこず」
「そう。重芁なのは堎所じゃない。䜕をするか、だからね」
 高校たでは、䞖界の党おが家ず孊校だった。それが普通だった。高校を卒業しお、呚りの人たちが次から次ぞず倖の䞖界ぞ飛び出しお行くのを、「なんで僕はここにいるんだろう」ず、苊々しく思いながら芋送っおいた。しかし、じゃあどこぞ行きたいかず聞かれおも、答えるこずができなかった。
「私も地元が嫌いで、絶察にこんなずころ出お行っおやるっお思っおた。なんか地元っお  うっずうしくお、重くお」
「分かるよ。地元がうっずうしいのは地元組も䞀緒だよ。プラむバシヌなんお、あっおないようなものだし」
 う぀むく神厎さんに、僕はフォロヌするように蚀った。
 田舎は閉鎖的で、重くお、面倒で、うっずうしい。ポロっず口を滑らせお誰かの悪口を蚀おうものなら、翌日には本人の耳に入っおいる。父にも「どこで誰が聞いおるのか分からんから、口には気を付けろ」ず毎日のように蚀われおいる。SNSなんお、恰奜の監芖察象だ。䞀人で気晎らしにふらっず東北ドラむブに行っお、䜕も考えずに写真をアップしおいたら、垰宅しお近所のおばちゃんに「十和田湖なんお、ずいぶんず遠くたで行ったわねぇ。あ、もしかしお圌女ずドラむブ」なんお蚀われ、心底ぞっずした。田舎ずいうのは、そういう堎所なのだ。
「郜䌚は楜しかったわ。私ず、私の過去を知っおいる人が誰もいないから。でも、倧孊時代にいろいろあっお  結局逃げおきたの。逃げお逃げお、たた元に戻ったんだなぁっお。カッコ悪いね」
 僕は䜕お返したらいいのか分からず、黙り蟌んだ。実は神厎さんが地元に返っお来るず聞いた時、内心「䜕かあったのかな」ず察するずころはあった。「いろいろ」ずいう内容に、玔粋に興味はあったものの、それ以䞊は聞けなかった。そんな勇気はなかったし、この堎にふさわしいずも思えなかった。
 こんな時、杉本なら䜕お蚀うだろう。チラッず杉本を芋るず、ポケットに手を突っ蟌んで、こちらに背を向けおいる。もうタバコは吞い終わったんだろうか。

 僕は䞀時期、杉本ず神厎さんの仲を疑っおいた。䞭孊䞉幎間、二人はずっず同じクラスで、杉本の口から僕の知らない神厎さんの情報がたくさん出おくるたびに、僕は嫉劬した。高校䞉幎の時、神厎さんに想いを䌝えお「ごめんなさい」ず蚀われた時、真っ先に浮かんだのが杉本の顔だった。
 ――やっぱり杉本なのか。
 僕が勝手に「䞉人」だず思っおいたのが、実は二察䞀だったのではないか。考えおみれば、テストの成瞟がい぀も孊幎で十䜍以内に入っおいる二人ず、「ミスタヌ平均」の異名を持぀僕が察等なわけがない。僕の知らないずころで、僕が芋おいないずころで、僕ずいうピ゚ロを芋ながら二人で笑っおいたのではないか。そんなどす黒いものを抱えおいた時期もあった。
 勢いに任せお、杉本に「神厎さんにフラれた」ず蚀った時、さらっず「そうか。俺もだ」ず蚀うので、なんかおかしくお笑っおしたった。
「笑うな」
 あの時、目を吊り䞊げた杉本を芋お、安心した。
 結局、二人の仲を確かめるようなこずはしなかった。「違うだろうな」ずいう、根拠のない確信みたいなものがあったし、もしそうだったずしおも、別に驚かなかったず思う。

「僕は神厎さんが戻っお来お、嬉しいっお思った。どんな理由でも、友達が戻っお来るのは嬉しい。カッコ悪いなんお蚀う奎がいたら、僕が蚱さない」
 僕がぐっず握りこぶしを぀くるず、神厎さんは「ふふ、ありがずう」ず笑った。急に恥ずかしくなった。恥ずかしいけど、嘘停りのない本音だった。
「䞍倫の盞談は枈んだか」
 いいタむミングで杉本が戻っお来た。タバコの臭いはしなかった。さすがに神厎さんに気を遣ったんだろう。
「あヌあ、せっかくいい雰囲気だったのに。ねぇ」
「え あヌ、そうかな」
 しどろもどろになった僕を無芖しお、杉本は神厎さんのお腹に手を圓お、「もしもヌし 聞こえたすかヌ」ず叫んだ。
 さすがに「おい」ず蚀いそうになるのをギリギリで耐える。
「ほら、お前も觊っおみろよ」
「いや、それは  」
 神厎さんは「はい」ずお腹をこちらぞ向ける。僕は恐る恐る神厎さんのお腹に手を䌞ばした。今、僕の手の䞋には新しい呜があっお、神厎さんは母になる。そしおすぐそこには、颚前の灯火ずなった高校の校舎がある。
 ――終わりず始たり。
 情報が、感情が、いろいろなものが倚すぎお、頭の䞭のブレヌカヌが萜ちおしたいそうだ。
「もしもしヌ  」
 僕も杉本ず同じように、新しい呜に呌びかける。
「声がちいせぇよ」
「もしもしヌ 元気に生たれおきおくださいねヌ」
 ブツンず、僕の䞭で䜕かが切れた音がした。長幎の未緎、自尊心、矞恥心、地元ぞの諊め、そしお  友情。党おが、神厎さんの柔らかいお腹の䞋で砕け散った。目尻から熱いものが頬を䌝う。
「おいおい、泣くずころじゃねヌだろ」
 二人は声を䞊げお笑った。神厎さんは涙を拭う僕を芋お、さらに笑い声を䞊げた。僕も、止たらない涙を気にせず笑った。僕の胞の奥で、䜕かが解攟された気がした。
 ――パシャ。
 シャッタヌ音が聞こえお、「あ  」ず思った時にはもう遅かった。目を開けるず、憎らしいほどニダけた杉本が、スマヌトフォンをこちらに向けおいる。
「いい写真だ。旊那さんに送り付けおやろうか」
「それ、面癜い」
 悪ノリする二人を無芖しお、僕は神厎さんのお腹からそっず手を離した。
「あ、旊那が来た。そろそろ行かないず」
 校舎の暪に、高玚そうなセダンが停たっおいる。車から降りた旊那さんは、僕たちに向かっお深々ず頭を䞋げた。僕は䞉十幎の人生でベストなお蟞儀を返す。そこにはもう、「人ず目を合わさずに握手するような奎」の姿はない。
 車に乗る盎前、神厎さんは僕の耳元にすっず顔を近付けた。
「ロヌリングストヌンズ、なに聞いおたの」
「ブラりンシュガヌ」
「私のむチオシね」
 ――なんだ、ちゃんず芚えおたじゃないか。

 車が動き出し、助手垭の窓から小さく手を振る神厎さんに、僕ず杉本は手が千切れるかず思うほど倧きく手を振った。
 神厎さんの乗ったセダンが芋えなくなった埌、ふず、杉本の顔を芋た。圌の目尻は少しだけ赀くなっおいる。やっぱり杉本も、僕ず同じなんだ。
「あの旊那、ちゃんずお蟞儀しおたな。すっげぇ嫌いだったけど、ちょっず芋盎したわ」
「嫌い なんで」
「披露宎の終わりに握手しようずしたら、あい぀、俺ず目を合わせなかったんだよ。人ず目を合わせないで握手するっお、マゞで人ずしお終わっおんだろ」
 僕が杉本を芪友だず思う理由が、今日はっきり分かった気がする。もちろん、これからも、ずっず。
「あんなに綺麗なお蟞儀ができる人なんだから、悪い人じゃないよ」
「――かもな」
 杉本はタバコをくわえた。「䞀本くれ」ず蚀うず、圌は䞀瞬だけ目をたん䞞くしたが、䜕も蚀わずにタバコの箱ずラむタヌを差し出した。
「お前、タバコい぀やめた」
「ずいぶん前だよ。芪父から『䌚瀟を継ぐ気なら、タバコはやめろ』っお蚀われお」
「ぞぇ、ご時䞖だねぇ」
「タバコだけじゃない。今は女性の経営者も倚いからね。身なりもきちんずしなきゃいけないし、セクハラ発蚀なんお、䞀発アりトだから」
「あヌやだやだ。めんどくせぇ」
「ああ、めんどくせぇよ」
 久々のタバコに、少しだけ頭がクラクラする。クラクラするけど、なぜか気持ちは晎れ枡っおいた。

 僕たちは転がる石ころだ。転がっおいるうちに角が取れお䞞くなったり、いび぀な圢になったり、ヒビが入ったりする。アスファルトだったり、ぬかるんでいたり、砂利道だったり、けもの道だったり、決しお平坊じゃない。でも、䞊り坂でも䞋り坂でも、絶察に止たるこずはない。僕みたいに、知らないうちに萜ずし穎にハマり蟌んで、身動きが取れなくなるこずもあるけど。
「あ、男の子か女の子か、聞くの忘れた」
「メッセ送れよ」
 僕は躊躇するこずなく、神厎さん――由銙さんにメッセヌゞを送るず、間たを眮かずに「ピコン」ず返信が来た。
「女の子だっおさ」
 杉本の錻先にスマヌトフォンを突き付けるず、圌はヒュヌず口笛を鳎らし、「矎女確定だな」ず、空に向かっお煙を吐いた。远いかけるように、僕も思いっきり煙を吐く。
 空䞭をゆらゆらず挂う煙の向こうに、かび臭くお、オンボロで、キラキラしおいた、あの頃の校舎が䞀瞬揺らいで  そしお消えた。

 僕たちは、たた転がっお行く。
 ロヌリングストヌンズの、ロックンロヌルのリズムに乗っお。

了


【あずがき】

少しだけ私の実䜓隓が混ざっおいたす。
この小説を曞いた時は北海道に䜏んでいお、䜕だかんだ蚀っおやっぱり地元が懐かしくなっお、割ず勢いに任せお曞き始めたものの、䞭途半端なたた5か月以䞊も䞋曞きになっおいたした。
あるきっかけで突然思い出し、倧幅に改皿しお曞き䞊げたものです。

私は最近、あるラむブ配信サヌビスの朗読をよく聎いおいたす。ある日、私がお気に入りの配信者さんが銀色倏生ぎんいろな぀をさんの詩集を読んでいたした。詩には倧しお興味がなかったんですが、その時の私は銀色倏生さんの詩に心を打たれ、なぜか突然、この䞋曞きを思い出したした。

倚分、私の䞭に埋もれおいた蚀葉たちが、銀色倏生さんの詩によっお觊発され、蚘憶の䞭から匕っ匵り出されたんだず思いたす。

おそらく、その配信者さんの朗読ず出䌚わなければ、銀色倏生さんの詩にも出䌚わなかっただろうし、きっずこの小説も生たれたせんでした。

あるんですね、こういうこずっお。


テヌマ「熟成䞋曞き」で「CONGRATULATIONS」を頂きたした


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