メインコンテンツへスキップ
見出し画像

花びらの落ち方が、変わった日 | #シロクマ文芸部

    しゅうび

    花びらを、頭の上に落とされた。

    「ついてるよ」

    指先が、そっと触れる。
    軽く払われて、花びらは落ちる。

    そのたびに、
    少しだけ近くなる距離。

    春のあいだ、何度も繰り返した。

    肩に落ちても、
    髪に絡んでも、

    キミは必ず気づいて、
    何も言わずに取ってくれた。

    その一瞬だけ、
    世界が、ちゃんとこちらを向く。

    やがて、
    花びらが落ちる前に、
    キミの気配でわかるようになった。

    ──また、取ってくれる。

    それが、
    当たり前になった頃。

    少しずつ、
    タイミングがずれ始めた。

    気づくのが遅くなる。
    手が、伸びてこないことがある。

    落ちたままの花びらを、
    自分で払う回数が増えた。

    何も言わないのは、
    変わらないはずなのに、

    意味だけが、変わっていく。

    冬の終わり。

    久しぶりの風。

    見上げた瞬間、
    枝の向こうから、花びらが一枚、落ちてきた。

    今度は、
    誰も気づかない。

    触れる手も、
    声も、ない。

    そのまま、
    頬に触れて、落ちる。

    私は、払わなかった。

    代わりに、
    少しだけ、顔を上げる。

    視界いっぱいに、
    遅れてきた桜が舞っていた。

    ひとつじゃない。
    数えきれないほど。

    落ちてくる。
    落ちてくる。

    止まらない。

    目を閉じない。

    こぼれないように、
    ただ、上を向く。

    もう、
    取ってくれる人はいない。

    だから、

    花びらが落ちているだけだ。



     
     
     
    ことばの奥の揺らぎを、 構造として掬い上げる文章を書いています。 迷いのかたちを可視化する試みとして、 《タロット風心理》を綴っています。

    あなたへのおすすめ