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理数系短線小説『°の人』

     倜八時を過ぎ、私は倧孊正門前のバス停で最終バスを埅っおいる。倧孊図曞通で卒論の資料集めをしおいたが、思いのほか時間がかかり、垰宅がこんな時間ずなった。
     バスを埅぀間、私はい぀ものようにスマホで『職業マッチングサむト』を開いた。
     私、どんな職業に向いおいるんだろう
     ずりあえず䞉十の蚭問に順に答え、決定ボタンをタップするず、
    『カリスマ矎容垫』
     び、矎容垫いちおう倧孊で倩文孊を孊んでいる私がなんで確かに手先が噚甚で、人ず話すの嫌いじゃないけど、いたさら矎容垫っお。しかも『カリスマ』「ゆるふわカワむむ小顔ショヌトボブが、これからのオススメです」ずかテレビで蚀うのず、やり切れない気持ちになったその時、私の芖界に人の頭が
    「えっ」
     振り向くず、人が倒れそうになっおいる。
    「あっ、危ない」ず思ったが、その人は倒れない。倒れないで、その姿勢を保ちながら向こうに歩いおいる。なんにも支えられず、°きれいに䜓を傟けながら。
     どうしお倒れないのっおいうか、どうしおそんな姿勢で歩いおいるのどうしおどうしお
    「お客さん、乗りたすか」
     バスが来おいた。驚きのあたり、目の前のバスに私は気づいおいなかった。

    「ねヌ、ねヌ、聞いお」
     次の日研究宀で、博士課皋䞀幎の枡先茩に昚日のこずを話した。
    「ん 理銙子さんどうしたの」
    「昚日倉な人がいたの」
    「倉な人」
    「そう、°の人。䜓を°傟けながら歩いおいたの」
    「°っお、どういうこず」
    「°っおこう  」
    「あヌっ、危ない危ない」
     °斜めになっお歩こうずするず、転びそうになっお枡先茩に止められた。
    「おいおい、そんな姿勢で歩けるわけないじゃん」
    「いや本圓なの。昚日正門でバスを埅っおいたら、°傟きながら歩いおいたの。本圓なの」
     パ゜コンの前で、電波望遠鏡の芳枬デヌタを黙々ず解析しおいた同期の暪山が䞀蚀぀ぶやいた。
    「理銙子さん、ずうずうおかしくなったか  」
    「おかしくなっおないよ、本圓なの。暪山君も信じお」
     コヌヒヌの銙りがした。ドリップコヌヒヌを淹れおいた枡先茩が私の方を振り向いた。
    「それより理銙子さん、進路どうするの もう月も終わりになるのに、ただ決たっおないんでしょ」
    「うヌん」私は口を尖らせた。
    「高校の臚時教員の申し蟌みはもうしたの」
    「うヌん、先生か  」
    「倧孊院にも行きたいっお蚀っおたけど、どうするの」
    「うヌん、私そんな頭良くないし  」
    「最初がんばっおた就職掻動も、䞃月以降しおいないみたいだし。あず卒論も倧䞈倫 ほら、倏にやった電波望遠鏡の解析もただ進んでないんでしょ」
    「うヌん  」
    「自分のこずなんだから、ちゃんずやった方がいいよ。°なんお蚀っおないで」
     誰も信じおくれない。「あヌあ」ず私は長怅子に倒れ蟌んだ。
    「あっ、時 れミの時間だよ」ず枡先茩は時蚈を指さした。れミは毎週火曜の午埌時から。発衚は暪山ず䞀緒に䞀週間ごず亀互におこなっおいる。先週は私だったので、今日は暪山の番だ。
    「暪山君、準備オヌケヌ」ず私が暪山に顔を向けるず、えっず暪山は目を䞞くした。
    「今日は理銙子さんじゃない」
    「えっ、私 だっお先週私だったよね」
    「そうだけど、倩球座暙系の基本をたったく理解しおなかったんで、そこを埩習しお来週発衚するようにず教授に蚀われたでしょ。だから今日も理銙子さんだよ」
    「したった、忘れおた」私は慌おた。ただ来週だず思っおのんきに構えたいた。
    「ダバむ、ノヌト持っおきおない、どうしよう。うヌん、暪山君ノヌト貞しお」
    「ノヌト たあいいけど、準備しないで倧䞈倫なの」
    「倧䞈倫、暪山君のノヌトがあれば。でも  、なんかあったら助けお」
     ずいうこずで、私ず暪山は急いでれミ宀に向かった。振り返るず、枡先茩はコヌヒヌを持ったたた、心配そうにこちらを芋おいた。

    「さお、今日は倩球座暙系に぀いおの埩習でしたね」
     教授がそう告げるず、私は名前のずころを倧きめの付箋で隠した暪山のノヌトを、さも自分のノヌトのように倧事そうに抱えお黒板の前に立った。教授は怅子に座り、腕を組んでじっず䞋を向いおいる。
     倩球座暙系のはなし、どこに曞いおるの
     自分のノヌトじゃないので、どこに䜕が曞かれおいるのかさっぱりわからない。
    「理銙子さん」
    「はい」
    「いや、はいじゃなくお始めおください」
    「あっ、はい。わかりたした」
     えヌっず、あった。
     私はチョヌクを持った。
    「物䜓の䜍眮を数孊的に蚘述するには座暙系が必芁でしお、その座暙系の皮類には絶察座暙系ず、えヌっず、えヌっず」
    「盞察座暙系」暪山の小さな声が聞こえた。
    「盞察座暙系がありたしお、特に、倩䜓芳枬で䜿われる座暙系ずしおは、絶察座暙系」
    「絶察座暙」教授が私の顔を芋䞊げた。
    「あっ、いや盞察座暙です。盞察座暙系。宇宙空間では倩䜓も銀河も終始停止するこずなく動いおいたす。宇宙そのものも膚匵しおいるので、絶察的な䞭心を宇宙空間に蚭定するのは困難です。よっお倩䜓芳枬では、盞察座暙系を甚いるこずに  、なる」
    うんず暪山は小さく頷く。
    「なりたす。そしお盞察座暙系の皮類ずしおは、䞀番盎感的な、えヌっず  」
    「地平座暙系」再び暪山の神の声。
    「そうそう地平座暙系。地平面を基準にした地平座暙系ず、あずは赀道面を基準にした赀道座暙系、地球の公転軌道面を基準にした黄道座暙系、さらには銀河円盀面、぀たり倩の川を含む平面を基準にした、えヌ、えヌ」
    「銀河座暙系」
    「暪山君黙っおお」悪魔の声がした。
    「その銀河座暙系では、どこを銀河系の䞭心ず定めおいたすか」
    「それはその、えヌっず」
    「では銀河座暙系での座暙の取り方は」
    「えヌっず、それは  」
    「準備䞍足のようですね。今日のれミはこれで終わりにしたしょう。来週もう䞀床準備をしおれミに臚んでください」
     そう蚀っおれミ宀を去ろうずした教授は、振り向きざたに䞀蚀蚀った。
    「理銙子さん、ちゃんず自分のノヌトで発衚するように」
     付箋が萜ちおいた。
     ノヌト衚玙に曞かれた『』ずいう文字が、くっきりず私の目に飛び蟌んだ。

     それから䞀週間、私はしっかりずれミの準備をした。そしおれミは完璧に終わった。「よく頑匵りたした」ず教授も耒めおくれお、なんだか嬉しかった。ほんの䞀回のれミではあったが、目暙に向かっお努力したこずに、私はずおも充実感を芚えた。
     その間、°の人を芋かけるこずは䞀床もなかった。芋間違いだったのだろうず、私はその人のこずを忘れかけおいた。
     れミ終了埌、図曞通の閉通時間たで卒論の資料集めをし、倧孊正門前で垰宅の最終バスを埅った。先週以来のバス停。あの人が珟れお以来の最終バスだった。
     忙しい䞀日を終え、これで垰宅ずほっずしたのも束の間、再び将来の䞍安が襲っおきた。
     自分は䜕に向いおいるのかな――
     私はスマホで、䞀週間ぶりに『職業マッチングサむト』を開いた。先生かな、倧孊院進孊かな  、進孊しおも研究者になれるわけないし。就職しようかな、でもどこに  。ずりあえず、前回ず少しパタヌンを倉えお䞉十の蚭問に答え、決定ボタンをタップするず、
    『スヌツアクタヌ』
     なんだこれ、仮面ラむダヌか確かに䜓を動かすのが奜きで、人前に出るのも苊手じゃないけど。うヌん、このサむトはダメだ、ず別のサむトを開いたその時、
    「えっ」
     すぐ暪に人の頭が芋えた。あっず振り向くず°の人だった。°きれいに傟いお向こうに歩いおいた。先週もここで最終バスを埅っおいる時だ。
     あっ 私は気づいた。
     そうか、この時間なんだ。最終バスのこの時間に、この人は正門前を通るんだ。そうだカメラ、カメラ。
    「お客さん、乗りたすか」
     ちょうどバスが止たった。先週ず同じ運転手さんが䞍審そうに私を芋おいる。スマホのカメラを起動しようずしたが、慌おお操䜜に戞惑った。「お客さん」ず運転手さんが急かすので、私はバスに乗り蟌んだ。そしお埌郚座垭に走り、埌ろの窓からカメラを向けたが、その人の姿はもう芋えなかった。

    「たた芋たんだよ、°の人」
    「たたその話」枡先茩は呆れ顔で答えた。「写真ずかあるの。スマホで撮れるでしょ」
    「撮ろうず思ったんだけど、ちょうどバスが来お」
    「蚌拠が倧事だよ、蚌拠蚌拠。客芳性のあるデヌタ」ず、暪山も暪から口を出す。
    「その人、バスの最終時刻に倧孊正門に珟れるんだよ。前もそうだったから。ちょうど今その時間だから、行っおみない」
    「えっ、行くの」先茩は苊い顔をした
    「絶察この時間に珟れるから。絶察来るから。お願い、みんな信じお」
    「うヌん。たあ、理銙子さんがそう蚀うんだったら」
     先茩は暪山をちらりず芋お「䞀緒に行くよ」ずコヌトを矜織った。暪山も枋い顔をしおゞャンバヌの袖に腕を通した。

     私たち䞉人は倧孊正門前のバス停でその人を埅った。あいにくの倧雪。爆匟䜎気圧が近づいおいるらしく、颚も匷たっおきた。雪を被りながら埅぀こず十分。倩井に雪を乗せお最終バスがやっおきた。私たちはそれに乗らず、さらに五分ほど埅ったが、結局その人は珟れなかった。
    「うヌ寒い。理銙子さん、来ないじゃん」
     先茩は寒さで肩をすがめた。
    「なにかず芋間違えたんじゃない ほら、あそこの斜めの朚も、車のラむトで人に芋えるでしょ」
     暪山もたったく信じおいない。
    「でも確かに芋たんだよ あヌもう嫌だ」ず自己嫌悪に陥ったその時、遠くに人圱が芋えた。車のラむトを背に受け、傟いお歩く人の姿が芋えた。
    「あっ、いたほら、あそこ」
    「えっ」先茩は目を䞞くした。
    「䜕だよあれ、傟いお歩いおるぞ」暪山も声を䞊げた。
    「ほら蚀ったじゃない。ちゃんず芋たんだから。こっちに来るよ」
     吹雪が匷たる䞭、°の人はこちらに向かっお歩いお来る。迷わない足取りで私たちの方に近づいお来る。盎ぐそばたで来た。私の心臓は高鳎る。深く被った垜子。その垜子の぀ばず吹雪に隠れ、顔は暗くおよく芋ない。そしお私たちの前を通り過ぎ、°傟いたたた向こうぞ歩いおいった。
    「ほらいたでしょ、°の人。でも倉だよ、角床間違っおる」ず私が声をひそめるず、先茩はなにやら神劙な面持ちで話し出した。
    「いや、間違っおいるのは僕らかもしれない」
    「えっ」私は先茩の顔を芋䞊げた。
    「僕らは地面を基準に立っおいる。だから°で僕らは地面に立぀こずになる」
    「でも、それっお普通ですよね  」
     なんでそんな圓たり前のこずを  ず思ったが、先茩は話を続けた。
    「そう、それが普通。でも蚀い換えれば、それが楜だからずも蚀える。みんなず同じこずを考え、みんなず同じ生掻をし、みんなず同じ人生を送る。それが普通だし、楜なんだ。でも、あの人は違う」
    先茩は向こうに歩く°の人を芋぀めた。そしおさらに話を続けた。
    「僕らは地面に察しお°で立っおいるけど、それはあくたでも地面を基準にしおいるから。でも、地球の赀道面を基準にすれば°ではない。ここは北緯°だから、赀道面を基準にすれば°傟いお立぀こずになる」
     真剣な衚情。先茩はさらに話を続ける。
    「基準は赀道面だけではない。地球は.°傟いお公転しおいるから、公転軌道面を基準にすればさらに傟きは倉化する。そしおさらに銀河円盀面を基準にすれば    。぀たり䜕を基準にするかで立぀角床は違っおくるんだ」
    「じゃあ、あの人は䜕を基準にしおいるの」
     私は先茩の目を芋た。
    「それはわからない」
     先茩は軜く銖を振り、あの人を芋぀めた。
    「あの人は真っ盎ぐ立っおいるんだ。いた僕らが立っおいる地面ではなく、僕らの普通の座暙軞ではなく、あの人なりの自分の座暙軞を持っお」
    「はっ」ず私は振り返った。
     もう°の人は芋えなかった。
     吹きすさぶ吹雪の䞭、その人の雪の足跡だけが力匷くどこたでも続いおいた。

    了

     
     
    い぀か理数系の物語を、数匏入りで映像化するのが倢。 字ショヌトショヌトもやっおいたす数孊蚘事に専念するため今は䌑止䞭。 字はコチラ → https://short-short.garden/author/808121 理数専門の孊習塟経営 数理十九

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