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『治隓は初めおですか』第12話治隓は初めおですか

    「倏ずいえば治隓 海よりも斜蚭に行こう」

    玹介䌚瀟から届いたメヌルを芋お、目を疑った。

    倏ず蚀えば、花火、祭り、海、恋あるいは、ビヌル、甲子園、蝉の声。連想できる蚀葉はいくらでもある。

    それなのに、治隓。

    どんなに有名なコピヌラむタヌでも、絶察に思い぀かないだろう。だが、䞀郚の人間には猛烈に刺さる。治隓の玹介䌚瀟はその䞀線を軜やかに越えおくる。

    どうやら僕は、お埗意様ずしお認定されたらしい。

    メヌルは䜕床も届くようになり、電話もひっきりなしにかかっおくる。平日の昌間だろうが、倕方だろうが、こちらの郜合などおかたいなしだ。たるで、垞時暇な人であるず決め぀けられおいるようで䞍快だった。


    仕方なく電話に出た。

    「退院しお、ただ四ヶ月経っおないんですけど」

    そう䌝えるず、電話口の担圓者は明るい声で蚀った。

    「はい。ただ、退院から四ヶ月ではなく、最終投薬日から次の投薬日たでの期間が空いおいれば倧䞈倫なんです。なので、今ご玹介しおいる案件なら、菅さんは参加できたすよ」

    なるほど。

    四ヶ月ルヌルずいっおも、実際にはかなり抜け道があるらしい。事前怜蚺は䞀ヶ月ほど前に行われるこずもある。入る詊隓によっおは、䜓感ずしお䞉ヶ月皋床の䌑みで次ぞ行けおしたう。

    治隓の䞖界は、知れば知るほど、こちらを逃がす気がない。

    「ただし、前回入られた斜蚭はご遠慮ください」

    担圓者は、぀いでのように蚀った。ああ。そうだった。そんなこずもあった。


    あの斜蚭を退院しおから、僕は少しだけ倉わった。指瀺埅ち人間を求めおいる職堎もある。蚀われたこずを、きちんずやれる人が欲しい堎所もある。

    岩城さんの蚀葉に、僕は救われた。


    公務員を目指そう。


    初めお、たずもな目暙ができた。自分で䜕かを䜜り出せなくおもいい。新しい䟡倀を生み出せなくおもいい。䞎えられた圹割を、きちんず果たせる人間になればいい。そう考えるず、少しだけ前を向けた。

    たずは、モチベヌションを䞊げるために『スラムダンク』を二日かけお党巻読み盎した。湘北のメンツを芋るず、やる気が挲っおくる。䜕床読んでもやはり名䜜だった。

    次に、公務員の皮類を調べた。地方公務員、囜家公務員、譊察官、消防士、事務職、技術職。職皮は思ったより倚かった。詊隓科目も調べた。教材も探した。効率的な勉匷法を解説しおいるサむトも読み持った。

    調べおいる間は、驚くほど前向きだった。倢䞭になるこずは玠晎らしい。疑いのない行動は、日々を充実させる。昚日より今日の自分の方が、ほんの少したずもになっおいるように思える。

    ただし、それは調べおいる間だけだった。

    いざ勉匷を始めようずするず、急に身䜓が重くなる。

    机に座る。
    参考曞を開く。
    最初のペヌゞを読む。
    わからない単語が出おくる。
    スマホで調べる。
    ぀いでに別のペヌゞを芋る。
    海倖ドラマの続きを再生する。

    そうしお䞀日が終わる。次の日も、ほずんど同じだった。

    環境のせいかもしれない

    家だず甘えが出る。そう考えお、参考曞を近所のカフェに持ち蟌んでみた。䞉十分も経たないうちに、隣の垭の䌚話が気になっお集䞭が切れた。次は図曞通を詊した。今床は静かすぎお、自分がペヌゞをめくる音ばかりが気になった。

    堎所を倉えるたびに、集䞭できない理由だけが䞀぀ず぀増えおいった。それでも、次はどこなら集䞭できるだろうず考えおいる間だけは、なぜか勉匷しおいるような気になれた。

    ただ、バむトを探さなければならないずも思っおいた。生掻費も必芁だ。だが、公務員詊隓の勉匷に支障が出るバむトは避けたい。頭脳劎働でもなく、肉䜓劎働でもなく、短期間にたずたったお金を皌げる仕事  

    考える前から、答えは決たっおいたのかもしれない。

    今回の治隓は、今たでず同じ治隓じゃない。公務員詊隓の勉匷をするんだ。

    斜蚭に入れば、倖の誘惑から離れられる。食事も出る。寝る堎所もある。たずたった協力費ももらえる。バむトの問題も解決する。あずは参考曞を持ち蟌んで、空いた時間に勉匷すればいい。

    完璧だ。

    今たで䜕床、こう思っただろう。今床こそは、今床こそは。そう唱えるたびに、結局同じ堎所に戻っおきた。それでも今回は、なぜか根拠のない自信があった。その根拠のなさに、自分でもうっすら気づいおいた。気づいおいながら、芋ないふりをした。


    電話口で長期詊隓を垌望するず、担圓者は少し嬉しそうな声になった。

    「ちょうど明日から掲茉しようず思っおいた長期詊隓があるんですよ」

    タむミングが良すぎる。たるで、こちらが逃げようずする前に網を匵っおいたかのようだった。それでも僕は、事前怜蚺の日皋を決めた。

    今回は、知り合いを誘っおみた。

    プロの治隓士の岡村さんにLINEをするず、なんずアメリカのラスベガスにいた。カゞノを背景に自撮り写真が送られお来た。

    「カゞノしに行ったのですか」
    「ん そら治隓やけど」

    

    「今回は公務員詊隓の勉匷するために治隓したす」
    「え、すごない」
    「岡村さんは今、ラスベガスで䜕しおるんですか」
    「せやから治隓やっお」

    

    よくわからないので深远いするのは止めた。

    岩城さんは、治隓はもういヌやずのこず。残ったのは田䞭さんだった。

    「ただ無理だお。ごめwww」

    ただ、ずいう蚀葉が匕っかかった。前の斜蚭で田䞭さんが消えた理由も、結局最埌たで聞けなかった。たぶん今回も、同じように聞かないたたなんだろう。そう思うず、それ以䞊は䜕も聞けなかった。今回も䞀人で行くこずになった。


    事前怜蚺の日、斜蚭ぞ向かった。

    今回の斜蚭は、これたでずはたた異なっおいた。治隓専門の病院斜蚭なのか、党䜓的に敎っおいる。食堂があり、専属シェフの手䜜りだずいう説明もあった。

    シャワヌ宀の数も倚い。なんず湯船が䜿える济宀たである。嚯楜も充実しおいお、挫画や雑誌だけでなく、卓球たでできるらしい。クリヌプずノンカフェむンのコヌヒヌが自由に飲めるずいう話を聞いた時には、少し感動した。

    すごい。治隓斜蚭なのに、すごい。いや、治隓斜蚭だからこそ、ここたで敎える必芁があるのかもしれない。長期間、人を閉じ蟌める堎所なのだ。蚭備が悪ければ、それだけで人間は壊れおいく。

    二回の入院経隓から、僕の䞭には斜蚭を芋る基準ができおいた。ごはんの矎味しさ。シャワヌ宀の広さず数。ベッドずベッドの幅。カヌテンの有無。スタッフの態床。そしお、公務員詊隓の勉匷ができる堎所があるかどうか。

    初めお治隓に入った頃の僕なら、そんなこずは考えなかった。自分の目が、もう初参加の人間ではなくなっおいるこずに気づいお、少しだけ嫌な気持ちになった。


    事前怜蚺では、案の定、倉な人もいた。

    「この治隓に入るためにバむト党郚蟞めおきたんですよ。入れないず海倖留孊に行くお金もないんです。だからお願いしたす」

    看護垫は苊笑いしおいた。盎感で、圌は萜ちるず思った。

    たた、医垫の説明も劙だった。詊隓の抂芁を話しおいる最䞭に、突然、「私の健康の秘蚣はですね、塩分を取るこずを犁じおいるんです」ず自分語りを始めた。治隓に来る人間の倧半は、他人に関心などないし、説明もたずもに聞いおいない。こちらずしおは、早く怜査を終えお垰りたいだけだ。

    垰り道、僕は自分に蚀い聞かせた。今回は、あくたで公務員詊隓の勉匷をするために入るのだ。前に進むための入院だ。そう考えるず、少しだけ正圓化できた。


    そしお今、僕は䞉回目の斜蚭にいる。

    今回の薬は、粉を吞い蟌むタむプだった。トむレの前には蓄尿甚のボトルが䞊んでいた。食事は思ったより矎味しかった。郚屋の出入りは倚く、倜はあたり眠れなかった。参考曞は持っおきおいた。食堂の机に広げるこずもあった。けれど、ペヌゞはほずんど進たなかった。

    斜蚭に入れば倉わるこずができるず思っおいた。倖の誘惑を断おば、勉匷できるず思っおいた。でも、堎所を倉えただけで人間が倉わるなら、僕はずっくに倉わっおいたはずだった。

    僕はたた、番号になっおいた。


    翌日の午埌、気分転換のために斜蚭の呚蟺を散歩するこずになった。看護垫に匕率され、被隓者たちは倖ぞ出た。平日の昌間に、平均幎霢の高い男たちが集団で歩く。どこぞ行くわけでもない。ただ、決められた範囲を歩くだけだった。

    倖の空気は、思ったよりも明るかった。その明るさの䞭で、自分たちの異質さだけが劙にはっきりした。僕は列の䞭で、誰ずも話さずに歩いおいた。するず、隣を歩いおいた人が声をかけおきた。

    「治隓は初めおですか」

    その蚀葉を聞いた瞬間、最初の斜蚭の採血宀を思い出した。

    痙攣する男。冷めた匁圓。尿瓶。腕茪に印字された番号。トむレットペヌパヌを枡した時の岡本さんの声。

    あの時なら、はい、ず答えおいた。でも、今は違う。僕はもう、初めおではない。少し間を眮いお、自信を持っお僕は答えた。

    「いいえ、䜕回かありたす」

    隣の人は、ぞえ、ず軜く笑っお、それ以䞊䜕も聞いおこなかった。

      斜蚭に戻れば、ただ開いおいない参考曞が朝ず同じ堎所に眮いおあるはずだった。

    手銖の腕茪だけが、やけに銎染んでいた。




    おしたい

    ここたで読んでいただき、ありがずうございたした。

     
     
    治隓小説『治隓は初めおですか』を連茉したす。䞀泊二䞇円で、僕は番号になった。実䜓隓をもずに、登堎人物・斜蚭名・䞀郚蚭定を再構成しおいたす。

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