
バーベキューと小鳥ちゃん
夕暮れ色に染まりはじめた屋上で、
熱を帯びた鉄板の向こうには、ビルの影がゆらゆらと揺れていた。
「いくわよ♡」
ウサギはトングをくるりと回しながら、
鉄板の上へお肉を並べていく。ふりかけた胡椒の香りがそっと風に混じっていく。
そのとき──
「お待たせ」
ふわりと白い羽が舞い降りた。
小鳥ちゃんは、
さも当然とでもいうように、ウサギの正面に腰を下ろした。
「絶対お肉の匂いで来たよね?」
「偶然よ」
それより……と、
小鳥ちゃんは羽根をひと振りすると、小さな瞳で鉄板をのぞき込んだ。
「もう焼けたかしら?」
「まだ、置いたばかりよ」
「ねえ、裏返した方がいいんじゃない?」
「まだだって」
「焦げたら食べられないわ」
「自分で焼く?」
「焼かない」
「焼かれるのはもっとイヤ」
小鳥ちゃんは、
羽根をぴくりとも動かさない。
「そのエビ、もう少し端にして」
「え?」
「そこ、火が強そう」
「そうなの?」
「知らない」
「わたしに聞かないで」
小鳥ちゃんは、
エプロンを付けるのに忙しそうだ。
ウサギは小さく肩をすくめて、
エビを端に寄せた。

香ばしい匂いが、
夏の風に乗って広がっていく。
「はい、お待たせ」
大きいほうをお皿へ乗せてあげたのに、
小鳥ちゃんはなぜか不服そうだ。
「乾杯がまだよ」
「え?」
「……どうしてもっていうなら、
してあげようと思って」
「……本当にしてくれるの?」
「ただのファンサよ」
少しだけ面倒なふりをして、
小鳥ちゃんは素早くジャスミンティーのグラスを手に取った。
「「カンパイ♡」」
グラスが小さく触れ合った。
その澄んだ音は、夕焼け色の空へふわりと飛んでいった。
ウサギが、
パプリカをトングでつかもうとすると、小鳥ちゃんは自分のお皿をさっと隠した。
「……それ、あなたにあげるわ」
「だからホタテはふたつにして」

おしゃべりがすっかり夜に溶けると、
小さなお腹を満たした小鳥ちゃんは、夜風に乗って小さくなっていった。
その姿が見えなくなると、
ウサギはもう一度グラスを手に取った。
ジャスミンティーを少しだけ残していった、
小さなグラスとそっと合わせる。
ウサギは空を見上げた。
肉やシーフードの焦げた匂いが、
まだ少しだけ残っていた。
