「その服素敵ですね」より嬉しかった言葉
昔、
お気に入りの服を着て出かけた日がありました。
新しく買った服ではありません。
何度も洗って、
少し柔らかくなったシャツ。
いつものパンツ。
履き慣れた靴。
自分では、
特別おしゃれをしたつもりもありませんでした。
その日、
知り合いに会いました。
そして、
こう言われました。
「なんか今日、あなたらしくていいね。」
不思議でした。
「その服、素敵ですね」
ではなかった。
「おしゃれですね」
でもなかった。
「あなたらしい。」
その一言が、
なぜかとても嬉しかったのです。
若い頃、
服を褒められることが嬉しかった。
「その服かわいいね。」
「どこで買ったの?」
そう言われると、
自分まで褒めてもらったような気がしました。
だから、
人から褒められそうな服を探したこともあります。
流行っている服。
少し目立つ服。
雑誌に載っていた服。
でも、
歳を重ねると、
少しずつ気持ちが変わってきます。
服だけを褒められるより、
その服を着ている自分ごと、
自然に見てもらえる方が嬉しい。
白いシャツ。
ゆったりしたパンツ。
柔らかなニット。
何年も使っているバッグ。
一つひとつは、
決して特別ではありません。
でも、
その人が着ると、
「あの人らしいな」
と思う。
そんな服があります。
考えてみれば、
本当に素敵な人の服を、
細かく覚えていないことがあります。
「何色のシャツだった?」
「どこのブランドだった?」
そう聞かれても、
分からない。
でも、
その人が素敵だったことは覚えている。
笑った顔。
話し方。
歩き方。
その場の雰囲気。
服は、
その人より前に出ていなかった。
ただ、
静かにその人を引き立てていた。
もしかすると、
それが本当に似合っているということなのかもしれません。
40代、50代、60代。
服を着てきた時間が長くなると、
いろいろな失敗もします。
買ったけれど、
ほとんど着なかった服。
流行っていたけれど、
落ち着かなかった服。
素敵だと思ったけれど、
自分ではなかった服。
そんな経験を繰り返して、
少しずつ分かってきます。
自分が落ち着く色。
好きな素材。
身体がラクな形。
自然に手が伸びる服。
それは、
誰かに決めてもらった「似合う」ではありません。
何十年もかけて見つけた、
自分だけの「らしさ」。
日曜日。
誰かと会う人もいれば、
家でゆっくり過ごす人もいるでしょう。
今日、
服を選ぶとき、
「おしゃれに見えるかな」
ではなく、
一度だけ、
こう考えてみる。
「これ、私らしいかな。」
答えが「うん」なら、
きっとそれでいい。
流行っていなくてもいい。
若く見えなくてもいい。
ブランド物でなくてもいい。
鏡の中にいる自分が、
なんとなく自然に見える。
それだけで十分です。
服は、
人を別人にするものではありません。
その人が持っているものを、
少しだけ引き出してくれるもの。
優しい人なら、
その優しさを。
よく笑う人なら、
その笑顔を。
静かな人なら、
その落ち着きを。
服が主役ではなく、
着ている人が主役。
歳を重ねた今だからこそ、
そんなおしゃれを楽しみたいと思います。
いつか誰かに、
「その服素敵ですね」ではなく、
「なんだか、あなたらしくて素敵ですね。」
そう言ってもらえたら、
きっと最高のおしゃれです。
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