
本を洗う。【ショートショート】
僕は幸せ者だ。
この世の美しいもので出来ているきみに選ばれ、
その瞳に映ることを許されたのだから。薔薇もダイヤも綺羅星も、きみには敵わない。毎朝きみの瞳に最初に映るのが僕であることを誇りに思う。見つめ合うきみと僕のことを愛と呼ぶらしい。
「どう?すごく綺麗になったでしょう」
妻が声をかけてきたので、
僕は読書中の本を閉じた。
妻が洗った本からは石鹸の香りがした。
昨日、
妻は唐突に家中の本を洗い始めたのだった。
この家の本の中には
嘘や醜いものが巣喰っているのだと妻は言い、
何かに取り憑かれたように
石鹸を泡立てて本をこすり、
シャワーのお湯で流し、
庭の物干し竿に引っ掛けて干した。
洗い終わった後の僕の愛読書の文章は
すっかり磨かれて
以前とは違っているような気がした。
こんなにも甘い美辞麗句が並んでいただろうか。
妻は本に顔を寄せて匂いを嗅ぐ。
「まだ嘘の匂いがする。洗い直すから返して」
僕はため息をついて、
キレイゴトばかりの本を妻に手渡した。
『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』
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いつか参加したいと思っていた企画に
ようやくこっそり入り込ませていただくことが
できました。
田原さん、ありがとうございます。