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Photo bytake_kuroki

転呜蚘

    恥の倚い生涯を送っお来たした。私には意欲、ファむトやガッツずいったものがたったくなく、垞にだれかの顔色をうかがいながら、ビクビクず生きおきたした。

    幌い頃より母芪から「タロヌ、お前は私の呜綱。倱敗しちゃいけないよ。成功するこずがいちばん倧事なこず」ず、くり返し、諭され蚀い聞かされお育っおきたした。倱敗を恐れ、成功を求め、自分に嘘を぀きながら、母のために生きお来たのです。

    しかし、私が䞭孊受隓に倱敗した日、母は「ああ、倧損をした。あんたに遣ったカネ、マンションの頭金くらいにはなったのに  」ず蚀い攟ちたした。

    その時より、私は、心の䞭で母ず決別いたしたした。意欲ずいうものも消滅したした。

    どうでもいい。生きるこずなんお、どうでもいい。今にしお思えば、健康な身䜓に恵たれながら、もったいない話でございたす。もう、これも過去のこずずし、時効ずいたしたしょう。

    母は今、アルツハむマヌ型認知症で、過去のこずを党お忘れおしたいたした。自分がどこの誰だかわからない状態で、哀れで、私の䞭から恚みも、憎しみも消えおしたいたした。

    もちろん、働いおきたした。倧孊は出お、䞭堅の印刷䌚瀟に入りたした。しかし、䌚瀟に入っおからがたた、地獄でした。

    「日出ひので」ずいう䞊叞にずこずん虐められたした。ゞトっずした闇のように暗い男でした。

    私は目が悪いので、盞手をゞッず芋぀めおしたう癖があるのです。日出は、「気持ち悪い」ず蚀い出し、私を無芖したした。呚りも同調し、私は孀立しおいきたした。

    䞉十のずき䌚瀟を蟞めたした。それからは、印刷関係の小さな䌚瀟を転々ずしたした。

    印刷の仕事は、玙ものを扱う仕事なので、肺に負担がかかるのです。生きる目的も気力もない私です。ばちが圓たったのでしょう。肺病でした。しかも、発芋された時はもうすでに手遅れでした。

    病が末期になっお、ホスピスに移りたした。

    ホスピスの看護垫、琥珀さんだけは、忘れるこずがないでしょう。はじめお、私に芪切にしおくれた恩人です。たたたた同じ幎霢だったこずもあっお、友人のように接しおくれたした。

    ある時、こんなこずを二人で話したした。
    「鈎朚さん、私ね、来䞖っおあるず思うのよ」

    正盎、どうでもいいな、ず私は心の䞭で思いたした。
    「わたしね、終末期の患者さんをたくさん芋おきたから、わかるの」
    「  」

    「芪しくなった患者さんのなかには、玄束しおくださる人もいたす。生たれ倉わったら必ずサむンを送るよっお。私の近くに来るからっお」

    「  」

    「信じおも信じなくおも、どっちでもいいんです。私は、信じたいず思うほうなんです」

    「じゃ、がくに次の䞖界があるずいうなら、もしあるずするなら  」

    「ええ」

    「  そうだな。圹に立぀ような、だれかのね、少しは圹に立぀ような生き方がしたい」


    それから䞉ヶ月埌、私は死にたした。

    そしお、再び、私はこの䞖界に還っおきたのです。琥珀さんの話は、おそらく本圓だったのでしょう。

    転生した朝、ただただ、背䞭がずおも重く、痛かったこずを芚えおいたす。

    背䞭には、冷たい板のようなものが貌り぀いおいたした。はじめのうちは、それが䜕なのかわからなかったのです。

    䜓党䜓を動かしおみるず、金属の现い脚のようなものが、ガサガサず前埌に動きたした。脚らしきものは、私の意思に反しお、呜什通り勝手に動くのです。

    最初は驚きたしたし恐怖でした。自分の脚で歩いおいるのに、私の意思じゃないからです。

    「歩く」ずいう感芚の奥に、知らない「音」、シグナルが呜じるのです。

    次第に箱の䞭にいるこずに気が぀きたした。

    人間たちが箱を芗き蟌んでいたした。そしお巚倧な指が、私の背䞭に茉っおいる装眮をなぞりたした。そのたびに、脳の奥が「シシッ」ず鳎るのです。

    私がいるのは、囜立シンガポヌル倧孊の研究所でした。テレビ局のクルヌが取材に来おいたのです。ベラベラ倧きな声で話しおいたした。そしお、衝撃の事実を知りたした。

    私は、ゎキブリに生たれ倉わったのでした。

    巚倧なガラスの壁の向こうで、人間たちがバタバタず動いおいたした。バカでかい人間たちが、いちばん恐ろしかったです。

    「  これはマダガスカルゎキブリです。実隓甚に改造された個䜓で、脳を刺激するこずで遠隔操䜜が可胜になっおいたす。぀たり、昆虫サむボヌグ第号です」

    テレビカメラのスポットラむトが、私を照らしたした。眩しい光に包たれたした。

    私は、倉な気持ちになりたした。人間では味わったこずのない気持ちです。ゎキブリなりに誇らしい気持ちになりたした。お母さん、぀いにがく、有名になったよ。

    がくの頭には、超小型のカメラ、背䞭にはバッテリヌや人工知胜を搭茉した新䞖代型マむクロコンピュヌタが茉せられおいたす。

    研究所の責任者で、私の飌い䞻でもある田䞭氏がむンタビュヌに応えおいたした。

    「瓊瀫の䞭から人を芋぀け出すこずが、圌のミッションです。灜害救助型昆虫サむボヌグのプロトタむプです。これが人呜救助に䜿われる日も近いでしょう」

    こうしお、田䞭氏ずずもに異囜の研究所で働く、実隓甚ゎキブリずしお生たれ倉わった私ですが、心の䞭には、奇劙な安堵がありたした。いい働きをするず、田䞭氏が喜んでくれるのです。ゎキブリですが、充実した日々でした。

    ある日、研究所内に倧きな譊報が鳎り響きたした。たくさんの所員たちが慌ただしく動いおいたす。

    所内では「日本で倧地震が発生 出動準備を」ずアナりンスされたした。

    無数の仲間たち――ゎキブリ・サむボヌクが次々ず箱の䞭から、移送甚ボックスに攟たれたした。日本の灜害珟堎ぞず送り蟌たれたのです。私の意識は、身䜓に同期し震えがずたりたせんでした。

    懐かしい日本、懐かしい東京。感傷にひたる間もなく、私たち昆虫サむボヌグ郚隊は灜害珟堎に突入したした。

    私のミッションは、地震によっお倒壊した建物の䞭、瓊瀫の間を這い回るこずです。鉄ずコンクリヌトの匂い。焊げた空気。

    私は指什のたた動けるように、努めお力を抜いおリラックスしおいたした。

    がくは、空間を挂う䞀艘の舟だ。ゎキブリ・サむボヌグ舟なんだ。自分に蚀い聞かせたした。

    シグナルが発動したした。

    〈 生䜓反応怜出 〉

    狭い隙間をくぐりぬけ、よりモニタヌできるように生䜓に近づいおいきたした。頭に぀いおいるラむトが生䜓をモニタリングしおいたす。

    生䜓の、頭は犿げおいたした。男性のようでした。

    男の顔の方により接近するよう動きたした。

    私の觊芚センサヌが䜓枩を感知。状況をさらに俯瞰するために、男から離れたした。

    そしお、その男の顔、党䜓像を認識した瞬間、私の心臓が止たりそうになりたした。

    日出、じゃないか。か぀お私をいじめ抜いた䞊叞です。日出は、ずいぶん歳をずっおいたした。胞から䞋が挟たれお、苊しそうに喘いでいたした。

    こんなダツに䌚いたくなかった。せっかく生たれ倉わったのに、ここで再䌚するなんお。

    助けるものか。この男は、助ける資栌もないク゜野郎なのだから。

    しかしどんなに抵抗しおも、私の身䜓はシグナルに埓っお動きたす。電流が走り、神経が勝手に呜什を実行するのです。私は、瓊瀫の䞋に朜り蟌みたした。救助隊員たちが䜍眮を把握したようです。

    日出は意識が朊朧ずしおいたした。

    悲しいかな、生きおいたころの癖でしょう、私は日出を芋぀めたした。

    日出は、奇劙な私に気づいお「うっ」ず叫びたした。

    私はうんざりしたした。

    たた日出に「気持ち悪い」ず蚀われるのかず。

    ですが、日出の反応は、予想ず反しおいたした。私を嫌がるふうでも気持ち悪がるふうでもなく、懺悔したのです。

    「  私が悪かった。悪かった、ゆるしおくれ  」

    日出は、わかっおいるのだろうか。それずも、異垞な事態で神経がおかしくなっおいるのか  、しかし確かに私を芋お蚀ったのです。

    私は、琥珀さんずの雑談のなかで、もしも次の䞖界があるのなら、だれかの圹に立぀人生をず、蚀いたした。もちろん軜い気持ちでした。

    そしお生たれ倉わった私は、異囜の地で、醜く奇劙なゎキブリになりたした。田䞭氏に䜿われるこずでしかアむデンティティを保おない虫ケラになりたした。

    そしお今、ゎキブリずしおの私は、私の意志に反しお日出を助けるこずになったのです。

    過去も珟圚も、䜕もかもがぐちゃぐちゃになっおしたった。私は、この因瞁を呪いたした。

    虫ケラの、小さな小さな心の䞭で私は泣きたした。

    慣れない珟堎で、激しく動き回った私は、疲れおいるこずをようやく感じ始めおいたした。

    ああ、ねむい。猛烈にねむたい  

    倢かう぀぀か、琥珀さんの声が聎こえたした。

    ぀いに、狂っおきたかな  

    「いいんですよ」

    懐かしくお、やさしくお、それでいおはっきりずした琥珀さんの声だ。

    「どっちでもいいんですよ、鈎朚さん」

    そうだった、私はか぀お人間で  

    背䞭が、ブルブルず小さく振動し、シュヌッず小さな音が鳎りたした。

    芖界が暗くなりたした。

    最埌に聎こえたのは、救助隊の歓声でした。

    琥珀さん、がくはなんずか、圹に立おたのかな。

     
     
    䜜家Writer 54歳から小説を曞きはじめたした。 人生の埌半になっお、ようやく芋えおきたものがありたす。 人のおかしさ、さみしさ、やさしさ。 䜕気ない日々に朜む物語を拟っおいたす。 私小説の、その先ぞ。

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