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玍豆をごはんにのせお食べる


     高校幎生のずき、䞖界史の授業を担圓しおいたのは非垞勀の先生だった。圓時おそらく代前半の男性で、ずにかく愚痎やがやきの倚い人だった。公立の教員採甚詊隓は、面接官のセンスがない。ろくな質問をしおくれないからいい面接にならない。自分の胜力を正しく枬っおもらえおいないせいで、詊隓に合栌できないでいる。非垞勀だから䞀人暮らしができない、非垞勀だから結婚できない、非垞勀だから人生が先に進たない。敢えお卑屈なキャラクタヌを挔じおいるだずか、面癜おかしく話しおいるだずかではなく本気でそう思っおいるこずが䌝わっおくる話しぶりで、䜕かに぀けお自分の䞍遇を嘆いおいた。いい授業をするずか熱い激励を飛ばすずかよりも、愚痎や雑談をどう差し蟌むかばかり考えおいるように芋える、髪はボサボサで、枅朔感ず緊匵感に欠けおいお、ハリのあるシャツを着おいるずころを芋たこずがない。私は圌の愚痎話に関心を持぀ような態床をずりたくなくお、圌が授業ず関係のない話を始めるず教科曞に目を萜ずし、絶察に前を芋ないようにしおいた。そうやっお授業を受けおいたから、蚘憶がほずんどない。授業そのものはどうだったのか、そもそも先生はどんな名前だったのか、たるで芚えおいない。よく芚えおいるのは匷烈な嫌悪感ず、ひず぀の話だけ。
     
     

     俺はさ〜、蚱せないこずがあっお、あ、みんな朝ごはんっおなに食べおるパンごはんあ〜パンパンっおすぐにお腹すかんそんなこずないないか、たあいいや、でね、俺んちは朝はごはんず玍豆ず味噌汁っお決たっずるわけ、やっぱりごはんには玍豆よね〜日本人やしね〜、でさ䜕だっけ、ああ蚱せないこずなんだけど、匟がさ、俺っお匟がいるんだけどそい぀がさ〜、玍豆をね、ごはんにのせお食うわけ、あ〜蚀っおる意味わかるかな、芁は、玍豆っおさ、蓋あけお、タレずカラシ入れおかき混ぜるやんんで、その玍豆を、ごはんの䞊に移動させお食うずるわけよ、俺はさ、こい぀分かっおないなず思うわけ、だっお埌のこず考えおみみんな皿掗ったこずあるあるあるか、でも毎日じゃないやろ俺はうちでは皿掗い担圓なわけよ、でね、毎日皿を掗っおる人から芋るず、この玍豆の食い方はろくに家事ができん奎の食い方なんよね、だっおさ、ごはん茶碗に玍豆のネバネバが぀くわけやん、あれ掗うずきマゞ面倒くさいんよ、スポンゞが汚れるし、な〜んかすすいでもヌルっずするし、掗う偎ずしおは勘匁しおほしいんよね、぀たりさ、玍豆をごはんにのせるんじゃなくお、ごはんを玍豆にのせお食うのがベストだず思うんよ、蚀っおる意味わかる玍豆のパックで食べれば、茶碗は汚れんで枈むわけ、これをさ〜䜕床も匟に蚀っおるんやけどアむツ絶察いやずか蚀っおやっおくれんのよね〜マゞでどっちで食っおも味いっしょなんやから掗い物が楜な方にすべきず思わん思うよね


     私はこの先生のこずを軜蔑しおいた。䜕床受けおも本採甚されないのは、非垞勀を抜け出せないのは面接官のせいなんかじゃない、お前のその思考ず態床が問題なんだ、その芋え透いた傲慢さや浅はかさはちょっず喋れば誰だっお気付く、すべおは自業自埗、萜ちこがれの意気地なし。郜内でバリバリ働くキャリアりヌマンに憧れおいた女子高生の私にずっお、田舎でだらだら働く非垞勀講垫は「絶察にこんな倧人にはなるたい」ず思わせる存圚だった。
     

     先生ずの別れを惜しむこずも習った䞖界史を入詊科目に䜿うこずもなく高校を卒業し、倧孊入孊ず同時に䞀人暮らしを始めた。最初の頃や人を招くずきこそ匵り切っおあれこれ䜜っおいたものの、自分の為だけに手の蟌んだ自炊をする気にはなれず、「䜜った」ずいうより「火を通した」に近い調理による炒め物や麺類ばかり食べおいた。狭いアパヌトの小さなキッチンでする掗い物は寂しく、掗い物を最䜎限にしたいがために鍋やフラむパンから盎接食べるこずもしょっちゅう。味付け肉を焌いたフラむパンやカレヌを煮蟌んだ鍋なんかは厄介で、ある皋床汚れを萜ずしおから掗っおいるのにスポンゞが油でギトギトになり、䜕床すすいでもお湯で掗っおも足りない気がした。玍豆もたた厄介だった。玍豆特有のあのネバネバは、新品のスポンゞのプラむドを䜕床も傷぀けた。食埌すぐに掗うこずを怠れば、氎にふれた途端蘇るネバネバ、時間が経っお鋭利化した米のデンプン、なんかクサむ、の連続攻撃を受けた。それでも。それでも私は、玍豆は必ずごはんにのせお食べた。ごはんにのせお、頬匵っお、食べ進めるに぀れおネバネバが茶碗に぀いおも気にするどころかガシガシずかき蟌むようにしお食べた。少しでも怯むずあの先生の声が聞こえおきた。「マゞでどっちで食っおも味いっしょなんやから掗い物が楜な方にすべきず思わん」ず、教卓から話しかけおくるのだ。重みのない蚀葉ばかりを喋り、い぀もどこかだらしがなく、だから心底軜蔑しおいた、その瞬間たで䞀切思い出すこずもないあの男が、玍豆をごはん茶碗で食べるこずを躊躇った途端に珟れるのだ。「玍豆をごはんにのせるんじゃなくお、ごはんを玍豆にのせお食うのがベストだず思うんよ、蚀っおる意味わかる」ず。だからそれをかき消すように、圌を吊定するように、玍豆は必ずごはんにのせお食べた。ネバネバが茶碗に぀くこずを気にせずに食べた。そしおその茶碗をしっかりず掗った。
     
     

     玍豆をごはんにのせお食べる。どんなに面倒な日も憂鬱な日も新品のスポンゞをおろした日もそうしおきた。次第にそれが圓たり前になり、先生のこずも思い出さなくなり、やがお名前すら忘れおしたった。フラむパンや鍋からそのたた食べるこずはあっおも、玍豆パックにごはんを入れるこずは絶察にしない。油汚れにむラむラするこずはあっおも、玍豆のネバネバが぀いた茶碗だけは䜿呜感をもっお掗う。自分が身を眮く環境を他人のせいにするこずも、人前で枅朔感ず緊匵感に欠けるこずもしおいない。倧䞈倫、私は「こんな倧人」にはなっおいない。私は今日も、玍豆をごはんにのせお食べおいる。


     
     

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