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昭和のショヌトショヌト 遠い花火

 遠くで、打ち䞊げ花火がはじける音がする。曟祖母を背負った早坂博康は、転ばないように慎重に足を運んだ。月明かりがあるずいっおも、朚々に囲たれた倜道は暗かった。
 家の裏道を栗林ぞ向かう。倧きな栗の朚は、少しの颚でもザワザワず揺れ、圱を濃くする。湧き氎が流れる小川の、现い板切れの橋を枡るず䞊り坂だ。
 月の末、䞭空知のこの村にも倏らしい暑さが蚪れた。䟋幎、この数日だけが、川遊びをしおも鳥肌が立たない北囜の真倏だ。月が明けるず颚の気配は秋になり、むルムケップ山から流れおくる氎は冷たさを増しおくる。
「ひろ、倧䞈倫か」
 曟祖母のかちの声がした。
「おばあ様、この林を通り抜けお、隣の田んがの畊道を過ぎれば花火が芋えるはずです」
 かちは、重くはなかった。歳の博康にずっおは、スキヌ授業の荷物よりよっぜど軜く感じられた。
「すたんのう、我儘いっお」
「僕も芋たかったから、ちょうどよかったのです」
 博康は声倉わりの最䞭で、喉に匕っかかる様な掠れ声で返事をする。
 ボタンの花柄の、銘仙の倏掛けをかちに回しかけお負ぶっおいた。
 早坂家はこの寒村の䞭では、裕犏な暮らしのほうだ。曟祖母のかちに぀いおは、実母が内地、東北地方の䌊達藩ゆかりの豪蟲の嚘だったこず。母芪が早くに亡くなったあず、埌劻に疎たれ、歳の時油問屋の早坂家ぞ嫁いだずいうこず。仙台の倧火で二床焌きだされ、䞀族で、この地ぞ枡っおきたずいうこずなど、倧たかなこずしか聞かされおいない。
「おばあ様、もう少しですよ」
 博康は、隣家の田の畊道に入った時、かちに䌝えた。

 かちは膵臓がんだ。小暑のころ、病院を受蚺した時には既に手の斜しようがなくなっおいた。医垫はなぜもっず早く受蚺しなかったのか、ず家族に問うたが、かちの勝気が灜いしおか、本人が䟿所に立おなくなるたで、家族は䜕も知らなかったし、気づいおもいなかった。
 早く受蚺したずしおも、それだけ入院生掻が長くなるだけの話だず、かちは自分の病の行く末を承知しおいた。蚺断が䞋っおからも、入院せず自宅にいるず、意を通した。
 この数日は食事もたたならず、芋るからにやせ现っおきおいる。昚日、博康を寝宀ぞ呌んだ。
 かちは寝具から抜け出し、瞁偎にちょこんず座り日向がっこをしおいた。
 幌い子どもかず思うほど小さな姿だった。
「ばばの頌みをきいおくれんか」
「なんですか」
「明日の花火を芋たいちゃ」
 どうしお、ず蚊きそうになっお、博康は口を぀ぐんだ。い぀も、かちが䜕か云う時は、決定事項を䌝えるだけだずいうのもあるが、䜕か手䌝いをすれば、倚めの小遣いをくれるのは魅力だった。
 幌い時は、䞡芪ず空知川沿いで開かれる花火倧䌚ぞ䜕床もいった。䞭孊ぞ入っおからは博康が、家族ず行くのを避けおいたが、かちず行った蚘憶はない。博康が物心぀いおから、かちが花火倧䌚ぞ行ったこずも行きたいず蚀ったこずもないのではないかず気づく。
 曟祖母の䞖話は、䞋働きの小女がしおいた。小女は、かちの倕选を準備するず自宅ぞ垰っおしたう。
 父も母も村䌚の仕事や蟲䜜業に忙しく、かちの望みをかなえるのは博康しかいなかった。
 倏䌑み䞭、博康は独りで過ごすこずが倚い。この村で産たれたのだが同玚生等ずは幌い時から銎染めず、友人ず呌べる盞手はいない。
 小孊の䜎孊幎の頃、かちを『おばあ様』ず呌んで玚友にからかわれたこずが原因だろうか。家族党員が『おばあ様』ず呌んでいたが、䞖間の祖母等は、『ばあば』か『ばあちゃん』あるいは『おばあちゃん』ず呌ばれおいた。
 指摘されお、幌いころから䜿っおいた呌び名に違和感を芚えたが、呌び方を倉えるより、同玚生ず過ごさない方を遞んだ。家の掟のほうが匷力だったのかもしれない。
「街たで行くの」
「いや、その蟺から芋えないか」
「隣の家だったらはここより高いし、少しは芋えるず思うけど」
 博康は自信がなかった。
「ちょっずいっおみるちゃ」
 父母は村䌚の奉仕掻動があり、倏祭りの䌚堎ぞ行っお䞍圚になる。皆には内緒にするず玄束させられた。
 小遣いを匟んでくれるずいうだけで、匕き受けたわけでもない。「頌む」ず蚀ったかちの県は少女のように柄んでいお、少しばかり元気になったように芋え、断れなかった。

 南東の空が䞀瞬明るくなっお、くぐもった花火の音がする。畊道が終わり颚よけの林を抜けるず、隣家の生掻道路に出た。
 砂利道を枡っお、庭のぞりの生垣に沿っお進む。時々隣家ぞ目をやる。垣根の隙間から窓の明かりは芋えおいるが人の気配はしない。二階から花火を芋おいたずしおも、生垣のむボタノキの现かい葉叢が目隠しになっおくれるはずだ。
 花火の音がする前に、町の方角が明るくなるが、ただ姿を芋せおはいない。にぎやかな虫の声が博康の歩みに合わせお止たり、通り過ぎるず始たる。
「おばあ様、芋えたした」
 生垣の端から、遥か遠く䞘を切り蟌んで䜜った囜道の䞊に、倧茪の花火が扇型に芋えた。遅れお音が来る。
 かちに芋えるよう、䜓を斜めにしお次の花火を埅぀。
「おばあ様、䞘の右偎にみえたすからね」
 花火が䞊った。青、朱色、癜色ず茝きは倉化し、消えお黒い闇ず煙が残る。
「ひろ、芋えたっちゃ。ここの花火をはじめおみたっちゃ」
 かちの、はしゃいだ声が聞こえる。
「はじめおなの。おばあ様」
「小さい時、仙台の花火は芋たよ。ここぞ来おからは、今日がはじめおだちゃ。䞀床は芋たいず思っおいたっちゃ」
 なぜ今たで芋に行かなかったのか、ずは聞かなかった。かちの気䞈さの䜕かが行かせなかったかもしれないずがんやり思った。しかし、初めおならそのたたの倧茪を芋せたかった。
「おばあ様、来幎は僕が䌚堎ぞ連れお行くよ。倧きいのを芋せるよ」
「これで充分。満足だちゃ」
 かちは花火が䞊がる床に、声をあげた。

いいなず思ったら応揎しよう